武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
2008年06月06日(金)更新
才能とは何か?
1. 成功するためには、ハンサム・美人でなければならない
2. 成功するには、身長が高いほどよい
3. 成功は、「学歴×コネ」の値に正比例する
4. 成功者とは、才能に恵まれた人たちのことだ
●きっと多くの方が、1~3については「NO」と答えるでしょう。私も同じ意見です。では、4はどうでしょうか? 才能は必要ですが、まず、「才能とは何か」、「どのようにそれを得ることができるか」という点を明確にしておかなければ、「YES」か「NO」か、答えることは難しいかもしれません。
●私の友人・田中得夫さんが発行するメールマガジン「成功への道しるべ」に、次のような逸話が紹介されていました。おもしろかったので、引用させていただきましょう。
・・・
随分以前に、米国の雑誌に出ていた記事ですが、中南米のエクアドルでのことです。中風で完全に動けなくなった患者ばかりが入院している病室に、ニシキヘビのような大蛇が入ってきたというのです。さて、動けない患者たちはどのように反応したでしょうか。
1. 動けないので大声を出して助けを求めた。
2. 声をひそめて大蛇がどこかへ行ってしまうのをじっと待った。
正解は、そのいずれでもありません。何と、「全員ベッドから飛び降り、病室から逃げ出した」というのです。
生命が危機に瀕するようなできごとに遭遇して、潜在能力がつかわれたのです。普段は完全に動けない患者なのに、大蛇の前では動くことができたのです。その潜在能力のことを別名「第二の力」と言いますが、「第一の力」すなわち通常の能力を使い切ったあとになってようやく引き出されてくる能力です。
・・・
なるほど、私も思い当たることがあります。
●あるときの私は、早朝4時にバチッと目が覚め、日の出前に「がんばれ社長!」を書き始めます。午前7時には書き終え、家族が起きてきたらそろって朝食。シャワーを浴び、歩いて1時間かけてオフィスに出社。一日平均15,000歩あるきます。日中は精力的に働き、帰宅前にはジムで汗を流します。夕食と家族団らんのあと、就寝前には、何より楽しみな読書タイム。朝から晩まで、目標に意識が集中し、心地よい緊張感とあふれる充実感でぐっすり熟睡しているので疲れをまったく知りません。自然に人にも優しくなれます。
●一方、別の私は、やる気がなく、昼近くに目覚めます。すでに遅刻しているのであわててタクシーに飛び乗ります。出社後はすぐにランチ。オフィスにもどると、しばしネットサーフィン。眠気が襲ってくるのでしばし昼寝。昼寝が終わると、メールチェックを済ませ、数時間かけてメルマガを発行。もうそれだけでグッタリし、仕事を終えます。午後6時になると友人をさそって酒を飲みにネオン街へ。たらふく食べて飲んで騒いで、家にもどるのは午前様。翌朝はまた寝坊します。
●さて、この「二人の武沢信行」は、まぎれもなく同一人物です。決して、そっくりさんではありません。この差は、意識と習慣の違いですが、それが続くと決定的な「才能」格差を生み出します。
●才能とは何か? それは、自らの中に眠る潜在能力を引き出す能力のことです。顕在的な能力(第一の力)を出し切った人だけが開くことができる「ハッチ」の向こうに、今までまったく気づかなかった、無尽蔵に湧き出るパワー源(第二の力)があるのです。そのパワーを活用できること――それが、才能なのです。
●疲れたと思ったらもっと働く。眠いと思ったらもっと働く。帰ろうと思ったらもう一仕事。特に若いうちにそうした仕事をしてきた人は、潜在能力が顕在化していくのです。潜在能力を味方につけるためにも、顕在能力を使い切る必要があるのです。だから、「もう一番」「もう一丁」の精神が大切だと思うのです。
2008年05月23日(金)更新
わかりやすいところから入る
・・・
その日、ホテルのボーイたちは見事な手際のよさで1,000台近い車を駐車させていた。身だしなみもこぎれいで、びっくりするほど丁重で、文字通り車の前後を走り回っていた。実に見事なショーだった。
そこで私はスピーチのなかでこの点に触れ、「マリオットに敬礼!」と言った。聴衆の間から盛大な拍手が起こったことからみて、ほかの人たちもあの素晴らしいショーを堪能していたようだった。
・・・
●マリオットのボーイさんたちは駐車の訓練も受けているのか……。 と思われた方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。駐車場で活躍していたのは、「プロフェッショナル・パーキング・サービス社」の駐車場誘導を専業とするプロ集団だったのです。ホテルのマネージャーであろうと、誰であろうと、彼らに勝る情熱で駐車誘導をする人間は他にいません。
