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2008年04月18日(金)更新

効率的である前に効果的たれ

ドラッカーさんのおかげで、「劣後順位」という言葉がずいぶん普及しました

●私の友人の早崎速男君(仮名)は、その名の通りスピード感あふれる仕事ぶりが信条。「シューッ」といつも口からジェット音のような音を出しながら仕事をするので、仲間から「シュー」と陰口をたたかれています。
30歳になった昨年の春、念願かなって行政書士の資格をとり、個人事務所を開業しました。

●いつもノートパソコンと携帯ツールを併用する彼は、「ビジネスはスピードが命」が口ぐせ。彼と一緒にお酒を飲むときは、まず終わりの時刻を決め、議題を決めてから飲みはじめます。そして定刻になると腕時計のタイマーがなって閉会となります。ちょっとイヤな感じはしますが、それが彼のスタイルだから尊重しています。

●ある日のこと、早崎君が、私のオフィスにやってきました。開業後の成果は決して順調とは言えないようです。

早崎「武沢さん、目標の半分ちょっとくらいのペースで推移しています。もちろん満足はしていません。異業種交流会にも出席したり、経営者団体にも入会したりして人脈を拡大しています。来月からは私が主催する交流会もスタートします。今後の見通しは明るいですよ」

武沢「素晴らしいですね。ところで、早崎君の当面の優先順位を聞かせてよ」
●彼は“待ってました!”とばかりに、携帯ツールを取り出し計画を語ってくれました。それを聞く限り、彼の今後の優先順位は実に明確でした。やるべきこと、やりたいことなどが、身体全体からほとばしり出ているようです。

●そこで私はちょっと気になって、次の質問をしました。
劣後順位はなに?

●「劣後順位」とは、優先順位と逆の意味で使われます。やらないこと、やってはいけないことのリストです。目標に到達するためには、何をすべきかと同時に、何はすべきでないかということも決めておかねばならないからです。

●早崎君のスピード感あふれる仕事ぶりがいかに立派でカッコ良くても、時間管理がいかに上手であっても、お客様がいなければ成果には結びつきません。「効率的」であることと「効果的」であることとは別だ、ということです。

●「効率的である前に効果的たれ」。効果的であるためには、優先順位と劣後順位を決めて紙に書いておけ。という助言を早崎君にして差し上げました。

さて、今度彼が現れるときにはどのように変わっているのか注目です。

2008年04月11日(金)更新

もう一度思い切り仕事がしてみたい

●「ワークライフバランス」という言葉が流行っています。仕事とプライベートを調和させることが大切だ、ということなのですが、言われなくても当たり前の話だと思います。仕事に没頭するだけではなく、生活とのバランスが大切であるという意味の「ワークライフバランス」ですが、仕事の中身や質が充実していなければ、そのバランスは成立しないのではないでしょうか。

・・・
「もう一度思い切り仕事がしてみたい」
病床で井植は弟に向かってつぶやいた。でも井植には、女性に喜ばれる仕事ができたという充実感があった。
・・・

●上に紹介したのは、NHK「プロジェクトX 家電元年・最強営業マン立つ」でのラストシーンで主人公が語ったセリフです。洗濯機の開発に命を懸けた男・井植が、余命いくばくもない状況に追い込まれ、病院のベッドから外を眺めて言ったのが、「もう一度思い切り仕事がしてみたい」という言葉だったのです。
●「もっと仕事がしたかった」と言える人生ってなんて素晴らしいのでしょう。仕事の時間がそれだけ光り輝いていた証明ではないでしょうか。

●以前目にした、「ソニーの重役は他社とどこが違うか」を分析した記事を紹介しましょう。株主総会で開示された主要企業5社の役員報酬を比較した「ソニーの重役 大研究」という特集で、「週刊現代」2002/7/20号に掲載されたものです。少し古い数字になりますが、役員一人当たりの平均年収データを引用します。

・新日本製鉄     2,883万円(役員数 41人)
・三井住友銀行   2,826万円( 〃   23人)
・東芝         2,456万円( 〃   16人)
・大同生命保険   1,872万円( 〃   22人)
・ソニー        8,307万円( 〃   13人)

