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2007年02月23日(金)更新

人材に関するインフラ整備<その2>

●あなたは、これまでの人生経験のなかで「この人のためなら死ねる」という思いを持たれたことはあるでしょうか。人が理想や主義・主張に対して命を賭ける行為の裏には、きっと「人」の存在があるはずです。

●私は20才代の頃に、それに近い思いをもてる上司に出会うことができました。その会社の経営理念は「顧客第一主義」でしたが、お客様のために死ねるとは思っていませんでした。上司のために死ねる、と思っていたのでお客様に尽くしました。

●不純かも知れませんが、大なり小なりそうした属人的な面が、企業経営のなかにはあるように思います。いつの時代でも、「人間と人間の絆が一番強い」と思いたいものです。

●さて前号から、優秀な人材の獲得とその定着・育成をはかるための諸条件を6つのインフラに分けてご説明しています。この6つの合計値の高さが企業力を左右すると言っても良いでしょう。

1.採用インフラ・・・求人採用に関する基盤
2.組織インフラ・・・組織を運営するための規則・規定などの基盤
3.環境インフラ・・・仕事をしやすい職場環境基盤
4.人間インフラ・・・目標とすべき先輩・上司の存在という基盤
5.育成インフラ・・・人を育てるための基盤
6.ビジョンインフラ・・・人の情熱や意欲をかりたてるための基盤

前回は「採用インフラ」についてかなり詳しく説明しました。今回はその続です。
2.組織インフラ・・・組織を運営するための規則・規定

「今日の社長の機嫌はどう?」などと社員が社長の顔色を見ながら仕事をしているようでは困ったもの。社員も社長も一緒になって目標を目指して仕事をするチームワークが、会社には必要なのです。

●では、経営者が他人である従業員を雇用し、組織を維持管理していくためにはどのような諸規定が必要になるのでしょうか。

●大きい書店に行くと、『会社規定全集』のような類の本を売っています。社内で必要になりそうな書式や規定類が網羅されているので、そうしたものを参考に必要な「組織インフラ」としての規定・規則・書式などを一気にそろえてしまいましょう。

3.環境インフラ・・・仕事しやすい職場環境の整備

●製造業では「労働装備率」といって社員一人あたりの固定資産額を計算しています。この労働装備率の向上は、生産性の向上に直結することがわかっています。

●非製造業にあっても基本は同じはずです。たとえば、パソコンのハード、ソフト、営業車両や駐車場などなど、快適に仕事をするうえで理想となる状態を紙に書き出し、着々と労働装備率を高めていく配慮が、勤労意欲や生産性に直結しているのです。

●そうしたことは、当然既存社員のみならず、今後出会う未来の社員に対する訴求点にもなるはずです。

4.人間インフラ・・・目標人物やライバルが社内にいること

●目標となりうる上司・先輩がいることや、同期の仲間やライバルがいることなどが、社員に力を与えてくれます。

●定期的な社員アンケートなどで、「尊敬している社員は誰ですか」という項目を設けて調査している会社もあるほどです。この会社によると、最初のうち、アンケートの回答のほとんどを「社長」が占めていたそうです。ところが、数年後には「部長」や「課長」の名前が登場するようになりました。「人間インフラ」が徐々に充実していったのです。

●尊敬できる先輩や上司が社内にたくさんいることが強い会社の条件ですし、尊敬される彼らがさらに尊敬しているのが社長であれば、申し分ありませんね。

5.育成インフラ・・・人を育てるシステムがあるか

●新入社員を採用したら、労働生産性が極端に悪化する会社があります。つまり、新人が戦力になるのに時間がかかり、最初のうちはタダメシを食べているというわけです。

●新人が戦力になるのに要する期間は、業種によって異なります。また、同じ業種でも企業によって歴然とした差があるのも事実です。業務マニュアルの充実、先輩によるOJT、権限の委譲がどの程度なされているか、研修教育制度がどの程度整っているか、といった人材育成に関するインフラが、人の能力開発や定着問題をも左右しているのです。

6.ビジョンインフラ・・・社員は会社に夢を感じているか

●「ビジョンインフラ」とは、会社として夢があること、先輩上司が夢のある仕事ぶりをしている事などを指します。

●先日、遠方にある会社を訪問したときの出来事。途中で道に迷い、近くを歩いているビジネスマンに道を尋ねました。偶然にもその人は、その会社の社員でした。ともに歩きながら、「どんな会社ですか」と尋ねると、「夢のある会社です」という答えが返ってきました。会社に夢があり、それが社員と共有できている証拠です。



