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2009年04月03日(金)更新

誘惑を乗り越える

自らの才能を活かすか殺すかは、誘惑に対処する力の有無で決まります。なので、経営者は誘惑に負けるようではいけません。正しく言えば、自らを誘惑してはならないし、その誘いに乗ってはいけないのです。

●「習慣は第二の天性なり」という格言があります。英語にも“Custom is another nature.”とか、“Habit is a second nature.”といった表現があることから、この考え方は万国共通なのがわかるでしょう。

●イギリスの軍人であり政治家でもあったウェリントンは、「習慣は性質の10倍の力を備えている」という言い方をしました。習慣の力は偉大なものであり、良き習慣を身につけ、悪しき習慣を排除する力をもつことができたら、人間はたいていのことが出来るというのが真意でしょう。

●かつて、横綱・貴乃花が幕内に上がって間もないころ、「ここだな発想」を自分に言い聞かせていたと言います。これは、稽古が厳しくてついつい休みたくなったときに、「自分の殻を破るのは“ここだな”と自分に言い聞かせ、もう一番ぶつかっていく気力をふりしぼったそうです。

●やるべきときには脇目もふらずに真剣にやれる力が重要であり、それを習慣の一部にしてしまえば無敵だということです。
●吉田松陰も、異性としての女の人を一生しりぞけたそうですが、司馬遼太郎の「世に棲む日々」では、エピソードのひとつとして、次のように紹介されていました。

●ある日松陰は、書見台で四書五経を素読していました。ところがやがて若き血が鬱積し、性衝動が高じてくる自分に気づきます。(その後の彼の行動は、私から見れば常軌を逸しているのですが、)そのとき松陰は小刀で自らの股を切って血を抜き、懐紙でぬぐったあと何事もなかったかのように、読書に励んだそうです。

●常人なら誘惑に負けるか、集中力がそがれて休憩するようなところを、松陰や貴乃花は超越していったのです。これこそ習慣の力であり、第二の天性でしょう。

●また、広辞苑によれば、誘惑とは「人を迷わせて、悪い道にさそいこむこと」とあります。しかし、人を誘うばかりが誘惑ではありません。私などは自分が自分の誘いに乗ってしまうことがあります。たとえば、

・気分転換といいつつも、ネットゲームに熱中して3時間を浪費
・ちょっと昼寝のつもりが、4時間爆睡
・帰り道に軽く一杯、といいつつも、帰宅したときは酔っぱらい

などです。

●このようなことがあるからこそ、「人間くささ」があっていいのかもしれませんが、誘惑に負ける人はほぼ確実に「人間くささ」を言い訳にするので、注意したいところです

●さらに、別の視点からみてみましょう。遠藤周作はこのように言っています。

「情熱を持続するには危険が必要なんだ。恋愛の情熱がさめるのは安定した時であるのと同じように、人生の情熱が色あせるのも危険が失せた時だよ。革命はまだ危険という油を俺達の情熱にそそいでくれる」

情熱的であるためには、絶えずある程度の危険や革命という要素が必要ということでしょう。

これらの情報を総合すると、つぎの三つの法則が生まれます。

・情熱の不足が誘惑を招く
・危険(リスク)と魅力ある仕事が、誘惑からあなたを遠ざける
・危険と情熱は正比例し、情熱と誘惑は反比例する


ではまた次号で。

2009年03月27日(金)更新

わたしはあなたの味方です

●私は出張が多いので、カバンにこだわりがあります。そのため、カバンの専門店やデパートのカバン売り場に立ち寄ることが多いのですが、いつも「買う所はAカバン店」と決めていました

●Aカバン店の店員では、30歳前後のY子さんをひいきにしていました。出張や旅行先でカバンがどのように使われるのかを熟知しているだけではなく、カバンの歴史からブランドの比較、商品知識から接客態度など、すべてに及第点がつけられる接客をしてくれるからです

●ところが、数年前のある「事件」をきっかけに、私はその後A店には一度も行かなくなりました。

●ある年の瀬のことです。私はいつものようにA店で出張用につかうS社製のキャスターバッグを買いました。気に入って使っていたのですが、購入して4か月後に、カバンを引っ張って歩くための取っ手部分が上に持ちあがらないというトラブルが起きました。

