武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
2008年02月29日(金)更新
ギュッと締める力
●ですから本来のエグゼクティブとは、まさに「実行する人」であり、部下を「ギュッと締める」ことができる人なのです。会社組織で誰よりも実行力を要求されるという点において、頂点に立つのが社長であることは、言わずもがなでしょう。
●親鸞がまだ松若丸と呼ばれていた9歳のとき、慈円和尚に弟子入り志願したものの断られ、次のような歌を詠みました。
「明日ありと 思ふ心の あだ桜 夜半に嵐の 吹かぬものかは」
「今この瞬間に事をなし遂げないと、明日があるという保証は何もないんだ」、という若き親鸞の緊張感が伝わってくる名句ではないでしょうか。
●会社経営にとって「明日はない」という緊張感は大切です。実際には明日も明後日もあるでしょうが、「明日」と「今日考えている明日」は同じではなく、「来年」は「今と同じ環境の来年」ではありません。経営はいつも「今」しかないのです。
●たとえば、「5か年経営ビジョン」を作ったら、その達成の命運は今期、いや今月にかかっているんだ、という気迫を大切にしなければなりません。そうした会社だけが長期ビジョンを実現できるのです。これは、ギュッと締める人が社内にいるからです。
●新しいことに挑戦しようとすると、面白いアイデアはどこの会社でもでてきます。ところが、そこで締める力がないと、アイデアを実行に移せません。往々にして、「そういえば、あの件どうなったの?」「さあ、どうでしょう…」と中途半端になってしまい、はたしてアイデアが良かったのか悪かったのか、評価不能になってしまいます。
●逆に、社内をギュッと締める力がある会社では曖昧なことは起こりません。これは、「しつけ」の差です。リーダーに組織を締めるだけの力があれば、部下もおのずと引き締まった仕事をするのです。
●これからは、エグゼクティブとか重役という単語を聞くたびに「ギュッと締める力」の重要性を思い出していきたいものです。
2008年02月15日(金)更新
困ったらあかん
●そして幸之助翁に「君、何か困ったことはあるか?」と問われ、木野氏はとっさに「はい、問題はいろいろありますが頑張っています」と答えたそうです。
●そうしたやりとりの後、幸之助翁は最後に「困っても困ったらあかんで」と言われたそうです。それを聞いた木野社長は、帰りの飛行機のなかで心が晴ればれとして、やる気がみなぎってきたとか。
●このやりとり自体は禅問答のようなものだと思います。しかし、ファクシミリという新しい商品を世に送り出し、事業として軌道に乗せることは、決して容易なことではなかったはずです。新規商品の開発につきものの問題があちこちで発生し、困ったことばかりだったのでしょう。
●当然そのことは、幸之助翁も知り抜いていたはず。その上で翁はこう言いたかったのではないでしょうか。
「困るような事はいっぱいあるやろうが、しかしそれは外的なことや。けど、そのせいで君の心までもが困ったらあかんのや」と。
木野社長をわざわざ来阪させたのは、そのメッセージを伝えるためだったのかもしれません。
●また、幸之助翁は別の場所でこんなことも語っています。
「心配するのが社長の仕事や。社長が心配するのが嫌になってしまったら、それは社長を辞めるときや」
心配し、心まで困り果てるのが社長の仕事。ナンバー2以下はその必要なしということでしょう。トップらしい、潔い心意気ではないでしょうか。
2008年02月08日(金)更新
間接的リーダーシップ
●「こんな大切な仕事を部下に任せるわけにはいかない」というのがその理由です。そのうち、この学習塾が地域で評判になり、生徒数がついに500名を超える規模になっても、彼はハンドルを離しませんでした。
●もちろん仕事は送迎だけではありません。授業も教えていることからフル稼働の日が続き、しまいには糖尿病が原因の高血圧で入院までしてしまい、事業を縮小せざるをえなくなりました。
●会社は社長の器より大きくならないといいます。例外的に大きくなってしまう場合もあるでしょうが、長いスパンでみれば社長の器以上にはなりません。ですから社長は、会社を経営しながら自らの器を広げていかねばならないのです。そこで、社長の器とはどのようにして広げていくべきなのか、三つの段階に分けて考えてみましょう。
