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2007年12月10日(月)更新

経営理念は「この指とまれ」方式で

経営理念やポリシーに、正解・不正解はありません。どんな理念や社是・社訓であっても、それはあなたが経営する会社の価値観の問題なので、第三者がその是非を語ることはできないのです。経営理念は「この指とまれ」で良いのです。

●むしろ重要なのは、その内容ではなく「こだわり」です。理念へのこだわりが社員の行動に反映されるような強烈な思想となり、顧客や社会に対するメッセージ性をもったとき、大きな力が発揮されるのです

●ある地方工務店の話をしましょう。経営理念の勉強をしてきたと思われる社長が、突然次のような発表をしました。

●「今後、我が社はすべての価値判断の基準を”顧客のため”とする。顧客のために働いて、仮に我が社が潰れるとしたら、それは資本主義制度それ自体の欠陥である。逆に言えば、我が社はこの理念にこだわるかぎり潰れることはない」

●しかし、この工務店は数年後に倒産してしまいます。ピークには300億円程度あった売上が、倒産直前には120億円になっていました。これだけ聞くと、経営理念を作ったことが倒産の原因に思えるかも知れません。しかし、実態は違います。社長が経営理念を作成して掲げたのはいいのですが、それに対するこだわりが浅かったのです。
●つまり、せっかく作った理念が管理職以下に浸透せず、現場でクレームが起きたときも、営業部長や所長は部下に対し、利益を優先するような指示をしました。その結果、経営理念と現場リーダーの指示に矛盾が生じ、多くの優秀な若手社員は立ち往生してしまったのです。彼らが会社を見限ったことが、倒産を早める原因となりました。

●社長は内心、倒産を回避したいがために、理念に救いを求めたのでしょう。しかし、それだけではうまくいきません。

●「我々は、常に一番でなければならない。二番以下のすべては敗者である」――過日お会いした小売業の経営理念には、こんな一節がありました。

●まるで「All or nothing」という、ドイツの自動車メーカーのポリシーのようです。事実、このお店が出店している8店舗はすべて地域一番店で、二番店以下だった4店舗を閉鎖したこともあるそうです。名は体を表すと言いますが、理念に忠実であろうとすると、営業政策にもそれが反映されるのです。

●また、別のガソリンスタンドチェーンでは、「お客様の喜びが私たちの喜びです。私たちの仕事はお客様の笑顔によって評価されます」という理念を掲げています。この会社では、顧客の喜びや笑顔というものを示す経営数字として、リピート率(再来店率)を定めています。個別の店舗ごとにリピート率の目標値を設定し、その達成率をチェックしているようです。

●これらの例からわかるように、経営理念そのものの優劣はありません。経営理念への忠実さとこだわりにこそ、優劣があるのです。冒頭に書いたように、あくまで経営理念の内容は「この指とまれ」で良いのです。その理念が社長そのものであり、あなたの会社そのものです。心してあなたの経営理念を作りましょう。

2007年11月30日(金)更新

経営理念はコロコロ変えてもいい

●経営理念が大切だとわかってはいるが、なかなか作れない。そんな経営者ほど、経営理念というものをむずかしく考えているようです。そんなときは肩の力を抜いて、以下の質問に答えてみてください。

1.私は、何のためにこの会社を経営しているのだろうか?
2.私は将来、この会社をどんな会社にしていきたいのか?
3.私が大切にしている価値観や信条、座右の銘って何だろう?
4.私は一緒に働く社員のためにどのようなことをしてあげたいのか?
5.わが社は誰に対して、どのようにお役に立ちたいのか。顧客からどう評価されたいのか?
6.取引先や金融機関、地域社会や国家、地球に対して、どのような貢献ができるだろうか?
7.他社の経営理念やスローガン、キャッチコピーなどで気に入っているのはどんなものか?