●この会社は、プロの駐車場誘導スタッフを派遣するというニッチな分野に生死をかけているのです。そして、スタッフも、あたかもビル・ゲイツが次世代パソコンソフトの開発に情熱を注いだのと同じように、駐車場誘導に情熱を注いでいるのです。ちなみに、聴衆の中には創立者のパリスカもいたそうです。
●そういえば昔、ある町で一番繁盛しているというラーメン屋に案内されたことがありました。車でそのお店へ行ったのですが、駐車場のスペースが3台分しかなく、大混雑。近所に路駐もできず、結局お店に近づくこともできませんでした。かつおダシがよく効いた醤油ラーメンのスープが絶品だと聞き、お腹も減っていたのですが、その日は仕方なく断念しました。もし、このラーメン屋さんが、プロフェッショナル社と契約していたら、もっと売上を伸ばすことができたかもしれませんね。
●さて、本題に戻りましょう。プロフェッショナル社の仕事ですが、実は駐車場誘導だけで終わりではなかったのです。マーケティング戦略はしたたかなもので、その深慮遠謀は、凄みすら感じます。
●まず「駐車誘導」というニッチでわかりやすい分野で「マリオット」や「ヒルトン」などの大手ホテルと契約し、信用を得ます。そして、絶大な信頼を得ながら次のステップで、ホテルのフロント業務全体を請け負うというやり方なのです。
●なるほど、そうだったのか! これぞまさしく「わかりやすいところから入り、わかりにくい所で勝負する」という戦略です。もし最初から「フロントを任せて下さい」と営業していたら、門前払いだったことでしょう。あなたの会社の営業活動にも活かすことができるかもしれません。戦略を見直してみてはいかがでしょうか?
2008年05月16日(金)更新
問題は怠慢にあり
●今でも時々子供とキャッチボールをしますが、昔痛めた肩とひじは今も治っていないようで、山なりのボールしか投げることができません。
●私の肩は問題でしょうか、それとも問題ではないのでしょうか。
●私の目標が「野球選手として活躍すること」であれば、痛んだ肩は大問題でしょうし、すぐに治すべきでしょう。しかし、インターネットで情報発信する今の職業ならば、そのままでも特に問題にはなりません。
●それが問題なのか、問題でないのかは、目標や理想によって変わってくるということです。「問題」とは、理想と現実のギャップのことであり、理想が低ければ問題もなく、理想が高ければ問題だらけになるということです。
●月間売上高目標を例にして考えてみたいと思います。
目標は当然100%以上ですが、実績が80%で終ったとしたら、そこには、理想(目標)と現実(実績)のギャップが生まれます。
A社ではそれを大問題として会議の議題にあげ、討議し、手を打ちます。
B社では誰一人それを問題視せず、議題にも話題にものぼりません。
こうした違いが生まれるのは、A社とB社では、理想が違うからです。
●では、目標未達成が繰り返し起こった場合はどうでしょうか? 理想の高低に関係なく、B社でも問題になるのは明白です。しかし、そのような状況になる前に手を打たなければ、それはただの怠慢です。ドラッカーはこう言っています。
「繰り返し起こる混乱は、ずさんさと怠慢の兆候である」
●別の例として、ある建設会社で実際にあった話を紹介しましょう。
借入依存度が大きかったこの会社では、毎月金融機関に業績報告書を提出していました。ところが、支店が東京・横浜・名古屋・大阪・広島・福岡と分散しているうえに、社内データの整備やメール網が不十分だったので、報告書の作成は困難を極めていました。
●50歳になるM取締役の仕事の半分は、銀行への提出書類の作成で終わっていました。秘書やアシスタントも各支店との諸連絡に忙殺されました。月末・月初になると徹夜になることもあったのですが、その都度、気力と体力で乗り切り、そして、業績報告書を銀行に提出した翌日は会社を休む、ということを毎月のように繰り返していました。彼の役職は『経営戦略室 室長』とものものしいものでしたが、仕事の実態はこの程度のものでした。
●そんな状態が5年も続いたある日、この会社は倒産しました。
毎月繰り返される問題を放置していたことこそが、問題だったのです。M取締役の本当の仕事は、書類作成ではなく、業務システムの改善でした。それをM氏は怠っていたのでした。まさに、ドラッカーの言う「繰り返し起こる混乱は、ずさんさと怠慢の兆候である」という状態だったのです。
●当たり前のことなのですが、混乱が繰り返し起きないようにするための根本的な方策が必要なのです。こうしたずさんさと怠慢さを問題だと思わない会社は、必ず破綻するでしょう。
