武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
2009年10月02日(金)更新
迷子にならないために
●迷子は子供だけがなるものではありません。大人でも迷子になります。実際私も、初めて訪れた外国の町で迷子になったことが何度もありました。しかし、子供とは違い、お金は持っていますし、携帯電話もあるのでパニックにはならないで済んでいるだけのことです。
●最近は、人生の迷子、経営の迷子をよく見かけます。
・目的地がどこか分からない
・目的地への道順が分からない
・そもそも、今どこにいるのか分からない
という意味での「迷子」は、全国にたくさんいるのではないでしょうか。
●私がコンサルタントを始めた15年前、ある社長からこんな話を聞きました。
「うちは創業以来20年間一度も赤字を出したことがないし、金銭的苦労をしたこともない。こんなにも会社経営って簡単なものなのに、世間では社長業って大変だなんて言っている。
そんなとき、俺も一発、社長らしいことをやってみようと、自社ビルを建てることを決め、生まれて初めて借金をした。当時の売上高の何倍もの金額を借り、ようやく完成した自社ビルの落成記念パーティの案内状を作っているとき、バブルが崩壊した。その後、あっという間に倒産の危機に見舞われ、今では社長業って本当に大変だなあと実感している」
●私が「社長、顔色もいいし、お元気そうですがよく生き残ってこられましたね」と言うと、その社長は神妙な顔でこんな話しをしてくれました。
「武沢さん、私はものすごくラッキーだったと思う。なぜなら、倒産の危機に見舞われて以来10数年間、運転資金を銀行から借りることができなくなった。そのおかげで、利益と現金が酸素のように大事なものだと実感できるようになったし、それを先行管理するための方法を考案し、社長らしい仕事をやれるようになっていったのだと思う」
●そこで私が、「社長らしい仕事って何ですか」と質問すると、「現実に向き合い、将来に向き合うことでしょ」という答えが返ってきました。
●この社長、資金繰りに追われて困窮しているときは、すべてを経理に任せ、自分は現実から逃げていたそうです。しかし、逃げていてはかえって不安が広がるのだと気づき、月末にいくら足りないのか、いつなら支払えるのか、来月はどんな見通しなのか、といった問題や現実に社長自身が向き合いました。その結果、会社が良い方向に向かいだしたといいます。
●逃げると迷子になるのです。経営者自身が「今自社はどこにいるのか」を確認し、向かうべきゴールをもう一度フォーカスしなおす作業をちゃんとやっている会社は、どんな時代がやってきてもしなやかに対応することができます。
●2009年もいよいよ最終四半期に入りました。今どこにいるのか? 残り3か月の目標は何なのか? をもう一度確認しましょう。
2009年09月25日(金)更新
志をまもる工夫
「経営理念の大切さについては重々承知しているつもりです。そこで昨年、納得のいく経営理念を作り、社内外に発表したのですが、何も変化が起きません。正直なところ拍子抜けだったのですが、これは理念の中身に問題があるのですか? それとも作る過程で何かが足りなかったのでしょうか?」
●この問いに対し、私は次のように答えました。
「中小企業において、“経営理念”という大がかりなテーマに興味を持っているのは社長だけです。幹部も含めたほとんどの社員は、自分の口に入る小さなサイズの食べ物にしか興味がありません。ですから、経営理念も幹部や社員の口に入るよう、小さなサイズにカットしてあげれば食べてくれますし、咀嚼もしてくれます」
●以下は、司馬遼太郎の小説『峠』(新潮社刊)からの抜粋です。
・・・
志は塩のように溶けやすい。男子の生涯の苦渋というものはその志の高さをいかにまもりぬくかというところにあり、それをまもりぬく工夫は格別なものではなく、日常茶飯事の自己規律にある、という。
箸のあげおろしにも自分の仕方がなければならぬ。物の言いかた、人とのつきあいかた、息の吸い方、息の吐き方、酒ののみ方、あそび方、ふざけ方、すべてがその志をまもるがための工夫によってつらぬかれておらねばならぬ、というのが継之助の考え方であった。
・・・
●私は、この文の中にある「志」というくだりを、「経営理念」に置きかえることができると思います。
「いくら崇高で立派な経営理念を作ったとしても、それは塩のように溶けやすいものである。その崇高な理念をいかにまもりぬくかというと、日常茶飯の仕事に理念が反映されておらねばならぬ。