●ソニーの役員は少数精鋭で報酬が高くなっていることがわかります。重役出勤が許されない激務のようですが、「週刊現代」の記事は、「ソニーのような“ハッピーワーカーホリック”で大金を勝ち取るなら非難されるいわれはない。めざせ、サラリーマンの夢」と結んでありました。

ささやかな幸せには目をつむり、気力・体力・知力のすべてに全力投入を要求されるようなタフな仕事こそが面白い。一生を通してそんな仕事をし続けることはできないかも知れませんが、そうした時間がどれだけあったかが勝負です。しかもその仕事は、他人が運んできてくれるわけではありません。自ら作り出すものでなければならないのです。

●洗濯機の開発に命を懸けた三洋電機の井植のように、私たちはいま思い切り仕事をしているか、と自問してみたいものです。

2008年03月21日(金)更新

志を練る

●私はよく、「武沢さん、よく毎日メルマガが書けますね」と言わるのですが、自分では三日坊主タイプだと思っています。とてもムラッ気が強いのか、やるときには人の何倍も努力しますが、ひとたび集中が途切れると、その反動で人の何倍も怠惰になります。そして、いったんそのリズムに入ると何の仕事もしたくなくなったりします。

●もし努力家の部分だけが一生続いたとしたら、「上場会社のひとつやふたつ作って、億万長者になっていただろうな」と勝手な空想をしてしまうほどですが、不思議なことにメルマガを書くことだけは、8年間欠かさずに続けています。これは私の中の「奇跡」といってもいいでしょう。

●また、「三日坊主」とは反対に「志操堅固」という言葉があります。「志が堅い」という意味ですが、私にあてはめると、メルマガを書くことだけが志操堅固であり、他のことはほとんど三日坊主ということになるのでしょう。

●しかし、人間ってそんなものではないでしょうか。自分が大好き、かつ得意なことを本業にできたら、誰だって「志操堅固」になる可能性が高くなります。しかし、飽きっぽい人は、ちょっとした工夫がいる。その一工夫は「志を練る」という行為だと思うのです
●その昔、幕末の志士たちは墨痕あざやかに漢詩をつくり、仲間とそれを交わすことで自らの志を絶えず練っていたそうです。つまり、遊興のためではなく、志を錬磨しあうための飲み会をさかんに行っていたのです。

●禁門の変において25歳で自刃した久坂玄瑞は、松下村塾の師・吉田松陰から才能を高く評価されていました。その久坂は、長州藩士のなかでも檄文の達人としても名が通っていたようで、いくつかの過激な漢詩を残しています。以下に、「長州漢詩集」でみつけた久坂の詩を記載します。


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 そうあい ふみやぶる ばんちょうのやま
 雙鞋蹈み破る萬重の山

 ここのえにむかって やきんを けんじんと  ほっす
 九重に向かって野芹を獻じんと欲す

 このさい だんじ かぎりなしの こころざし
 此際男兒限り無しの志

 らんらくに ようふんを ふせしめん
 鸞輅に妖氛を付せしめん
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 【意味】
この草鞋で幾重に連なる山々も踏み破ってやろう。
田舎者ではあるが、人のため何かがしたくて、心は天朝に赴いている。
この国家の一大事に男児たる者、その天下の志は限りなく溢れ、神国日本に外夷の穢れなどを近づけさせはしない。


●現代に生きる私たちにとって、彼らが行っていた漢詩づくりに相当するものは何でしょうか。また、自らの志を練り上げるために何をしているのでしょうか。そうした、自らを鼓舞するために、何らかの習慣をもつことは、とても大切なことではないでしょうか

●ですから、私はメルマガを毎日書いています。毎日書くことを通じて、自分が日本の経営者に役立っていることを確認できるのです。ときどき感謝のメールをもらったりすると、ますます自分の行為に意味が感じられるようになります。これはつまり、書くことそのものが志を練るという行為になっているのでしょう

●経営者のみなさん。あなたは何を繰り返していますか?