●最初は「兵たる器」という段階です。まずは兵として優秀である状態をめざしましょう。肩書きこそ「代表取締役社長」であったとしても、現実には一人で営業活動から納品、請求書発行、代金回収、クレーム処理などすべて処理しなければなりません。だから、まず兵として優秀な状態を目指すのです。
●その次は「兵の将たる器」という段階です。従業員を採用し、社長はプレイングマネージャーとなって指揮をとりながら、率先して動きます。この段階になると、社長は「兵」としての強さだけでなく、部下を指揮して戦いに勝利できるリーダーシップを学ぶのです。
●最後は「将の将たる器」という段階。将の将、長の長として、今までとは次元が違う戦略的な仕事をこなさなければなりません。たとえば、組織の目的やビジョンを掲げることや組織づくり、人財育成に提携戦略など、明日に向けた仕事をする段階です。
●言い換えれば、兵の将をやっている時は「直接的リーダーシップ」、将の将になると「間接的リーダーシップ」が求められると言えるでしょう。
●直接的リーダーシップとは、「1+1はいくつですか?」と部下に聞かれたとき、「2」と即答してやるようなリーダーシップです。そうすることで感謝や尊敬されるでしょう。
●ところが「間接的リーダーシップ」は答えを言いません。足し算や引き算の解き方を教えたり、時計を作って見方を教えてやるのが仕事なのです。部下の誰もが「1+1=2」を解けるような教育・原則の作成、つまり社内環境の整備や方針づくりなどが求められます。それが「間接的リーダーシップ」なのです。
●直接的と間接的、どちらのリーダーシップも同じように大切です。そして経営者とは、その両方を兼ね備えていなければならないのです。
2008年02月01日(金)更新
不満なし≠満足
●顧客というものは、何もしないでいると自動的に減っていくものです。とくに流行商品を取り扱う事業を行なっている場合、全顧客のうち半分くらいは毎年入れ替わっていくと言われています。
●明日の顧客創造(または顧客喪失)を決めている要素は一体何なのでしょうか。答えは「今日提供した製品やサービスが、顧客を満足させているかどうか」です。顧客に不満を与えるのは論外ですが、かといって満足も不満も与えていないのもいかがなものでしょうか。
●ある意味、無言の顧客ほど怖い存在はありません。いつ黙って他社に乗り換えられるかわからない危険性を孕んでいるからです。
●何年か前のことですが、私自身がお客として次のような(冷たい)ことをしました。告白も兼ねて紹介します。
●オフィスコーヒーの供給事業を行なっているB社の営業マンが、飛び込み営業の形でやってきました。コーヒー好きの私は、やはり同じ事業を運営しているA社と一年半前から契約してたため、「間に合ってます」と一度断ったのですが、B社の営業マンは食いさがってきました。
●そして、彼は私にB社のコーヒーがいかに優れているかを熱っぽく語ったのです。その時、セールスポイントとして
・B社のコーヒー豆は品質が高く、一流カフェ並の風味があること
・取り扱っている豆の種類が多く、コーヒー以外の飲料のラインナップも豊富であること
・営業所も近く、電話一本で担当者がすぐに駆けつけられること
などを強調し、「一度でいいから、当社のコーヒーを試してほしい」と言われました。
●彼からすると、「そもそもオフィスコーヒーとは何か」を説明する必要がなかったので話が早かったのでしょう。私はその三日後にB社のコーヒーを試飲し、確かにうまいと認めました。加えて、値段も若干安くなることから断る理由がなくなり、その場でB社と契約したのです。
●この瞬間、これまで取引してきたA社は一件の顧客を失ったことになります。私としても「すこし気の毒なことをしたなぁ」という後ろめたさがあるにはあったのですが、あっさり契約を打ち切られてしまうような、希薄な関係しか作ってこなかったA社に不備があると考えることもできます。
●私はもともとA社に不満があったわけではありませんが、満足しているわけでもなかったので簡単に浮気してしまったのです。
