武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
2007年07月20日(金)更新
仕事の懐石料理化
●今回の旅で、一番印象に残ったのは料理でした。北海道へ年二回は行っている私ですら感動する魚介料理。道東は、ウニやカニなどの北海道ならではの魚や、野菜に恵まれており、知床の旅館でいただいた夕食は「過去最高」だったかもしれません。
●ちょうどハイシーズンに入りだしたのか、旅館はとても混んでおり、夕食会場は満席の状態。和食の懐石料理だったので、出てきた皿を平らげた頃に新しい皿が来るのですが、混雑のせいか、なかなか食べ終わった料理皿を片付けてくれません。
●幸い大きいテーブルなので気にしませんでしたが、食べ終わる頃には並んだ皿の多さにビックリしました。「こんなにも平らげたのだ~」という満足感と、「大食漢だなぁ」という嘆き。もし、最初からドーンと全部の皿がテーブルに乗っていたら、いくつかは残していたでしょう。小分けに出てくるからこそ、完食できたのです。
●その時私は、次の出来事を思いだしていました。
●N社長(41才)は内装工事を専門に請け負う会社の女社長です。6名の社員も全員女性で、独特の感性を武器にしているために、ゼネコン・サブコンからの信頼が厚く、業績も安定しています。
●その一方で、NさんにはTO-DOリストが増える一方だという悩みがありました。最近は、仕事がちっとも減らず、毎日夜遅くに仕事を終わらせても、「やった~」という達成感が味わえなくなっているというのです。
●「やるべきこと」や「やりたいこと」は、愛用のパームPCに全て入力してあるそうです。そうしてTO-DOを管理し、一日あたり数項目のリストを消化しているのですが、それを上回るリストが毎日追加されていくということでした。先日TO-DOが一体いくつあるのか数えてみたところ、プライベートなものを含めて500以上あったそうです。
●私のTO-DOの何倍もあったので、「それはおめでとう」と冷やかそうとしましたが、Nさんの真剣な表情を見て、ジョークは控えました。その後の二人の会話は、以下のようなものでした。
N氏:「助けて下さいよ、武沢さん。忙しいのは歓迎なのですが、時間管理がメチャクチャです。」
武沢:「秘書でも雇ったらどうですか?」
N氏:「えっ? 秘書ですか?」
武沢:「そうです。あなたが秘書を採用するとしたら、どのような秘書を雇いますか?」
N氏:「以前、秘書検定の勉強をしたことがあるのですが、ビジネスマナーとか接遇とかの一般的な内容でしたので、有能な秘書像が思いつかないのです。私が楽になるようなマネジメントをやってもらえたら助かりますねぇ。」
武沢:「社長が楽になるようなマネジメントって、具体的には?」
N氏:「よくテレビで出てくる有能な秘書みたいに、社長が目の前の仕事に集中できるように関係者との予定調整や諸連絡、雑用などを全てやってくれることですかね。」
武沢:「それは何のために?」
N氏:「社長が常に優先順位の高いことだけをやれるようにするためでしょう。今の私は、本来自分がやるべきじゃないことまでたくさんやっているような気がして・・・。」
武沢:「なるほど。では逆に、最悪な秘書とはどのような秘書だと思いますか?」
N氏:「外部から頼まれた仕事を何でもすべて引き受けて、社長の時間を混乱させるような秘書でしょうか。」
●さすが秘書の勉強をされたというN社長、本質をよく理解しておられます。社長がやるべき事に専念できる時間を、いかに作り出すかが秘書の腕のみせどころです。無能な秘書は、社長のスケジュールを予定で真っ黒にするでしょう。
●社長は、まず自分自身の有能な秘書でなければならないのです。旅館の懐石料理を思いだしてください。出される一皿ずつを食していく方が、満足感を得ながらたくさんの料理が食べられます。
●自身の仕事を懐石料理化しましょう。そのためには、朝昼晩10分ずつだけでも、立ち止まって考える時間を作るべきです。その時間で仕事の目標や予定などを確認し、TO-DOリストをメンテナンスすることで、以後の仕事がコントロールできるようになるのです。
