武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
2007年10月01日(月)更新
而今と全気全念
あるとき、禅僧から而今(にこん)という言葉を聞きました。
「今、この瞬間、そして、今ここ」という意味だそうです。
●私たちは今しか生きられませんし、ここしか生きられません。インターネットは時空を超えますが、生活はあくまで「而今」なのです。さっそくこの禅僧に「而今」という文字を揮毫していただき、部屋に飾って今後のモットーにして行こうと決意した次第。
●「而今」といえば、それに似た言葉が幸田露伴の『努力論』のなかに出てきます。それは、「全気全念」という言葉で、いまこの瞬間にすべての気を集中して、やるべきことに全力で取り組むことだそうです。
●もし、豊臣秀吉が信長の草履取りをしていたとき、「つまらない仕事だなぁ」「もっと重要な仕事をまかせてもらえないかな」などと思っていたら天下人にはなれなかったでしょう。まさしく、「全気全念」で草履を温めたからこそ信長に認められたし、「全気全念」で生涯を貫いたから天下人にまで登りつめたのでしょう。
●些細なことだからと軽んじている仕事があると、その些細なことに私たちの気がそがれます。私が真剣にやるべき仕事はもっと他にある、という思いがあると、「全気全念」にはならないのです。
●社内で一番「全気全念」で仕事ができる人、それが社長です。
●「而今」と「全気全念」、覚えておきましょう!
2007年09月21日(金)更新
二大欲求、三大ニーズ
鰯(いわし)はいたみやすい魚として知られていますが、その鰯を遠距離まで普通に輸送すると、何匹かは弱ってしまうなど、ロスが出てしまいます。ところが、あるものを鰯と一緒に、輸送用のイケスにいれておくと、鰯のロスが減り、長距離輸送をしても活きがいいそうです。その、“あるもの”とはいったい何でしょうか?
●正解は「なまこ」。鰯はなまこが大の苦手なので、逃れるために元気よく泳ぎ続けるからだそうです。大好きなものより、大嫌いなものと同居させるほうが活気づくとは、少々意味深なものがあります。
●鰯と人間を一緒にしてはいけないのですが、私たち人間もそれに近いところがあります。「何で買うのか?」という問いに対し、「大好きだから買う」「大嫌いなものから逃れたいから買う」という両方の答えがあります。言いかえると、消費者が購買の意思決定をする理由として、
◇利益が得られるとき
◇損失が避けられるとき
の二つがあるということです。
●「得られる利益」と「避けられる損失」の二つが、支払金額よりも大きいとわかったとき、人は即座に購買します。よってマーケティングとは、この二つの欲求に直接働きかける活動をさすのです。
●ここでいう「利益」「損失」とは経済的な側面に限りません。時間や情緒、知性、肉体などあらゆる分野における利益・損失です。それぞれについて、いくつか例を書き出してみました。
◇経済的側面:「儲かる」「経費を減らせる」「得をする」など
◇時間的側面:「手間が省ける」「楽になる」「余裕ができる」など
◇情緒的側面:「楽しい」「リラックスできる」「日常から解放される」など
◇知性的側面:「ためになる」「情報が得られる」「刺激がある」など
◇肉体的側面:「苦痛から逃れられる」「快適になる」「おいしい」など
●私たちは、商品やサービスそのものを売っているのではありません。消費者が「得られる利益」や「避けられる損失」を売っているということを深く理解しておくべきでしょう。そうすれば、おのずと販売方法なども変わってきます。
●さらに、別の角度から消費者のニーズについて考えてみましょう。消費者には、どんな世の中になっても変わることがない、「永遠不滅の三大ニーズ」というものがあります。それは、次の3つです。
◇ディスカウントニーズ(安い)
◇コンビニエンスニーズ(ありがたい)
◇スペシャリティニーズ(他に比べるものがない)
●3つのうちのどのニーズを満足させていくのかを、ハッキリと決めましょう。もちろん、複数でも構いません。そして、決めたニーズを満たすために自社の商品・サービスの品質や価格、提供方法はどうあるべきかを決めるのです。