先週から引き続いて2回にわたったお届けした6つのインフラは、人の採用・定着・育成に直結するものです。一歩一歩確実に基盤整備していきたいものですね。

2007年02月16日(金)更新

人材に関するインフラ整備<その1>

●企業経営の基盤を確固たるものにするためには、優秀な人材の獲得とその定着・育成が欠かせません。つまり、求人活動から始まって、採用・定着・育成に至る一貫したインフラ(基盤)を整備していくことが求められるのです。

●そうした「人」にまつわる一連のインフラを、次の6つのグループに分類しました。この6つの合計値の高さが、「企業力」を左右すると言っても良いでしょう。

1.採用インフラ・・・求人採用に関する基盤
2.組織インフラ・・・組織を運営するための規則・規定などの基盤
3.環境インフラ・・・仕事をしやすいハード・ソフト両面の環境整備基盤
4.人間インフラ・・・目標とすべき先輩・上司の存在という基盤
5.育成インフラ・・・人を育てるための基盤
6.ビジョンインフラ・・・人の情熱や意欲をかりたてるための基盤

今週は、もっとも重要と思われる「採用インフラ」に絞って詳しく説明しましょう。
「人材獲得合戦からバトルが始まっている」。これが私の考えです。
●プロ野球では、シーズンオフになると同時にFAやドラフト、トレードといった「人」の動きが活発になります。この期間中に効果的な補強ができたチームが、次年度のシーズンを有利に戦えるのです。

●球団としての選手登録人数枠が決まっているなかで最高の布陣を敷くために、フロントやスカウトが何年も前から学生や社会人と接触して、人材獲得競争に血道をあげています。

●他方、一般企業には登録選手枠がありません。あるとすれば、あなたの会社の要員計画の数値だけなので、予算があれば何人獲得しても構いません。逆に、予算がなければ補強しなくても構いません。

●そもそもビジネスには、シーズンオフという概念がありませんから、通年で好きなときに補強できるのも特徴です。

●人事部がない会社や、あってもその規模が1~2名の会社では、社長自らが採用活動のリーダーシップをとるべきでしょう。とりわけ中小企業では、一人の人材に対する依存度がきわめて高いので、優秀な人材を獲得できるかどうかが、その後の栄枯盛衰を決めると言っても過言ではないのです。

●採用活動を進める上で大切と思うことを列挙してみました。そして、これらは人事担当者任せではなく、経営者が自分自身で決めるべきことです。

①獲得したい人材像を具体的にイメージする
②求人予算の決定する
③採用媒体の選択と、自社の魅力を存分に表現した広告誌面づくり
④インパクトが大きい会社説明会の企画・運営
⑤企業訪問や手紙のやりとりなど、面接以外の方法により採用活動

●採用で真っ先にすべきは、欲しい人材のイメージや人数を決めることです。たとえば中途採用の場合、

「30~40歳の営業管理者。建設業界での営業経験者で、設計図面が読めること及びパソコンが使えること。健康で情熱的なプラス発想の人。年収は500~600万程度を目安とする。」

などと決めておきます。理想通りの人に出会えるとは限りませんが、採用活動のスタートはこうした目標設定から始まります。

●新卒採用や中途採用にかける費用には、適正基準というものがありません。
一人当たり10万円以下で成果を出している会社もあれば、100万円を超すケースもあります。雇用情勢によって必要額も変化しますが、最近は以下の額が一つの目安ではないでしょうか。

新卒採用・・・一人当たり30万円
中途採用(一般職)・・・一人当たり30万円
中途採用(コア人材)・・・一人当たり100万円

●人材斡旋会社の成功報酬は、獲得人材の年収の3割というところが多いので、コア人材の採用ではその金額がおおむね上限予算となります。仮に年収500万円の人材をとるのであれば、その3割(150万円)が上限。ただし、会社案内などの制作物を除いた予算額と考えてください。

●採用媒体というと大手しか考えない会社も多いですが、それでは工夫が足りません。欲しい人材のイメージを明確にすれば、求人方法や予算も変わってくるものです

●たとえば、ある総菜店では大手媒体誌に掲載した求人広告により4名の応募がありましたが、いずれも満足できる人材ではなかったそうです。そこで、喫茶調理に関する専門学校に求人案内を掲載したところ、半額の経費で2倍の応募があり、めでたく採用につながったのだとか。

●結論として、「採用インフラ」を強化するとは、優秀な人材を獲得する確率を高めることです。そして、その成否をにぎるのは、社長みずからが採用活動に参画するかどうか、なのです。

<次号につづく>

2007年02月09日(金)更新

社長の存在価値

●ある会合で、次のような問題提起がありました。
社長の仕事と社員の仕事との違いは何だろうか? 社長の存在価値って何だろう?

