武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
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2007年01月05日(金)更新
7つの経営スタイル
●今の仕事に関して、知るべきことは全て知り尽くしてしまったかのように錯覚したり、経営者として自らの経営スタイルを変えようとしないのは、大変危険なことなのです。経営者の経営能力開発というテーマは、終わりなき旅であると言ってもよいでしょう。
●経営者は、自分にあった経営スタイルを持っています。私は、経営スタイルは7つに分類できると考えています。
1.民主的経営
2.家族的経営
3.育成型経営
4.権威型経営
5.率先垂範型経営
6.強制型経営
7.権力誇示型経営
それぞれについて、具体的に説明しましょう。
1.民主的経営
社員の意思やアイデアを尊重し、合意形成に重きをおく経営。社員からの経営への参画意欲を高めることや、目標達成のモチベーションを高めることを重視します。経営陣と社員との信頼関係があり、社員の基礎能力が高い場合には、お互いがパートナーのような関係になれる可能性があります。
2.家族的経営
「人間対人間」というよりは「親対子」として社員に接するもの。友好的で家族的な
関係を重視することで信頼関係を築き、成果も上げようとするもの。事業規模が小さく、経営が安定している場合に有効でしょう。
3.育成型経営
経営者というよりは教育者であるかのように、人を育てることに重きをおく経営。社員の成長を支援し、動機づけし、絶えず成長課題を明確にしようと努力します。組織を作り、事業を長期にわたって発展させるために有効です。
4.権威型経営
会社の理念や方針、ビジョンを明確にし、あるべき姿に向けて社員を導こうとする経営。新たな方向付けが必要とされる企業や、起業家にとって有効です。
5.率先垂範型経営
社長自らが現場で行動し、模範を示す経営。社員に仕事のやり方を学ばせるとともに、共感を呼ぶこともできる。独立したい社員、向上心が強い社員が多い場合に有効です。
6.強制型経営
超ワンマンで、社員を手足のように使う。しかし、それが的確なので社員もそれに付いてくる。カリスマ社長と素直な幹部、社員が揃っているとこうなりやすい。会社が
危機にあるときや、思い切った方向転換が必要な場合に有効です。
7.権力誇示型経営
雇用を維持し、賃金を支払う立場である強みをちらつかせることで社員を動かそうとする経営。かつてはこれが有効な時代もあった。きわめて高い給与水準にある場合にのみ、今でも限定的ですが有効ではあります。
●このように、実にさまざまな経営スタイルがあることがおわかりいただけたと思います。経営者は意識しているかどうかはともかとして、これらのスタイルのいずれかを採用しているか、あるいは複数のスタイルを組み合わせています。
●そして、大切なことは、次の3点を知ることではないでしょうか。
◆今の経営スタイルだけが最善とは限らないし、「唯一正解」と呼べるようなスタイルも存在しない
◆会社の状況に応じて、経営スタイルを変えていくことも必要である
◆各々のスタイルの完成度を高めるために勉強すべきことはたくさんある
ということです。
●今回は、7つの経営スタイルの確認をしました。次回は経営能力の開発について考えてみましょう。
2006年12月28日(木)更新
なぜ利益を上げるのか?