商品の品質、価格、パンフレットやホームページのあり方、営業マンの売り方、社内での会話や会議のやり方、人材の採用や育成、評価制度や賃金制度など、経営のすみずみにいたるまで、経営理念を実践する工夫によってつらぬかれておらねばならぬ」
●話を講演会での質疑応答に戻しましょう。質問者の会社の社員は、与えられた経営理念が自分の口に入らないのでリアクションのしようがなかったのでしょう。ですから、「何も反応が返ってこなかった」のはある意味では当然なのです。
●ごく稀に、「社長、すばらしい理念です。僕は一生この会社で、理念を実現するためにがんばります」という人がいますが、それは百人に一人か二人かという逸材でしょう。それほど少数派なのですから、反応がないからといって落胆する必要はありません。
●正しい問題認識というのは、「この経営理念を実現するには、これからわが社にどのような変化が必要か」を考えることです。社員に向かってそうした問いかけをすることではじめて、社員もアイデアを出すようになるでしょう。そうした方向で議論し、一歩ずつ行動していくことで、社員の目の色が変わってくるはずです。それが、志や理念といった観念的なものを実現していく手順なのです。
2009年09月18日(金)更新
メニュー表
●突然の会食だったので予約は入れていなかったのですが、とりあえず行ってみました。茶室の入り口のような狭い引き戸から入ると、建物まで石畳が続いています。建物に近づくと、入り口の両側にかがり火が燃えさかっていて、メニュー表らしきものが目についたのですが、その中味を確認してビックリ。
●なんとメニュー表は真っ白だったのです。いや、正確には小さな文字でわずかにこう書かれていました。
・・・おいしい料理がすべて時価・・・
私はそのとき、「すべて時価? 時価っていくらなのだろう。それに、おいしい料理ってどんな料理なのだろう。魚かな、肉かな、豆腐かな・・・? 入るべきか、入らざるべきか」と思いました。
●この時、もし私ひとりだったら、冒険好きの私は興味をそそられ、迷わずに入っていたでしょう。しかし、この日はゲストとの会食です。安心して過ごせるところが良いと思い、結局、行きなれた小料理屋に変更しました。ちなみに、それ以来ずいぶん経っていますが、その割烹料理屋にはいまだに足を運んでいません。
●企業でも、この割烹店のようなケースがたくさんあるように思います。業務内容も価格も不明瞭なため、仕事を依頼しづらい会社です。
●かつて、大塚商会の創業者・大塚実氏が雑誌のインタビューで、同社の強さを次のように語っていました。
・・・
我社は現場でのお客さんの要望や不満をすぐにメニュー表にしてウリモノにしてしまう。たとえば、パソコンを納品した際に、「据え付けもやってくれないの?」と言われれば、その声がすぐに経営トップに上げられる。それを翌日には全国レベルでメニュー表にしてお客さんに提案する。ソフトのインストール作業や操作レッスンなどもいちはやくメニュー表にしてウリモノに替えてきた。そのスピードが他社さんよりも早かったのでしょうね。
・・・
●ある日の講演会で私は参加者にこう聞いたことがあります。
「今日お集まりの皆さんの中で、メニュー表と価格表をいつも持ち歩いている方は挙手をお願いします」
40名ほどの社長が集まる会でしたが、ひとりも手が挙がりませんでした。その後も他の会場で何度か同じような質問をしましたが、せいぜい2~3%程度しか手が挙がりませんでした。
●単純に言えば、経営者も社員も自社のメニュー表と価格表をいつも持ち歩こうということです。講演会でそんなお話しをしたところ、会場にいた社長の中に、すぐにそれを実行し、翌月にこんなメールを下さった方がいました。
・・・
先日の講演でご指摘があったメニュー表を作って持ち歩くという件(当社は道路カット業なので施工単価表になりますが)ですが、さっそく作って持ち歩き、名刺交換のときにお客さんに渡すようにすると、先月だけで新規受注が2件ありました。こんなにうまくいくとは、正直ビックリしています。
やってみれば簡単なことですが、この業界では、他社がこのように新規顧客を開拓する営業をやっていないのか、営業慣れしていないのかも知れません。すぐに話を聞いてくれて、見積り依頼をしてくれたのには本当におどろきでした。
・・・
●この社長のメールによれば、建設関係者と名刺交換したときには、必ずこのメニュー&単価表を出すようにしたそうです。そして、「うちはこんな工事が得意で、小回りの効くフットワークに自信がありますので、何かお困りのことがあればいつでもご一報ください。すぐに良心的な見積もりをお出しします」と添えるのだそうです。