●このように、「消費者の二大欲求と三大ニーズ」という視点で、自社のあり方を定期的に点検することが大事なのです。
2007年09月14日(金)更新
目標リストの更新
●「これ急いでコピーを。でもその前に、これを宅急便で送ってきて。あ、それとコーヒーを一杯よろしく」などと無茶苦茶な頼み方をしていたら、「いい加減にしろ!」と、結局何もやってくれないでしょう。
●目標の発表だって同じです。一度にたくさんの目標を掲げて部下や組織を混乱させてはいけません。
●「今期の目標は、あの数字とこの数字の達成。それから、新規事業を一刻も早く軌道に乗せることと、この問題の解決。あとは、この分野への着手に備えて布石を打って・・・」と長々と目標を聞かされたら、社員が混乱するだけでなく、肝心の自分自身が混乱しかねません。
●そこで、自分に対して定期的に、『Is this still valued?』(この目標はまだ本気?)という問いかけをしてみましょう。つまり、本当に価値があって新鮮な目標だけが、「目標リスト」に残されているようにするのです。逆に、まだ諦めてはいないが、実質的には達成にこだわっていない目標は、「ペンディングリスト」に回すのです。また、いつかはやりたいけど、今の段階では考える必要のないものも「ペンディングリスト」に入れておきましょう。
●「目標リスト」は今の瞬間、フレッシュなものばかりでなければなりません。
●決めた目標を、どこまで徹底してやりきるかどうかが企業体質を決めます。達成していない目標や着手すらしていない目標がたくさんあるのに、その上に新しいのが加わったりすると、文字どおり玉石混淆の「目標リスト」になってしまいます。そのままでは「悪貨は良貨を駆逐する」の言葉どおり、どうでもいいことが重要な目標を駆逐しかねません。
●『Is this still valued?』(これ本気?)というような目標に対し、「さあね」という答えが返ってくるような社風は払拭しなければなりません。『Is this still valued?』という問いに対して、『Yes!』と全員が声を揃えて返事してくれる会社にするのです。
●そのためには、「目標リスト」が常に新鮮で、整理されている必要があります。目標を毎月リフレッシュさせること、これが企業体質を決めるツボなのです。
2007年09月06日(木)更新
鉄は熱いうちに打つ
●この春もワンセグ対応の携帯電話を買ったのですが、いまだに使い方がよくわかっていません。買ったばかりの頃に、説明書を見ながらある程度の時間を投資しておけば良かったと、後悔しています。
●そういえば、私が経営コンサルタントとして独立した三年目のときも、こんなことがありました。
●ある日、使い慣れたワープロ専用機をお払い箱にして、パソコンセット一式を購入しました。当時、インターネットにはまだ興味がなかったので、パソコンにはもっぱら機能の向上を期待していたのですが、ワープロ専用機に比べてあまりに多機能なこともあり、かえって使い方に困った記憶があります。
●そこで、自分に時間とお金を投資することにしました。パソコン学校へ通うことにしたのです。
●そこでは、パソコン入門講座やWindows入門からはじまり、ワード・エクセル・アクセスといったMS Officeの講義などを経て、最後に応用・実践編といった具合でカリキュラムが進んでいきました。それと同時に、タッチタイピングソフトを買ってきて、一か月の間に毎日一時間以上練習をしたものです。ですので、今の私のパソコンレベルはほとんどこの頃に学んだものであって、それ以上でも以下でもありません。
●それから4年後、今度はインターネットに興味をもった私は、一週間オフィスにこもってホームページ作りを一人で行いました。それが今日の「がんばれ社長!」サイトの原型になっているのですが、この一週間がなかったら、メールマガジンを始めていたかどうかもわかりません。今の私からメールマガジンを取り去ったとして、一体なにが残るのかと思うとゾッとします。
