武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
相づちを我慢せよ
●相手を黙らせたかったらずっと無視するか、あるいはその逆に、「うん、そうそう」とヤケに軽く相づちを連発すれば良い。そうすれば、相手はやがて話をするのをやめるでしょう。
●営業の現場でも同じです。相手のお客さんから断られたければ、何を言われても関心なさそうに無視しているか、何を言われても「はい、はい、はい」と言いながら軽く相づちを打っていればよいのです。
●某月某日、ある社長から寿司屋にさそわれました。部下を連れています。
社長は私にこう言いました。
「武沢さん、ここにいるA君は私にとって期待の新人だ。新人とはいっても年はいってるがね。今年30かな。今日は武沢さんから直接仕込んでやってほしい。酒に説教に、両方ガンガンやってほしい」
●「へぇ、そうなの」と言いながら、自然なかたちで営業の話をはじめました。
A君が営業先で一番心がけていることは、お客様の話をとことん聞くことだそうです。それは間違ってはいません。
しかし私は、A君がウソを言っていると思いました。彼はお客さんの話をとことん聞くような人間には見えなかったのです。それどころか、お客さんのことなどあまり関心がないように思えたのです。
●その証拠は、相づちの軽さ。
私がまだ話しはじめたばかりなのに、「ええ、はい。はい。ええ」と、さかんに相づちを連発するのです。
「本当にあなたわかっているの?」と念を押そうとすると、私の言葉が消え去る前から「はい」と即答します。
これはきっと彼の「癖」なのでしょうが、まるで話をさえぎられたように思えるのです。これでは営業がうまくいくわけがありません。
●私は "新人君" にショック療法を試みました。
「ねぇ、あなた。仕事の話はもうよしましょう。握り(寿司)も出てきたことだし、あなたは仕事の話より食べることの方がいまは先決でしょ」
彼は、キョトンとしながらも
「え、そんなことはありません。お話しをうかがいたいです」といいます。
●そこで私は彼にこう忠告しました。
「あなたの聞く姿勢は、話を聞きたい人の態度ではない。人の話を全身全霊込めて聞く練習をすべきですよ。相手の話が終わるまで注意深く聞くこと。決して話の途中で意味を早合点してはいけないし、 "はい"とも "いいえ" とも言ってはならない。それどころか、同意を求められてもいないのに、話の途中でうなづくのもやめるべきだ」
● "新人君" は、その瞬間凍り付いたように固まりました。笑みも消えさりました。
私は続けました。
「相手のお客さんは、一人一人が固有の存在です。だから過去にあったどのお客さんとも人間とも違う人なのです。だからどのような考え・要望・問題をもっているのかは、あなたの過去の記憶のデータベースにはないと思うべきです。当然ながら、真剣に真剣に相手の話しを聞かねばならない」
●彼はさっきまでとはうって変わって相づちもなく私の話を最後まで聞いてくれました。たったそれだけのことで彼の好感度は倍増したのです。
「私の話を真剣に聞いてくれている」と私は感じるようになりました。
気分がよくなってきた私は、調子に乗って彼に助言をおくり続ける。
「会食中の話し合いだから大っぴらにノートをとるのは野暮だが、アドバイスをもらいながら何一つメモをとらないのは野暮以上の"失礼"にあたる。そんな時は、ポストイットか何かの小さいメモ用紙にメモするか、お手元袋の裏にメモするんだ。とにかくメモしていれば、相手はドンドンしゃべってくれる。相手が饒舌になればセールスは必定、うまくいく」
●彼は相づちと返事を我慢するというその一点だけで好感度が上がったのです。あなたの会社の営業マンはどうでしょうか?
質問上手になろうと、たくさんの質問をするのは結構ですが、答えを聞く姿勢がなっていません。人の話を真剣に聞く術(すべ)をもっと磨こうではありませんか。
ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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