公共工事が減り、道路カット業の仕事も減っていく中でのこの月間2件の新規開拓はすごいと思いませんか。
●「おいしい料理が時価」という愛想のない態度では、お客は近寄りがたいものです。わかりやすいメニュー表と価格表を作っておき、いつでも速やかにそれをお見せできる状態を作っておきましょう。そんな基本的なことでも、必ず成果は伴ってくるものです。
2009年09月11日(金)更新
ビジュアル化の必要性
●ある日、計画立案に関する二日間のセミナーを受講し、「計画→実行→評価(Plan→Do→Check)」という管理のサイクルだけではうまくいかない、と教えられました。
●「計画」をする前に、「ビジュアル化」というもっと大切なプロセスがあるというのです。「ビジュアル化」は、規模の大小を問わず、あらゆるプロジェクトで最初に取り組むべきであり、期待するイメージが曖昧なのに「計画」を立てても、その後のプロジェクトが頓挫しやすいということです。
●なるほど、と私は膝を打ちました。「ビジュアル化」といえば、近年、マインドマッピングなどの技法が流行しています。論理的思考に長けた左脳型人間でも、特別な練習を積むことなく作成出来るのがウケているのでしょう。最近では「マンダラチャート」という技法も人気ですが、イメージを明確にするためにこうした技法を覚えておくといいかも知れません。
●しかし、やり方を間違えると逆効果になります。ロシアの心理学者シェレシェフスキー(1892~1958)は、記憶力の問題で悩んでいたといいます。といっても、すぐに忘れてしまうのではなく、なんでも覚えてしまう記憶力のために苦しんでいたそうです。
●そこで、「少しでも多く忘れたい」といろいろな方法に挑戦し、行き着いた一つの方法が「聞いたことをそのまますべて書き写す」ことでした
●この画期的な方法によって、悩みを軽減させていたというから皮肉な話です。私たちは日々のことを書き出し、その中から優先順位づけをして行動しようとしていますが、別の視点からみると、大切なことを忘れるための方法かもしれないのです。
●最近、『ストーリービジョンが経営を変える』(酒井光雄著、日本経営合理化協会出版局刊)という本が売れていますが、従来の経営計画だけでなく、将来のイメージを明確にする取り組みがますます必要とされている現われなのかもしれません。
●「まず計画ありき」ではなく、「まずビジュアル化ありき」ということを念頭に置いて、会社運営、人生運営をしていきましょう。
2009年09月04日(金)更新
総選挙を終えて
●民意を味方につけた民主党候補者の中には、一度も街頭演説せず、選挙活動らしいこともまったくしないまま当選してしまった人がいます。しかも彼女は、選挙の二週間前までは自分が代議士の候補者になることすら予測していなかったというのですから、ちょっと民主旋風も吹きすぎたのではないかと思うほどです。
●ドラッカー教授は、真のマーケティングとは販売を不要にするものだと言いました。「顧客について十分に理解し、顧客にあった製品やサービスを作ることで、販売しなくても勝手に売れていくものだ」と説き、それこそが真のマーケティングであるとしたのです。
●民意を味方につければ、演説しなくても当選する。同様に、民意に背けば、たとえ元総理大臣であっても落選する、ということです。
●私たちはもっと民意を知りましょう。顧客が何を望んでいるのか、何に困っているのかを知る必要があるのです。
●かつて、私は経営者会報ブログで「永遠不滅の三大ニーズ」について書きました。
◇ディスカウントニーズ(安い)
◇コンビニエンスニーズ(ありがたい)
◇スペシャリティニーズ(他に比べるものがない)
の3つです。
●圧倒的なまでに顧客を味方につけるためには、通り一遍のニーズを満たすだけでは不十分です。ちょっと安い、ちょっとありがたい、ちょっとすごい程度ではだめなのです。「圧倒的に安い」、「圧倒的にありがたい」、「圧倒的にすごい」と言わせなければなりません。
●今回の選挙では、リーマンショックや、サブプライム不況と歩調をあわせてしまった麻生自民の不運もありました。ですが、オウンゴールのように不用意な失点を重ねたのも事実です。ですから、民主が勝ったというよりは、自民がこけたというべきでしょう。
●ビジネスでは、誰かがこけるのをじっと待つわけにもいきませんので、常に競合を上回るか、競合がいない所で勝負していくことになります。また、政治と違ってビジネスは、「毎日が投票日」と意識しなければなりません。民意を問い、味方につけることで時流に乗り、旋風を起こしましょう。
2009年08月21日(金)更新
悪い配パイ?