「社長、どうして毎年売上高や利益を上げていく必要があるのですか?」
という素朴な疑問です。社長は答えました。
「それはだね、我々全員が豊かになるためだよ。」
社員はけげんな顔をしていたが、たぶん理解していないでしょう。
●また、別の会社の営業部長は幹部会議でこんな発言をしました。
「社長、上半期の売上は前年割れしました。営業利益段階ではほぼ前年比で半減していますが、まだ累計で1,000万円近い営業利益が残っていますので、会社としては大丈夫かと・・・」
この営業部長氏、利益というモノがわかっておられないようです。「利益=単なる会社の儲け」と盲信しているのですね。
●まず、「利益とは何か」ということと、その利益を毎年増やしていく理由はどこにあるのか? ということを語れる経営者になりましょう。たとえば、
「利益とはわが社が提供している製品・サービスがお客様からどのように評価されているかというバロメーターであり、社会がくれた通信簿でもある。ここで赤字(赤点)をもらうということは、社会からみて不要かつ悪だということだ」
という根本思想を教え込むべきです。
●しかも、利益の半分が税金にまわるのであり、納税の義務を果たすためにも利益は必要です。納税したあとに残る純利益から借金が返済されるわけですから、少なくとも借金返済額の2倍の利益を出さないと、現金収支はマイナスになるということです。
●利益は以下の5つの目的のためにも必要です。
1.従業者の生活(雇用や待遇)を改善・安定させるため
2.勉強する費用や時間を稼ぐため
3.有能な人材を採用するため
4.健全な財務基盤を築き、経営の自立を勝ち取るため
5.新しい製品・サービス・機会に投資するため
6.経営理念を実現する原資を確保するため
●もう少し具体的にみてみましょう。
1.従業者の生活を改善・安定させるため
社員や経営者の収入を安定させることと、労働法規に沿った環境を整備することです。収入面や労働時間面の不安が長引いては、生活が安定しませんし、仕事にも集中できません。
2.勉強する費用や時間を稼ぐため
社会全体のことから経済、経営、実務にいたるまで私たちが知るべき知識や技術は多いのです。目の前の実務をこなす勉強だけではやがてアンバランスな人間になるでしょうから、社員の人間教育のようなものも会社の責任といえるでしょう。
そうした勉強をするための費用を捻出するのは利益からです。勉強するための時間も、利益がなければ厳しくなります。
3.有能な人材を採用するため
会社全体の成長を確保するためには、絶えず組織に有能な人材を補充していかねばなりません。欠員が出たから補充するという行き当たりばったりの採用では、やがて成長が止まります。
4.健全な財務基盤を築き、経営の自立を勝ち取るため
まず、つぶれない会社にすることです。不況が長引いても雇用不安を起こさない会社にすること。そのためには、他人資本への依存度を下げて、自己資本を充実させなければなりません。
5.新しい製品・サービス・機会に投資するため
これは挑戦のための費用です。そして挑戦には失敗がつきものでもあります。新規事業への参入や、新製品の開発、技術開発や研究開発など数年後のために支払う経費を確保するにも利益が必要です。
6.経営理念を実現する原資を確保するため
経営理念はお題目に終わらせていては意味がありません。理念に少しでも近づく努力が必要で、その原資になるものがやはり利益なのです。
●こうした6つの理由によって、会社は絶えず収益を向上させていかねばならないのです。別の表現をすれば、この6つの課題に取り組まずに上げた収益には意味がない、ということです。
2006年12月15日(金)更新
理念をみんなで作る
と嬉しそうに報告されたA社長。
「よかったですね」
と私は返答したものの、社員全員で理念を作るという発想に抵抗を感じました。なぜなら、経営理念は経営者が作るものだから。
●ドラッカーは『現代の経営』において、「事業とは顧客を創造することである」と定義していますが、私も彼の「事業とは顧客創造業」という考え方に賛同します。
●さらに踏みこんで申し上げるならば、事業の目的は、「顧客創造を通して理念を実現すること」 ではないでしょうか。
●営業部はもちろん、技術部も開発部も経理部も人事部も、すべての社員は顧客創造と理念の実現に向けて「役割分担」・「分業」を行っているということです。
●さらに、ドラッカーは同じ著書で「三人の石工」の例話を紹介しています。
●ある建築現場で、何をしているのかを聞かれた三人の石工のうち、「一人めの男は『これで食べている』と答えた。二人めは手を休めずに『腕のいい石工の仕事をしている』と答えた。三人めは目を輝かせて『国で一番の教会を建てている』と答えた」という話です。
●私はこの例話からドラッカーが言わんとすることは、社内のベクトルを合わせようという提言だと思うのです。