●孫子の言葉に「兵は拙速を尊ぶ」というものがあります。何事も、グズグズしているとやれなくなってしまうことが多いので、タイミングをとらえて一気に事を運びたいもの。特に、完璧主義者は要注意でしょう。完璧さを求めるこだわりが、かえってグズの原因になります。
●『いまやろうと思ってたのに…』(リタ・エメット著、光文社知恵の森文庫)という本でも、次のような例が出ています。
ある営業部長が、新しいオフィスを飾るために、やる気スローガンが入った額を何万円分も買い込みました。ところが、引っ越しから5か月たっても、額は未開封のままで、オフィスの壁も殺風景な状態。
たかがオフィスの壁を飾るよりも大切な仕事がたくさんあるし、人にまかせるとどこに飾るかわからない。そうして延ばしているうちに、いつのまにかそれが、「やりたくない仕事」になってしまいました。理由は特にないのに、やりたくないのです。
ところがある日の昼休み、思い切って着手してみると、あっけないほど簡単に出来てしまい、オフィスの雰囲気は一変しました。部下はやる気にあふれたオフィスの雰囲気を称賛するのですが、部長は「この5か月間はいったい何だったのか」と思いました。
●「彫ることは彫りだすことだ」とはミケランジェロの言。同様に、「書くとは書き始めることだ」「作るとは作り始めることだ」などとも言えるのではないでしょうか。
2007年08月31日(金)更新
中小企業はもっとプロジェクトを
●タスクフォースとは、部門横断的に短期集中で問題解決にあたる組織のことで、日産自動車のゴーン改革で有名になったクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)もこれと同じと考えられています。一方、プロジェクトチームとは、タスクフォースよりも中長期的な組織として、プロジェクトの目的を達成させるためのチームとして、結成されることが多いようです。
●たとえば、ある地域に7つの店舗をもつスポーツクラブがあります。大手チェーンの寡占化がすすむこの業界のなかでは、かなりの好業績を残し、地域での評判もすこぶる良いそうです。このクラブは、通常の会社と同じように、営業、総務、人事、教務の四つで構成されているのですが、ユニークなことに、四つの組織とはまた別の、六つのプロジェクトチームが常設されていて、店舗や組織をまたいだ人の交流を図っています。
●そのスポーツクラブのプロジェクトチームの内容は以下のとおり。
1.会員新規開拓プロジェクト・・・新規の会員開拓
2.会員満足向上プロジェクト・・・会員の定着率向上
3.品質管理プロジェクト・・・サービスの質を高める
4.開発プロジェクト・・・新サービス・新メニュー・新事業の開発
5.人事構築プロジェクト・・・スタッフのやる気を高めるための人事制度
6.業績管理プロジェクト・・・各目標数値の進捗確認と対策
各チームは、月に1回から4回のペースでミーティングを開き、その議事録を「プロジェクト総括事務局」で一括管理した上で、グループウエアで社内に公開しています。
●事務局長を兼ねるのは、同社の専務だそうです。クラブにとって、この六つのテーマはとても大切なのですが、今まではルーチンワークに埋没して後回しになったり、通り一遍のやり方になっていたので、数年前から今のプロジェクトチーム方式に切り替えたそうです。
●ミーティングのたびに移動の時間や交通費が発生するようになりましたが、そうしたコストをはるかに上回るメリットが出ているそうです。部門を横断する交流があることで、メンバーは活性化し、成長スピードも早まるのです。
●たとえ結果に対する責任を負うのがトップ一人であっても、業務の遂行に対する責任者は複数にした方がうまくいくことが多いもの。プロジェクトチームにすることで、お互いに牽制しあったり励まし合ったりするチームワークの関係が生まれます。日本人には、個人主義でやるよりも、プロジェクトチームごとの連帯責任、こういうスタイルの方があっているようです。
2007年08月24日(金)更新
無私の人間関係