●オフィスコーヒーのサービスは、営業と配達それぞれ別の担当が行います。それはA社もB社も同じでしょうが、A社は契約後のフォローに甘さがありました。
●配達スタッフが毎月1~2回やってきてコーヒー豆を補充し、機械をメンテナンスしていきますが、ほとんど私と会話をしたことがありません。新製品のパンフレットも事務的に置いていく程度で、私から感想や要望を聞きだす姿勢もありませんでした。加えてA社の営業マンも、一度釣りあげた魚にエサをやる必要はないと思っているのか、契約後に顔をみせたことは一度もありませんでした。
●一度契約を結んだ顧客は、これからもずっと顧客でいてくれるかどうかわかりません。だからずっと顧客でいてもらうためには、「あなたは当社の大切なお客様です」ということを自覚してもらう必要があるのです。
●訪問、郵便、メールやFAX、手段は何でもかまいません。あらゆる方法で顧客とコンタクトをとり続けましょう。そして、見込客であるかのように扱い、上得意先であるかのように接するのです。そうすれば、いつもあなたの会社の顧客であることを自覚してくれるようになります。
●件のA社には、そうした体制がありませんでした。これは担当者の力不足という問題ではなく、営業責任者と経営陣の問題です。言い換えれば、A社のシステムと教育体制の不備が原因でしょう。
●ちなみにB社は、翌月すぐに「もうすぐ夏ですから、アイスコーヒーメーカーも無料で設置します」と提案してくれました。たったそれだけのことですが、「セールスの継続」を意識しているかどうかが、顧客創造につながるのです。
2008年01月25日(金)更新
儲けのカラクリ
●たとえば『図解 儲けのカラクリ』(インタービジョン21著 三笠書房)のような、業界の利益構造を丸裸にする本を読んでみると、どの業界においてもそれなりに利益を出すのは容易じゃないことがわかります。一方、他業種のビジネスモデルを知ることで、新しい発想が生まれてくる可能性もあります。
●先の本で取りあげられている「焼き芋の屋台販売」事業を例に考えてみましょう。
◇焼き芋の屋台販売事業
・客単価400円×一日客数90人×25日営業=90万円(月間売上高)
・芋の原価率は38%なので、粗利益率は62%となり、粗利益は月間558,000円となる
・経費は屋台と釜のレンタル料が125,000円、燃料代とガソリンが70,000円と195,000円
以上の計算から、36万円強が人件費を差し引く前の営業利益となります。
●しかし、これをみて「フーン、なるほど」で終わってはいけません。この事業例を見て、そこからさらに何かを考えなければならないのです。例えば次のようにです。
・一日あたり仮に12時間営業だとすると、仕込みと片づけを入れれば15時間労働。
・月間では375時間労働となり、営業利益が36万円ということは、時給にすると960円。
・ここで仮に、時間給750円のアルバイトに運営させたら、一時間あたりの利益が210円になる。これを10台、100台の規模にしたら悪くはないかもしれない。
さらに、「ガソリンが高騰すると利益はどのくらい減るのだろう?」「芋が売れない夏場には何を売ろうか?」…など、考えるネタはいくらでもあります。
●場合によっては、本当に屋台と機材を借りてきて、新入社員研修の一環として焼き芋を売り、収支計算を自分でやらせてみるのも良いでしょう。
●マンガ喫茶や居酒屋、学習塾、シティホテルについても同様に考えてみましょう。
[ケース1:マンガ喫茶]
・お店には最低でも何冊のマンガを揃えると良いとされるだろうか?
・一部の有力店は今、どのようにして差別化を推し進めているのだろうか?
[ケース2:居酒屋]
・居酒屋でもっとも原価の安いメニューといえば何だろうか?
・「どこの店でもこのメニューは絶対ある」というような定番品といえるのは?
[ケース3:学習塾]
・少子化の流れは学習塾の経営にプラスなのかマイナスなのか?
・プラスにするために、どのような取り組みが行われているのだろうか?
[ケース4:シティホテル]
・ホテルの売上げは、都内のシティホテルの場合で宴会60%、宿泊25%、飲食15%といわれる。業界は今、どの部門の売上を伸ばそうと躍起になっているのだろうか?