<最終決定権者というだけの存在なのだろうか? であれば、権限はなるべく委譲しないほうが社長らしくいられるのではないか>

<いや、それじゃ人は育たない。見本を示して人を育てるのが社長の存在価値だ>

 などなど、議論は大いに盛り上がりました。そこでわかったことは、みなさんそれぞれ、社長業に関するイメージが異なるということです。

●創業間もない会社であれば、社長自らが営業に飛び回り、納品から資金の回収、クレーム処理に至るまで、すべて社員とともに汗を流すことでしょう。率先垂範が必要な時ですし、そうしなければ会社は回りません。
「どうしたらもっとたくさん売れるか」
「どうしたらもっとコストダウンできるか」
 を社員とともに考え、陣頭指揮します。こうしたことで利益が出ていれば、毎日が充実していますし、楽しいはずです。

●しかし、この段階をずっと続けると「一代限りの社長」に終わります。組織やシステムや人材が残らないのです。

●逆に言うと、社長の存在価値とは、組織や人を残すことです。そのためにやるべき仕事は、社長にしかできないのです。
●「社長の仕事」jの具体的な例をあげてみましょう。

1.事業の選択とビジネスモデルの決定(事業戦略)
2.雇用政策と要員管理(人事政策)
3.金融機関の選択と関係構築(金融政策や資本政策)
4.取引先や外部協力者などとの関係構築(パートナー政策)

 
つまり、社長固有の仕事とは、「~戦略」とか「~政策」といった語尾がつくもの、と言うことができるでしょう。

●“今日、今週、今月”のことを心配するのは社員に任せ、社長はこうした“来年、3年後、5年後、10年後”のことを心配するようになりましょう。そうした意味では、「いつのことを悩んでいるか」で社長の差がつくのです。

●「武沢さん、うちのような零細企業が社長業に専念するなんてムリですよ」
 という声が聞こえてきそうですが、ムリではありません。社長業に専念する時間を決めておけば良いのです。

●名古屋のある建設会社(社員数10名)の社長は、毎週土曜日を「社長業の日」と決めて、先ほど箇条書きした1~4の「社長ならではの仕事」をしておられます。また、別のある社長は、毎朝8時から9時までの1時間を「戦略タイム」と名づけて、 この時間に集中して「社長の仕事」をしています。

●要するに、社長業として何をすべきか、どのようにすべきかが決まっていれば、それをやる時間などは簡単にに捻出できる ということです。

社長の存在価値とは、社長しかやれない仕事をきっちりやることに尽きるのです

2007年02月05日(月)更新

複数の報酬制度

●最後の最後までギリギリの交渉をした結果、松坂大輔投手のレッドソックス入りが決定しました。「実力が未知数なのだから、まずは早く契約して、あとは実力でお金を稼げばよいのに」とか「代理人がお金に細かすぎる」などの陰口が聞かれましたが、私は「これぞプロ同士の仕事」と感心しながら事の成りゆきをみていました。

●球団側と選手側、お互いが納得いく条件で合意しようと最後の最後まで調整をはかるような場面は、企業でも必要ではないかと思うのです。

●すでに一部の企業では、会社と社員が話し合って待遇を決めるケースも出ています。全社員画一の賃金制度ではなく、個別に話し合う「臨機応変」な対応をしているケースが増えているのです。

●アメリカのジョンソン&ジョンソンは、ヘルスケア企業として国際市場で事業を展開しています。かつてこの会社は、内視鏡手術の分野ではライバルに大きく立ち後れていました。そこで、ある有能な経営幹部にこの難しいミッションを依頼。彼は、「5年間で業界トップにしてみせます」と答えたといいます。そして、報酬制度についても話し合いました。