●その昔、坂本竜馬が同志の新宮馬之助に対し、「君は男ぶりがよいから女が惚れる。僕は男ぶりが悪いがやっぱり女が惚れる」と語ったように、古今東西、実力者が異性にもてるのは変わらないようです。
●これはなにも人間に限った話ではなく、たとえばサルの世界でも「メス猿にもてないオスは、群れのボスになれない」と言われています。そうなると、ボス猿ならぬ社長もやはり、異性からもてなければなりません。
●さて、どちらにしても異性からもてる必要がありそうなのですが、問題となるのは、そのもて方でしょう。もてることに汲々としてしまい、女性の心理学について書かれた本を読みあさったり、ナンパのテクニックだけを勉強しているようではすでに失格。あなたの本質とは違う表面的な部分で相手に好かれても意味がないのです。ありのままのあなたを見せ、それでもてるようになってこそでしょう。
●できる社長は社員からもてるものですし、できる営業マンはお客からもてます。異性としてもてるのか、取引先として信頼されるのか、担当者として可愛がられるのか、社長として尊敬されるのか、いずれにしても相手の心をつかむという点では似ています。
●私はこれまで、「実力のある人は例外なくもてるものだ」と思っていました。しかし逆に、「もてる人」が「仕事のできる人」かというと、必ずしもそうではないようです。
●先日、ある人材派遣会社を訪問したときのことです。「あそこにいるうちの社員は、お客さんにはとてもウケがいいのですが、社内ではどうも評判が良くないんです」という話を聞きました。実際にその人に会ってみると、たしかに営業マンとは思えないほどぶっきらぼうで、ひとクセもふたクセもありそうな人です。
●「お客さんには好評だけど、社内では不評」なんて、いったいどういうことだろうと最初は疑問に思いましたが、考えてみたら自分もそうだったではないか、とそのとき気づいたのです。
●誰でも外では外面(そとづら)が、内では内面(うちづら)があります。そのギャップ自体は、大小の程度の差はあれど、誰にでも多少はあります。言い換えると、外面と内面のギャップが少ない人ほど、自分に無理をさせない毎日を送っているとも言えます。
●人は誰でも、自らに魅力がないと思っていたり、自信がないときは外面を取り繕おうとします。同様に、自分が働いている会社や製品・サービスに自信をもてないときも、やっぱり外面を取り繕わなければなりません。
●かくいう私も、メルマガやブログをやる前は、顧問先を増やさないと売上が伸びませんでした。振り返ってみると、その頃は「経営コンサルタントなら専門家っぽくふるまおう」「尊敬されよう」「相談されよう」などと汲々としている時期でもありました。実力を誇示するため、いつも緊張して、夜の宴席ですらくつろげないほどでした。そのような状態ですから、一日の仕事を終えて帰宅すると、当然ドッと疲れます。
●でも、今は当時と違い、いつでも本音を出し、いつでもリラックスした状態でいます。なぜそうなったかというと、「私心」がなくなったから、つまり「無私」になれたからです。相手から何かの見返りを求めなくなったのです。
●「無私」になるためには、経済的にも精神的にも独立しなければならないのに加え、真の自信が必要です。無私の状態になるのは決して簡単なことではありませんが、これが営業のキモであり、リーダーシップのツボであり、異性にもてる秘訣だと、私は思うのです。
2007年08月17日(金)更新
名を好む病
●あるとき、師の助言をあおごうと、弟子のひとりが王陽明に向かって自分の考えを述べました。ところが、横から別の弟子・孟源が「その考えは、私が以前考えていた内容と同じだ」と口を挟みました。
●陽明は孟源に向かって、「お前の病気がまた始まった」と言うと、孟源は気色ばんで弁解しようとしました。しかし、陽明は再び「お前の病気がまた始まった」と言いました。今度は黙ってしまった孟源に向かって、「汝一生の大病根は、名を好むの病なり」と言い、次のようなたとえ話を言って聞かせたそうです。