可能な限り自分の言葉で、これらの質問に率直に答えてください。テストの模範解答を考えるようにきれいに作文しすぎるのはいけません。、建前が強く出すぎて、経営理念も表面的なものになってしまいます。

●次に、インターネットを使って他社の事例を検索しましょう。たとえば、「独自の経営理念」とか「ユニークな経営理念」などのキーワードで検索したり、気になる会社の経営理念を片っ端からチェックするのも参考になります。そうした中から、感銘を受けた言葉や文章表現をメモしておくのです。

●こうした作業をすることで、だいたい1時間以内には独自の経営理念を作成することができるでしょう。これは机上の空論ではなく、何百、何千もの経営者が実証済みの方法ですから、自信をもってやってみてください。

●それでも作れないという人は頭が硬直しすぎています。生真面目すぎる人ほど「経営理念は変えるものではない」という思い込みにより、立ち往生してしまいます。そのような人には、次のようなアドバイスを送ります。

「経営理念はコロコロ変えるものです。コロコロコロコロ変えてください。毎月、毎週、いや毎日変えてください」というものです。つまり「2008年上半期経営理念」とか「2007年12月度経営理念」「2007年12月5日経営理念」といった、期間限定の経営理念を作ってみるのです。これならば、後で作り変えることが前提になっているので気軽にできるはずです。

●こうした作業をくり返していくと、そのうちに「これは変えたくない」という文章表現やフレーズが見つかってくるはずです。そうすることで経営理念が完成していくのです。

●私の会社は「有限会社がんばれ社長」といいます。経営理念も「がんばれ社長!」ですし、私個人の人生も「がんばれ社長!」をやるために生まれてきたと思っています。そこまで思えるようになったのは、実はこの数年のことです。というのは、毎日毎日メルマガを書き、その行為自体が理念の実践になるので、「がんばれ社長!」という信念が深まってきたということなのです。

●理念は一時間もあれば余裕で作れるので、作り終えたら反復しましょう。写経のように、毎日理念を書くのです。そして、実際の仕事や生活習慣と理念を何らかの形でリンクさせ、より深めていくことが重要なのです

2007年11月26日(月)更新

中小企業こそブランディングを

●これまで、ある地域で店舗を運営する場合は、トップシェア(地域一番店)になることが至上命題とされました。というのは、商圏内のトップシェアをとるか、二番手に甘んじるかによって利益構造がまるで違ってしまうからです。

●たとえば、衣料品販売店でポロシャツを売る場合、地域一番店なら売れ筋である白のMサイズとLサイズをドーンと積んでおけばまずは大丈夫でした。しかし、二番店になってしまうとLLサイズやSサイズを充実させるといった、売れ筋とは少し離れた品揃えで勝負していくしかありません。逆に、どうしてもMサイズやLサイズを扱いたいときは、一番店より安く売るか、人気のない他の色を揃えるしかなかったのです。

しかし、これは世の中に生活必需品やファッションアイテムなどが不足していた、20世紀までの経営です。年号が平成になってから20年になろうかという今日では、顧客の家には生活必需品もファッションアイテムも何でも揃っています。当然、ポロシャツも「白のMサイズ」といった絶対的な売れ筋は存在しなくなっており、各メーカーは個性やスタイルの違いを打ちだすことに躍起になっています。

●そのようなとき、自分のスタイルを既に確立していたり、あるいはこれから確立したいと思っている顧客が選ぶのは、強烈でわかりやすい個性の会社です
●経営者の視点でみたときに目標とすべきは、顧客と自社をよく理解し、製品・サービスと顧客のニーズを一致させることで、勝手に売れていってしまうようにすることです。本当の販売力強化というのはそのような意味であり、要らないと思っている人に言葉巧みに押しつけるようにして販売することではありません。

●あなたが欲しくても、なかなか手に入らない商品を思い浮かべてください。あるいは、予約したくてもなかなかできない、あこがれの店や舞台などでもいいでしょう。

●イタリアの経営者で「プラダ」の会長兼CEOのパトリツィオ・ベルテッリをご存じでしょうか。3代目オーナーとして彼が経営権を握ってから、プラダはにわかによみがえり彼自身もカリスマ経営者と認識されるようになりました。

●彼の言葉に、「市場の動向や消費者の好みに合わせた商品を送り出すのは、敗者のやり方だ」というものがあります。革製品が主流だった時代、プラダは女性用の黒いナイロンバッグを発表しました。

●ともすればお葬式をイメージさせるこの商品は、『創業者マリオへの侮辱』と陰口をたたかれましたが、結果的に女性の心をつかみ大ヒット。それ以降、他のブランドも次々とナイロンバッグを投入しましたが、そのどれもが成功していません。