2008年01月11日(金)更新

女神に好かれる

●プロ野球の中継を見ていると、コールドゲームのように大差で決着がつく試合が、年に数回あります。最初から一方的な展開の場合は、途中でチャンネルを替えてしまいますが、なかには中盤まで拮抗していたのに、たったワンプレイで流れが変わり、結果として大差で終わる試合もあります。

●そのような試合は、終わった後に「あのエラーがなければ…」「あの投手交代さえもう少し早ければ…」と思うもの。たった一つのプレーや采配で勝負の流れが一気に決まったとき、流れとか勢いといったものの凄さ・怖さというものを再認識させられます。

●もちろん、会社経営にも通じるものがあります。経営者としては、組織の勢いを大切にしなければなりません。さもなければ、会社を目標達成に導いてくれる勝利の女神は去ってしまうのです。しかも、一度去ってしまうとなかなか戻ってくれません。

●では、勝利の女神はどこにいるのでしょうか。私は、毎日の何気ない仕事の中に潜んでいると思っています。つまり、日ごろのちょっとした仕事ぶりが、良きにしろ悪きにしろ会社の勢いを左右してしまうのです
●決して、大々的なセールやキャンペーンだけが本当の勝負ではありません。その日その日の日常業務もまた勝負なのです。

●こんな名言があるのはご存じでしょうか?

・「革命とは車輪を回すことである」(音楽家:イーゴリ・ストラビンスキー )
・「功を奏するとどめの一撃などない。小さなステップの積み重ねだ」(リーマンブラザーズ元会長:ピーター・コーエン )
・「雨だれ石をうがつ」(日本のことわざ)

上記のいずれも「毎日の継続した努力こそが、将来の大きな成果に結びつくカギである」と教えてくれる名言です。

●そろそろお正月気分もおしまいにして、この一年に勝利するための闘争心をあらわにしていきたいものです。会社や個人の目的意識や挑戦意欲をリフレッシュし、勢いを呼び込めるような毎日を過ごしましょう。

2007年12月14日(金)更新

メンツを捨てるとき

●経営者としてのメンツ(面目、体面)にこだわるのは結構なことですが、あまり意識し過ぎると大胆さに欠けてしまい、行動が起こせなくなります。

●先日、起業準備中のサラリーマンが集まる場で講演する機会がありました。会場には多くの若者に混じって、団塊の世代とみられる方も散見されました。講演が終了し、事務局が回収した質問シートをみると、次のような質問が多く寄せられていました。

●「起業するタイミングを計っているのですが、どのような条件が揃えば成功確率を高められるのでしょうか? やっぱりある程度の資金を確保しておかないと、リスクは大きいのでしょうか?」

「私はAという新事業のアイデアをずっと温めてきたのですが、なかなか自分に対してゴーサインが出せません。『ノウハウが充分に備わっていない』と自己分析しているのですが、多少見切り発車してもうまくいくものでしょうか?」

いずれもタイミングに関するご質問でした。

●私はこうした質問を受けると、「勇気」という単語を真っ先に思いうかべます。辞書をひくと、勇気とは「何ものをも恐れない強い意気」と書かれています。現実には、恐れない経営者というのをこれまで見たことがありません。ですが、みな「恐い」という気持ちを乗り越えられるような「勇気」をもっている方ばかりでした
●起業や新規事業を起こすとき、なぜ「恐い」という気持ちになるのかというと、未知のことに一歩を踏み出すからです。仮に失敗に終わった場合、「資金がなくなるのではないか」「世間や周囲から笑われたりするのではないか」「家族に迷惑をかけはしまいか」など、誰しもその後に起こるであろう周囲の反応を心配してしまいます。

●しかし、このようなメンツを気にする迷いには、いくら時間をかけても結論はでません。打開策はただ一つ、メンツを捨てるしかないのです

●人は誰しも、自分の体面を傷つけられることを恐れがちです。しかし、あまりにこだわり過ぎると次のように考えてしまいます。
・計画通りに事を運び、カッコ良く成功したい
・みじめな姿は見られたくない
・変なヤツだと思われたくない…etc.