2007年07月13日(金)更新
禁止・抑制・義務
○2つの原理
・自分の嫌いなことをしない(禁止・禁止の原則)
・自分にとって快いことをする(快の原則)
○3つのルール
・たとえ健康によいことであっても、嫌いなことは決してしない
・たとえ健康によくないことでも、好きでたまらない場合は、とりあえず禁止しない
・自分にとって快く、かつ健康によいことをする
●さらに本文には、
「これを踏まえて1日に1食は好きなものを好きなだけ食べてもOKです。我慢して苦しい思いをせずに、食べる楽しさや食事のおいしさを満喫しながら、ダイエットによるストレスを減らし、自然とやせるカラダを手に入れましょう」とありました。
●意志の力よりも数倍強い、本能の力を味方に引き入れることで、ダイエットしようという作戦なのですが、これらの原理・ルールは、経営や人生に積極的に応用するべきでしょう。
●私たちは失敗しないために努力するのではなく、成功するために努力するのです。「○○したい」という内的な欲求があるからこそがんばれるのであって、決して「××したくない」という恐怖感や外的要求に屈してがんばるのではありません。
●先日、『2007年版新規開業白書』を見ていたら、すこし気になるデータがありました。「開業にふみきった直接のきっかけは?」という問いに対する回答内容だったのですが、そのなかで第一位の理由(20.4%)は、「勤務先に不満・不安があったから」というものでした。
●「○○したい」という積極的な理由ではなく、「このままでは不満や不安があるから」という消極的な理由で開業する人がトップであるということに対し、懸念せざるを得ません。
●もしかすると、背景には団塊の世代をはじめとする中高年が、一気に定年をむかえるという事情があるのかもしれません。ですが、「年金だけでは足りないから、やむなく開業した」というネガティブな理由では、開業してもうまくいきません。「○○したいから開業した」というポジティブな方向に自らを変えていく必要があります。
●経営者も同じです。事業計画書や経営方針書を毎年作るのは、「○○したい」という目的や目標を、いつも最新の状態に保つためです。冒頭のダイエットの原理と同じく、あなたの本能の力を味方にするような、モチベーション管理を行う必要があるでしょう。
●BOOCSダイエットの本には、「××したくない」「△△せねばならない」という禁止や抑制、義務感がたくさんある毎日を送っていると、「脳疲労」という現象を起こす、とありました。大切なのは、自分に厳しいだけではなく、時には脳に優しくしてあげることなのです。
2007年07月09日(月)更新
脱・ボヤキ
●利害関係のない者にとっては、ボヤキを聞くのも悪くないのですが、ボヤかれた当事者にとっては、たまったものではないでしょう。
●「またあいつか。武沢さん、うちのA社員にはホトホト手を焼いているのですよ。」などと、部下への不満と憤りを、ところ構わずぶちまける社長がいる一方、そうした個人批判をほとんどしない社長もいます。
●統計を取ったわけではありませんが、社長が社員の不満を言わない会社ほど、人材が定着して育っていき、組織的な経営が可能となっているようです。
●もちろん人間ですから、誰だって部下の仕事に対して、多少の不満はあるに違いありません。社長からみれば、下手な仕事をされるより自分がやった方が、早くかつ上手にできるという気持ちになる時だってあることでしょう。
●しかし、会社は社長の下請け集団ではありません。ある分野においては社長よりも能力がある社員を仲間に引き入れ、理念と夢の実現にむけて共同で向かっていくのが会社です。
●したがって、創業時にありがちな「俺についてこい」「俺を手伝ってくれ」方式のリーダーシップでは、優秀な社員は定着しません。徐々にではありますが、組織づくりのためのリーダーシップに方向を変えていく必要があるのです。
●「組織づくり」はすなわち「人づくり」です。社長自身の「人材育成力」を開発していかねばなりません。