●特に最近、似通った高級ブランド品が数多くリリースされていますが、それは冒頭にあげた「白色のMサイズ」のような、売れ筋の模範解答に無意識のうちに影響されているからです。市場調査するのは結構です。しかし調査の目的は、顧客に迎合したり競合他社をまねるために行なうのではなく、自社の主張を市場に浸透させるためだと気づかねばなりません

●このようなブランディングは、世界的高級ブランドや大企業だけの専売特許ではありません。規模的には小さくても、一部の顧客からは熱狂的に支持されるブランドがもっとたくさんあっても良いはずなのです。

●私の自宅は名古屋にありますが、名古屋=トヨタではなく、トンカツのお店や味噌煮込みうどんのお店、手羽先のお店やうなぎ料理のお店などで地元ファンのブランドになっているところがたくさんあります。

個人や中小企業もブランド化すべきであり、その第一歩は、経営理念や経営哲学など、明確なビジョンを設定することです。それを社員と共有し、毎年自社ブランドの山頂めがけてアタックをくり返すことが必要なのです。

2007年11月16日(金)更新

志と野心

●このところ国会では、防衛省幹部の癒着問題で揺れていますが、癒着とはもともと、「分離しているべき組織面が線維性の組織で連結・融合すること」という意味の医学用語です。

●社長はそれを他山の石としなければなりません。「うちの会社はは癒着とは無関係」と思っていても、実際は公私のけじめがつかず、個人的な飲食でも会社の経費にまわしたりしているとしたら、それはすでに「一人癒着」なのです。

正義とか倫理という面において、社長は誰よりも厳しくなければなりません。夢や志をもつことはたしかに素晴らしいことですが、それと個人の欲を混同してはならないのです

●社長は、人々を鼓舞するような素晴らしい夢を作りましょう。「夢」といえば、私はかの有名な、キング牧師の演説をいつも思い出します。

・・・
「私には夢がある。
いつの日か、ジョージアの赤土の丘の上で、かつての奴隷の息子たちと、かつての奴隷所有者の息子たちとが、ともに兄弟としてテーブルにつくことを・・・。
私には夢がある。
私の幼い四人の子供たちが、いつの日か、彼らの肌の色によってではなく、人格の中身によって判断される国に住むようになることを・・・。
私には夢がある。
いつの日か、アラバマ州で黒人の少年少女が白人の少年少女と手をとりあい、兄弟姉妹のようにともに歩むようになることを。
われわれは、黒人も白人も、ユダヤ教徒も異教徒も、プロテスタントもカトリックも、すべての神の子が手に手をとり、古い黒人霊歌の一節にあるように、『自由だ、ついに自由だ、全能の神よ、感謝します。ついに我々は自由になったのだ』と歌える日の来るのを早めることができるだろう」
・・・
●黒人差別撤廃を訴えるキング牧師の夢が黒人全体の夢になりました。そして国を、ひいては世界を動かしたのです。彼が語った夢には共感できる物語があり、わかりやすい日常生活の一コマがありました。何より、彼の個人的な欲などまったく感じられませんでした。

●「志」と「野心」は、どちらも大きな夢や目標に向かって一生懸命に努力する点では似ていますが、実は似て非なるものです。田坂広志氏は『これから働き方はどう変わるのか』(ダイヤモンド社)の中で、次のように語っておられます。

「野心」とは、おのれ一代で、何かを成し遂げようとする願望(自我の満足を満たすもの)。
「志」とは、おのれ一代では成し遂げ得ぬほどの素晴らしい何かを、次の世代に託する祈り(自我ではなく、大我)。

●さらに田坂氏は『経営者が語るべき「言霊」とは何か』(東洋経済新報社刊)の中でこうも述べておられます。

・・・経営者の「志」が伝わらない理由は、その経営トップが本当の「志」を語っているのか、実は「野心」を語っているのか、その違いです。己一代で何かを成し遂げようとする願望、それが「野心」です。「志」とは、己一代では成し遂げ得ぬことを次の世代に託する祈りです。我々は、次の世代に「志」を伝えることです。・・・

あなたが語る「夢」は「志」なのか「野心」なのか、よくよく吟味しなければなりません

2007年11月09日(金)更新

食うために生きる?