あなたの存在をたとえて言うならば、一丈(3m)四方の狭い土地に植わっている、一本の大きな樹木です。仮に、その土地で良い穀物を栽培しようとしても、樹木の根が邪魔して、穀物の生育を妨げる。それだけではなく、枝や葉で穀物が成長するための日光もさえぎってしまう。あなたがそんな樹木のような存在になってしまっているのは、「名を好む病」が原因なのです。(『伝習録』より)
●この『伝習録』を愛読していた松下村塾の吉田松陰も、晩年自らをふり返った手紙のなかで、「名を好む病」がたびたび発病したことを告白し、反省しています。要するに思想と行動の純粋性に欠け、世間からの評判や喝采の方を先に意識してしまう病気です。
●私たちのまわりにも、ほめられたい、認められたいと強く思うがあまり、他人の目を過剰に意識している人が大勢います。そういう人は、自分がものすごく損をしていることに、気づいていないことが多いようです。
●企業経営において「名を好む病」とは何でしょうか? 会社の知名度をあげようと努力することも「名を好む」ことに入るのでしょうか。
●私は「否」だと思います。
●市場原理のなかで働いている私たちですから、知名度を上げてお客様に認知してもらわないことには、何もはじまりません。しかし、度が過ぎると、自社の実力以上によく見せようと、見栄を張ってしまうことがあります。そこまでくると、完全に「名を好む病」と言えます。
●ウシオ電機の牛尾治朗氏は、「『無名有力』の時代を経ないで有名になるということは、最も危険なことだ」と述べておられますが、その真意は、有名になることがいけないのではなく、実力以上に見せることが危険である、というものです。たとえば、経営者がマスコミにしばしば登場したり、成功のノウハウ本を書いたり、講演をしたりするのは、名を好むがゆえの行為である可能性が高く、危険だということです。
●『伝習録』のたとえ話や、牛尾氏の言葉から学ぶべきは、「『実力はあるのに無名』という時代を経ることを惜しんではならない」ということなのです。
2007年08月10日(金)更新
成果主義に欠けるもの
●かつて、社員の雇用維持と生活の保証が、経営者にとってのいわば義務になっていました。しかし、最近は社員にプロフェッショナリズムが要求される時代になり、「成果主義」や「能力主義」の名の下に、会社に貢献した分だけ、報酬を分配するという考え方になってきています。
●私は、成果主義・能力主義が普及していくこと自体は賛成です。ですが、そうした制度さえ導入すれば、優秀な社員が皆やる気になってくれる、と信じている社長には、警告を発したいと思っています。
●成果主義は、昔の西洋の農園で発達したものだといわれています。農地所有者は、収穫時期になると人手が足りなくなるので、臨時に人を雇うことで、すみやかな収穫を期待しました。ですが、給料を固定給や時間給で支払うと、個人の能力差が反映されないため、出来高で支払うことを考えました。
●そこで一部の農地所有者は、他の農園よりも早く収穫を終え、いち早く市場に出荷するために、労働者に対する出来高報酬率を引き上げて、彼らの勤労意欲をそそろうとしたのです。
●少しでも多くのお金がほしい労働者は、報酬率の高い農園にあっさり移籍しますが、お金にこだわらない労働者は移籍しません。たとえば、こっちの農園は、休憩があるとか、食事が付いているとか、人間関係が良い、などといった理由が、その代表格です。
●上記の例のように、賃金の単純な上げ下げだけが、人間の勤労意欲をコントロールできるわけではないとわかっています。
●では、賃金以外にどのような要素が人の意欲を左右するのでしょうか。それは、一言でいうと「やりがい」です。この「やりがい」を因数分解していくと、
・理念や夢・ビジョンといった目的意識を共有できる
・物理的、精神的に恵まれる職場環境が用意されている
・信頼や尊敬できる上司や経営者がいる
・研修や教育などを通じて、自分が成長できる
・自由裁量の余地がある
・仕事そのものが面白い
などといった要素があります。これらをうまく組み合わせて、突出した魅力を作っていけば良いのです。
●話をわかりやすくするために、読者のみなさんに質問をしてみましょう。あなたがこれからアルバイトをするとしたら、次のどの会社に申し込みますか?