●会社の規模が小さいうちは、その社員が「好きか嫌いか」というのが、重要な採用ファクターだと思います。もし、生理的に好きになれない社員を採用してしまったら、その社員がミスしたときに、指導より攻撃が先になってしまうでしょう。だから、好きな人を入れるのは大切なことです。
●しかし、「好きか嫌いか」という採用基準は社員数が10名までのこと。それ以上になると、別のファクターが求められます。それは、価値観が共有できるかどうか、仕事ができるかどうか、です。
●社員数が二桁や三桁になる頃には、社員を思いのままに使おうというのはやめ、目標や規律が自分たちの共通の絆となるよう、リーダーシップを切り替える必要があります。
●特に中小規模の会社には、個性あふれる人材がたくさんいます。オール4の優等生タイプを使うのは大企業にまかせ、多くの1や2に混じって一個だけ5があるといった、大企業に入れず在野にあふれている人を、上手に使っていくのです。
●そういう人を採用し、定着させ、人材として活用していくためには、社長にも粘り強い指導力が必要です。感情をぶちまけたり、ボヤいたりするのは我慢して、長所を誉めて伸ばすという心構えを大切にしましょう。
2007年06月29日(金)更新
文官を召し抱える
●戦国武将の物語や中国の歴史物を読んでいると、必ず合戦の場面が出てきますが、その中で戦(いくさ)上手といわれている武将は、輜重(しちょう)隊などと呼ばれる補給部隊のリーダーに、優れた人材を配置しています。
●戦は武将だけでは勝てません。兵隊集めやその移動、武器弾薬・食料の輸送、資金調達などといった、裏方の戦略も勝つための重要な要素です。つまり、戦をする武官と裏方をつかさどる文官のそれぞれで、有能な武将を抱えていることが勝どきをあげる条件なのです。
●経営も同じです。企業にとっての武官とは、営業部門や技術部門の人材。文官とは、総務・人事や財務・経理など、総称して管理部門の人材です。会社によっては、「直接部門」「間接部門」という表現を使うこともあります。
●いろいろな会社を見ていて気づくのは、強い会社は必ず武官だけでなく、有能な文官を抱えているということです。
●私の友人であるA社長(49歳)の会社は、社員数17名。社名はA建設工業といい、建造物解体と産業廃棄物の中間処理を営んでいます。年商は10億を少し切るのですが、売上高税引前利益率は毎年5%前後を計上するなど、優れた財務体質の会社です。A社長は8年前、産業廃棄物の分野に参入した時点で優れた文官を採用しました。
●この文官であるB経理部長(51歳)が大変有能なのです。以前は役所に勤めていたほどの事務処理能力の高い人物なのですが、民間企業に必要な財務・経理からパソコン、総務・人事、労務においてまですべて独学で勉強し、業務をこなしていきます。
●攻めが大好きなA社長と守り重視のB経理部長の意見衝突はたびたびありますが、あくまでも衝突であって、対立ではありません。A建設工業が優れた財務体質を有しているのは、優秀な文官であるB経理部長を重用してきた、A社長の見る目があってこそでしょう。
●一方で、千人近い社員数規模でありながらも、ほとんど文官が存在しない会社もあります。つまり役員以下、幹部のほぼ全員が武官なのです。
●一応、何名かの文官がいるにはいるのですが、評価が低い社員ばかりで構成されています。当然そんな会社ですから、「賃金制度の改革をやろう」となっても、外部コンサルタント頼みになり、改革が完成しても運用がうまくいきません。武官揃いの幹部構成では、管理部門が弱くなってしまうのです。
◇コストダウンできない会社は、管理が弱い
◇人が育たない会社は、管理が弱い
◇優秀な人がとれない会社は、管理が弱い
◇労務に問題を抱えている会社は、管理が弱い
◇社長の方針が徹底しない会社は、管理が弱い
◇成長が止まった会社は、管理部門から弱体化する
●「管理部門を強化するには、優秀な文官を召し抱える」ということを忘れてはなりません。
2007年06月25日(月)更新