●会社側は当初、年度ごとの数値目標を決めて、達成した場合にはチームにボーナスを支払う方式を提案したそうです。反面、達成できない場合には、今まで受け取っていたボーナスがもらえなくなります。せっかく難しい仕事にチャレンジしようというのに、下手をしたら待遇が悪化しかねない。賃金交渉は難航しましたが、結局、今までの固定給を上回る条件で努力してもらうことにしたそうです。
●最初の2~3年間はお先真っ暗な状況だったといいます。もし、会社が提示した最初の条件のままだったら、彼のチーム全員が待遇悪化に苦しんだことでしょう。そんな状況では、今後、誰も火中の栗を拾うようなチャレンジをしなくなったに違いありません。

●結果的に、この内視鏡チームは、4年目にして業界首位の座を獲得したのです。

●大企業といえども賃金制度は一本ではありません。複数の報酬システムを使い分けているというか、無数の報酬システムが社内にある、と言った方がイメージしやすいかもしれません。大企業がこうした柔軟な対応をしてくる時代ですから、中小零細企業ではさらに小回りの効いた柔軟なシステムが要求されるでしょう。

●あなたの会社は、松坂大輔クラスの優秀な社員を十分満足させるような報奨制度を用意しているでしょうか。意欲的な社員の冒険や挑戦を後押しするような制度になっているでしょうか。再点検してみましょう。

2007年01月26日(金)更新

中小企業にとっての「自立化」とは何か

●日本の各都道府県それぞれに中小企業家同友会という組織があります。私も愛知県のメンバーとして活動していますが、活動目的のひとつに「経営の自立化」を掲げています。

●しかし、実際には製造業や建設業に属する中小企業のなかには、まだまだ自立できていない企業が数多く見受けられます。

●まず、「自立」とは何かを辞書で調べてみると、こうありました。
「他の助けや支配なしに自分一人の力で物事を行うこと。ひとりだち。独立」

●さっそく、中小企業家同友会の中で「経営の自立化とは何か」を議論しました。このグループは、たまたま製造業の経営者が多く、そのほとんどが下請け依存度の高い会社でした。

●参加者に、「自立型企業の条件」として考えるものをアトランダムに書き出してもらい、それを発表しあうところから議論をスタートしました。100項目近くがリストアップされたので、とてもすべてはご紹介できませんが、ピックアップしてご紹介しましょう。

1.下請け仕事の比率が少ないこと
2.価格決定権があること(ある程度でも)
3.納期決定権があること(ある程度でも)
4.新規の客先開拓が断続的にできていること
5.相見積もりの仕事が少なく、指名で仕事がくること
6.オリジナル商品・オリジナル技術があること
7.客先がきちんと支払い条件を守ってくれる力関係であること
8.仕事を確保するごとに金策に走らなくて済むこと
9.値段を決めずに仕事が先行するような状態ではないこと
10.社員に突然の残業を頼まなくてもよい状態であること
11.年間労働時間数が世間並みにおさまる状態であること
12.求人広告に対してそれなりの反応がある状態であること
・・・.etc

●次に、自立型企業になるために何が必要かについて、話し合いました。こちらの議論は活発とはいかず、散発的な意見しか出ませんでした。

1.その日暮らしでなく、計画的な経営がなされていること
2.自ら発信できる情報をもっていること
3.社員教育をして経営者が孤軍奮闘しなくても済むようにしておくこと
4.弱者同士が結束して大企業に立ち向かうこと
5.研究開発のための費用と時間を予算化すること
・・・.etc

●議論の過程では、「下請け仕事でも良いじゃないか、どこにも負けないものを持っていれば」という意見も出ました。これは、私も同感です。下請けがいけない、という議論ではありません。自立化していないことが問題なのです。

●さて、同友会のミーティングでこの日たどり着いた最終結論は、次のようになりました。

<経営の自立化の手順>

1.競争の武器をもつ
  同業他社との違いをしっかり作り、画期的な技術や製品がなくても競合に勝てる魅力を開発する。特に中小零細企業の場合、コスト競争力と小回りの効いた対応、柔軟性とやる気などが武器になるはずである。

2.自由研究
  勤務時間の10%を自由研究時間にあて、製品開発や技術開発を社内で奨励する。または、勤務時間を午後7時までとして、それまでの時間は下請け仕事をやり、それ以後は自由研究時間にあてるのも良い。

3.自由研究から生まれたナイスアイデアに対し、開発資源を確保する
  製品開発・事業開発に時間と予算を付けて計画する

4.独自の製品・サービスを世に問う
  ただし、一発で成功させようと思わないこと(肩の力を抜いて)
 