●気力と体力で「そのときだけ」乗り切ることを繰り返していると、「忙しいから仕事をしている」と勘違いてしまいます。しかし、これを問題視しないことが、本当の「怠慢」なのです。
2008年05月09日(金)更新
執行責任者制の意義
「武沢さん、うちも新年度から、CEOとかCOOとかいうポストを導入しようと考えているのですが、どう思いますか?」
「ほー、なるほど。その狙いは何ですか?」
「何となくカッコイイじゃないですか」
「カッコいい? それだけの理由ですか……」
「若手社員の動機づけにもなるかと」
●本来は「カッコイイ」とか、「社員の動機づけ」を目的に役職名称を決めるものではありません。しかし、最近はこうしたカタカナ名称の名刺をもらう機会が増えており、間違いなく日本の中小企業にも浸透しつつあるようですので、少しおさらいしておきましょう。
☆ CEO(chief executive officer)…… 最高経営責任者
☆ COO(chief operating officer)…… 最高執行責任者
☆ CFO(chief financial officer)…… 最高財務責任者
☆ CIO(chief information officer)…… 最高情報責任者
☆ CTO(chief technology officer)…… 最高技術責任者
●その他にも、最高知識責任者(CKO)、最高個人情報保護責任者(CPO)、最高顧客市場分析調査責任者(CMO)などもあります。そんなに新しい肩書きをつくってどうするのだろうと思いますが、大企業ではそれでもまだ足りないほど経営の守備範囲が広くなっているようです。
●日本の商法では、「代表取締役」が株式会社の最高責任者とみなされているだけで、これらカタカナ名称は非公式の社内ポストに過ぎません。ソニーが1976年にこの名称を採用したのが第一号となっており、徐々に国内ビジネスでもこの執行責任者の名称を使うケースが増えているようです。キヤノンやシャープのように従来からの漢字名称をそのまま使っている会社もありますが、海外ビジネスではむしろカタカナ名称が一般的です。
・ソニー
会長兼CEO ハワード・ストリンガー
社長兼エレクトロニクスCEO 中鉢良治
副社長、コンスーマープロダクツグループ担当 井原勝美
・ユニクロ
代表取締役会長兼社長 柳井正
取締役兼常務執行役員COO 大笘直樹
社外取締役 松下正
●このように、世界企業の一部ではごく自然にカタカナ名称が使われています。もちろん、カッコ良さの問題ではなく、経営戦略上の確固たる意味があってのことです。
●経営の4大役割である「ビジョン」「戦略」「執行」「戦術」の各々について、一人で何役もこなせるほど今の経営環境は甘くありません。CEOはビジョンと戦略を、COOは執行と戦術を分担しようというような狙いがそこにあるのです。
●「カッコイイから」「社員のモチベーションのため」という理由ではなく、経営の役割を分担するのであればカタカナ名称の役員チームにすることも充分な意義があるはずです。
2008年04月25日(金)更新
テイスティングと切り売り
●正解は有料派の方です。有料で売って店内でお茶でも振る舞いながら他のお土産を買ってもらうスタイルの方が、売上げが伸びるのです。無料の場合は、たくさんのお客さんがまんじゅうを食べてくれますが、ほとんどがその場から立ち去っていくというのです。
●安くても構わない、まずはお客さんとして遇してあげようという意味では温泉まんじゅうは「入り口商品」「フロントエンド商品」と考えることができます。
●最近はもう一歩進んで、「本命商品」「バックエンド商品」も小口に切り分けて購入しやすくするというアイデアが広まっています。
●私はときどき一風変わったワインバーに出向きます。都内にあるそのお店は、カウンター越しに400種類ものワインがずらりと並んでいます。その中から好みのワインをオーダーするのですが、発注単位がユニークで、グラス、ボトルという単位の他に50cc、100ccという単位もあるのです。
●1本3万円もするワインを飲む機会はそんなに多くはありませんが、50ccなら2000円程度で飲める。これなら毎週だってOKじゃありませんか。ちなみに、この店舗のシステムを支えるのは特許出願中のワインセーバーだとか。小口販売してもワインが酸化しない技術を開発したからこそ可能になったビジネスモデルです。
●キーワードは、小口に分けて切り売りするということ。クイックマッサージやコインパーキングなども小口の切り売りの一種です。魚の切り身にしても小口の切り売りなので、決して今に始まったアイデアではありませんが、あなたの事業にそれを当てはめることでまったく新しい可能性も出てくると思います。一度社内で議論してみてはいかがでしょうか?