●そんな自尊心はあえて捨てるべきです。
・自分はかっこ悪く、たとえ泥水をすすってでも生きる
・私に失敗はない。なぜなら、何があっても絶対に諦めないからである
・私は"七転び八起き"ならぬ、"百転び百一起き"してみせる…etc.
といった考え方をチョイスするくらいでいいのです。

●歴史を見ても、一度も失敗したのない、やることすべてが成功していたという人はいません。釈迦も孔子もキリストも、生きている間は乞食同然の生活をして、外からみれば格好悪かったではないですか。個人生活でもビジネスでも、挑戦した結果として残るのは、達成の記録であって失敗の残骸ではないのです

●ユニクロが野菜事業に失敗し撤退を決めたとき、柳井社長は次のように言いました。
「当社の野菜事業が失敗した理由を振り返ってみれば、ノウハウも人材も資金も揃っていたからだ」
何とも皮肉で、含蓄のある言葉ではありませんか。

「無い無いづくしの状態からでも成功してみせるといった勇気さえあれば、それだけを頼りに多少見切り発車しても大丈夫」と私は思います。そのためには、まずメンツを捨てることからはじめましょう。

2007年12月10日(月)更新

経営理念は「この指とまれ」方式で

経営理念やポリシーに、正解・不正解はありません。どんな理念や社是・社訓であっても、それはあなたが経営する会社の価値観の問題なので、第三者がその是非を語ることはできないのです。経営理念は「この指とまれ」で良いのです。

●むしろ重要なのは、その内容ではなく「こだわり」です。理念へのこだわりが社員の行動に反映されるような強烈な思想となり、顧客や社会に対するメッセージ性をもったとき、大きな力が発揮されるのです

●ある地方工務店の話をしましょう。経営理念の勉強をしてきたと思われる社長が、突然次のような発表をしました。

●「今後、我が社はすべての価値判断の基準を”顧客のため”とする。顧客のために働いて、仮に我が社が潰れるとしたら、それは資本主義制度それ自体の欠陥である。逆に言えば、我が社はこの理念にこだわるかぎり潰れることはない」

●しかし、この工務店は数年後に倒産してしまいます。ピークには300億円程度あった売上が、倒産直前には120億円になっていました。これだけ聞くと、経営理念を作ったことが倒産の原因に思えるかも知れません。しかし、実態は違います。社長が経営理念を作成して掲げたのはいいのですが、それに対するこだわりが浅かったのです。
●つまり、せっかく作った理念が管理職以下に浸透せず、現場でクレームが起きたときも、営業部長や所長は部下に対し、利益を優先するような指示をしました。その結果、経営理念と現場リーダーの指示に矛盾が生じ、多くの優秀な若手社員は立ち往生してしまったのです。彼らが会社を見限ったことが、倒産を早める原因となりました。

●社長は内心、倒産を回避したいがために、理念に救いを求めたのでしょう。しかし、それだけではうまくいきません。

●「我々は、常に一番でなければならない。二番以下のすべては敗者である」――過日お会いした小売業の経営理念には、こんな一節がありました。

●まるで「All or nothing」という、ドイツの自動車メーカーのポリシーのようです。事実、このお店が出店している8店舗はすべて地域一番店で、二番店以下だった4店舗を閉鎖したこともあるそうです。名は体を表すと言いますが、理念に忠実であろうとすると、営業政策にもそれが反映されるのです。

●また、別のガソリンスタンドチェーンでは、「お客様の喜びが私たちの喜びです。私たちの仕事はお客様の笑顔によって評価されます」という理念を掲げています。この会社では、顧客の喜びや笑顔というものを示す経営数字として、リピート率(再来店率)を定めています。個別の店舗ごとにリピート率の目標値を設定し、その達成率をチェックしているようです。

●これらの例からわかるように、経営理念そのものの優劣はありません。経営理念への忠実さとこだわりにこそ、優劣があるのです。冒頭に書いたように、あくまで経営理念の内容は「この指とまれ」で良いのです。その理念が社長そのものであり、あなたの会社そのものです。心してあなたの経営理念を作りましょう。

2007年11月30日(金)更新

経営理念はコロコロ変えてもいい

●経営理念が大切だとわかってはいるが、なかなか作れない。そんな経営者ほど、経営理念というものをむずかしく考えているようです。そんなときは肩の力を抜いて、以下の質問に答えてみてください。

1.私は、何のためにこの会社を経営しているのだろうか?
2.私は将来、この会社をどんな会社にしていきたいのか?
3.私が大切にしている価値観や信条、座右の銘って何だろう?
4.私は一緒に働く社員のためにどのようなことをしてあげたいのか?
5.わが社は誰に対して、どのようにお役に立ちたいのか。顧客からどう評価されたいのか?
6.取引先や金融機関、地域社会や国家、地球に対して、どのような貢献ができるだろうか?
7.他社の経営理念やスローガン、キャッチコピーなどで気に入っているのはどんなものか?