黄金の日々の始まり
「武沢さんはメルマガやブログで活躍されていますが、私は住宅業界だけで生きてきました。本当は住宅関係の記事を書く、プロのブロガーになりたいと思っているのですが、自分の経験や知識だけでは足りなくて、他人様に認めてもらえるようなものは書けそうもない」
●彼はどうみてもまだ60歳手前。前途洋々たるビジネスマンなのに、「できそうもない」と言うとは、なんて消極的なのだろうと思いました。
●もしかすると、他人の凄いブログやメルマガを見て、気後れしておられるのかもしれません。確かにすごいブロガーって言われている人はたくさんいますが、最初はみなさん見よう見まねのヨチヨチ歩きだったと思います。
●ところで、一生涯の持ち時間は約70万時間あるといわれています。その計算根拠は平均寿命が80年として、24時間×365日×80年=70万800時間というわけです。その中から仕事に割ける時間は、わずか10万時間。総持ち時間の7分の1しか私たちは仕事をしないのです。
●たとえば、上場企業のサラリーマンだったら、年間労働時間数2,200時間×定年までの40年間勤務として8.8万時間となります。中小企業で働く社員でしたら、もう少し多くなって年間3,000時間労働×40年勤務で12万時間。どちらにしたって、8.8万~12万時間という範囲内でしか仕事をしないのです。
●10万時間と一口に言っても、あまりに大きい単位なのでピンと来ないかもしれません。そこで、仮に一日24時間のすべてを仕事に回して不眠不休で働くと仮定すると、80年の生涯で12年間しか働かないという計算になります。
●同じように計算をすると、私たちは80年の生涯を次のように使っていることになります。
睡眠・・・・25年
学校・・・・ 3年
その他・・・40年(休日、生活、家族や友人との時間、自由時間)
●こうしてみても、やっぱり仕事時間は短いと言えます。学校で勉強する時間と仕事する時間を合計したとしても、それでも15年間に過ぎません。しかし、この15年間の過ごし方が、他の人生時間に多大なる影響を及ぼしている訳ですから、大切に使いたいものですね。
●ちなみに、この計算には一つトリックがあります。それは、60歳で引退するという古い前提にたっているのです。そこで、終生現役をめざす中高年のみなさんに、残り時間はまだまだたっぷりあるぞ、というお話をしようと思います。
●例えば私の場合、今年で53歳になりました。仮に80歳までバリバリと働くとすると、人生の残り時間が27年となり、次のような計算ができます。
・人生の残り総時間は、236,520時間(24時間×365日×27年)
・睡眠時間は、68,985時間(7時間×365日×27年)
・仕事時間は、67,500時間(10時間×250日×27年)
・休日は、52,785時間(17時間×115日×27年)
・他の生活時間・自由時間(47,250時間)
●この計算結果を簡単に要約すれば、睡眠7時間、仕事7時間、他の自由時間10時間(合計24時間)という一日を27年間繰り返すということになります。これから27年間、一日も休まずに7時間労働して10時間の自由時間があるのです。なんて素敵なことでしょう。
●まだまだ結構仕事ができるもの。もちろん、仕事ではなく、趣味やライフワークに打ち込んでも構いません。
●60歳で引退するのではなく、終生現役でいくと決めたら、まだまだ使える時間はたっぷりあります。むしろ、若いころと違って、子育てが終わり、家族サービスもほぼ終わった中高年にとって、睡眠時間以外の全時間が自分のものとなるのです。
●子どもや家族サービス、親戚や地域活動などといった、社会的雑事に割かれてきた時間の多くが、これからは自分のためだけに使えるという新事実に気づいてほしいのです。
●残された人生時間のマネジメントを上手にやれば、今からライフワークの一つや二つものにできるはず。ヘッセが言うような「人は成熟するにつれて若くなる」という人生を送るのも自由。他人の手助けを受けながら老醜をさらすのも自由。選ぶのはあなたなのです。