●儲けの構造を解説した本を、スラスラ読んでおしまいにするのはもったいないので、そこから社員教育に役立てたりしましょう。つまり、本を元にして社長が講師となり、社員に貸借対照表や損益計算書の構造も教えていくのです。
●もしあなた自身に先生役がつとまりそうもなければ、担当の税理士さんにお願いしてみるのもいいでしょう。社員がグングンとビジネスに強くなれるはずです。
●社員のビジネスセンスを高めていくには、儲けのカラクリを理解させることが一番の早道なのです。
2008年01月18日(金)更新
誰を選ぶべきか
●こんな例があります。かの名著『ビジョナリー・カンパニー2』(ジェームズ・C・コリンズ著 山岡 洋一訳 日経BP社)でもたびたび対比して紹介されている、「キャメル」で有名なR・J・レイノルズ社と、「マルボロ」でおなじみのフリップ・モリス社の話です。
●両社とも世界的に有名なタバコ会社ですが、実は経営力における格差は相当あり、フィリップ・モリスのほうが格段に上のようです。
●1960年代の初頭の話です。両社ともに売上高の大部分は国内(アメリカ)事業部のみによるものでした。その頃は、R・J・レイノルズがフィリップ・モリスより勝っていたそうです。
●やがて、両社とも国際事業を展開していくことになったのですが、当時の経営陣の意思決定が未来の命運を決めることになります。
●R・J・レイノルズの経営者は、当時のビジネスウィーク誌のインタビューで「世界のどこかにいる外国人が『キャメル』を買いたいというのなら、電話をかけてくればいいんだ」と答えました。
●つまり「欲しいのなら買いに来い」という姿勢です。これはトップの発言だけにとどまりません。事実、同社はしばらくそういった経営姿勢にのっとった販売戦略を展開していました。
●一方、フィリップ・モリスのCEOだったカルマンはどうしたか。当時、まだ1%に満たない国際事業こそが長期的な成長の宝庫とみていた彼は、そのための戦略を考え続け、ついにある結論に達しました。戦略として「何をすべきか」を考えるのではなく、「責任者として誰を選ぶべきか」を決めることが、自分の役目だと気づいたのです。
●カルマンは、社内でもっとも優秀だったジョージ・ワイスマンに白羽の矢を立てました。全売上のうち99%を占める国内事業の責任者だった彼に、国際事業部を任せる決断を下したのです。
●当時の国際事業部は、名ばかりの不採算部門でした。当然、そこへの異動が決まったワイスマンは、最初は左遷だ、降格だ、と社内外で騒ぎ立てられましたが、カルマンはワイスマンを支援し続けました。
●その後、国際事業部はフィリップ・モリスでもっとも高い成長率を記録。最大規模を誇る部門になるとともに、看板商品の「マルボロ」はアメリカ国内市場よりも3年早く、世界市場で首位に立ったのです。この頃には、件の人事も「天才的なものであった」と評価されるようになりました。
●フィリップ・モリス社の話は、問題部門やお荷物整理に優秀な人材をあてるのがよい、という単純な話ではありません。今は不振でも、将来的に成長の見込みが高い部門には優秀な人材を当てるのが良い、ということです。
●社長の決断には「何をすべきか」だけではなく、「誰を選ぶべきか」もとても重要なのです。
(参考:『ビジョナリーカンパニー2』ジェームズ・C・コリンズ著 山岡 洋一訳 日経BP社)
2008年01月11日(金)更新
女神に好かれる
●そのような試合は、終わった後に「あのエラーがなければ…」「あの投手交代さえもう少し早ければ…」と思うもの。たった一つのプレーや采配で勝負の流れが一気に決まったとき、流れとか勢いといったものの凄さ・怖さというものを再認識させられます。
●もちろん、会社経営にも通じるものがあります。経営者としては、組織の勢いを大切にしなければなりません。さもなければ、会社を目標達成に導いてくれる勝利の女神は去ってしまうのです。しかも、一度去ってしまうとなかなか戻ってくれません。
●では、勝利の女神はどこにいるのでしょうか。私は、毎日の何気ない仕事の中に潜んでいると思っています。つまり、日ごろのちょっとした仕事ぶりが、良きにしろ悪きにしろ会社の勢いを左右してしまうのです。
●決して、大々的なセールやキャンペーンだけが本当の勝負ではありません。その日その日の日常業務もまた勝負なのです。
●こんな名言があるのはご存じでしょうか?