可能な限り自分の言葉で、これらの質問に率直に答えてください。テストの模範解答を考えるようにきれいに作文しすぎるのはいけません。、建前が強く出すぎて、経営理念も表面的なものになってしまいます。

●次に、インターネットを使って他社の事例を検索しましょう。たとえば、「独自の経営理念」とか「ユニークな経営理念」などのキーワードで検索したり、気になる会社の経営理念を片っ端からチェックするのも参考になります。そうした中から、感銘を受けた言葉や文章表現をメモしておくのです。

●こうした作業をすることで、だいたい1時間以内には独自の経営理念を作成することができるでしょう。これは机上の空論ではなく、何百、何千もの経営者が実証済みの方法ですから、自信をもってやってみてください。

●それでも作れないという人は頭が硬直しすぎています。生真面目すぎる人ほど「経営理念は変えるものではない」という思い込みにより、立ち往生してしまいます。そのような人には、次のようなアドバイスを送ります。

「経営理念はコロコロ変えるものです。コロコロコロコロ変えてください。毎月、毎週、いや毎日変えてください」というものです。つまり「2008年上半期経営理念」とか「2007年12月度経営理念」「2007年12月5日経営理念」といった、期間限定の経営理念を作ってみるのです。これならば、後で作り変えることが前提になっているので気軽にできるはずです。

●こうした作業をくり返していくと、そのうちに「これは変えたくない」という文章表現やフレーズが見つかってくるはずです。そうすることで経営理念が完成していくのです。

●私の会社は「有限会社がんばれ社長」といいます。経営理念も「がんばれ社長!」ですし、私個人の人生も「がんばれ社長!」をやるために生まれてきたと思っています。そこまで思えるようになったのは、実はこの数年のことです。というのは、毎日毎日メルマガを書き、その行為自体が理念の実践になるので、「がんばれ社長!」という信念が深まってきたということなのです。

●理念は一時間もあれば余裕で作れるので、作り終えたら反復しましょう。写経のように、毎日理念を書くのです。そして、実際の仕事や生活習慣と理念を何らかの形でリンクさせ、より深めていくことが重要なのです

2007年11月26日(月)更新

中小企業こそブランディングを

●これまで、ある地域で店舗を運営する場合は、トップシェア(地域一番店)になることが至上命題とされました。というのは、商圏内のトップシェアをとるか、二番手に甘んじるかによって利益構造がまるで違ってしまうからです。

●たとえば、衣料品販売店でポロシャツを売る場合、地域一番店なら売れ筋である白のMサイズとLサイズをドーンと積んでおけばまずは大丈夫でした。しかし、二番店になってしまうとLLサイズやSサイズを充実させるといった、売れ筋とは少し離れた品揃えで勝負していくしかありません。逆に、どうしてもMサイズやLサイズを扱いたいときは、一番店より安く売るか、人気のない他の色を揃えるしかなかったのです。

しかし、これは世の中に生活必需品やファッションアイテムなどが不足していた、20世紀までの経営です。年号が平成になってから20年になろうかという今日では、顧客の家には生活必需品もファッションアイテムも何でも揃っています。当然、ポロシャツも「白のMサイズ」といった絶対的な売れ筋は存在しなくなっており、各メーカーは個性やスタイルの違いを打ちだすことに躍起になっています。

●そのようなとき、自分のスタイルを既に確立していたり、あるいはこれから確立したいと思っている顧客が選ぶのは、強烈でわかりやすい個性の会社です
●経営者の視点でみたときに目標とすべきは、顧客と自社をよく理解し、製品・サービスと顧客のニーズを一致させることで、勝手に売れていってしまうようにすることです。本当の販売力強化というのはそのような意味であり、要らないと思っている人に言葉巧みに押しつけるようにして販売することではありません。