●若いときと違い、金も時間も経験もある中高年こそ、人生でもっとも自由度が高い黄金期だと私は思います。そんな時期を大切に過ごすために、今から人生計画と人生ビジョンを作る必要があるでしょう。
●もちろん、冒頭の紳士にもそのようなお話をしました。そして彼は今、すでに毎日欠かさず1記事を執筆するブロガーになっておられます。これを一年続けたら、間違いなく人気ブロガーになられることでしょう。
●やるべきこと、やれることはまだまだ多いのです。
2007年06月15日(金)更新
マーケットイン
●品質を向上させながら、価格を下げていくわけですから、お客の立場としてはこれほどありがたいことはありません。実際に、「より良い品をより安く」という言葉をスローガンに掲げている会社やお店がどれほどあるのかGoogleで検索してみたところ、なんと11,200サイトがヒットしました。
●しかし、「より良い品をより安く」が常に正しい経営戦略だと思うと大間違いで、一部の業種業態ではそのスローガンを捨てた方がよいこともあります。
●「より良い」「より安い」とは、あくまでも現状と照らし合わせての話です。今までにない、まったく新しいものを生み出そうとする会社にとっては、「初めてのものをより高く」という考えの方が適切でしょう。
●マーケティグに使われる用語で、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という言葉があります。「プロダクトアウト」とは、作ったものを売る、という生産者側の視点に立った言葉ですが、こうした自己都合の考え方では、会社は先細りする恐れがあります。一方、「マーケットイン」はその反対で、消費者の視点に立って商品作りを行なうことです。
●「従来の製品よりも高品質で、かつ低価格で提供しているのに全然売れない」ということがよくあります。例えば、素晴らしい品質の草鞋(わらじ)を一足100円という圧倒的な安さで提供したとしても、うまくいきません。製品そのものが顧客ニーズから逸脱してしまったわけですから。
●私たちは「マーケットイン」の発想をもちたいものです。そのための方策は、お寿司に例えると「並」と「上」の2つがあります。
「並」とは、顧客の意見や要望を取り入れそれに対応すること
「上」とは、顧客のニーズをくみ上げ、先回りして提案すること
「並」のことをやっている会社は顧客対応型企業、「上」のことが出来ている会社は顧客創造型企業と言えそうです。
●あるレストランが、市場調査会社に依頼して近隣住民から聞き取り調査を実施しました。その結果をもとに、最大公約数的なニーズを拾い集め、メニュー表にそれを反映しましたが、業績は振るいませんでした。マーケットインをやろうとしたまでは良かったのですが、「並」の方策を選んでしまったからです。
●プロダクトアウトでは問題外ですが、マーケットインでも「並」の方策では勝てません。マーケットインの「上」だけが勝てるのです。そうした視点で、あなたの事業活動がどのように進められているか、もう一度見直してみましょう。
2007年06月11日(月)更新
夢を語る
●歩きながら私は、「A産業さんって、どのような会社なのですか?」と聞いたところ、彼はほんの一瞬、間をおいた後、こう言ったのです。
「夢のある会社です!」
●私は思わずうなってしまいました。このようなセリフは、そう簡単に言えるものではありません。会社のビジョンと社員のやり甲斐とがリンクしているからこそ、出てくるセリフではないでしょうか。
●夢とは、誰かに与えられるものでなく、自ら作るべきものです。同様に、会社のビジョンも社長から与えられるばかりでは、優秀な社員ほど嫌になります。なぜなら、社員もビジョンを与えられるのではなく、作ることに参加したいと思っているからです。冒頭の彼が「夢のある会社です」と胸を張って言えるのは、きっと会社のビジョン作りに参加できているからに違いありません。
