武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
師から弟子に
●江戸時代後半、明治維新の原動力となる若ものたちが各地で育ちました。各藩の公式学校とでもいうべき藩校はもちろん、私塾も人気でした。吉田松陰の「松下村塾」、緒方洪庵の「適塾」などが有名です。
●蘭(オランダ)医者だった緒方洪庵が大坂でひらいた「適塾」には12箇条よりなる訓戒がありました。その一条めが次のように、まことに厳しい。
「医者がこの世で生活しているのは、人のためであって自分のためではない。決して有名になろうと思うな。また利益を追おうとするな。ただただ自分をすてよ。そして人を救うことだけを考えよ」
●250通以上残っている洪庵の手紙の多くにも「道のため、人のため」と結ばれています。
もともと医師を志す若者を集めていたのでこのような訓戒が真っ先にきているのですが、やがて「適塾」の評判は日本中に広まりました。
なにしろ西洋学を志す人材が全国から1,000人も集まるようになっていくのですからネット社会の今ならケタ違いの数字になるはずです。
記録をみるだけでも、橋本左内、大村益次郎、箕作秋坪、大鳥圭介、福沢諭吉などなど、そうそうたる人材が適塾で育っていったわけです。
●「適塾」がなぜこれほどまでに人気を集めたのでしょうか。
人間・緒方洪庵の徳の高さもありますが、自由競争の魅力が若者を刺激したとも言われています。
「門閥制度は親の敵(かたき)でござる」と福沢が言い続けたように、身分や家柄を大事にする江戸時代にあって、「適塾」には身分などまったく関係ありません。自由な空気にあふれ、学問の実力だけが問われました。塾生たちは、喜びと興奮をもって学問を楽しんだことでしょう。
●「適塾」の新人塾生は、まず8級からスタートします。最初は語学(オランダ語)を学び、月に6回、「会読」と言って何人かが集まって蘭書を訳します。その出来不出来で学力を競い合い、等級がつけられるのです。
一級が一番上なのですが、各級ごとに「会頭」が設けられ、塾生全部を代表して「塾頭」を設けていました。実力が一目瞭然に分かる仕組みが若者を刺激したことでしょう。
●「適塾」は幸いにも現存します。
大阪市中央区北浜三丁目に重要文化財として公開されているのです。「適塾」はその後、発展解消して今の大阪大学になりました。
●「これ以上できないというほどに勉強もした。目が覚めれば本を読むという暮らしだから、まくらというものをしたことがない」と明治になって福沢諭吉が語っています。
入塾した年、諭吉はひどい腸チフスにかかって高熱にうなされました。命取りにもなりかねない症状だったのを見かねた洪庵は、「俺はお前の病気をきっと診てやる」と多忙な合間をぬって、毎日診察しました。これは諭吉青年にとって終生の思い出として語られることになります。
●洪庵にとって「道のため、人のため」は単なるスローガンではなかったようです。
生きた実践哲学ともいえるもので、弟子の高熱を治すために真剣に診療する洪庵の姿をみながら、諭吉たちも「道のため、人のため」を学問の目的にしようと固く決心したに違い
ありません。
師から弟子へ、親から子へ、上司から部下へ、経営者から社員へ・・。
受け継がれていくべき精神とはこういうものではないでしょうか。
★適塾 http://www.osaka-u.ac.jp/ja/guide/about/tekijuku
http://www.geocities.jp/general_sasaki/tekijuku-ni.html
ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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