2008年04月18日(金)更新
効率的である前に効果的たれ
●私の友人の早崎速男君(仮名)は、その名の通りスピード感あふれる仕事ぶりが信条。「シューッ」といつも口からジェット音のような音を出しながら仕事をするので、仲間から「シュー」と陰口をたたかれています。
30歳になった昨年の春、念願かなって行政書士の資格をとり、個人事務所を開業しました。
●いつもノートパソコンと携帯ツールを併用する彼は、「ビジネスはスピードが命」が口ぐせ。彼と一緒にお酒を飲むときは、まず終わりの時刻を決め、議題を決めてから飲みはじめます。そして定刻になると腕時計のタイマーがなって閉会となります。ちょっとイヤな感じはしますが、それが彼のスタイルだから尊重しています。
●ある日のこと、早崎君が、私のオフィスにやってきました。開業後の成果は決して順調とは言えないようです。
早崎「武沢さん、目標の半分ちょっとくらいのペースで推移しています。もちろん満足はしていません。異業種交流会にも出席したり、経営者団体にも入会したりして人脈を拡大しています。来月からは私が主催する交流会もスタートします。今後の見通しは明るいですよ」
武沢「素晴らしいですね。ところで、早崎君の当面の優先順位を聞かせてよ」
●彼は“待ってました!”とばかりに、携帯ツールを取り出し計画を語ってくれました。それを聞く限り、彼の今後の優先順位は実に明確でした。やるべきこと、やりたいことなどが、身体全体からほとばしり出ているようです。
●そこで私はちょっと気になって、次の質問をしました。
「劣後順位はなに?」
●「劣後順位」とは、優先順位と逆の意味で使われます。やらないこと、やってはいけないことのリストです。目標に到達するためには、何をすべきかと同時に、何はすべきでないかということも決めておかねばならないからです。
●早崎君のスピード感あふれる仕事ぶりがいかに立派でカッコ良くても、時間管理がいかに上手であっても、お客様がいなければ成果には結びつきません。「効率的」であることと「効果的」であることとは別だ、ということです。
●「効率的である前に効果的たれ」。効果的であるためには、優先順位と劣後順位を決めて紙に書いておけ。という助言を早崎君にして差し上げました。
さて、今度彼が現れるときにはどのように変わっているのか注目です。
2008年04月11日(金)更新
もう一度思い切り仕事がしてみたい
・・・
「もう一度思い切り仕事がしてみたい」
病床で井植は弟に向かってつぶやいた。でも井植には、女性に喜ばれる仕事ができたという充実感があった。
・・・
●上に紹介したのは、NHK「プロジェクトX 家電元年・最強営業マン立つ」でのラストシーンで主人公が語ったセリフです。洗濯機の開発に命を懸けた男・井植が、余命いくばくもない状況に追い込まれ、病院のベッドから外を眺めて言ったのが、「もう一度思い切り仕事がしてみたい」という言葉だったのです。
●「もっと仕事がしたかった」と言える人生ってなんて素晴らしいのでしょう。仕事の時間がそれだけ光り輝いていた証明ではないでしょうか。
●以前目にした、「ソニーの重役は他社とどこが違うか」を分析した記事を紹介しましょう。株主総会で開示された主要企業5社の役員報酬を比較した「ソニーの重役 大研究」という特集で、「週刊現代」2002/7/20号に掲載されたものです。少し古い数字になりますが、役員一人当たりの平均年収データを引用します。
・新日本製鉄 2,883万円(役員数 41人)
・三井住友銀行 2,826万円( 〃 23人)
・東芝 2,456万円( 〃 16人)
・大同生命保険 1,872万円( 〃 22人)
・ソニー 8,307万円( 〃 13人)
●ソニーの役員は少数精鋭で報酬が高くなっていることがわかります。重役出勤が許されない激務のようですが、「週刊現代」の記事は、「ソニーのような“ハッピーワーカーホリック”で大金を勝ち取るなら非難されるいわれはない。めざせ、サラリーマンの夢」と結んでありました。
