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真壁の平四郎

投稿日時:2012/11/22(木) 18:40rss

●今日は講談でもおなじみ「真壁の平四郎」(まかべのへいしろう)について書いてみようと思います。
 
時は本能寺で信長が討たれた天正年間。そんな騒ぎも遠くのこと、東北の小藩主・真壁の時幹(ときもと)の下僕、平四郎のお話。
 
ある冬、凍てつくような寒い雪の日のこと、平四郎は真壁時幹のお伴をして侍屋敷に出向いた。
よほど困難な案件だったのだろうか、なかなか時幹は戻ってこない。
東北独特のしばれるような寒さの中で、「時幹様のお履物が凍てついてしまったら大変だ。お帰り道にお困りになる」とばかり、身を切る寒さの中で平四郎は、時幹の下駄を自分の懐の奥深くに仕舞いこむ。ただでさえ震えるように寒い玄関口で、我が体温を主人の履物に送り、温める平四郎であった。
 
●何時かが過ぎ、
「郡主殿、お玄関、御出まし~!」の相図で、素早く温かい履物を玄関口にお揃えする平四郎。手柄を誇るつもりはなかったが、少なくとも喜んでほしかったことだろう。
 
下駄に冷え切った足をすっと入れる時幹。その瞬間、鋭敏な時幹は足裏につたわる暖かさに気づく。それと同時に時幹は、「おのれ平四郎、わが下駄を尻にでも敷くとはけしからん。これへ参れ!」と命じた。
 
●全く思いもかけぬことに、時幹は平四郎の労をねぎらうどころか、「私の下駄を腰掛にしよって、今の今まで横着にも休憩していたに違いあるまい」と曲解し、「こんな汚れた下駄が履けるものか」と、下駄を手に取りあげ、平四郎の頭上めがけて有無を言わせず何回となく打ちすえた。
平四郎の頭は割れ裂け、周囲の雪面に赤い鮮血が散らばった。噴出する血を手で抑えもせず、平四郎は頭を垂れてなされるがまま立ちつくすほかない。
 
「おのれトキモト、この恨み晴らさずにはおられまい。きっと、きっと、きっとこの平四郎に向かって平伏させてやる」と腹を固める平四郎。
 
●時幹のもとを飛び出し、平四郎が目指した場所はなんと中国(宋の時代)だった。
 
主人に対して単純な報復をしても始まらない。平伏させ、平謝りさせる方法をいろいろと考えた結果、平四郎は僧として大成する道を選んだ。立派な僧侶になれば、殿様といえども頭を下げさせることができる。
 
●中国で高名な径山(けいざん)の無準禅師のもとを訪ねた平四郎。中国語がさっぱり分からない。おまけに仏教用語もわからない。ダブルで分からないので、皆目見当もつかない中での修行スタートが始まった。
無準禅師が書いてくれた「丁」の文字を連日ながめながら座禅と修行の生活に入る平四郎。
 
●「丁」ってなんだ???
わからない、いくら考えてもわからない。やがて、わからないこともわからなくなるほど、わからなくなっていった。やがて考えることをやめ、ひたすら目の前のことに一意専心するようになる。
こうして時は移り、九年たったある日、ついに平四郎は大悟し、悟りを極める。無準禅師から法身性才禅師と名づけられるほど、堂々たる禅師になっていたのだ。
 
●勇躍帰国し、大殿様・伊達政宗候の帰依を得て瑞巌円福寺を再興させた法身性才禅師。おみごと!平四郎。
 
ある日、政宗候とともに瑞巌円福寺に招きを受けた小藩・真壁の郡主時幹は、床に飾ってある下駄をみてけげんな表情を見せる。
 
その様子を見て、法身性才禅師こと平四郎は、
 
  「遠く径山に登りて帰りて開く円福の大道場、
   法身を透得すれば無一物。元是れ真壁の平四郎」
 
と唄うかのように叫ぶ。
 
●「あっ!」とおどろく元・主人の時幹。
 
「あの平四郎・・・」
「さよう、あの真壁の平四郎なり。あの下駄殴打を今すぐここで謝罪されたし」
などと野暮なことは言わない。
平四郎が時幹に言った言葉は意外にもこんなものだった。
「ご主人様のあの下駄のお陰で、今日瑞巌円福寺が再興を果たせたのでございます」と当時の郡主に頭を下げ、心からなる御礼を申しのべたというのだ。
 
●「主人を平伏させる」という復讐心で中国に渡った平四郎だが、道を究める過程で復讐心が感謝心にスイッチされたのだろう。
 
中国で「丁」の文字をながめるうちに、
丁稚(でっち)奉公の「丁」、甲、乙、丙、丁の「丁」であることに気づいたのかもしれない。
 
「元是れ真壁の平四郎」
大成したのち、誰かにこんなことを言ってみたいが、そんなことより、恨みの感情を感謝に変える達人の生き方から学びたいものである。
 
 

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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