・「革命とは車輪を回すことである」(音楽家:イーゴリ・ストラビンスキー )
・「功を奏するとどめの一撃などない。小さなステップの積み重ねだ」(リーマンブラザーズ元会長:ピーター・コーエン )
・「雨だれ石をうがつ」(日本のことわざ)
上記のいずれも「毎日の継続した努力こそが、将来の大きな成果に結びつくカギである」と教えてくれる名言です。
●そろそろお正月気分もおしまいにして、この一年に勝利するための闘争心をあらわにしていきたいものです。会社や個人の目的意識や挑戦意欲をリフレッシュし、勢いを呼び込めるような毎日を過ごしましょう。
2007年12月28日(金)更新
退職ダメージを減らす
●それから間もなくのことです。T君から届いたハガキには「念願かなって理美容店をオープンしました。是非、お越し下さい」とありました。翌月、出向いてみるとビックリ。待合室では来店客でごった返していました。「一時間以上待ち」でしたので、その日はやむなく引き返すことに。後で聞いたところ、「オープン以来ほぼ毎日フル稼働」だというのですから凄いではありませんか。
●結局、その日は元の理髪店に行ったのですが、対照的に来店客は少なく、暇そうですらありました。カットしてもらいながら、私は次のようなことを考えていたのです。
●「T君がもしどこかの営業マンだったら、ごっそり顧客を取られた格好なのだろう。一人の人間としてはおめでたい独立開業も、元いた企業にとっては痛手にほかならない。時と場合によっては、ケンカ別れになることもある。企業としてはT君の独立を止めることはできないが、顧客をごっそり取られるというダメージを減らすことはできないのだろうか」
●いわゆる社員の「退職ダメージ」というものです。このような場合、あなたの会社ではどんな対応をとるでしょうか。
●一般的に、行きつけの居酒屋やファミレスで働く店員さんが退職しても、顧客がその後を追うことはありません。外食産業だけではなく、書店の店長が独立したという場合であっても、同じことでしょう。飲食店や書店は立地やサービスが第一の利用目的であって、そこで働く人というのは第二義的なものだからです。ですが、「人は二義的」と断定できる業種のほうが、むしろ少ないのではないでしょうか。
●社員個人と顧客との関係が太くなればなるほど、仕事は円滑になっていくものですが、一方では「退職ダメージ」も高まります。これは相当悩ましい問題のはずです。社長はそのような時に備えた覚悟をしておかなければなりません。
●もし「顧客の持ち逃げは絶対に許さない」とするならば次のような手があるでしょう。
・同業他社への転職禁止
・独立開業に際しては、顧客の持ち逃げや営業行為を一定期間禁止する
といった誓約書を書かせる方法です。法的拘束力が強いとは言えませんが、社員に対する牽制としては、十分に効果があります。
●逆に、「顧客の持ち逃げは構わない」とするならば、こんな手があります。
・同業他社への転職でも許可する
・独立開業の際は、顧客の持ち逃げも営業行為も許可する。そのうえで正々堂々と勝負し、
顧客自身の選択を尊重する。
・それどころか、社員の独立を促進し、初年度から利益が出るように応援する
このような懐の深さをもつことも、経営者として立派な態度といっていいでしょう。
●どちらの方法をとるにしても、退職ダメージとどう取り組むか、その時になって慌てることがないように、しっかりとした考え方を持っておくべきです。
2007年12月21日(金)更新
名ドライバーの思い出
●しかし、そのような状況下でも同僚たちより何倍も稼いでいるドライバーがいるのも事実です。それは才覚の違いといってしまえばそれまでですが、才覚の前に、私は心構えが違うように思うのです。
●私も旅先で観光タクシーをチャーターし、名所旧跡を巡ることがありますが、2時間ほども観光すれば、タクシードライバーの腕前のよし悪しがわかります。
●青森市に行ったときも、お昼どきにタクシーを止めて市内観光の相談をしたところ、「今から三時間観光ですか? う~ん、この町にそんな観光名所などありませんよ」といわれてしまい、結局1,000円ほどで「ねぶた記念館」へいくだけになりました。
●その帰りのことです。別のタクシードライバーに同じ質問をしたところ、下記のようなまったく違う答えが返ってきました。
●「お客さん、青森は見所ばっかりで大変ですよ。3時間じゃ足りない足りない。でも近場にも見所が多いから効率よく回りましょう」と言われ、結局、彼に6時間近く案内してもらうことになりました。