聖書に「人はパンのみに生きるにあらず」とありますが、会社にとっても「利益のみに生きるにあらず」と、同じことが言えます。そのこと自体は、経営者であれば誰もが承知していることでしょう。経営をしていて利益が出なくなってくると、頭の中はとにかく利益を出すことでいっぱいになり、ついには本末転倒の経営をしてしまうものです。

●以前、ある総菜メーカーを訪れたときのことです。その会社は、地元では有名なのですが、なにせ競争環境が激烈なため、近年は減収減益をくり返し、3年前からずっと赤字経営ということでした。

●訪問時、社長は工場に出ていて不在でした。社長室で待っていた私は、壁面に飾られた表彰状や感謝状の数々に混じった、「経営目標」と書いた紙を見つけました。

●その紙には「最重要テーマ:黒字体質の定着」と書かれていたのですが、その次に書いてある内容を見て、私はびっくりしたのです。それは次のようなものでした。

「今期改革課題」
1.顧客の選別と重点営業
2.経費予算の二割カット
3.人件費の削減、そのための余剰人員削減と給与カット断行
●そこへ社長が戻ってきましたので、さっそく人件費のことを尋ねてみると、「今の月間人件費5,000万円を、今期中に3,500万円にすることで労働分配率が60%を切り、収支も黒字に転換する予定」というものでした。

●たしかに数字はその通りかもしれません。しかし、リストラというものは経営目標として掲げて発表するものではありません。会社が生き残るための手段として、やむを得ず行うべきものであるはずなのです。たとえるなら、手術というものがそれ自体が目的ではなく、「健康になって明るく生活すること」が目的であるのと同じことなのです。

●たしかに赤字企業にとっては、黒字転換が最大の目標でしょう。その手段として大胆なリストラが必要になることもあります。しかし経営目標というのは、主体的に入手すべきものであり、決して守りきって得られるものではないのです

●私は社長に、「あなたは寝ても覚めても人件費抑制の夢を見るのですか?」と、少しいじわるな質問をしてみました。彼は「そんなバカな」と笑っていたので安心しました。

●社長とは、良い会社になることを夢見たいものなのです。その良い会社とはどんな状態なのかを定義するのが経営目標です

●この社長、実は大変勉強熱心な方で、夢と理想がびっしり書かれたノートを見せてもらいました。相当年季が入ったものでした。しかし、このノートの内容を社内で発表したことはないのだそうです。理由を聞くと、「会社が赤字では、部下に厳しい要求ばかりせざるを得ない。将来の夢や自分の哲学を語っている場合ではない」とのことでした。

●そこで今度は「余裕ができたら何をしたいですか?」と質問すると、「真っ先に新工場の建設に着手したい。図面だけはあるのですが、この工場を本当に実現させることで、提供している弁当が今より格段にグレードアップする」と、目をイキイキと輝かせて熱弁をふるいました。

●私はこのとき強く思ったのです。「やはり、会社は利益のためにあるのではなく、夢を実現するためにあるのだ」と。

2007年11月02日(金)更新

接客の神髄

●ある駅に、この道一筋40年のカリスマ靴磨きがいます。髪の毛をちょんまげ風に結って、となりに並ぶ同業者たちがヒマそうにしていても、彼一人はいつもフル操業。というのも、常連客がついているのです。

●私の自宅は名古屋なのですが、靴を何足もカバンに入れてわざわざ東京へ行き、必ず彼の元に立ち寄るくらい、といえば、そのすごさがわかっていただけるでしょうか。

●しかも、腕がいいだけではありません。下記にあるような、お客との間に交わされる軽妙なやりとりもまた、彼の魅力なのです。

「お客さんの靴、これ最高だねぇ。もっと油をやんなきゃ。今から5分もしてごらん、新品にもどるから」
「ほんと?」
「ああ、こうして油をしっかりと染みこましてやんなさいよ、そうしたら革というモンはよみがえるんだから。このシワだけは、なかなか取れないけど、それも味ってもんだね」
(真剣にキュッ、キュッという音を立てながら全身で磨く)
「へぇ~、あっ、ホントだ。ウソのようによみがえってる」
「でしょ、長年これだけでメシ食ってきたのも伊達じゃないでしょ」
「うん、今度別の靴も持ってくるから。また頼むよ」
「まかせてよ。ただちょっと待ってもらうこともあるからね」
●私は偶然、彼に出会ってすぐに虜になりました。今ではもう、この人でないと靴を磨いてもらう気になれないのです。しかし、他の靴磨きとは、いったい何が違うのでしょうか。