・ヤマト運輸
・ディズニーランド
・マクドナルド
・ヒロセ電機
・牛角
・ブックオフ
・セブンイレブン
・ユニクロ
・がんばれ社長
●もちろんあなたの好みなので、正解はありません。これらの企業に共通しているのは、思ったほど時給が高くないことです。しかし、パートやアルバイターも、場合によっては社員以上の自覚をもって、働いているような会社です(一番最後は私の会社です。少々冗談気味ですが、まったくの冗談でもありません)。
●たとえば、東京ディズニーランド・ディズニーシーでは、正社員が2,500名、パート社員(準社員)が2万人が働いていますが、パート社員の時間給は1,000円前後です。マクドナルドのアルバイトは、最高ランクでも1,000円強。パートが生産現場を取り仕切るため、「パート王国」とも呼ばれるヒロセ電機ですら、時間給が1,000円を切る水準、といずれもけっして高い時給ではありません。(ただし、賃金データは少し古くて2002年のものです)
●これらの事例を見ると、パートの戦力化と賃金水準は、けっして強い相関関係があるわけではないと、ハッキリしてきました。もちろん、パートだけではなく、正社員にも同じことが言えるのです。
●以前、「日経ビジネス」にこんな記事が載っていました。マクドナルドのアルバイト歴が9年になるPさんは、28歳の大学院生なのですが、ASWと呼ばれるアルバイト社員の中における最高ランクまで上りつめたそうです。Pさんの時間給は1,050円。他にも時給が高いアルバイトがあるのに、なぜ9年も続けたのかという質問に、彼は「面白みの更新があったんです」と答えました。
●「面白みの更新」とは素晴らしい表現です。経験を積むごとに、新しい仕事・より責任ある仕事を任され、今では40人いるアルバイトの評価をする立場にあるそうです。彼の言葉こそ、社員戦力化の大きな鍵を握っています。
●「やりがい、面白み、楽しみ、喜び、感動」。これらすべてが更新されつづけるような会社でなければいけません。
●あなたの会社にどのような「更新」があるか、今一度点検してみませんか。
2007年08月03日(金)更新
無能集団を作る社長
●世間には、社員をあからさまに批判する社長がけっこう多いことに驚きました。逆に、決して部下や他人の批判をしない社長もいます。要するにそれらは、クセの問題でもあるのでしょう。もし、悪口や批判を言いたいのなら、本人に直接言うように心がけるべきです。
●しかし、それで解決できるほど、単純な問題ではありません。部下を批判する・しないというのは、単なるクセでは片付けられない、そうさせるような問題が別にあるのです。部下の悪口を言う社長は、悪口を言いたくなるような仕事のさせ方をしており、悪口を言わない社長は、悪口を言わずに済むような仕事のさせ方をしているものです。
●有名な「ピーターの法則」というものがあります。この法則の意味は、「階層社会にあっては、その構成員はそれぞれ無能のレベルに達する傾向がある」という、とてもコワイものです。もしかしたら、部下の能力を殺しているのは社長本人かも知れない、と考えてみることも必要なのです。
●ある社員が、日ごろの働き振りを認められて、課長に昇格しました。昇格してからも、さらに期待に応えてくれたる働きぶりでしたので、今度は部長にしてみました。しかし、部長としては「並」程度の仕事ぶりとなってしまい、取締役として経営陣に加えてからは、ほとんど「無能」に近い存在になってしまいました。
●こんなケースは決して少なくありません。行くところまで行きつき、その結果アップアップになっている人が管理職の大半を占めているのです。
●このように、人は成功し、出世するにつれて無能レベルに近づいていきます。また、このピーターの法則には、次のような「系」と呼ばれるものがあります。
◇系1・・・階層社会のすべてのポストは、時が経つに従って、その責任をまっとうできない従業員により、占められるようになる傾向がある。
◇系2・・・会社の仕事は、まだ無能のレベルに達していない従業員の手で遂行される。
とあります。
●一つの職場に何年も何十年も置いておく、ただそれだけで人は無能になります。そこからさらに、職位を上げていくわけですから、無能な人はアップアップになって当然なのです。
●部下の批判をする社長の会社では、このピーターの法則がはっきりと働いています。逆に、部下の批判をしない社長の会社では、ピーターの法則が働いていない場合が多いのです。
●社長としては、この法則が働かないように、未然に防止しなければなりません。そのために、例えば、人材の育成や流動化・活性化策が必要になります。