●さっそくA店に出向き、修理を依頼しました。Y子さんはその日お休みだったので、彼女の上司に事情を説明したのですが

「まだ4か月しか経っていないし、週に1回程度の出張でごく普通に使用していた。それが急にこんな具合になってしまったので、早急に直してほしい」という私の希望に対し、
「メーカーに修理に出しますので、1か月ほどお時間がかかる場合があります。また、修理費用が発生する場合は、お見積もりを電話にてご連絡します」という対応でした。
●「費用が発生する場合がある」という説明に多少の違和感をおぼえましたが、とにもかくにも今のままでは使えませんので修理を依頼し、その日から私は古いバッグを出張に使っていました。

●40日ぐらいたってから、Y子さんから電話がありました。

「遅くなりましたが、カバンの修理が完了しました。いつでも良いのでご都合のよい時に受け取りに来て下さい」ということでしたので、翌日A店に出向き、Y子さんからカバンを受け取りました。

●受け取るとき、Y子さんはこう言いました。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。フレーム部分がかなり歪んでいたようです。フレームの強度を超える荷重があったのだと思われます。メーカーの方でフレーム交換しましたが、お客様ご負担金として5,000円の請求があがってきました。まことに申し訳ありませんが、パーツ交換分のご負担をお願いします」と言われました。

●使って4か月目に壊れたカバンの修理に40日以上かかり、かつ修理代金として5,000円を負担してほしいという説明に私は納得がいかなかったので、「それはおかしいと思います。むしろ不良品に近いものだと私は思います。実費負担どころか、メーカーからお詫びをされるぐらいの話だと思っています。負担金を払えというのは、Y子さんからみてどう思いますか?」

●Y子さんのその後の説明は、これまで私のことを熟知してくれていた人が、向こう側に行ってしまったと思わせるようなものでした。メーカーのS社の立場を代弁するような説明を始めたからです。

「お客様、メーカーの方でもこのケースは異例なことだと驚いていました。例えば、取っ手を上に出した状態でカバンを長時間持ちあげ続けるとこのようになる場合があるそうですが、それ以外ではちょっと考えられないという話をしていました」

私がY子さんに期待したのは、メーカーの釈明ではありません。ましてや私の使用法に疑いの念をもつような発言はしてほしくありませんでした。極端に言うと、こんな発言を期待していたのです。

「武沢さん、もちろん私はあなたの味方です。40日も待たせた上に実費負担だなんて、ひどい話だと思います。もう少し私にお時間をくださいませんか。武沢さんはうちのお得意様ですから、メーカーか店長にかけあってみます。もし万一、それでもダメな時は私がその実費分をお支払いしますよ。とにかく、この大切なおカバンは今日お持ち帰りになって、さっそくお使いください」

Y子さんがもしそう言ってくれたら、私は大感激してその場で5,000円払って帰宅したことでしょう。なぜなら、Y子さんに余分な心配をかけさせたくないからです。

言葉の裏にあるスタンス(立ち位置)がどこにあるのか、顧客はそれを敏感に感じているのです

2009年03月19日(木)更新

挑戦者の顔つき

●読売ジャイアンツにいた頃と、ニューヨーク・ヤンキースに行ってからの松井秀喜選手の表情を比較してみると、後者の方が断然引き締まっていい表情になったように思います。それは、巨人時代の「花形選手」であった状態と、ヤンキースに行って「一人のチャレンジャー」となった状態の違いからきているのではないでしょうか

●かつて「文藝春秋」に松井選手の父親が手記を投稿したことがあります。それによると「『メジャーの方が楽だよ』と松井選手が言っている」とのことでした。といっても、野球の質やレベルが楽なのではなく、野球をする環境の話です。メジャーの方が野球に集中できるとのことでした。

●たとえば、メジャーは移動が大変で、試合が終わるとすぐに飛行機に乗って、遠征先のホテルには深夜に到着します。移動時間の長さやホテル住まいのわずらわしさは日本の比ではないでしょう。しかし、そういった環境だからこそ野球に集中できるらしいのです。

●また、日本と違って

・試合後の夜の付き合いがない(これは出来ないというべきか)
 ⇒酒もタバコもやらない選手が多く、わずらわしい付き合いがない。
  そもそも、お互いにそんな時間がない。