・自分たちは何のために今の仕事を行っているのか
・そして、この先何を目指しているのか
●顧客から見れば、良い仕事をやってくれればそれでよいということかも知れませんが、組織の中で働く仲間としては、自分たちの会社の目的を共有していないと何かと意見や考え方にミゾが生まれるものです。
●それを成文化したものが「経営理念」なのです。
●ベクトルは明確でなければならないし、そのベクトルをまっさきに指し示すのは経営者です。
●ですから、「理念をみんなで作る」という社長は社員に甘えすぎだと私は思うのです。
2006年12月09日(土)更新
ドラッカーが指摘する「劣後順位」という観点
私は、大好きな穴子と玉子を最後に残し、まずは白身かタコあたりから手をつけることが多いです。
●先日、ある経営者と出前の寿司を一緒に食べたとき、私のそうした食べ方を見て、笑いながら忠告されました。
「武沢さん、どうして好きな順に食べないのですか? 嫌いな順に食べると、まず一番嫌いなもの、次に二番目に嫌いなもの、最後に一番嫌いではないものを食べる、という順になる。それじゃ、いつまでたっても好きなものにありつけない」
「その点、私は好きな順に食べるので、いつも寿司おけの中の一番好きなものを食べることができる。それに今、もし地震があって逃げることになっても後悔しない」
どちらから食べようと好みの問題なので、お互い罪のない話ではあります。
●ところが、仕事の進め方となると笑っては済まされない問題です。仕事には、目標設定と優先順位が大切であることはご存知の通りですが、実はそれだけでは不充分かもしれません。
●ドラッカーが指摘しているように「劣後順位」という観点も忘れてはならないのです。
●劣後順位とは、優先順位の逆さの意味で使われます。手をつけてはならない仕事を決めることです。経営者がやるべきことは、優先順位の設定だけではなく劣後順位の決定も大切なのです。
●寿司であれば、どちらから食べようともやがてはすべてを平らげる。しかし、仕事は永遠に私たちの許容量を超えるのです。すべてをこなすことは出来ません。
●「社長としての私は、何をしてはならないか」
ある勉強会で、この質問を投げかけました。参加者は各自、ノートにその回答を書き込んでいきます。最初のうちは、集金や伝票発行、コンピュータ入力などの無難なものが並ぶ。やがて経営者は考えます。
「本当に自分でなければならない仕事とは何か」
●そうすると、今やっている仕事の大半が本来は劣後順位のリストに入れるべき項目であることがわかります。ですが、なかには屁理屈をいう人もいます。
「集金は自分でなくてもやれるが、自分が行くことでお客の生の声も聞ける」
「自分の手でコンピュータに営業マンの個人成績を入力することで、一人一人の活動状況が手にとるようにわかる」
などの言い逃れをするのです。
●ドラッカーはさらにこうも言います。
「トップ本来の仕事は、昨日に由来する危機を解決することではなく、今日と違う明日をつくり出すことである」
私たちの合い言葉は、
◇日常業務をこなすよりは明日のための仕事を
◇問題解決よりも機会の創造を
◇他社の後追いではなく独自性を
◇無難な調整ではなく、勇気ある変革を
です。
●劣後順位という考え方は、経営者の仕事の仕方にとどまらず、会社全体にも普及させたいものです。
●私自身の反省にもなりますが、中小企業の経営計画書がうまく機能していない理由のひとつに優先順位主義があるのではないでしょうか。社長が勉強しておられる会社ほど総花的な経営計画書になりやすいのです。
2006年11月17日(金)更新
中小企業にとっての「戦略」とは
●しかし、最近の傾向から気になることもいくつかあります。
●数年前までは、どの会社にも中長期構想があり、そのなかに今期の単年度計画がありました。しかし、最近では単年度計画しか作れない、作らない会社が目立ちます。私見ですが、これでは「先行きがわからない」「夢が感じられない」などの印象を社員に与えているように思えるのです。
●「戦略なき国家は滅びる」といわれますが、企業も同じです。
●「戦略」という言葉は本来が軍事用語です。戦略とは、敵が存在し、その敵に対してどのように戦うかを考えるおおもとの作戦のことを意味します。したがって、逃げることも戦略、籠城作戦で日数をかせぐことも戦略、野戦で真っ向勝負することも戦略、奇襲作戦も和議などの外交交渉も、みな「戦略」です。
●敵に対する接し方は多数あるものの、相手の出方に応じて臨機応変に戦略を組み立てるのが大将の役割なのです。
●孫子の有名な言葉に、
「彼を知り己を知らば、百戦殆うからず、彼を知らず己を知らば、一勝一負す。彼も知らず己も知らざれば戦う毎に必ず殆うし」
というのがあります。私は中小企業にとっての戦略を考えるとき、この言葉にすべてが集約されているように思います。