さらに、こう続けます。
「カネがない、ヒトがいない、モノがない、チャンスがないことは、事業を成功させる4大条件だと僕は思っています」と。
●ないないづくしのどこが素晴らしいのでしょうか? それは、知恵をふりしぼる以外に道がなくなるからです。経営は知恵の勝負。どうやら知恵という資産が最高の価値をもつようです。
●それを証明するかのようなある地方商店の話をご紹介しましょう。
ある程度通いなれたお客さんですら迷子になるような商店がありました。
広いから迷うのではなく、狭いのに迷うような造りなのです。
ドーム型の店内は放射線状に通路が伸び、東西南北の感覚がなくなってしまうような店舗設計になっています。先代社長が懲りすぎたようです。
売り場のセオリーでは、店内の通路は広く、売り場やトイレなどの案内表示はわかりやすくされている必要があります。ですが、この店はそれとは逆行するかのような、「ドン・キホーテ」も真っ青のワンダーランド状態なのです……。
●先代社長からこの店舗を引き継いだ現社長は、「セオリーに反した店ながら、この店が僕に与えられた配パイ(はいぱい、麻雀用語で最初に配られた手札のこと)。この配パイをもとに切り盛りして成功していこう」と腹をくくりました。金を頼りにして安易に改装する道を拒否し、知恵をふりしぼることにしたのです。
●「トイレはどこ?」、「レジは?」とたびたび聞かれることはハンデキャップだと最初は思っていましたが、この社長は、発想を変えてみたのです。お客さんから店員に話しかけてくれるということは、その内容に関わらずありがたいことだ、と。
「この通路の突き当たりを右に回って、四つめの通路手前にトイレがあります」と答えるのをやめて、店員がお客を目的地まで誘導することにしました。
●「あのぉ、トイレはどこですか?」と聞かれると、ニコッと笑って「どうぞ、こちらです」と案内するのです。それだけではありません。案内しつつ店員は、「今日も暑かったですねぇ」とか「今日は何かお探しですか?」などと自然な感じで話しかけるそうです。
店員とこうした個人的会話をすることによって、店とお客との距離がぐっと縮まるといいます。
●さらにすごいのは、雨の日が一番混み合うという驚愕の事実。
店舗が小さく、駐車場もそれほど広くないことを武器にする逆転の発想です。女性店員が駐車場に入ってきたお客さんの車まで傘をもって歩み寄る。そして、相合い傘で店内まで誘導する。お客が車に戻るときには再び相合い傘で見送る。
そのおかげでこのお店、雨の日が一番繁昌するようになりました。これも、駐車場が広大な大型店ではできないサービスです。
●カネがなくても知恵がある。
人材がいなくても知恵がある。
優れたウリモノがなくても知恵がある。
優れた立地でなくても知恵がある。
問題だらけの会社やお店でも知恵がある。
知恵を働かせるには、情熱が必要です。勝つんだ、勝てるんだ、という気力さえあれば、知恵は無尽蔵に生まれてきます。
さあ、今の配パイを武器にするような知恵を出しましょう。
2009年08月07日(金)更新
M社長の第二創業
と経営者仲間に聞かれるM社長(37歳)は、自動車部品製造を営む二代目社長。
実は、Mさんは2年前までは、まったく逆のことをよく聞かれていました。
「どうして君の会社はそんなに儲からないの?」と。
●事実、それまでMさんの会社は低収益で資金難にあえいでいました。「これが工賃仕事の宿命なのだ」となかば悟りを開きつつあったある日、Mさんに転機が訪れます。
●2年前、Mさんは中部地区に本社を構える中堅菓子メーカーの社長に出会いました。高収益で有名なこの社長に、思い切って苦しい台所事情を告白すると、やさしい言葉づかいながらも衝撃的な答えが返ってきたのです。
「そんなに苦しくて、そんなに儲からないのなら、会社経営などやめてサラリーマンになりなさい。そのほうがよっぽどみんなのためになるから。経営者をやってグチをいうなど最低の行為ですよ」