・試合後の移動は大変だが、飛行機横付けでバスが来る。
 ⇒それに乗れば自動的にホテルへ行ける。次の日は昼までぐっすり眠れる。

・日本に比べ、練習量が少ない

●精神的には、日本にいたときよりもハードでプレッシャーがかかる毎日のはずです。メジャー選手といえども、来年も在籍しているチームでプレイできる確信を持っている選手は少数派だと聞きます。強烈なライバルがチームの中に何人もいるなかで、メジャーリーガーとしての生き残りをかけているからこそ、毎日が真剣勝負となります。それが、野球好きにとってこの上なくありがたい環境なのでしょう。

●勝つか負けるかわからない勝負に挑戦しつづけ、それに勝った経験をすると、人は顔つきが変わります。私たちも一人のチャレンジャーとして良い顔になり、勝負に勝ってさらに良い顔になりましょう

2009年03月06日(金)更新

赤と青の情熱

●「革命を成就させるには三つのタイプの人材が揃う必要がある」と司馬遼太郎が言っています。彼のいう三つのタイプの人材とは
・思想家
・戦略家
・実務家や技術者
だそうです。

●たしかに司馬の指摘には一理あると思います。たとえば、明治維新をみても、吉田松陰を始めさまざまな「思想家」たちが徳川幕府の脆弱性や矛盾を指摘し、若者を鼓舞しました。
“徳川体制はおかしいんだ、天皇を担いで幕府を倒そう”
という機運を作ったのはそうした「思想家」たちです。

●次に「戦略家」が現れました。
高杉晋作や坂本龍馬、西郷隆盛など行動力に富んだ若者が思想を実現するための具体策を考案し、戦略的に動きました。その結果、山が動くのです。

●最後に、革命の総仕上げをしたのが「実務家」や「技術者」たちです。例えば、大久保利通や大村益次郎、伊藤博文、井上馨などいわゆる明治の元勲とよばれる人たちがそれです。

●企業にもこの三つのタイプの人材が揃っているのが理想でしょう。しかし、中小零細規模の場合には、そんなに揃っていることがまれなので、社長が一人で三役こなす必要があるのかもしれません
●先日、メルマガ読者から達筆なお手紙を頂戴しました。その最後にこんな一文がありました。

「武沢さんのメルマガを拝読していると、武沢さんという人が大変熱くて赤々とした、まるで溶岩のように思える」と書かれていました。
私が書いた文章からそのような印象を感じ取られたそうですが、実は私はまったくその正反対のタイプだと思います。

●どちらかというと控えめなタイプで、自分の考えを話すよりだまって聞いている方が好きです。人前で話すことは苦手だと言った方がよいでしょう。
経営者会報ブログのオフ会にも二度参加していますが、そのたびに「話すことだけはご勘弁を」と幹事さんに念を押して参加しているほどです。

したがって私は、“赤々”としているのではなく、むしろ“青々”としていると言ったほうが近いでしょう。

私は情熱には赤色と青色があると思っています

人の心に火を付け、いるだけで周囲が熱くなる赤色タイプが先に申し上げた「思想家」や「戦略家」の特徴でしょう。革命の総仕上げをするのに必要な「実務家」や「技術者」は青色タイプが多いように思いますが、その分け方が適切かどうかはわかりません。

●要するに、情熱には「赤」と「青」があるということをお伝えするのが今日のコラムの主旨です。熱さが言葉や態度に出る人と出ない人がいるということと、その両方が組織の中に必要だということです

赤と青の情熱、ともに大切にしていきましょう。

2009年02月27日(金)更新

エグゼクティブとは

●下位打線にも福留選手や岩村選手などの現役メジャーリーガーを擁する侍ジャパンに、期待が集まっています。なによりWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)連覇が期待されていますが、北京五輪で苦い思いもしているだけに、期待と不安が入りまじった気持ちです。

●テレビのキャスターは「こんな豪華なメンバーを預かればオレが監督でも勝てるよ」と言ってましたが、本当にそうでしょうか。私は、こんなチームだからこそ相応の力量がある監督でないと務まらないと思うのです。ある意味、監督勝負の大会ともいえるのではないでしょうか。

●監督は会社でいうところの社長です。社長のことを英語では「ボス(Boss)」といいますが、「エグゼクティブ(executive)」ともいわれます。エグゼクティブは一般に「重役、取締役、経営幹部」などと訳されますが、語源は「エグゼキューション(execution)」という単語だそうです。