●あなたが欲しくても、なかなか手に入らない商品を思い浮かべてください。あるいは、予約したくてもなかなかできない、あこがれの店や舞台などでもいいでしょう。

●イタリアの経営者で「プラダ」の会長兼CEOのパトリツィオ・ベルテッリをご存じでしょうか。3代目オーナーとして彼が経営権を握ってから、プラダはにわかによみがえり彼自身もカリスマ経営者と認識されるようになりました。

●彼の言葉に、「市場の動向や消費者の好みに合わせた商品を送り出すのは、敗者のやり方だ」というものがあります。革製品が主流だった時代、プラダは女性用の黒いナイロンバッグを発表しました。

●ともすればお葬式をイメージさせるこの商品は、『創業者マリオへの侮辱』と陰口をたたかれましたが、結果的に女性の心をつかみ大ヒット。それ以降、他のブランドも次々とナイロンバッグを投入しましたが、そのどれもが成功していません。

●特に最近、似通った高級ブランド品が数多くリリースされていますが、それは冒頭にあげた「白色のMサイズ」のような、売れ筋の模範解答に無意識のうちに影響されているからです。市場調査するのは結構です。しかし調査の目的は、顧客に迎合したり競合他社をまねるために行なうのではなく、自社の主張を市場に浸透させるためだと気づかねばなりません

●このようなブランディングは、世界的高級ブランドや大企業だけの専売特許ではありません。規模的には小さくても、一部の顧客からは熱狂的に支持されるブランドがもっとたくさんあっても良いはずなのです。

●私の自宅は名古屋にありますが、名古屋=トヨタではなく、トンカツのお店や味噌煮込みうどんのお店、手羽先のお店やうなぎ料理のお店などで地元ファンのブランドになっているところがたくさんあります。

個人や中小企業もブランド化すべきであり、その第一歩は、経営理念や経営哲学など、明確なビジョンを設定することです。それを社員と共有し、毎年自社ブランドの山頂めがけてアタックをくり返すことが必要なのです。

2007年11月16日(金)更新

志と野心

●このところ国会では、防衛省幹部の癒着問題で揺れていますが、癒着とはもともと、「分離しているべき組織面が線維性の組織で連結・融合すること」という意味の医学用語です。

●社長はそれを他山の石としなければなりません。「うちの会社はは癒着とは無関係」と思っていても、実際は公私のけじめがつかず、個人的な飲食でも会社の経費にまわしたりしているとしたら、それはすでに「一人癒着」なのです。

正義とか倫理という面において、社長は誰よりも厳しくなければなりません。夢や志をもつことはたしかに素晴らしいことですが、それと個人の欲を混同してはならないのです

●社長は、人々を鼓舞するような素晴らしい夢を作りましょう。「夢」といえば、私はかの有名な、キング牧師の演説をいつも思い出します。

・・・
「私には夢がある。
いつの日か、ジョージアの赤土の丘の上で、かつての奴隷の息子たちと、かつての奴隷所有者の息子たちとが、ともに兄弟としてテーブルにつくことを・・・。
私には夢がある。
私の幼い四人の子供たちが、いつの日か、彼らの肌の色によってではなく、人格の中身によって判断される国に住むようになることを・・・。
私には夢がある。
いつの日か、アラバマ州で黒人の少年少女が白人の少年少女と手をとりあい、兄弟姉妹のようにともに歩むようになることを。
われわれは、黒人も白人も、ユダヤ教徒も異教徒も、プロテスタントもカトリックも、すべての神の子が手に手をとり、古い黒人霊歌の一節にあるように、『自由だ、ついに自由だ、全能の神よ、感謝します。ついに我々は自由になったのだ』と歌える日の来るのを早めることができるだろう」
・・・
●黒人差別撤廃を訴えるキング牧師の夢が黒人全体の夢になりました。そして国を、ひいては世界を動かしたのです。彼が語った夢には共感できる物語があり、わかりやすい日常生活の一コマがありました。何より、彼の個人的な欲などまったく感じられませんでした。