●敵情を知り、わが力をも知る場合は、戦いに敗れることはない。つまり、敵情とは、経済全体の流れや市場のニーズ、業界の動向、ライバル企業の動きのこと。そうした外部与件を経営陣全体で共有しておくことです。
●こうした情報のほとんどは、新聞などから入手できます。その都度切り抜いておけば充分なデータベースになります。
●とくに、ライバル企業の経営状況や商品戦略に関する情報は、意識して入手する必要があります。よく観察していくと、同業他社の売れている商品とそうでない商品がわかってくる。売れている商品は長く売られている商品であり、売れない商品はすぐに消えてしまう。さらに、組織図などを入手できれば、ライバル企業が経営上で打つ手も見えてくるのです。
●己を知るとは、内部与件のことです。人・物・金の状態がどのような競争力をもっているのかを再確認し、経営陣全体で認識を共有することです。具体的には、以下のポイントを押さえることです。
「人」のポイントとは、社員の士気や能力をいかに高めるかということ。
「物」のポイントとは、競争力ある商品やサービスをいかに作るかということ。
「金」のポイントとは、必要な資金をいかに調達するかということ。
●戦略や方針があいまいな会社には、このような視点が欠けています。経営方針を作る際には、いったん当事者であることを忘れて、軍師であるかのように今の会社の長短得失を洗い出し、企業の内部外部の与件も洗い出してみるべきです。
●そうした中から活路を見出し、成長の絵を描くのが経営者の大切な役割なのです。
2006年11月10日(金)更新
会社を環境適応させる
●社長も含めて、社員全員が額に汗して懸命にはたらいているのに利益がでないというのは、責任のすべてが経営者にあるのです。環境に適応しようとせず、コツコツと努力するだけでは勝てません。
●先日、ある団体で「経営計画を策定するための社長講座」のセミナー講師を仰せつかりました。参加者はいずれも中小企業の経営者。規模や業種、それに年齢もさまざまですが、その大半は、自社の経営計画をつくるのが初めての方々でした。
●こうした講座でレクチャーをして気づくのですが、最近の経営者は年々基礎能力が高くなってきています。みなさんきっちりと宿題をこなします。毎回、課題となる書式を完成させる熱心さと学習能力を持ち合わせています。もちろん、パソコンやメールも使いこなします。
●二次会では、経営の問題ばかりでなく、政治や経済、社会の出来事など、豊富な話題で盛り上がります。
●もし、社長の経営力が、知識量や情報量で評価されるのであれば、今の若手経営者の大半は、すでに「社長合格」です。しかしながら、経営者とは何を知っているのかではなく、何をなしとげているかが問われる職業なのです。
●すでにもっている情報・知識・経験・アイデアをベースにして、会社全体のビジョンと計画を描くことこそ、社長業の本質です。そのためには、自ら実践し、社員に実践させるヒューマンスキルが非常に重要となってきます。
●一般に、ビジネスパーソンに必要とされる技能は、以下の3つに大別されます。
1.テクニカルスキル(業務遂行能力)
2.ヒューマンスキル(対人関係能力)
3.コンセプチャルスキル(概念構築力)
●新入社員から中堅社員に求められる技能は「1」がもっとも大きく、「3」がもっとも低い。一方、経営者は「3」がもっとも大きく「1」がもっとも低い。管理職はその中間です。この3つのうち、ビジョンを描く能力は「3」の領域。つまり、経営者にもっとも必要な能力であり、代理を務めてくれるスタッフはいません。
●経営環境は毎年・毎月・毎日、確実に変化していきます。為替や株式のマーケットが世界のどこかで毎秒変化しているように、経営環境も厳密にいえば毎秒変わっていきます。同業他社の動向も刻々と変わります。ただ、目に見えるものや、数字に表せるものはすべて変わっていく中で、人間の心や原理原則など、変わらないものも存在します。
●そうした環境要因にさらされているものが企業です。経営者としてかじを取って持続的成長を図るためには、経営計画策定能力は不可欠なスキルです。しかも、このスキルは決算期にあわせて年一回だけ使うものではなく、必要に応じていつでも使えるように鍛えておかねばなりません。
●そうした能力を身につけることが、会社を「環境適応」させるのです。
2006年10月13日(金)更新
十三の徳・応用編
●これらの徳を同時進行で磨こうとしていては、かえって注意が散漫になります。一定期間どれか一つに注意を集中させ、その徳が修得できたら次に移る。また、順番にも工夫をこらし、基本的なものを優先し、応用的なものは後回しにします。
●そして、一つの徳を一週間かけて自己チェックする。一年は52週間あるので、十三徳あればちょうど4回転することになります。