 このサイクルをくり返し、ナンバーワンからオンリーワンづくりをめざそうということです。

●要するに、自立化するのだという決意を鮮明にすること。そして、それを実行に移すための方策をもっていることが大切なのです。

2007年01月19日(金)更新

サービスを売る

●某日、ある地方家電販売店の社長とお会いしました。この会社は、50坪程度の売り場面積の本店と、30坪程度の支店が3店舗あるそうです。大手による寡占化が進み、利益率の悪化に苦しむ同業他社が多い中で、この会社は順調に業績を伸ばし、一度も減収減益になったことがないのです。

●"当店よりも安く売る店があればそのチラシをご持参下さい。そうすれば、それよりも安く売ります"という商法が流行るなか、この店ではそうした流れに追随しない。きっちりと粗利益を確保しているというのです。

●秘訣を聞いてみると意外な答えがかえってきました。
「私は家電製品が好きだから今の商売を始めたんじゃないんですわ。商品にこだわっていたら販売店はやっていけない。我々がこだわるのは、お客さんなんです。」

●この会社では、お店から半径3キロ圏内の全世帯をデータベース化しているのです。
住所・氏名・電話から始まって家族構成や家庭にある家電製品の品名や品番・購入日・購入店など入手した情報がすべてデータベース化されているというのです。

●もちろん空欄も多いそうですが、当面の目標は50%を把握することだといいます。「個人情報保護法」でガードが固くなった個人宅ですが、このような情報を入手するのは比較的簡単だともいいます。その秘訣は、「無料出張修理」にあります。

●「電気製品無料修理(部品交換実費)。他店製品も設置無料」
まず、新聞にチラシに入れます。そして、「テレビが映らなくなった」とか「大店量販店でDVDレコーダーを買ってきたけれど据え付け方法がわからない」などの電話がかかってきた個人宅へ24時間以内に訪問します。可能ならばその場で直しますし、部品交換が必要ならば取り寄せて後日訪問します。

●こうして誠心誠意作業をする合間を利用して、お客様に「家電アンケート」の協力をお願いすると、ほとんど抵抗なく情報を提供してくれるというのです。

●このお店ではこうした地道な努力を始めて、はや20年。今ではパソコンやテレビなどの購入相談から操作指導なども無料サービスに加えており、サービス拡充のために若いスタッフも増員しているそうです。

●「一人のお客さんが困っていることは、百人のお客さんの悩みでもあるはずです。それを解決しますよってアピールしたら、みんなうちへ電話してきてくれます。そこからお客さんとの長~いお付き合いが始まるんです。」
と語る社長さんに、気になる収益の仕組みを質問したところ、次のような答えが返ってきました。

●「感謝してくれたお客さんでもパソコンや大型テレビのような高額品は量販店で買われます。でも、子供さんが独り暮らしを始めることになったとか、ご主人が単身赴任されることになったとかいえば、すべてうちで揃えてくれる場合が多いですね。大手量販店と同じ土俵に立たない。それは我々逃げているのではなく、彼ら(大手)こそが我々から逃げているというべきでしょう」

●こうした中小零細店の生き残り戦略には、私たちに多くのヒントを与えてくれます。決してスモールビジネスに限定された収益モデルなどではなく、地域に根ざした高収益かつ高顧客満足戦略だからです。

●今回は、“サービスを売り物にする”と場合の典型的な事例をご紹介したわけですが、あらゆる業界にも似たようなニーズが存在するのではないでしょうか。「ニッチ市場=スモールビジネス」ではありません。ニッチでもトップに立てば、リターンは大きいのですから。

2007年01月12日(金)更新

成果主義とは何か

●前回は、7つの経営スタイルについて、私の考えを述べました。あなたの経営スタイルは、いずれかにあてはまるかも知れませんが、欲を言えば、あなた独自の経営スタイルというものを築いていただきたいものです。

●ある経営者が私にこう語ったことを覚えています。
「武沢さん、うちは完全な能力主義でやっていますからある意味、気が楽なんです。社員も大人ですから独立独歩、固定給は低くし、あとはすべて歩合給にしました。やればやっただけ報酬がもらえるし、自分や家族のためにもがんばらざるを得ないでしょう。それと、新人研修以外の社員教育も減らしていって、本人たちの自己責任で勉強してもらおうとも考えています」
 この考え方は「独立独歩の経営」のようで、もっともらしく聞こえますが、何だか変だと思いませんか?