●この単語は「処刑、死刑執行、強制執行、破壊行為」などと、強制力を行使するという意味をもちます。このことから、なにがあっても独りで決断し、断固として実行する(あるいはやめさせる)力が求められていると理解すべきでしょう
●もちろん、試合によっては監督がいらないような展開になる場合もあるでしょうが、舞台裏でも監督業は大変でしょう。現に、全日本で不動の四番だった松中選手や、国際経験豊富な和田投手を最後になって外した決断に対し、楽天の野村監督やスポーツキャスターの一部から批判の声があがっています。

●どのような布陣にしたところで、批判はつきものです。外部の批判を封じるには、前回の王ジャパンのように優勝するしかないのです

●また、「オレが監督なんだ」と言わんばかりにリーダーの権力を振りかざすだけでは、メンバーがついてこなくなります。メンバーと目標や価値観を共有し、勝つための方策や役割分担について綿密に話しあっておく必要があるでしょう。ときにはけが人が出たり、主力が不振に陥るなど、予期せぬことも起こると思います。しかし、エグゼクティブには、たとえそうなっても勝つことが義務づけられているのです

●もし、監督が「勝て」とか「ホームランを打て」というサインしか出せなかったら、即刻クビになるでしょう。同様に、「目標を達成しろ」「何やってるんだお前は」としか言えないのも大問題です。攻撃と防御、それぞれの場面で一球ごとにサインを送る監督。人間ドラマを観るようで、いまからワクワクしてきます。

がんばれ! 侍ジャパン。

2009年02月20日(金)更新

雇用を守りたいのはやまやまだが その2

<前号の続き>


●派遣切りによって失業した人たちは、たしかにお気の毒だと思います。財布の中に50円しかないとか、おにぎりをもらって人の優しさに涙が出た、というような報道は、お涙ちょうだい話のネタとしては格好の題材でしょう。

●しかし、そうなった責任は派遣契約を解除した企業のせいではありません。前回も書いたとおり、企業は最初に結んだ契約にしたがって動いているだけです。失業して収入が途絶えたことの責任は誰か、それは半分以上が本人自身にあると私は思います。決して彼らを一方的な被害者扱いにしてはなりません。それが自由主義であり市場の原理なのですから。

●同時に、失業した彼らが今まで働いてきた勤務先の経営者にも責任の一端があります。いままでの勤務先が社員教育をきちんとやってくれる経営者であったならば、どこにも行き先がないという社員を作ることはなかったはずです。ですから、社員教育に力を入れるということは将来の失業者を作らないための貢献であることを、経営者は自覚しましょう

●ところで、新聞やテレビを見ていると識者たちが「派遣切りの次は正社員切りだ。経営者は何があっても雇用を守れ!」などと語っていますが、第三者に言われるまでもなく、(特に中小企業の)経営者は雇用を守ることの責任を大変強く感じています。「いままで一緒にやってきた社員をクビにすることほど辛くて嫌なことはない」と、どの経営者も言っているのです。

●しかし、現実問題として「雇用を守っていたら、企業が守れない」という会社もたくさんあります。そんな会社に対しては、私は「勇気をもって、雇用よりも企業を守ってほしい」と申し上げています。もちろん、どさくさまぎれの安易な解雇は許されないので、ギリギリまで粘らなくてはなりません。そこで、順序としてやるべきことについて、解説しましょう。
1.助成金や緊急融資制度の勉強

雇用を守るために必死になってがんばっている会社には助成金が出ます。あなたの会社も該当するのかどうかも含めて、厚労省のホームページで調べるか、社労士さんに相談してみましょう。

*参考* 厚生労働省「事業主の方への給付金のご案内」
 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/index.html

同様に、国からの緊急制度融資もスタートしています。「うちはもう借金はできない」と決め込むのではなく、銀行や公庫などの金融機関に相談して、制度融資が受けられるよう努力しましょう。


2.役員報酬のカット

責任をまっさきに負うべきは経営陣です。業績が悪い会社はすぐにでも、社長の報酬を生活できるぎりぎりのラインまで大幅カットしましょう。他の役員の報酬も同様に、社長の減額幅に準じてカットしましょう。