●話は変わりますが、私が20代の頃、毎月のようにお見合いをしていた時期がありました。最初は初対面の女性の前で緊張して、話題もとぎれがちでしたが、途中から作戦を変えました。
●自作の「人生25か年計画」を初対面の女性に話すようにしたのです。具体的に言うと、大学ノートに書きためたビジョンを熱心に語りました。その結果、それまでとは明らかに違う反応が返ってきました。
●いわゆる「ドン引き」というやつです。私が、自分のビジョンを熱っぽく語れば語るほど、彼女たちは逆に引いていくのです。最初はその理由がわからず、「きっと、計画のどこかが甘いからだろう」と思い、ますます詳細な計画を作っていったのですが、うまくいきません。
●そんなある日のことです。いつものように通り25か年ビジョンを語り終わったあと、女性からこのような質問をされました。
「それで奥さんは何をすればいいの?」
●私はこの質問を聞いたときにドキッとしました。とっさに、「できれば家庭を守って、家事に専念してもらえれば、ありがたいと思います」と答えながらも、男の自分が未来を全部切り開いていくものだ、と気負っていたことに気づいたのです。私はその女性に、理想の家庭像を聞き、自分の考えも述べました。それが今の妻です。
●経営でも同じことが言えます。詳細で完璧な計画を作れば作るほど、優秀な社員はかえって引きます。ある会社では、毎年一回、社内論文大会を開催しています。主眼はあくまで業務の改善改革ですが、論文のテーマは自由に設定できることとし、優秀作品の執筆者は、無料で2週間の米国企業視察旅行に派遣する、というものです。最初の頃はほとんど応募がなく、社長も困ったそうですが、10年たった今では、全社員のほぼ8割から応募があるほどのイベントになりました。
●最近では論文に限らず、小説やマンガ、映像、歌なども受け付けていて、昨年の受賞作品は、「2015年宇宙への旅」と題した会社の未来予想小説だったそうです。
●さて、あなたの会社の社員は、社外の人から会社のことを尋ねられたら何と答えるでしょうか。気になるところですね。
2007年06月01日(金)更新
仕事はすべてが「顧客へのサービス業」である
●最初にやって来たのは冴えない雰囲気のB君です。彼は、事前に依頼しておいた条件に沿った見積書を持ってきました。価格は想像よりちょっと高かったのですが、おおむね内容を理解できたので20分ほどで打ち合わせは終わりました。
●次にやってきたのがA君です。見積書を提示しながら説明するところまでは、B君と同じです。ところがそこから先が大きく違いました。的を射た質問を連発して私の業務の内容や今後の構想、現状で困っていることなどを実にうまく聞き出すのです。
●こうしてA君は、その日の見積り案件以外に、いくつかの課題を私から持ち帰ることに成功しました。印刷が必要になる他の案件を抱えていた私にとっても、一度に複数の用件が済んで助かったのです。
●私が伝えた案件の処理だけで終わったB君に比べ、A君は、一歩進んで顧客を理解しようとしました。仕事の案件に興味があるのか、顧客に興味があるのか、興味の持ち方によって仕事ぶりは大きく変わります。目の前の受注を取りたいという気持ちも大切ですが、お客様のために役立ちたいという気持ちはもっと大切なのです。
●先日、設計事務所を訪問したときにも同じような出来事がありました。この会社は最近、大手ゼネコン出身者を営業部長として採用したばかりです。彼は入社早々、顧客からある不動産物件について問い合わせを受け、その土地を所有する大手運輸会社を訪問しました。
●普通の営業マンならその物件だけを話題に交渉して結果を持ち帰るはずです。ところが、彼はそうしませんでした。その大手運輸会社が保有するすべての遊休土地リストを入手して持ち帰ってきたのです。もちろん、日本中のリストです。
●営業マンには、発注者と受注者、買い手と売り手という立場を超越したものの考え方を教えましょう。自社の製品やサービスをお客様に売ることが営業マンの仕事ではありません。“お客様の問題解決や潜在的な願望の実現のために自社がある”ということを、営業マンに叩き込むのです。言い換えれば、こういうことです。