●第一週が「節制」であれば、日曜日~土曜日までは、「節制」だけに注意を集中させる。チェック表に毎日、○△×の印か、あるいは点数をつけていく。これ以上詳しくお知りになりたければ、『フランクリン自伝』(岩波文庫)の137ページ以降をお読みになってください。
●この方法を組織全体で用いると、どうなるか。「基本の徹底」というスローガンを掲げている会社なら、その「基本」自体をいくつかの項目に分けて、毎週チェックするしくみを作ることもできます。
●たとえば、時間厳守、服装・身だしなみ、笑顔、挨拶、お辞儀、報・連・相、などという項目に落とし込んでいきます。もちろん13項目にこだわる必要はないですし、部署単位で異なる内容にしてもいいでしょう。応用の仕方は無限です。
●私自身もこうした取り組みに挑戦してきたし、組織全体で取り組んだこともあります。その経験から助言を。
1.本当に必要性を感じる徳を選ぶこと
フランクリンの十三の徳のうち、私にも必要だったのは半分くらいでした。残りの半分は、「目標意識」「素早い始動」「奉仕」「読書」「部下育成」などの項目に差し替えたのです。これらは私にとって必要なテーマだったからです。
2.継続が大切なので、仲間を作ろう
十三の徳を自らに課すのは、孤独な作業でもあります。フランクリンのように一人で一生続けるのは並大抵ではありません。しかし、一緒に取り組む仲間がいれば、話は別です。会社全体でやれば、なお良いでしょう。
●あなたが考えている「良い経営者像」を定めるのが十三の徳の制定であり、フランクリンのこの方法は、日々“複利計算”のようなイメージで自らを成長させる効果的なしくみではないでしょうか。
2006年10月06日(金)更新
十三の徳
●そのフランクリンを称して、「Selfmade man」(自らを創り上げた人)という言い方をします。この表現に込められた意味は、“人生の成功は自己啓発の成功にほかならない”、ということです。
●フランクリンは、印刷工から身を起こし、実業界で立身出世。科学者、出版業者、哲学者、経済学者、政治家、そしてさまざまな啓蒙活動を通してアメリカ資本主義の原点を作った人物です。
●彼は、独立宣言書の起草者でもあります。そのフランクリンが25歳の頃、借金を背負って印刷会社を経営しつつ子供が誕生。いままで以上に、自分が精進しなければならない、と発奮して「十三の徳」を樹立しました。
●生まれながらの性癖や習慣、交友のために陥りがちな過ちを克服したい、との動機から生まれたこの「十三の徳」は、フランクリンにとっての成功のパスポートでした。
第一 節制・・・飽くほど食うなかれ、酔うほど飲むなかれ
第二 沈黙・・・自他に益なきことを語るなかれ、駄弁を弄するなかれ
第三 規律・・・物はすべて所を定めて置くべし。仕事はすべて時を定めてなすべし。
第四 決断・・・なすべきことをなさんと決心すべし。決心したることは必ず実行すべし。
第五 節約・・・自他に益なきことに金銭を費やすなかれ。すなわち浪費するなかれ。
第六 勤勉・・・時間を空費することなかれ。つねに何か益あることに従うべし。無用の行いはすべて絶つべし。
第七 誠実・・・いつわりを用いて人を害するなかれ。心事は無邪気に公正に保つべし。口に出すこともまた然るべし。
第八 正義・・・他人の利益を傷つけ、あるいは与うべきを与えずして人に損害を及ぼすべからず。
第九 中庸・・・極端を避くべし。たとえ不法を受け、憤りに値すと思うとも、激怒を慎むべし。
第十 清潔・・・身体、衣服、住居に不潔を黙認すべからず。
第十一 平静・・・小事、日常茶飯事、または避けがたき出来事に平静を失うなかれ。
第十二 純潔・・・性交はもっぱら健康ないし子孫のためにのみ行い、これに耽りて頭脳を鈍らせ、身体を弱め、または自他に平安ないし信用を傷つけるがごときこと、あるべからず。
第十三 謙譲・・・イエスおよびソクラテスに見習うべし
●彼が、これらの徳を作りあげるときに気をつけたのは、ひとつの「徳」に多数の内容を盛り込みすぎないことでした。その結果、名称は増えても、おのおのに含まれる意味は、狭く限定しようと考えたのです。
●この「十三の徳」は、もちろん各人各様でアレンジできることは言うまでもありません。
●私自身も15年ほど前、セールス関係の会社にいた頃に、自分と部下のためにこの「十三の徳」を応用しました。仕事に密着した内容に改め、「時間」「読書」「情熱」「集中」などの項目を取り入れ、実践しました。
●フランクリンは、これらの徳を自らの第二の天性である習慣にまで育て上げるために、さらに工夫を凝らしています。次回は、その知恵と応用に関してお伝えしましょう。
2006年09月22日(金)更新
戦略タイム