3.正社員やパートアルバイトのボーナス支給ストップまたは大幅カット

夏の賞与、冬の賞与がゼロ円、またはゼロ程度のものになる見通しを今から発表しておきましょう。春の定期昇給についても同様です。ベアゼロまたは減給も検討すべきかもしれません。ただし、業績目標の達成状況に応じて、昨年並みあるいは昨年以上に支払うことも可能であることを、同時に示しておきましょう。


4.給与や時間給、手当などの削減

賞与の次に給与カットも検討しましょう。辛いことですが、雇用を守るためには正社員やパートアルバイトの給与カットを避けて通れない会社も多いはずです。また、残業が恒常化している会社は定時で仕事を終える体制に切り替え、残業代を払わずに済むようにしましょう。仕事が少ない場合は、早退や半日勤務、自宅待機などを組み合わせて、勤務時間を減らすことで給料を下げましょう。いわゆるワークシェアリングです。

あとは技術的な話ですが、必要によっては賃金体系を見直し、モデル賃金のベースを下げるか、本人の資格等級を下げましょう。こうした作業は雇用契約の変更でもあり、法律面も充分に押さえるべきなので、社労士などの専門家と相談しながら行なうほうがよいでしょう。


5.最終手段としての人員削減--部門、営業所の閉鎖とそれに伴う解雇

それでも業績改善が不十分なのであれば、そこではじめて社員を解雇します。とは言え、かねてから問題のあった社員を、「ここぞ」とばかりにどさくさに紛れて解雇するのは不当解雇になりかねませんので、企業の現状を鑑みたうえで、一部の部門や営業所、店舗などを丸ごと閉鎖し、該当者を全員解雇します。その後に、問題社員を除いた一部の人を再雇用するスタイルがよいでしょう。

実際に辞めさせたいような問題社員がいる場合は、企業業績に関係なく解雇すべきなので、それはそちらのルートでやるべきです。


●以上が雇用に手をつける際の手順です。いつ着手を始め、どの程度の早さで実行するかはあなたの判断です。ただし、こうした非常時において認識しておかねばならないのは、「混乱によって今月の業績が悪くなったことは社長の責任とはいえないが、半年後の業績は100%社長の責任である」ということです。社長の責任を自覚し、やるべきことを粛々とやっていきましょう。

2009年02月13日(金)更新

雇用を守りたいのはやまやまだが その1

●先日、日産自動車は「最悪のシナリオが現実のものとなっている」として、業績見通しの大幅下方修正と2万人の人員削減を発表しました。その発言に対し、株式市場は比較的冷静な受け止め方をしており、同社の株価は上昇さえしています。

●「2万人削減」の内訳は、1.2万人が国内、残り8千人が国外だそうです。しかし、希望退職の募集や工場閉鎖などによるドラスティックなリストラではなく、新規採用の抑制と定年退職や通常退職などの自然減だけで、その程度の人員削減が可能ということでした。ひとまず、動的な人員削減により、失業者が一気に増えるというものではないようなので、一安心ではあります。

●「失業者」といえば、昨年より「派遣切り」が問題になっています。テレビや新聞では、派遣社員を切った企業が悪者で、切られて失業した人たちが被害者という図式で報道されていますが、本当にそんな単純な構図なのでしょうか? 派遣契約を解除した企業が、一方的に悪いわけではないと思うのです。

●企業側としては、契約通りに動いているに過ぎません。また、仮に契約を一方的に反故にする場合でも、違約金などを支払っています。派遣社員だけが一方的に被害を受けているように報じているマスコミの姿勢がおかしいことは、大多数の国民も気がついているはずですが、それを識者や評論家たちが誰も指摘しないのはどうしたことでしょう。
●失業することになった責任の半分(以上)は自己責任です。「自分株式会社」の社長として自分のマネジメントに失敗した結果ともいえるでしょう。もちろん、仕事やお金がないという辛さは大変気の毒だし、保護してあげるべきだとは思います。しかし、そうなった責任を周囲に押しつけることはできません。それを否定することは、自由主義、資本主義の否定につながります。

●残念ながら失業した人たちは、新しい知識や技術を習得したうえで、介護や通信技術のような有効求人倍率の高い分野に自分を売り込むべきです。行政や民間団体は、たんにお金を与えて保護するのではなく、彼らの転職を可能にするための教育訓練や、人生目標の設定支援などで彼らの自立を促すべきでしょう