「ビジネスはフィフティ・フィフティだ」
「ビジネスはギブ&テイクだ」
●冒頭のB君は、いまも見込み客を探して日夜奔走しているに違いありません。かたやA君は、顧客と太いパイプをもち、信頼関係を結ぶことで充実した仕事をしていることでしょう。
●印刷とは、顧客の望みを実現させるための一つの手段に過ぎません。にもかかわらず営業マンの意識と行動によって、これだけの差が生まれるのです。製造業も建設業もサービス業も飲食業も、およそ事業と呼ばれるものすべてが「顧客へのサービス業」だということを、決して忘れてはなりません。
2007年05月25日(金)更新
リーダーシップを発揮するために
ある日、父親から会社を受け継ぎ、先月社長に就任したばかりのA社長からこんな相談を持ちかけられました。
「社長業って、部門間の利害調整や意見調整がけっこう大変なのですねえ。」
私は「そうなんですか」とは言いながらも、彼の発言に違和感を覚えずにはいられませんでした。
●社長はリーダーです。マネージャーではありません。リーダーとは文字通り、組織を目的に向かってリードしていく人です。ですから、常日頃からリーダーシップを発揮しやすい組織や環境、風土を作る必要があり、そのための人間関係というのが、とても大切なものとなります。ふだんの何気ない人間関係がそのまま、リーダーシップの土壌を作り上げていくのです。
●ドラッカー教授が書いた次の一節が、とても私の印象に残っています。
――私が知っているなかで最もよい人間関係をもっていた者はだれかと問われるならば、次の3人をあげる。第二次大戦中のマーシャル将軍、1920年~1950年代半ばにGMのトップを務めたアルフレッド・スローン、スローンの年上の部下で不況のさなかにキャデラックを豪華車として成功させたニコラス・ドライスタットの3人である。彼ら3人は、これ以上違いようがないほど違っていた。
(中略)
その彼らが3人とも、同じように部下たちから深い献身と愛情をもたれていた。3人とも、それぞれの仕方で、上司・部下・同僚との関係を築いていた。3人とも、仕事の必要上、多くの人たちと密接な関係をもって働き、気を配った。
もちろん3人とも、人事については厳しい意思決定を行わなければならなかった。しかし、彼らのうちの一人として、人間関係に悩むことはなかった。彼らは、人間関係を当たり前のこととしていた。――
(※P.F.ドラッカー著『経営者の条件』(ダイヤモンド社刊)より)
●社長は、社内の人間関係のストレスを当然のこととして、受け止めねばなりません。時には辛い決定や、厳しい決断も必要でしょう。しかし、だからと言って落ち込んだり悩んだりする必要はありません。なぜなら、それこそがリーダーの仕事だからです。
●たとえばプロスポーツの場合、「勝つ」ことが監督と選手の共通目標です。ベテランバッターがスランプに陥っている場合を考えてみましょう。監督は「打席に立つことでスランプを脱出できれば」と思っていても、成績が振るわない選手は試合に出しません。温情をかけたことで負けてしまっては、チーム全体に迷惑がかかるからです。
●会社経営も同じです。特に中小企業経営には、大企業ではマネできないような俊敏な経営という武器があります。それは、まさしく社長の強いリーダーシップがあるからこそできる芸当なのです。
●それには、社長の思い通りに一糸乱れぬ動きをする組織作りが必要です。社長は思いきりワガママになって、好きな部下と仕事をして、自分に望むように働いてもらい、望ましい結果を出させるべき存在なのです。
●決して嫌いな人がいてはいけません。もし、部下の中に「あの社員は嫌いなのだけど、仕事ができるので我慢して使っている」という人がいたら、それは社長のリーダーシップを曇らせ、社長自身のテンションだって最高潮にはなりません。つまり、好きになれない人は雇うべきではないのです。
●もう一度言います。社長はリーダーシップを発揮しましょう。そして自分の望むような経営が可能となる組織を、日頃から作っていくのです。それが社長の仕事、責任なのですから。