●ささやかな幸せには目をつむり、気力・体力・知力のすべてに全力投入を要求されるようなタフな仕事こそが面白い。一生を通してそんな仕事をし続けることはできないかも知れませんが、そうした時間がどれだけあったかが勝負です。しかもその仕事は、他人が運んできてくれるわけではありません。自ら作り出すものでなければならないのです。
●洗濯機の開発に命を懸けた三洋電機の井植のように、私たちはいま思い切り仕事をしているか、と自問してみたいものです。
2008年03月28日(金)更新
立案力と遂行力
●内容は社員のレベルが違いすぎるため、今まで経験してきたことの大半が役に立たないということでした。K氏が以前勤めていたのは一部上場企業であったため、社員教育制度も充実し、ビジネススキルやコミュニケーション能力もあるエリートが入社してくる会社でした。
●しかし、K精密は社員数約30名の部品メーカーで、社員全員が中途採用。それも、全員が基礎研修などを受けたことがあるわけではなく、中には職人気質の現場社員やコミュニケーションを満足に取れないスタッフもいるとのことでした。
●K氏はこう嘆いていました。「武沢さん、私が前の会社で培ってきたやり方が通用しないんですよ。前職では、大まかな方向性さえ指示しておけば、部下が自分で目標や行動計画を設定して動いてくれました。でも今いる会社では、方向性を示すだけでは足りず、具体的な作業指示も出してやらないと社員が動かないのです」
●K氏が前職と現職のギャップに悩み、嘆く気持ちもわからないではありませんが、嘆いていても始まりません。
●大企業は人員も多く、社員の質も粒ぞろいなので「私は決定する人、あなたは実行する人」というように、役割分担ができます。しかし、中小零細企業の経営者は、決定するだけではなく、現場の陣頭指揮もとれる人でなければならないのです。その意味でいうと、中小企業の経営者は、大企業の経営者より有能な人材でなければ務まらないのです。
●経営力とは「立案力」と「遂行力」の和のことです。中小企業を経営するには、社員のレベルの低さを嘆く前にまず、自分の立案力と遂行力の向上をはかりましょう。ついでにそのとき、「すべての責任は我にあり」くらいに考えた方が、精神的なストレスも少なくなるでしょう。
2008年03月21日(金)更新
志を練る
●もし努力家の部分だけが一生続いたとしたら、「上場会社のひとつやふたつ作って、億万長者になっていただろうな」と勝手な空想をしてしまうほどですが、不思議なことにメルマガを書くことだけは、8年間欠かさずに続けています。これは私の中の「奇跡」といってもいいでしょう。
●また、「三日坊主」とは反対に「志操堅固」という言葉があります。「志が堅い」という意味ですが、私にあてはめると、メルマガを書くことだけが志操堅固であり、他のことはほとんど三日坊主ということになるのでしょう。
●しかし、人間ってそんなものではないでしょうか。自分が大好き、かつ得意なことを本業にできたら、誰だって「志操堅固」になる可能性が高くなります。しかし、飽きっぽい人は、ちょっとした工夫がいる。その一工夫は「志を練る」という行為だと思うのです。
●その昔、幕末の志士たちは墨痕あざやかに漢詩をつくり、仲間とそれを交わすことで自らの志を絶えず練っていたそうです。つまり、遊興のためではなく、志を錬磨しあうための飲み会をさかんに行っていたのです。
●禁門の変において25歳で自刃した久坂玄瑞は、松下村塾の師・吉田松陰から才能を高く評価されていました。その久坂は、長州藩士のなかでも檄文の達人としても名が通っていたようで、いくつかの過激な漢詩を残しています。以下に、「長州漢詩集」でみつけた久坂の詩を記載します。
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そうあい ふみやぶる ばんちょうのやま
雙鞋蹈み破る萬重の山
ここのえにむかって やきんを けんじんと ほっす
九重に向かって野芹を獻じんと欲す