●「志」と「野心」は、どちらも大きな夢や目標に向かって一生懸命に努力する点では似ていますが、実は似て非なるものです。田坂広志氏は『これから働き方はどう変わるのか』(ダイヤモンド社)の中で、次のように語っておられます。

「野心」とは、おのれ一代で、何かを成し遂げようとする願望(自我の満足を満たすもの)。
「志」とは、おのれ一代では成し遂げ得ぬほどの素晴らしい何かを、次の世代に託する祈り(自我ではなく、大我)。

●さらに田坂氏は『経営者が語るべき「言霊」とは何か』(東洋経済新報社刊)の中でこうも述べておられます。

・・・経営者の「志」が伝わらない理由は、その経営トップが本当の「志」を語っているのか、実は「野心」を語っているのか、その違いです。己一代で何かを成し遂げようとする願望、それが「野心」です。「志」とは、己一代では成し遂げ得ぬことを次の世代に託する祈りです。我々は、次の世代に「志」を伝えることです。・・・

あなたが語る「夢」は「志」なのか「野心」なのか、よくよく吟味しなければなりません

2007年11月09日(金)更新

食うために生きる?

聖書に「人はパンのみに生きるにあらず」とありますが、会社にとっても「利益のみに生きるにあらず」と、同じことが言えます。そのこと自体は、経営者であれば誰もが承知していることでしょう。経営をしていて利益が出なくなってくると、頭の中はとにかく利益を出すことでいっぱいになり、ついには本末転倒の経営をしてしまうものです。

●以前、ある総菜メーカーを訪れたときのことです。その会社は、地元では有名なのですが、なにせ競争環境が激烈なため、近年は減収減益をくり返し、3年前からずっと赤字経営ということでした。

●訪問時、社長は工場に出ていて不在でした。社長室で待っていた私は、壁面に飾られた表彰状や感謝状の数々に混じった、「経営目標」と書いた紙を見つけました。

●その紙には「最重要テーマ:黒字体質の定着」と書かれていたのですが、その次に書いてある内容を見て、私はびっくりしたのです。それは次のようなものでした。

「今期改革課題」
1.顧客の選別と重点営業
2.経費予算の二割カット
3.人件費の削減、そのための余剰人員削減と給与カット断行
●そこへ社長が戻ってきましたので、さっそく人件費のことを尋ねてみると、「今の月間人件費5,000万円を、今期中に3,500万円にすることで労働分配率が60%を切り、収支も黒字に転換する予定」というものでした。

●たしかに数字はその通りかもしれません。しかし、リストラというものは経営目標として掲げて発表するものではありません。会社が生き残るための手段として、やむを得ず行うべきものであるはずなのです。たとえるなら、手術というものがそれ自体が目的ではなく、「健康になって明るく生活すること」が目的であるのと同じことなのです。

●たしかに赤字企業にとっては、黒字転換が最大の目標でしょう。その手段として大胆なリストラが必要になることもあります。しかし経営目標というのは、主体的に入手すべきものであり、決して守りきって得られるものではないのです

●私は社長に、「あなたは寝ても覚めても人件費抑制の夢を見るのですか?」と、少しいじわるな質問をしてみました。彼は「そんなバカな」と笑っていたので安心しました。

●社長とは、良い会社になることを夢見たいものなのです。その良い会社とはどんな状態なのかを定義するのが経営目標です

●この社長、実は大変勉強熱心な方で、夢と理想がびっしり書かれたノートを見せてもらいました。相当年季が入ったものでした。しかし、このノートの内容を社内で発表したことはないのだそうです。理由を聞くと、「会社が赤字では、部下に厳しい要求ばかりせざるを得ない。将来の夢や自分の哲学を語っている場合ではない」とのことでした。

●そこで今度は「余裕ができたら何をしたいですか?」と質問すると、「真っ先に新工場の建設に着手したい。図面だけはあるのですが、この工場を本当に実現させることで、提供している弁当が今より格段にグレードアップする」と、目をイキイキと輝かせて熱弁をふるいました。

●私はこのとき強く思ったのです。「やはり、会社は利益のためにあるのではなく、夢を実現するためにあるのだ」と。
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ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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