●では、「失業の半分(以上)は自己責任」だとしたら、残り半分は誰の責任でしょうか。それは、派遣社員になる前に正社員として勤務していたならばその会社の社長、新卒で派遣労働者になった若者の場合は、親や学校の先生ではないでしょうか。

社員教育や人生教育をきちんとやれば、失業してどこにも行き先がないという社員を作ることはなかったはずなのです

<次回に続く>

2009年02月02日(月)更新

K君が学んだこと

●K君のアルバイト先である、ディズニーランドにて

上司
「Kさん、長い間の勤務ご苦労様でした。書類に記入すべきことはすべて私が書いておきましたので、あとはあなたの署名が必要です。ここにサインをお願いします」
K君
「えっ? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。これって退職届じゃないですか」
上司
「そうですよ?」
K君
「何回も遅刻したのは申し訳ないと思ってます。でも、僕はやめるつもりなんかないです。もう遅刻しませんから許して下さい
上司
「Kさん、今日で何度目ですか? 遅刻は雇用契約違反になるということをご存知ですよね。自分から契約を破っておいて、いまさら『やめるつもりはない』なんて言えますか?」
K君
「……」

●これまでK君は、「自分は“単なる”バイトであり、正社員ではないので気軽な身分なんだ」と思っていた。事実、彼はディズニーランド以外に、近所のガソリンスタンドで働いており、そこでは「すいません、今日ちょっと体調悪いんで休ませてもらいます」と電話すれば、あっさり許可をもらえた。極端にいうと、ウソやごまかしでも通用した。

●今回の遅刻も、徹夜で遊んでて寝過ごしたのが理由だった。心のどこかでは、ディズニーランドでの仕事も、スタンドと同じ「“単なるバイト”のやること」と高をくくっていが、ここでは通用しなかった。
●上司はスタッフのしつけに普段から厳しく、彼自身も「おいK! おまえなぁ…」と何度となく叱られた。だが、この日は「Kさん」と呼び、それを聞いた瞬間、彼は「あっ、敬語だ。自分は大好きなこの上司に見放されようとしている。もしそうなれば、この先僕はどうなってしまうのだろう」と思った。

自分を一人前の社会人とするべくここまで育ててくれたのは、その上司のおかげだった。「この人に見放されたくない」と思うと涙が自然とこみあげ、土下座して上司に謝った。そして、二度と同じことをしないと心に誓った。

●すると、「おまえなぁ、いいかげんにしろよ」と上司の口調が普段に戻り、彼は「やった、助かった」と歓喜すると同時に、社会人として大切なことを学んだ。

その一件以来、私生活を自分でコントロールするようになった。それは社会人として当たり前のことではあるが、この時のできごとが彼自身にプロの自覚をもたらしたのだ。

●翌年、K君はディズニーランドの年間最優秀スタッフに選ばれ、シンデレラ城の前で全スタッフから喝采を浴びた。そのとき、彼とその上司の胸に去来したものは何だったのだろうか。

2009年01月16日(金)更新

仕様をくれ

●「日本のIT技術者は諸外国にくらべて向上心が乏しい」

こう嘆くのは、他国の技術者を使ってソフト開発のビジネスを展開し、帰国子女でもあるI社長。Iさん自身、技術解説書を書いているくらいの人なので、人並み以上にそう感じているのでしょう。

●「サラリーマン根性丸出しの技術者は論外として、独立志向の強い人であっても“そこそこの状態”というレベルで停滞している人が多く、さらに上を目指そうというエネルギーが不足しています。これは大手企業の技術者でもベンチャーの技術者でも、さほど変わりません」とIさんは続けます。

●私はそれを聞きながら頭のなかでは、「これは技術だけの問題ではないぞ。営業でも経理でもマネジメントでも、みんな同じかもしれない」と思っていました。

その道のプロとして専門性を高めることを怠ってはいけないのは、どの分野でも同じです。でも、「専門バカ」になることなく、コミュニケーションや企画立案などのビジネスセンスを同時に磨いていくこともまた、重要ではないでしょうか。技術者だから技術だけを深める、と考えていてはすぐに行き詰まります。
●聞いた話では、二流以下のソフトウエア開発技術者がよく言う共通のセリフがあるそうです。それは