●トヨタ自動車の奥田前会長は、かねがね「全力で雇用を維持するのが会社の責務であり、終身雇用が前提であることに変わりはない」と強調していました。同時に「トヨタの社員もプロ化しないと生き残れない」とも語っています。

●一見すると矛盾しているように聞こえますが、「雇用の維持」と「実力主義人事の導入」とは矛盾したものではありません。

●昨今の実力主義型人事を語るときに、言葉が誤用されていることがあるので確認しましょう。それは、
 「能力主義=成果主義=業績主義ではない
 ということです。

●能力主義とは、文字通り能力に対してお金を払うものです。技能の成長や管理力、育成力などの能力を評価し、成長した部分が昇給されます。その最たるものが、何かの国家資格をとると手当が加算されるというものです。

●一方の成果主義とは、なしとげた成果に対してお金を払う。したがって、能力の高低は評価せず貢献してくれた成果を評価し、それを賃金などに反映させるのです。

●業績主義とは、社員の評価基準がズバリ「業績」だけにある会社です。売上高とか利益とかの数字だけが期待されている会社です。

●昭和40年代から50年代にかけての高成長を支えてきた日本的経営とは、終身雇用を前提としていただけに、もともとは「能力主義」だったことがわかります。社員の成長を促進するような期待給賃金でもあったわけです。

●そして今、トヨタに代表されるように日本の企業は、大急ぎで「成果主義」に移行してきているわけで、その流れは中小零細企業にまで及んできています。

成果主義型人事に必要なものは、期待される成果を定量化することです。それも部門ごと、個人ごとに行われる必要があります。そして四半期ごと、または半期ごとに評価し、評価結果をフィードバックして納得性と透明を高めるべきものでしょう。

●管理職であれば、人材の育成についても目標を数値化する必要があります。たとえば、「今期中に新しくマネージャーを1名養成する」などです。

●もちろん、経営者の仕事は目標設定とその割り当てだけで終わってはなりません。社員の成長を促し、目標達成を支援するのが経営陣の大切な仕事です。成果主義を導入したからといって、冒頭の経営者のようにふんぞり返って人材育成まで放棄するようでは、本末転倒なのです。

●いずれにせよ、会社の経営管理システムは、経営者の意向を充分にふまえたものでなければならないことは、言うまでもありません。

2007年01月05日(金)更新

7つの経営スタイル

●経営者にとって、自信をもって会社経営を行うことはとても大切です。しかし、それが過信になると問題が起こります。その意味で、経営者の最大の敵は「自己満足」かもしれません。

●今の仕事に関して、知るべきことは全て知り尽くしてしまったかのように錯覚したり、経営者として自らの経営スタイルを変えようとしないのは、大変危険なことなのです。経営者の経営能力開発というテーマは、終わりなき旅であると言ってもよいでしょう。

●経営者は、自分にあった経営スタイルを持っています。私は、経営スタイルは7つに分類できると考えています。

1.民主的経営
2.家族的経営
3.育成型経営
4.権威型経営
5.率先垂範型経営
6.強制型経営
7.権力誇示型経営

それぞれについて、具体的に説明しましょう。

1.民主的経営
  社員の意思やアイデアを尊重し、合意形成に重きをおく経営。社員からの経営への参画意欲を高めることや、目標達成のモチベーションを高めることを重視します。経営陣と社員との信頼関係があり、社員の基礎能力が高い場合には、お互いがパートナーのような関係になれる可能性があります。

2.家族的経営
  「人間対人間」というよりは「親対子」として社員に接するもの。友好的で家族的な
関係を重視することで信頼関係を築き、成果も上げようとするもの。事業規模が小さく、経営が安定している場合に有効でしょう。
  
3.育成型経営
  経営者というよりは教育者であるかのように、人を育てることに重きをおく経営。社員の成長を支援し、動機づけし、絶えず成長課題を明確にしようと努力します。組織を作り、事業を長期にわたって発展させるために有効です。

4.権威型経営
  会社の理念や方針、ビジョンを明確にし、あるべき姿に向けて社員を導こうとする経営。新たな方向付けが必要とされる企業や、起業家にとって有効です。
  
5.率先垂範型経営
  社長自らが現場で行動し、模範を示す経営。社員に仕事のやり方を学ばせるとともに、共感を呼ぶこともできる。独立したい社員、向上心が強い社員が多い場合に有効です。