・「腕が良い
…それは間違いない。でも他の人たちも腕は良いはず。

・「情熱を込めて磨いてくれる
…それも間違いない。だが他の人も情熱的だ。

・「仕事に誇りをもっている
…これも同上

・「笑顔がさわやかだ
…これは他の人と大きく違う。他の人たちの顔は印象にないが、この人の笑顔はすぐにでも思い出すことができる。

・「語り口が絶妙
…磨いている間、ずっと江戸っ子口調で何かを語っている。これも他の人とは違う。時にはさりげなく自慢を、時には靴のウンチクを、時には常連客の話題を、とにかく話題が尽きない。

・「ほめ上手
…これが一番の違いかも知れない。この人の、靴を誉めるためのボキャブラリーは無数にあるようだ。

 <イタリアもんだねコレ、一生モンだよ>
 <このコードバン、特上級だね。やっぱり靴はコレだね>
 <(相当傷んだ靴でも)まだまだ可愛がってやれば一年はいけるよ>
 <(バーゲンで買った安物でも)結局ふだんはこういうのが一番だね>

●ようやく気がつきました。彼は、とにかく靴しか誉めないのです。「センスが良い」とか「オシャレだね」とか、人を誉めることはせず、靴のみを真剣に誉める。それがかえってうれしいのです。

●私はこのカリスマ靴磨きから、接客の神髄を学んだような気がします。あなたの街にもそんな人がいませんか?

2007年10月26日(金)更新

やぶへび

●ある経営者と会ったときの話です。その席上で、私はこんな話をしました。

●東京ディズニーランドで働いているアルバイトのA君が、ある年のMBP(ベスト社員)に選ばれました。評価されたのは、雨の日にメリーゴーランドに乗ろうとするOL客にひざまずき、自らの膝を踏み台にして乗せてあげたからだそうです。

●ディズニーにはマニュアルがありません。この行動は、たとえアルバイトであっても、自分がすべきことをとっさに判断し、行動できるように育て上げた教育や社風の成果です

●しかし、その経営者の返答は「それはどうかと思うなぁ」という、意外なものでした。
私は、てっきり感動してもらえるものと思っていたので、どういうことか聞くと、「あるお客さんにだけ特別なことをすると、他のお客さんにとって不公平じゃない。それって“やぶへび”っていうやつじゃないのかなぁ」ということでした。
●私は、そういうものの見方もあるのかと思い、気を取り直して別の話をしました。

●アメリカの百貨店『ノードストローム』の話です。いつでもレシート無しで返品を受け付けることや、お店で売っていない商品であっても返品に対応した販売員がいるなど、社内にはさまざまな“伝説”があります。

●ですが、彼の反応は「それこそ“やぶへび”の極みですよ。もし、全国のお店にそういった返品がなだれのようにやってきたら、いったいどうするんですか? 莫大な資金を各店に用意しておかないと成り立たないじゃないですか。それともその社長は、よほどの性善説の信者なんですか」と、変わりませんでした。

●さすがに私もムッときました。なぜなら、目の前にいる彼の相談内容は「顧客満足度向上のために何をすべきか」というテーマだったのです。そのため、この社長の考え方そのものから、まず変えていかねばならないと思いました。

●彼は「やぶへび」が相当嫌いなようでしたが、本気で顧客満足度を向上させるには「やぶへび」を恐れない精神が大切です

●全ての挑戦には「やぶへび」がつきまといます。しかし、「良かれと思って取り組んだことが、別の問題をひき起こしかねない」と、反作用や副作用ばかりを気にしていると、顧客満足度を高めるための取り組みは、いつまで経ってもできません。