●ある経営者は、「ボスデー」と称して毎月の最終土曜日を戦略タイムにあてています。この日は、いっさいの仕事を入れず、必要な資料とノートパソコンを持ち込んでホテルに籠もる。また、別の社長は毎日、始業前の30分間をそれにあてているそうです。
●中小企業経営者は、大半がプレイイングマネージャーですから、何らかの実務を受けもつケースが多いはず。おのずと就業時間中では、戦略や方針決めのことまでは考えが及びません。そこで、なかば強制的に時間を設けようという知恵なのでしょう。
●毎年、経営計画を作成し、発表している会社では、少なくとも年に一回は会社のあるべき姿を見直し、具体的な戦略や方針を考えることができます。ですが、それでも足りません。年に一度の経営計画作成で事が足りるほど現実は甘くない。
●計画通りにいかない事が多いし、状況も変わります。当然、目標の修正や計画の変更がせまられます。そこで、定期的な戦略タイムが必要になるわけです。
●プロ野球も監督のサインによって選手は動きます。「バント」なのか「エンドラン」なのか、あるいは「待て」なのか……。勝負どころでは一球ごとにベンチからサインが出ます。当然ながらサインは、具体的でなければなりません。まさか、「ヒットを打て」とか「ホームランを打て」というサインを出すような監督はいないでしょう。
●経営の現場におけるサインはどの程度具体的なものか、考えたことがあるでしょうか。
●会議での席上、「なぜ、売れないのだ?」「もっと売れるはずだ」「努力が足りない」などの叱咤激励をよく聞きます。
●これなどは、野球の監督が「ホームランを打て」というサインを出しているようなものです。有能な監督やコーチならば、「直球に的を絞れ」とか「右打ちに徹せよ」という具体的なサインを出すはずです。
●定期的な戦略タイムを設けるということは、時間の経過を止めて日頃の経営活動をふりかえることです。そして、社員に対してより適切なサインを出せるように内省することでもあります。
●コツコツと経営方針を書きためるもよし、日頃の検討課題に対する解決策を考えるもよし、ツンドクにしておいた本を読むもよし、自由かつ生産的に過ごしたいものです。
●私は、「経営課題リスト」を日頃から作ることをおすすめしています。これは、日頃気になったテーマをその都度、箇条書きに記入しておくだけのシンプルなものです。会社に託す夢や、日常の問題点など、ごった煮のようなリストでも構いません。
●こうしたリストを作っておくことで、今なにを考えなければならないのかを絶えず具体的にしておくことができます。許すかぎりの範囲内で、すべての経営者が戦略タイムを設け、よりよいサインを出せるようにしていただきたいと願っています。
2006年09月08日(金)更新
4つのG
●私たちは、新しい事業をはじめる際には慎重に計画をたて、準備を整えてから取りかかります。ある意味で、臆病なくらい慎重です。
●しかし、現在の事業を継続することにおいては、ほぼ無防備に近い。継続するかどうかが検討課題になることはめったになく、議題にのぼる頃には、かなり手遅れなのです。
●「新しく事業をはじめるとしたら、今の事業をやりますか?」という問いかけを定期的にする必要があります。しかも、何らかの基準で見直しができればなお良い。
●その手法の一つとして、「4つのG」という概念をご紹介しましょう。
●4つのGとは、米国企業ゼネラルエレクトリックのジャック・ウエルチ元会長による言葉で、
1.Good technology(グッドテクノロジー)
2.Good Market(グッドマーケット)
3.Good People(グッドピープル)
4.Good Plan(グッドプラン)
のことです。この4つのGが揃うことが、その事業の成功の鍵だというのです。
●「グッドテクノロジー」とは、良き技術、良き製品、良きサービスであり、良き価格や良きシステムもここに入ります。売り物自体に競争力がどの程度あるかを問うものです。「グッドマーケット」とは、市場の将来性や顧客のニーズがあることを指します。
「グッドピープル」とは、良き経営陣、良きスタッフが揃っているかどうかを評価するもの。「グッドプラン」とは、良き作戦、良き計画のことです。
●評価の方法は、○△×でも5段階評価でも構いません。この4条件による評価結果は、たえず変化します。評価結果の推移を見守ることに意味があるのです。なぞなら、低収益企業でも、創業のころからずっとそうだったわけではなく、徐々に収益が悪化しているのに手を打たなかった会社が多いのです。
●定期的かつ客観的な評価が大切なゆえんです。
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ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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