●ショックを受けたMさんは、悔しさまぎれにいろいろと質問を続けました。すると、その菓子メーカーでは、賞与や福利厚生などを考慮すれば、アルバイトであっても時間給換算で5000円相当になることがあると聞いてさらに驚きました。Mさんの会社では、幹部社員ですら時間給換算で2,400円相当と、ほぼ半額にしかなっていなかったからです。
●「儲からない会社を営むということは、社員の人生も不幸にする」と気づいたMさんは深く反省し、「きっと工賃仕事でも高収益企業が作れるはずだ」と勉強を開始しました。この2年前の決心が、Mさんと会社にとっての「第二の創業」となったのです。
●今では従業員20名、年商2億円、経常利益2,800万円をたたき出す会社になりました。「挑戦はまだ始まったばかりです」とMさんは謙遜しますが、見事な躍進ぶりです。そこで、この2年間、どのような取り組みをしたのかを尋ねてみました。
・・・
まずは私も含めた社内の意識改革です。「儲かる会社を作ろう」ということと、社員やパートさんに向かって、「きちんとした立場できちんとした仕事をしよう。そして、きちんと収入がとれるようになろう」という訴えをしました。小さい町工場でも正社員になって幹部になれば、年収1000万円プレーヤーが出ても不思議ではない、と言い続けました。そうじゃなきゃ、つまらないでしょ。
また、達成したい利益額や利益率を明確に決めました。そこから逆算して、顧客に請求したい工賃を算出。それにふさわしい仕事ぶりを社内で作り上げていきました。当然、仕事は以前にくらべて難易度が高く、特殊性のあるものに変わっていきました。
・・・
●この話を横で聞いていた年配の社長がMさんに質問をしました。
「今の資金繰りはどう? やっぱり楽になった?」
Mさんは笑顔で答えました。「ええ、努力した分だけね」
●年配社長の独り言が聞こえました。
「僕も会社を作って25年になるが、よくも漫然と経営してきたものだよ。Mさんみたいにたった2年で大変身ができるというのなら、今からでも遅くない。オレもやるよ!」
さて、この年配社長にも出来るでしょうか? その答えは神のみぞ知るのですが、鍵を握るのは当のご本人であることは言うまでもありません。
2009年07月24日(金)更新
私たちはハイポニカ
●そこで、根本から発想を変えた革命的農法として誕生したのが「ハイポニカ」と呼ばれる農法です。ハイポニカは、“土”が農業における障害の1つであると考えました。大地を媒体とする限り、植物の生産には制限があるということがわかったのです。農業は土作りにあるといわれ続けていますが、土作りはプロでも大変難しいものです。
●土には「空気を保持しにくい」とか、「根の伸長に対して抵抗になる」などの諸問題があります。そこで、ハイポニカは土ではなく水に活路を求めました。
●従来の農法と根本的に違うため、新しい生育技術を備えなければなりませんでしたが、その結果は驚くべきものでした。トマトを例にとると、従来の農法では苗一株あたり20~30個程度しか実がなりませんでしたが、ハイポニカ農法を使えば同じ種でも1万数千個の実がなるそうです。特殊なバイオテクノロジーを使ったわけでもなく、土の代わりに十分な水の中に根を張りめぐらせ、必要な養分を絶え間なく与えただけです。
●この農法を発明した野澤重雄氏のコメントが興味深いので、ご紹介しましょう。
・・・
種に良し悪しはない。大事なことは、まだ小さい苗の時に、自分はどんどん生長しても必要なものは充分与えられるんだという安心感があること。そうすれば苗は世界を信じ、疑うことなくどこまでも伸びていく。
そのような考えで植物が本来持つ潜在能力、生命力の大きさ、深さ、豊かさを引き出しただけである。自然は、我々の知識をはるかに超えた高いレベルの機能を持っているので、植物自身が信じて、選択して自分の能力を存分に発揮していく。
・・・
●もともと20~30個しかならなかったトマトが潜在能力を発揮したとたん、実が500倍も実るようになりました。ハイポニカといえばトマトが有名ですが、それ以外にゴーヤ、パプリカ、きゅうり、メロン、チンゲンサイ、小松菜、春菊などにおいても、驚くべき成果をあげています。