●その人はMさんという50近くの男性でした。おそらく、最初のドライバーは自分のテリトリーである青森市内を回ることしか頭になかったのに対し、Mさんは青森県全域を思い起こしたのでしょう。十和田湖、八甲田、酸ヶ湯温泉、青荷温泉、棟方志功博物館などを効率よく案内してくれ、すっかり青森とMさんのファンになってしまいました。
●腕のいいドライバーとは、運転技術の差だけで決まるのではなく、道路事情や観光名所に詳しい名ガイドであり、名コミュニケーターでもあるのです。
●この年、私は再び彼に会いたくなって、夏のねぶた祭りを見に行きました。すると彼は、私のためにねぶた見物用のさじき席を確保してくれたのです。感動した私は、彼のことをメルマガやブログで何度も書いたところ、全国の観光客から指名電話が入るほどの人気になり、半月先の乗客まで決まっていることもあったそうです。
●最初のドライバーとMさんでは、売上に倍以上の開きがあるのではないかと、私は思います。そして、ビジネスの才覚とは「まず、お客様を喜ばせたい」という心構えから生まれてくるようにも思うのです。
2007年12月14日(金)更新
メンツを捨てるとき
●先日、起業準備中のサラリーマンが集まる場で講演する機会がありました。会場には多くの若者に混じって、団塊の世代とみられる方も散見されました。講演が終了し、事務局が回収した質問シートをみると、次のような質問が多く寄せられていました。
●「起業するタイミングを計っているのですが、どのような条件が揃えば成功確率を高められるのでしょうか? やっぱりある程度の資金を確保しておかないと、リスクは大きいのでしょうか?」
「私はAという新事業のアイデアをずっと温めてきたのですが、なかなか自分に対してゴーサインが出せません。『ノウハウが充分に備わっていない』と自己分析しているのですが、多少見切り発車してもうまくいくものでしょうか?」
いずれもタイミングに関するご質問でした。
●私はこうした質問を受けると、「勇気」という単語を真っ先に思いうかべます。辞書をひくと、勇気とは「何ものをも恐れない強い意気」と書かれています。現実には、恐れない経営者というのをこれまで見たことがありません。ですが、みな「恐い」という気持ちを乗り越えられるような「勇気」をもっている方ばかりでした。
●起業や新規事業を起こすとき、なぜ「恐い」という気持ちになるのかというと、未知のことに一歩を踏み出すからです。仮に失敗に終わった場合、「資金がなくなるのではないか」「世間や周囲から笑われたりするのではないか」「家族に迷惑をかけはしまいか」など、誰しもその後に起こるであろう周囲の反応を心配してしまいます。
●しかし、このようなメンツを気にする迷いには、いくら時間をかけても結論はでません。打開策はただ一つ、メンツを捨てるしかないのです。
●人は誰しも、自分の体面を傷つけられることを恐れがちです。しかし、あまりにこだわり過ぎると次のように考えてしまいます。
・計画通りに事を運び、カッコ良く成功したい
・みじめな姿は見られたくない
・変なヤツだと思われたくない…etc.
●そんな自尊心はあえて捨てるべきです。
・自分はかっこ悪く、たとえ泥水をすすってでも生きる
・私に失敗はない。なぜなら、何があっても絶対に諦めないからである
・私は"七転び八起き"ならぬ、"百転び百一起き"してみせる…etc.
といった考え方をチョイスするくらいでいいのです。
●歴史を見ても、一度も失敗したのない、やることすべてが成功していたという人はいません。釈迦も孔子もキリストも、生きている間は乞食同然の生活をして、外からみれば格好悪かったではないですか。個人生活でもビジネスでも、挑戦した結果として残るのは、達成の記録であって失敗の残骸ではないのです。
●ユニクロが野菜事業に失敗し撤退を決めたとき、柳井社長は次のように言いました。
「当社の野菜事業が失敗した理由を振り返ってみれば、ノウハウも人材も資金も揃っていたからだ」
何とも皮肉で、含蓄のある言葉ではありませんか。
●「無い無いづくしの状態からでも成功してみせるといった勇気さえあれば、それだけを頼りに多少見切り発車しても大丈夫」と私は思います。そのためには、まずメンツを捨てることからはじめましょう。
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ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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