「仕様をくれ」

だそうです。

●例えばサイト構築の案件で、プロジェクトの会議でも頭のなかは仕様のことしかなく、サイトを面白くするためのアイデアが出ない。これでは技術者ではなく職人というべきでしょう。プロジェクト会議で出てくる他のアイデアに対しても、「私が気になるのは仕様だけなんです」という雰囲気が言葉の端々にあらわれたりします。そんな技術者をみたら言ってやりましょう。

「君はしようがないな」と。

技術はあくまでも手段であって、決して目的ではありません。顧客は技術を買っているのではなく、それを通して自分(自社)が得られる利益を買っているのです。使い古された言葉ですが、「ソリューション(問題解決)を求めている」と言い換えることもできるでしょう。

●技術がわかる営業マン、あるいは営業ができる技術者のことをセールスエンジニアと言いますが、あなたの会社には、どれだけのセールスエンジニアを抱えているでしょうか? そのような人材は、育成には時間がかかりますが、時間をかけてでも育成に値する価値があります。

●ここでひとつたとえ話をしましょう。あなたはハンバーガーショップに行き、ダブルチーズバーガーとコーラセットのLサイズを注文したとします。

●ところが店員が、「まことに申し上げにくいのですが、お客様の体型からみて、かなりの体脂肪が付いていらっしゃるご様子。将来のことを考えて、フィレオフィッシュにウーロン茶をお勧めいたしますが、いかがでしょうか?」と言われたらきっと不愉快な気持ちになるでしょう。ここに「ソリューション」のヒントがあるような気がします。

●ハンバーガーショップの店員に期待されているのは、顧客の注文通りに迅速かつ気持ちよく仕事をすることであり、そうした仕事ぶりにこそ価値があるのです。それ以上でもそれ以下でもありません。

●では、IT技術者はどうあるべきなのでしょうか? ハンバーガーショップの店員とは明らかに違い、顧客のリクエストを正確に理解するだけでなく、その真意や奥にある価値観、理念なども理解しようとする姿勢が大切なのです。時には、それらを見抜いたうえで顧客のリクエストとは異なる代案を提示し、意見を闘わせる場面も必要かもしれません。

●ちなみに以下は、ある会社と共同で作った技術社員のソリューション表です。その会社では、ある時期、この表を評価表に転用していました。

◆レベル1.「技術フェチ」
 関心の対象は自分の技術や知識である。それが使えない状況が続くと、
 ストレスがたまり、顧客や会社の悪口を言い始める。仕事で良い結果が
 出なかったときにも、自分を省みず周囲を非難する。

◆レベル2.「忠実なしもべ」
 言われたことを正確に実行するという意味で、ハンバーガーショップの
 店員と同じ。技術の確かさを証明するのが喜びであって、顧客の要望する
 結果が出たかどうかは興味がない。
 それは顧客側の問題であって自分には関係がないと思っている。

◆レベル3.「コミュニケーター」
 関心の対象は“顧客”の成功である。“顧客の期待”を明確に知るために
 コミュニケーションをとる。顧客の要求を実現するためには、
 どうすべきかを技術問題はいったん後回しにして考える。

◆レベル4.「伝道師」
 顧客が成功するためであれば、いかなる対応もしてみせる覚悟がある。
 顧客の要望を鵜呑みにするだけでなく、代案を提出したり、アイデアを
 練り上げる段階から献身的になることができる。

●「仕様をくれ」という人はレベル1か2の人なのです。「仕様をくれ」ではなく、「何がお望みですか?」と質問できるレベル3・4の人を育てていきましょう

2008年12月26日(金)更新

10年後に成功する

●「恐慌前夜」とも「恐慌突入」ともいわれる昨今の世界経済。世界の国々、世界中の産業が同時かつ一気に悪くなるという経験は過去に記憶がありません。どこまで悪くなるのか、いつまできびしい状況が続くのか皆目検討がつかない情勢です。

しかし、今後どうなるのかわからないからこそ、社長は考えなければなりません。具体的には、緊急避難策として半年~1年間は効果が期待できる対策、そして、景気がもう一段悪くなり売上が2割や3割、さらに半減することも視野に入れた対策など、シナリオを何パターンも用意しておくのです。