●ハイポニカですくすく育つ植物があるのなら、ハイポニカ的発想ですくすく人材が育つということもあり得るのではないでしょうか。野澤氏のコメントにある「自分はどんどん生長しても必要なものは充分に与えられるんだという安心感があること」を人間に適用して、栄養が足りなくなる不安を一度も抱かせずに育てるわけです。
●そこで、人間にとって「栄養が足りなくなる不安」とは何かを考えてみましょう。人間と植物の大きな違いは、自然のままに育つ植物に対して、人間は自由意思が働くことです。その自由意思のなかに誤った情報が入っていると、生育が阻害されるのではないでしょうか。誤った自由意思の例として、
1. 将来に対する不安
2. もうこれで充分だという満足感
3. 他人の意見に過敏になって迷うこと
4. 時間がないという焦りとあきらめ
・・・etc.
が挙げられます。これらは、間違いなくあなたの健全な生育を邪魔するものでしょう。
●私たちも、普通のトマトになることを拒否し、ハイポニカトマトのような豊かな会社経営、人生経営を行なおうではありませんか。
2009年07月10日(金)更新
責任感は育てるもの その2
●先日訪問したある会社には、遅刻の常習者のような人がいて、遅刻するたびに何らかの言い訳をするそうです。
●たとえば、「昨夜は遅くまで残業をやったので」とか「後輩につきあって昨夜は遅くまで飲ませてやったから」、「久しぶりに実家の親父が訪ねてきて話がはずんで」などと、毎回違う理由を言うそうです。同じ理由はまったく言わないとのことなので、彼なりに言い訳を真剣に考えてくるのでしょう。
●そこでリーダーが毅然たる態度で接すれば良いのですが、その会社の社長は穏健な人でした。朝から厳しいことを言いたくないのでウヤムヤにやりすごしてきたのですが、その結果、彼に対してだけではなく、社内全体に時間や期限を守るという規律と責任を要求するチャンスを失っていたのです。
●社長なりに心を痛めていたのでしょう。私を呼んでまっさきにその話をするということは、それが一番の頭痛のタネだったはずです。私は遅刻撲滅の要諦をその社長に授けましたが、それ以降は彼の遅刻がほとんどなくなったそうです。要するに甘やかしていただけなのです。
●さて、『現代の経営』でドラッカーは、こう述べていると前回ご紹介しました。
「働く人たちが責任を欲しようと欲しまいと関係はない。働く人たちに対しては、責任を要求しなければならない」。
●社長の方が部下に変な負い目をおってはいないでしょうか。たとえば、「うちは給料が安いから」「自分も出来ないときがあるので」「彼には普段から無理を言っているから」などの気持ちから上司が部下に責任を要求しなかったとしたら、リーダーとしての職務を放棄していることになります。自分が出来ていないのは問題ですが、部下が出来ていない場合も真剣に注意しなければなりません。
●会社全体の風土を責任感あふれるものにするにはどうすべきか。それについて、ドラッカーは以下の4つのポイントを挙げています。
1.正しい配置
2.仕事の高い基準
3.自己管理に必要な情報の提供
4.マネジメント的視点をもたせるための参画の機会提供
ドラッカーは、この4つの具体的な内容までは述べていませんので、それぞれについて私なりの解説を加えてみましょう。
●1つめの「正しい配置」について
いつ、いかなる部署や職務に人を配置するかによって、会社全体の意欲や責任感、生産性が大きく変わってきます。そのためには、最適な配置というものを絶えず考える必要があります。何が「正しい配置」なのかは、細かい組織変更や人事異動などを通じて、試行錯誤の中から見つけていくものでしょう。
●2つめの「仕事の高い基準」について
何をもって“合格の仕事”“不合格の仕事”というかは、仕事の最終成果だけでは判定できません。仕事のプロセスの中に品質があります。プロセス目標を設定し、その達成をめざして仕事の水準を進化させていきましょう。