・体系的な社員教育の実施
・ジョブローテーション(定期的な配置転換)
・上司や部下、客先などの組み合わせ変更
●とにかく、日常をパターン化させない方法を考えることと、教育投資をし続けることが大切なのです。官庁のエリートは1~2年で異動すると聞きますが、それは理にかなっているといえるでしょう。
●このピーターの法則は、会社に限らずとも、なんらかの組織構成員であれば、誰にも当てはまります。そう、社長だって無為に過ごせば、この法則の例外ではなくなってしまうのです。他人の批判をする前に、まず自らをふりかえってみることが大切です。
2007年07月27日(金)更新
顧客満足は誰のため
●大垣日大高校の監督は、愛知・東邦高校時代に名将として知られた阪口慶三氏(62)です。東邦を定年退官されるのを機に、大垣日大高校が招聘しました。阪口監督が就任してから二年目の春で甲子園に出場した大垣日大高校は、「とにかく楽しめ、笑え」を合い言葉に笑顔のハツラツ野球でも甲子園を湧かせました。
●大垣市民にとっても、オラが町の高校が準優勝するというのは、「椿事」(ちんじ)です。しかしその椿事は、阪口監督を招いた同校の校長以下が、足並みを揃えて「本気で甲子園に行きたい」と思ったところからスタートしているのです。
●ひとりの名監督を招聘するということは、監督の人件費だけがコストになるのではありません。名監督であればあるほど、校長の本気さと協力体制を見極めるため、学校側に練習環境の整備から選手獲得まで、多岐にわたる要求を突きつけます。
●そうした障壁を乗り越えつつ、学校側も監督も本気の姿勢を見せることで、球児たちにもその気持ちが伝わります。なにせ、「甲子園」の経験がない学校ですから、本気で自分たちが甲子園に行けるとは思っていない生徒が多いはずです。そのような状況の中、監督に就任してから、わずか二年で準優勝という快挙には、驚かざるを得ません。組織はリーダー次第なのだと改めて痛感しました。
●そんなある日、友人が次のような話を聞きました。
●高級ホテルとして世界的にも有名な某ホテルが、東京進出を果たしました。ホテル好きの彼は、さっそくそのホテルに宿泊したのですが、ドアマンやフロントマン、レストランやベルボーイなど、すべての対応が良くできており、その極上のサービスに感動したそうです。その半年後、今度は家族も連れてそのホテルに宿泊したところ、その時のサービスは、前回のような「特上」ではなく、「やや上」程度のサービスに低下しており、彼はがっかりしたというのです。
●なぜだろう、と調べてみたら、この半年間でホテルのマネジャーが変わっていました。通常ホテルが外国進出を果たすときは、そのホテルグループのトップクラスのマネジャーを送り込むそうです。なのでその時期に訪れたゲストの大半は、特上のサービスを堪能することができます。しかし問題は、腕利きマネジャーが帰り、次のマネジャーに交代してからです。そのホテルでは、本来落ちてはならないはずの接客のクォリティが、落ちてしまったのです。
●もちろん、ホテルで働くスタッフは変わっていません。マニュアルも同じはずです。マネジャーの存在を除いては何一つ変わっていない。しかし明らかに接客レベルは低下し、同時に顧客満足度まで低下してしまいました。
●ここにリーダーの威力があります。残念ながら従業員の仕事ぶりというものは、上司が期待している水準以上には、なかなか上がらないのです。まして、部下から見て尊敬できない上司、嫌いな上司であれば、許容水準ギリギリの仕事しかしなくなるでしょう。
●以前のマネジャーのように、誰からも尊敬されるような上司であれば、その上司を喜ばせたい一心で最高のサービスを部下もするはずです。つまり、顧客満足の向上の背景には、上司を喜ばせたい、上司に認められたいという欲求が潜んでいることを見逃してはならないのです。
●私は、阪口監督の一件とホテルの一件から、次の結論を得ました。
・上司は、「甲子園へ行くぞ!」と選手を燃え上がらせた監督のように、部下の能力よりも高い水準の仕事を要求すること
・「監督を喜ばせたい、監督に認められたい」という選手のメンタリティを見習って、部下と濃密な信頼関係を築くこと
この二つが、上司に求められる大事な資質なのです。
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ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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