もちろん作用と副作用の両方を見ることは大切です。その上でどちらの影響が大きいのか、よく考えることが必要です

●「人にしてほしいことをまず人にしてあげなさい」という聖書の黄金律はビジネスにも当てはまります。私たちは与えたものを得るのです。まず、お客様を信頼することが、顧客満足度を高めるための第一歩であることを、忘れてはなりません

2007年10月19日(金)更新

我流の会議

●「会して議せず、議して決せず、決して行わず、これ“怪議”という」との名言がありますが、それでも「会議力」は経営者にとって大切な要素の一つです。会議を運営する力、会議で決めたことを実行する力は、経営力の根幹と言ってもよいでしょう

●私も、ときどき経営会議を傍聴することがありますが、実に個性的というか、ユニークなやりとりに出くわすことがあります。「やっぱり会議って我流で行われることが多いのだな」と改めて思います。

●A社では、進行役の専務が「会議に参加していながら意見を言わないのなら、出てくる必要などない」とゲキを飛ばします。出席者ががんばって意見を言うのですが、別の役員が、「ご意見だけは立派だね」とか「まるですごい実績をあげてる人の発言だね」など、皮肉交じりに水を差したりしています。

●これでは、はしごを外されるようなものです。実績をあげている人間しか意見が言えないような雰囲気を作ってしまっては、社内が「勝ち組」と「負け組」に分断されてしまいます。こんな会社は、ドラッカーの「誰が正しいかではなく、何が正しいかを考えよう」という言葉を大きく書いて、会議室に掲げておくべきです。
●一方、B社では最近「議題がないから」という理由で経営会議の定期開催を中止してしまいました。零細規模の会社ならそれも悪くありませんが、B社は100人近くの社員を抱えています。それなのに経営会議の議題がないというのは、実におかしな話。実情を聞いてみると「ワンマン社長がなんでも一人で決めているので、会議を開いても意味がない」ということでした。

●こんなことをしていると、後継者はいつまで経っても育ちません。そのしっぺ返しはいずれ、社長に直接返ってきます。というのも後継者が育たないということは、管理職や若手も育ちにくいので、遅かれ早かれ目先の業績にも良くない影響が出るからです

●数多くの会議に参加して痛感するのは、「正しい会議運営は経営改革を推進させるものであり、経営者を成長させる」ということです。つまり、決算書の数字や現場の事実に基づいて

・今なにがうまくいっているか
・今なにが問題か
・優先順位は何か
・各部門・各自の目標や課題は何か

といったテーマを確認する場が会議であり、経営会議であればなおさら、ある程度の緊張感と十分な事前準備をもって臨むべきなのです

●自社の会議が機能していないとお悩みの方は、改めて会議のやり方を勉強しましょう。そのためには、本を読むのもいいですし、尊敬している社長に頼んで経営会議を傍聴することもいいでしょう。

2007年10月12日(金)更新

マックス・メモ

●あなたは「スーパーボス」と呼びたくなるような、すごいボスと巡り会ったことがあるでしょうか。「スーパーボス」とは、一人のビジネスピープルとしてプロフェッショナルであり、マネジャーとしてチームを勝利に導き、指導者として一人ひとりの個人を尊重し、適性を見抜いて高みに引き上げてくれる存在です。

●また、逆に「スーパー部下」と呼びたくなるような、すごい部下と巡り会ったことがあるでしょうか。「スーパー部下」は単なる部下ではない、あなたの良き理解者であり、サポーターであり、同志です。言いかえると、あなたの負担を軽くするだけではなく、あなた自身を一段高いレベルに押し上げてくれるような存在です

●こうした「スーパーボス」と「スーパー部下」とのスリリングな関係を題材にした『マックス・メモ』(きこ書房、後に『仕事は楽しいかね』に改題)という本があり、冒頭にスーパーボスとスーパー部下との関係について「6つの真実」と題しされた、以下のような要約があります。
1.才能が二乗される職場にすることは可能である。スーパーボスとスーパー部下が職場に求めるものは同じだからである。
  ◎自由である・・・管理がない
            平凡ではない
            愚か者がいない
  ◎変化がある
  ◎チャンスに満ちている