また、景気の底を抜けた先の状態も想像しておきましょう。5年後や10年後を見越した抜本的な成長戦略を作っておくのです。5年後、あなたの会社が今とまったく別の姿になっているかも知れません。それは異業種に参入するという意味だけではなく、何かの分野においてトップシェア、オンリーワン企業になっていることだってあり得るという意味です。

●ビールを例にとって考えてみましょう。

「ビールはキリンとアサヒ、エビスとございますが」
「えっと、僕はキリン」「私はアサヒ」「じゃぁ俺はエビス」

レストランや居酒屋で上記のように複数のメーカーのビールが飲めることは、今では当然のことです。しかし、はるか昔に「ビールは『キリンラガー』」とほぼ決まっていた時期がありました。
●キリンラガーは1888年の発売以来、国民的ビールと称されており、私が社会人になりたてだった昭和50年代前半のシェアは63.8%にまで達していました。今でも、酒問屋や酒販店の経営者は、当時の様子を次のように語っています。

「とにかくキリンさんの営業マンと仲良くすることが大切な経営課題だった。彼らの機嫌を損ねると、ドル箱のビール(=キリンラガー)が入荷しなくなる。そうなると店はお手上げだから、キリンの営業マンをこちらが接待することも珍しくなかった」

それほどまでにキリン王国は盤石だったのです。

●一方、そのころのアサヒビールは、シェアが9.6%にまで落ち込んでいました。個人が積極的にアサヒを選択することなど滅多になく、後発のサントリーにまでシェアを抜かれかねない危機的状況で、当時は「夕日ビール」と陰口をたたかれるほどでした。

●しかし、そこからビールのような成熟製品の市場では珍しいほどの大逆転ゲームが始まったのです。アサヒの逆転ドラマの舞台裏については多くの書籍が出ているのでそちらにゆだねますが、ここでは、アサヒがとった二つのユニークな取り組みをみてみましょう。

1.10年後に喜ばれるビールの味を研究したこと
2.味と鮮度の関係を数値で調べあげ、工場在庫20日間を5日間に短縮したこと

●一方的に負けている「キリン」に対し、10年後に勝つにはどうしたら良いかを考えました。つまり、今すぐ追い上げを狙うのではなく、10年後の市場や顧客の先取りを狙ったのです

●そこでアサヒでは、小学生を対象とした味覚調査を実施しました。当時の小学生が10年後にビールを選ぶ若者になるからです。もちろん、小学生にビールを飲ませるわけにはいきませんので、調査にあたっては給食の味の傾向を調べたり街頭で聞き込み調査をすることで、おいしい味のキーワード探しに着手しました。

●その結果、成功しているキリンが「苦み」で押してきているのに対し、次世代は、「薄目でありながら『キレ』と『コク』がある」味を好むことがわかったのです。

「いけるぞ! 10年後は、今と味の好みが違う。キリンはそれに気づいていないに違いない。開発の方向性は決まった。軽めでありながら『キレ』と『コク』を求めよう」

アサヒはそう考えました。

●それからも膨大で地道な作業が続きました。世界中のホップを集め、新製品にふさわしいものを選びだす。味に「キレ」と「コク」を出すためには、どうすべきか。アルコール度はどうすべきか。すべてに答えを見つけてゆく作業です。

●また、味と鮮度は切り離せない関係にあることにも着目しました。私にも「プハァー、旨い。このビール最高っ!」と思うときと、「おや、今日はビールがまずいなぁ。体調が悪いのかなあ」と思うときがあります。もちろん、飲んだ本人の体調や気分、天候などによるところが大きいのですが、実は鮮度が味の分かれ目になっていることも多いのです。

●ビールの工場在庫日数を1日短縮することで、20日以内に消費される量が15%増加するという調査結果もでました。そこでアサヒでは、かつてビールの社内(工場内)在庫が約20日分あったものを、わずか5日以内に短縮する取り組みを実行したのです。

●こうして業界トップシェアだった「巨人・キリン」に対するためのアサヒの改革は成功しました。今すぐ勝とうとするのではなく、10年後に勝てば良いと考えたからこそ、腰をすえた改革ができたのです

そもそも企業の「戦略」とは、今期・来期ばかりに目を向けるのではなく、10年後、20年後を見据えたものも必要です。きびしい経営環境に直面している今は、そうした腰をすえた戦略に着手する絶好機でもあるのです
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ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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