6.強制型経営
  超ワンマンで、社員を手足のように使う。しかし、それが的確なので社員もそれに付いてくる。カリスマ社長と素直な幹部、社員が揃っているとこうなりやすい。会社が
危機にあるときや、思い切った方向転換が必要な場合に有効です。

7.権力誇示型経営
  雇用を維持し、賃金を支払う立場である強みをちらつかせることで社員を動かそうとする経営。かつてはこれが有効な時代もあった。きわめて高い給与水準にある場合にのみ、今でも限定的ですが有効ではあります。
  
●このように、実にさまざまな経営スタイルがあることがおわかりいただけたと思います。経営者は意識しているかどうかはともかとして、これらのスタイルのいずれかを採用しているか、あるいは複数のスタイルを組み合わせています。

●そして、大切なことは、次の3点を知ることではないでしょうか。

 ◆今の経営スタイルだけが最善とは限らないし、「唯一正解」と呼べるようなスタイルも存在しない
 ◆会社の状況に応じて、経営スタイルを変えていくことも必要である
 ◆各々のスタイルの完成度を高めるために勉強すべきことはたくさんある

ということです。

●今回は、7つの経営スタイルの確認をしました。次回は経営能力の開発について考えてみましょう。

2006年12月28日(木)更新

なぜ利益を上げるのか?

●ある会社の経営方針発表会での出来事。終了後の立食パーティで入社一年目の新人が社長に質問しました。

「社長、どうして毎年売上高や利益を上げていく必要があるのですか?」
という素朴な疑問です。社長は答えました。
「それはだね、我々全員が豊かになるためだよ。」
社員はけげんな顔をしていたが、たぶん理解していないでしょう。

●また、別の会社の営業部長は幹部会議でこんな発言をしました。

「社長、上半期の売上は前年割れしました。営業利益段階ではほぼ前年比で半減していますが、まだ累計で1,000万円近い営業利益が残っていますので、会社としては大丈夫かと・・・」

この営業部長氏、利益というモノがわかっておられないようです。「利益=単なる会社の儲け」と盲信しているのですね。

●まず、「利益とは何か」ということと、その利益を毎年増やしていく理由はどこにあるのか? ということを語れる経営者になりましょう。たとえば、

利益とはわが社が提供している製品・サービスがお客様からどのように評価されているかというバロメーターであり、社会がくれた通信簿でもある。ここで赤字(赤点)をもらうということは、社会からみて不要かつ悪だということだ」

という根本思想を教え込むべきです。

●しかも、利益の半分が税金にまわるのであり、納税の義務を果たすためにも利益は必要です。納税したあとに残る純利益から借金が返済されるわけですから、少なくとも借金返済額の2倍の利益を出さないと、現金収支はマイナスになるということです。

●利益は以下の5つの目的のためにも必要です。
1.従業者の生活(雇用や待遇)を改善・安定させるため
2.勉強する費用や時間を稼ぐため
3.有能な人材を採用するため
4.健全な財務基盤を築き、経営の自立を勝ち取るため
5.新しい製品・サービス・機会に投資するため
6.経営理念を実現する原資を確保するため

●もう少し具体的にみてみましょう。

1.従業者の生活を改善・安定させるため
  社員や経営者の収入を安定させることと、労働法規に沿った環境を整備することです。収入面や労働時間面の不安が長引いては、生活が安定しませんし、仕事にも集中できません。
  
2.勉強する費用や時間を稼ぐため
  社会全体のことから経済、経営、実務にいたるまで私たちが知るべき知識や技術は多いのです。目の前の実務をこなす勉強だけではやがてアンバランスな人間になるでしょうから、社員の人間教育のようなものも会社の責任といえるでしょう。
  そうした勉強をするための費用を捻出するのは利益からです。勉強するための時間も、利益がなければ厳しくなります。

3.有能な人材を採用するため
  会社全体の成長を確保するためには、絶えず組織に有能な人材を補充していかねばなりません。欠員が出たから補充するという行き当たりばったりの採用では、やがて成長が止まります。

4.健全な財務基盤を築き、経営の自立を勝ち取るため
  まず、つぶれない会社にすることです。不況が長引いても雇用不安を起こさない会社にすること。そのためには、他人資本への依存度を下げて、自己資本を充実させなければなりません。

5.新しい製品・サービス・機会に投資するため
  これは挑戦のための費用です。そして挑戦には失敗がつきものでもあります。新規事業への参入や、新製品の開発、技術開発や研究開発など数年後のために支払う経費を確保するにも利益が必要です。