2.スーパーボスはただの部下を雇うのではなく、同志を獲得する。

3.一流の人材は職をもつのではなく、才能をもつ。彼が一度求人市場に出ていけば(出ていくとしても一度だけだ)、やがてその才能は見抜かれ、求められ、獲得される。

4.スーパーボスとスーパー部下は、典型的な求職プロセスを逆転させることが多い。
部下をハンティングするのではなく、ボスをハンティングするのである。そのプロセスは、「求人市場」というよりは、「逸材探し」に似ている。

5.スーパーボスは、部下に辞めようなどと思わせない特別な職場環境を築くことが多いが、そうでないボスは部下が転職せざるを得ない状況に追い込む。

6.スーパーボスとスーパー部下との「同盟」は、才能の結びつきであり、生涯切れることのない絆が生まれることも多い。

(要約ここまで)


●この物語は、主人公の「わたし」と聡明な老人「マックス」とのやりとりを通して著者のメッセージが語られていきます。印象的だったのは、こんな箇所。

「スーパーボスは、最高の人が働くにふさわしい最高の場所を用意する」
「スーパーボスは、優秀な人材を世界中から探し集め、ドリームチームを作り上げる」

●しかし、並のボスは、「ウォークマン」の寄せ集めでしかチームを作ろうとしません。
ウォークマンとは、ドラフトで指名されることもスカウトされることもなくやってきて、試験を受けるスポーツ選手のことをいいます。「なぜウォークマンしか集まらないのか」と問われれば、理由は実に簡単。並のボスだからです

●スーパー部下を獲得するのに必要なのは待遇ではありません。それは後からついてくる結果に過ぎないのです。真っ先に提供すべきは、ビジョンと仕事内容、それに職場の面白さです

●スーパーボスはきっとこう語って逸材を説得するでしょう。
「給料は弾めない、それにオフィスもちっぽけだ。だが、私が描いているビジョンはこうだ。そして、君に期待していることは、こういうことなのだ」と。

●幸い私にも、20代のときにスーパーボスの下で仕事をしてきた経験があります。私がスーパー部下であったかどうかは定かではありませんが、彼は私の才能を見抜き、開花させてくれました。それから10年間は熱中して仕事が出来たし、その時の経験が今の土台になっています。

●今度は私がスーパーボスになる番ですし、スーパー部下を探す時です。

2007年10月05日(金)更新

刀と矢の補給

●安倍前総理が突如辞任を発表したその日、多くの政治家や評論家から「刀折れ、矢尽きた」と評する声が上がりました。非常に高い支持率でスタートした安倍内閣ですが、閣僚の相次ぐ不祥事などで支持率が低下し、どうにも下落傾向に歯止めがかからなかったようです。最初は安倍さんも、「閣僚と自民党は不人気だが、自分だけは人気がある」と思いこんでいたのでしょう。

●しかし参院選以後、自分こそが不人気の真の原因だと気づかされたとき、文字どおり支えるものがなくなったと感じたのでしょう。その瞬間、「刀折れ、矢尽きた」のではないでしょうか。

●あなたの会社の営業マンも「刀折れ、矢尽きた」状態になってはいませんか? あの営業法、このチラシ、こっちの企画とやっていくうちに努力が実らないと感じ、いつしか負け癖がついてしまった、ということはないでしょうか?

●経営者は営業に対して、刀も矢も供給しなければなりません。しかも、なまくらではない、強くて切れる刀と、よりしなやかで攻撃力の高い矢を供給するのが、経営者の大切な仕事なのです
●とはいえ、それは営業の要求をそのまま鵜呑みにするということではありません。営業とはいつの時代でも、商品をよりよくして、原価もより安くして、さらに広告や宣伝をガンガン出してくれ、と要求する人種です。そのような要求をすべて鵜呑みにしていては、利益が出るはずはありません。

●「『危機感によるマネジメント』と『キャンペーンによるマネジメント』には限界がある」とドラッカーが指摘していることからも言えるように、大切なことは、アイデアの補給なのです

アイデアとは、営業に対する心構え、知識、意欲、技術、習慣を改善し続けるためのものです。その取り組みにゴールはありません

●営業社員一人ひとりに、毎日新鮮な「!」を提供しましょう。それこそが、刀と矢の補給になるのですから。
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ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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