このさい だんじ かぎりなしの こころざし
此際男兒限り無しの志
らんらくに ようふんを ふせしめん
鸞輅に妖氛を付せしめん
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【意味】
この草鞋で幾重に連なる山々も踏み破ってやろう。
田舎者ではあるが、人のため何かがしたくて、心は天朝に赴いている。
この国家の一大事に男児たる者、その天下の志は限りなく溢れ、神国日本に外夷の穢れなどを近づけさせはしない。
●現代に生きる私たちにとって、彼らが行っていた漢詩づくりに相当するものは何でしょうか。また、自らの志を練り上げるために何をしているのでしょうか。そうした、自らを鼓舞するために、何らかの習慣をもつことは、とても大切なことではないでしょうか。
●ですから、私はメルマガを毎日書いています。毎日書くことを通じて、自分が日本の経営者に役立っていることを確認できるのです。ときどき感謝のメールをもらったりすると、ますます自分の行為に意味が感じられるようになります。これはつまり、書くことそのものが志を練るという行為になっているのでしょう。
●経営者のみなさん。あなたは何を繰り返していますか?
2008年03月11日(火)更新
俗交から素交へ
――最近の君は金を大切にしすぎだ。人にも金さえ与えれば何とでもなると思っているのか、家人(家族や部下)にもことごとくそうしているように見受けられることから、甚だしい心得違いをしているのではないだろうか。
主人が貧しい時は、自然と礼儀をわきまえ、人を尊ぶから、家人もそれに応えてくれる。だが、主人が豊かになり気前もよくなってくると、部下は「働いているのだから、これぐらいもらって当然」と思うようになる。
はじめは、その家に望みをいだいて来た者も、主人がそうなってくると希望を見失い、貧しいが礼儀厚かったころよりも働いてくれなくなるものだ。
●とても400年前の戦国武将の手紙とは思えない、現代にも十分通用する忠告ではないでしょうか。
●たとえば、この手紙にある「主人」は「経営者」と置きかえることができます。経営者は、まず人間として一人ひとりの社員を尊重しなければなりません。言い換えれば、尊重したくなるような社員を採用すべき、ということでもあります。
●また、中国・周の時代を生きた劉峻という思想家が、「広絶交論」という論文を書いています。それによれば、そもそも人間関係には「素交」と「俗交」の二種類があり、「素交」とは裸の交わり、つまり人間の地の付き合いを指し、「俗交」とは何らかの利益を期待した交わりのことだそうです。
●さらに「俗交」にも5種類あり、次のようなものがあります。
◇「勢交」:相手の勢い、勢力を期待した交わり
◇「賄交」:儲かる相手とつき合う、金を出させるといった、金銭を期待した交わり
◇「談交」:自分の名声を上げられる、自己宣伝を期待した交わり
◇「量交」:相手の景気次第で、態度を変えるような交わり
◇「窮交」:首が回らなくなったときの、援助を期待した交わり
●会社の採用活動で出会った社長と社員に例えるなら、その一番最初の出会いそのものは、すでに「俗交」の色合いが濃いものです。ですが、資本主義社会の中で、「素交」だけを賛美して「俗交」を拒否していては、劉峻のように次々に絶交する羽目になり、ついには友達が誰もいなくなってしまいます。
●だからといって、ビジネスだからすべて「俗交」で良いんだと割り切ることもできません。大切なのは、「経営者と社員」「会社と顧客」の関係を「素交」に近づけていく努力です。そのためにも「俗交」と「素交」、この言葉はぜひ覚えておきましょう。
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ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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