6.経営理念を実現する原資を確保するため
  経営理念はお題目に終わらせていては意味がありません。理念に少しでも近づく努力が必要で、その原資になるものがやはり利益なのです。
  
●こうした6つの理由によって、会社は絶えず収益を向上させていかねばならないのです。別の表現をすれば、この6つの課題に取り組まずに上げた収益には意味がない、ということです。

2006年12月23日(土)更新

君子と小人

●西郷隆盛さんが面白いことを語り残しています。

人材には、君子(立派な人)と小人(凡人)があり。人を採用するにあたっては、君子と小人との区別をあまり厳しくするとかえって禍を大きくするものである。こういう凡人の心情を思いはかって、そのいいところを取って、これを下役に使って、その持っている才能や技能を十分発揮させることが重要である」
(『「南洲翁遺訓」を読む―わが西郷隆盛論』渡部昇一著 致知出版社刊より)

●また、多くの経営者は「ジンザイ」という言葉をもじって、三種類あることを知っています。

人財・・・なくてはならない宝のような人
人材・・・使いみちのある人
人罪・・・いてもらっては困る人

できるものなら「人財」と「人材」ばかりにしたいもので、「人罪」は社内にいてほしくないのが社長の心情です。

●でも、三種類の人材がいることはわかっても、それをどうやって見抜くのかが肝心なところ。ちょっと会話をするだけでそれが見抜けるほど、人間は簡単にできていません。100%の正確さで「ジンザイ」を見抜くなど不可能に近い芸当です。

●しかし、面接に工夫しているいくつかの会社では、ちょっと変わった面接法を編み出しています。そのひとつが「圧迫面接」なるもの。ドコモのiモードを開発した松永真理氏のベストセラー図書『iモード事件』(角川文庫)によれば、iモード開発チームもこの「圧迫面接」で選考されたとあります。

●「圧迫面接」とは、あるテーマを面接者に与え、その答えに対して面接官が次々に質問を浴びせかけ、相手を追いつめていくもの。面接官はあえて心を鬼にして厳しい質問をしていかなければなりません。きっと次のようになるでしょう。

社長:「あなたの将来の夢は何ですか?」
相手:「世の中に必要とされる人になりたいと思います」
社長:「それはどのような人ですか?」
相手:「まず専門的な知識や技術をもつことです」
社長:「どのような専門分野をもちたいですか?」
相手:「コンピュータに関する分野ですが、できればネット関係を」
社長:「ネット技術者はゴマンといますが、あなたはその中で今何ができますか?」
相手:「△×△×・・・」
社長:「うちの会社では、あなたの技術を必要としないとわかったらどうしますか?」
相手:「△×△×・・・」

圧迫面接の主旨は、相手の回答内容ではありません。その態度です。

●すべてにおいて適切な回答を返す人材もいれば、うまく質問をはぐらかす人、無言で通す人、聞き返す人、支離滅裂になる人など対応はさまざまです。その対応の仕方から、どの程度の芯があるか、柔軟性があるかなどを見分けることができるのです。

●圧迫面接は、通常の面接でよく見受けるような表面的な一問一答のやりとりでは見抜けない、相手の真価を知ることができるでしょう。

●さて、冒頭の西郷さんのことば「君子と小人の区別を厳しくしすぎてはいけない」について。

A君は、仕事の成果が大きく、いつも会社の目的や目標達成のために身を粉にして働いてくれる。残業はいとわないし、会議でも前向き発言が多い。

B君は、与えられた仕事だけしかやらない。いつも自分の給料や休みのことばかりを気にするし、不平や不満も多い。会議でも否定的な発言が多い。

この場合、明からにA君が君子でB君が小人です。

●社長の願望としては、会社中をA君のようなタイプで埋めつくしたいと願いがちです。しかし、それは非現実的であるばかりか、やってはいけない事だと西郷さんは説くのです。決められたことだけをきっちりこなしてくれる人材は必要だし、待遇改善をつきつける人材も必要なのです。人材バランスの問題だということです。

●しかし、中小企業経営において、私は1つの事を付け加えたい。それは、
社長を中心とした経営陣は、君子のような人財でなければならない
 ということです。

●社長自身および、経営陣が「人財」であること、あるいは「人財」になるよう努力を怠らないことは、会社の命運を握る課題です。もし、経営陣がそのような陣容になっていないとしたら、それこそが、人に関する緊急課題となるでしょう。
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ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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