●3つめの「自己管理に必要な情報の提供」について
人は他人によって管理されることを望まず、自己管理にゆだねられることを欲するものです。自らの仕事ぶりを管理・評価し、必要によっては自分で軌道修正できるようになるのが望ましいでしょう。そのためには、それが可能となるような情報の提供や共有ができていなければなりません。
●4つめの「マネジメント的視点をもたせるための参画の機会提供」について
働く人の意識に個人差があるのはやむを得ませんが、一段二段と、高い視点をもたせてるような取り組みが必要です。自分の仕事を、上司の視点、経営者の視点から見直すことができたとき、自らの責任を考えるようになります。部下が自ら視野を広げる機会を与えていきましょう。
●以上のように、仕事に対する責任を部下に要求するのがリーダーの仕事だということを忘れないようにしましょう。責任感とは、育てるものなのです。
2009年07月07日(火)更新
責任感は育てるもの その1
●ある日を境にAさんを見かけなくなったので、他の店員に聞いたところ、家庭の事情で退職したということでした。
●それから3か月ほど経ったころでしょうか。地元商店街の書店で、週刊誌を手にとってレジに行ったところ、前の客が買った何十冊ものコミックに一冊ずつカバーを付けてほしいと要求したようで、時間がかかっていました。私は少し急いでいたので、後ろから「あとどれくらい掛かりそうですか」と声をかけました。
●すると、店員さんは手を止めてこちらを見たのですが、その顔をみて私はドキッとしました。Aさんだったからです。でも、彼女は私のことを覚えていなかったようで、表情を変えずにすぐに下を向いて作業を続けながら「5分ぐらいはかかりますが」と言いました。
●そのとき私は、別人ではないかと思いました。なぜなら彼女は無愛想というよりも無表情で、カバー付けの作業もとても遅かったからです。幸い、前の客が私を気づかってくれたのですぐに雑誌を買うことができましたが、Aさんはそんな順番すらどちらでも良いようでした。
●マックでキビキビ・ハキハキしていたAさんは、すでにそこには居ませんでした。今でもその場面を思い出すと、いろんなことを考えてしまい胸が痛くなります。
・「家庭の事情」っていったい何だったのだろう? よほど辛いことでもあったのだろうか
・マックを辞めてこの本屋で働くということは、ひょっとしてここが実家なのだろうか
・この本屋ではやり甲斐がないのだろうか? なぜこんな無愛想になったのだろう
・それともマックではどのようにして彼女のやる気を引き出していたのだろう。
などと、考え出すとキリがありません。
●『現代の経営』でドラッカーは、「働く人たちが責任を欲しようと欲しまいと関係はない。働く人たちに対しては、責任を要求しなければならない」と述べており、続きにはこうあります。
・・・
責任は金で買うことができない。もちろん、金銭的な報奨や動機づけは重要である。しかしそれらのものは、消極的な意味をもつにすぎない。
金銭的な報奨についての不満は、マイナスの動機づけとして、仕事に対する責任感を低下させ、腐食させる。しかし金銭的な報奨についての満足は、明らかに、積極的な動機づけとして十分ではない。金銭的な報奨が動機づけとなるのは、他のあらゆる要因によって、働く人たちが責任をもつ用意ができているときだけである。
・・・
●そこで、働く人に対してどのようにして責任を持たせるのかが問題になります。次回のコラムでそのあたりを掘り下げて考えてみることにしましょう。
<次回につづく>
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ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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