2007年05月21日(月)更新
責任の行き止まり
●「会社組織における最終責任者は、社長である」ということは、もはや言うまでもないでしょう。
●では、幹部や社員には責任転嫁する相手がいてもいいのでしょうか? 時と場合によっては、幹部や社員の席にも「責任の行き止まり」カードをぶら下げておく必要があると思うのです。
●「おっかしいなぁ。なぜこんな結果になるのか、理由を聞かせてくれ」
靴販売の「シューズマート田仲(仮名)」の田仲社長は、経営会議の席上でそう言って、眉間にシワを寄せました。その理由は粗利益の急激な落ち込みです。3か月前に改装したばかりの本店の粗利益が29%から22%にまで低下したのです。
●「シューズマート田仲」は本店の改装オープンにあわせ、外国製の低価格シューズを目玉商品に据えました。このシューズ自体の粗利益は40%あり、他の定番商品を値下げ販売しても、最終的には全体で30%を超える粗利益が出るはずでした。それなのに、結果が22%というのがどうにも解せないというのです。
●この会社の役員は、社長、専務(奥さん=経理担当)、仕入部長、店舗運営部長、総務部長の5名です。商品価格の決定権は仕入部長にありますが、値下げする権限は店舗運営部長にも与えられています。また、7店舗それぞれの店長にも値引きをする裁量が与えられているのです。田仲社長は「いったい、だれの責任だ?」と続けました。
●社員数が増え、組織として仕事をこなすようになると、責任の所在があいまいになることがあります。
●この会社の場合、本来なら粗利益責任は仕入部長にあるはずです。店舗での値下げ権限があるとは言え、それらを常に把握して粗利益をコントロールする責任があります。しかし、仕入部長は仕入れのための出張が多く、社内にいることはめったにありません。外国出張も多いため、この件について責任を追及するのは気の毒だ、ということは社長もわかっています。
●一方、店舗運営部長も7つの店舗の指導で忙しく、粗利益の低下をリアルタイムで把握することは困難な状況にありました。販売促進の企画に加え、チラシや販売マニュアルの制作など、同じく多忙を極めているからです。
●この場合、二つの視点が必要です。一つは、社長が発した質問の通り、「誰の責任か?」という視点。もう一方は、「何が原因で、どうすれば改善できるのか?」という視点です。多くの会議に参加して気づくことは、「何が原因なのか?」という議論は必ずされますが、「誰の責任か?」という議論が足りないことです。どうすれば改善されるかを論じる前に、まずは誰の責任なのかを明確にしておくべきでしょう。
●会議では次のような結論が出ました。
1.これまでは、粗利益をコントロールする責任の所在が曖昧であった。
2.今後は、毎週月曜日に専務が販売集計表を作成し、各役員に配付する。
3.各役員は、その集計表をもとに問題を発見して解決策をレポートにまとめ、火曜日の経営会議に提出する。
4.それに伴い、月曜日に開催していた経営会議を火曜日に変更する。
5.売上高は店舗運営部長、粗利益と在庫は仕入部長、経費は専務を、それぞれ最終責任者とする。
●責任の所在を曖昧にしたままでは、組織全体としての問題を議論しても真剣味に欠けるのです。もちろん、すべての結果に対する最終的な責任は社長にありますが、個々の現象に対しては社長が最終責任者なのではありません。役員や幹部なのです。
●明日の経営者を育てるためにも、幹部に責任を負わせることを避けてはなりません。たとえば、「粗利益責任の行き止まり」「売上高責任の行き止まり」というようなカードを作って、天井からぶら下げてみてはいかがでしょうか。
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ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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