武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
2006年12月15日(金)更新
理念をみんなで作る
と嬉しそうに報告されたA社長。
「よかったですね」
と私は返答したものの、社員全員で理念を作るという発想に抵抗を感じました。なぜなら、経営理念は経営者が作るものだから。
●ドラッカーは『現代の経営』において、「事業とは顧客を創造することである」と定義していますが、私も彼の「事業とは顧客創造業」という考え方に賛同します。
●さらに踏みこんで申し上げるならば、事業の目的は、「顧客創造を通して理念を実現すること」 ではないでしょうか。
●営業部はもちろん、技術部も開発部も経理部も人事部も、すべての社員は顧客創造と理念の実現に向けて「役割分担」・「分業」を行っているということです。
●さらに、ドラッカーは同じ著書で「三人の石工」の例話を紹介しています。
●ある建築現場で、何をしているのかを聞かれた三人の石工のうち、「一人めの男は『これで食べている』と答えた。二人めは手を休めずに『腕のいい石工の仕事をしている』と答えた。三人めは目を輝かせて『国で一番の教会を建てている』と答えた」という話です。
●私はこの例話からドラッカーが言わんとすることは、社内のベクトルを合わせようという提言だと思うのです。
・自分たちは何のために今の仕事を行っているのか
・そして、この先何を目指しているのか
●顧客から見れば、良い仕事をやってくれればそれでよいということかも知れませんが、組織の中で働く仲間としては、自分たちの会社の目的を共有していないと何かと意見や考え方にミゾが生まれるものです。
●それを成文化したものが「経営理念」なのです。
●ベクトルは明確でなければならないし、そのベクトルをまっさきに指し示すのは経営者です。
●ですから、「理念をみんなで作る」という社長は社員に甘えすぎだと私は思うのです。
2006年12月09日(土)更新
ドラッカーが指摘する「劣後順位」という観点
私は、大好きな穴子と玉子を最後に残し、まずは白身かタコあたりから手をつけることが多いです。
●先日、ある経営者と出前の寿司を一緒に食べたとき、私のそうした食べ方を見て、笑いながら忠告されました。
「武沢さん、どうして好きな順に食べないのですか? 嫌いな順に食べると、まず一番嫌いなもの、次に二番目に嫌いなもの、最後に一番嫌いではないものを食べる、という順になる。それじゃ、いつまでたっても好きなものにありつけない」
「その点、私は好きな順に食べるので、いつも寿司おけの中の一番好きなものを食べることができる。それに今、もし地震があって逃げることになっても後悔しない」
どちらから食べようと好みの問題なので、お互い罪のない話ではあります。
●ところが、仕事の進め方となると笑っては済まされない問題です。仕事には、目標設定と優先順位が大切であることはご存知の通りですが、実はそれだけでは不充分かもしれません。
●ドラッカーが指摘しているように「劣後順位」という観点も忘れてはならないのです。
●劣後順位とは、優先順位の逆さの意味で使われます。手をつけてはならない仕事を決めることです。経営者がやるべきことは、優先順位の設定だけではなく劣後順位の決定も大切なのです。
●寿司であれば、どちらから食べようともやがてはすべてを平らげる。しかし、仕事は永遠に私たちの許容量を超えるのです。すべてをこなすことは出来ません。
●「社長としての私は、何をしてはならないか」
ある勉強会で、この質問を投げかけました。参加者は各自、ノートにその回答を書き込んでいきます。最初のうちは、集金や伝票発行、コンピュータ入力などの無難なものが並ぶ。やがて経営者は考えます。
「本当に自分でなければならない仕事とは何か」
●そうすると、今やっている仕事の大半が本来は劣後順位のリストに入れるべき項目であることがわかります。ですが、なかには屁理屈をいう人もいます。
「集金は自分でなくてもやれるが、自分が行くことでお客の生の声も聞ける」
「自分の手でコンピュータに営業マンの個人成績を入力することで、一人一人の活動状況が手にとるようにわかる」
などの言い逃れをするのです。
●ドラッカーはさらにこうも言います。
「トップ本来の仕事は、昨日に由来する危機を解決することではなく、今日と違う明日をつくり出すことである」
私たちの合い言葉は、
◇日常業務をこなすよりは明日のための仕事を
◇問題解決よりも機会の創造を
◇他社の後追いではなく独自性を
◇無難な調整ではなく、勇気ある変革を
です。
●劣後順位という考え方は、経営者の仕事の仕方にとどまらず、会社全体にも普及させたいものです。
●私自身の反省にもなりますが、中小企業の経営計画書がうまく機能していない理由のひとつに優先順位主義があるのではないでしょうか。社長が勉強しておられる会社ほど総花的な経営計画書になりやすいのです。
2006年12月01日(金)更新
責任とは何か
●この会社では編集スタッフ2名が担当ページを分担して仕上げるのですが、毎月締切日近くになると2人とも大わらわになります。このスタッフのAさん、Bさんの仕事ぶりがとても対照的で、面白いのです。
●Aさんは、原稿依頼をした相手に何度も電話確認をし、原稿締切日までに必ず提出するよう促します。それでも送られてこないときもあるので、電話確認をした月日と時刻の記録まで残してあります。しかし、たまには原稿が揃わずに記事に穴をあけてしまい、イラストや写真でごまかすことがあるそうです。
●一方のBさんも、確認の電話を入れるところまではAさんと同じです。違う点は、締切日に原稿が届いていない人には電話取材で原稿を仕上げるか、翌日に出かけてインタビューして記事を完成させるところです。その結果、いままで一度も記事に穴をあけたことはないといいます。
●あなたならどちらの人を高く評価するでしょうか? 二人ともがんばっているのですが、それでもBさんの方を評価するのではないでしょうか。
●「自分は、やるべきことをやりました。打つべき手を全て打ちました。それでも相手が協力してくれなかったので、最終的には出来ませんでした」というのは、責任感があるとはいいません。
●仕事には、「経過責任」と「結果責任」があり、Aさんのようなタイプは「経過責任」しか果たしていないのです。自分には「結果責任」はない、と思っている分だけ無責任です。
●「いろいろありましたが、最終的には出来ました。次回以降の課題として、……という問題を解決していきます」という発言をする人が本当に責任がとれる人です。経過責任と同時に結果責任も果たしている人です。
●プロスポーツの選手や監督は結果を出さないと使ってもらえなくなります。不振が続くと、過去に偉大な業績があっても更迭されるのがプロの結果責任というものです。
●給料の高さは、責任の大きさの順でもあります。1人ひとりの仕事には明確な責任が存在するはずです。あなたの会社では、社員ごとに「いつまでにどのような状態をつくることがあなたの結果責任ですよ」という目標の共有ができているでしょうか。
●「責任をとる」という言葉の意味は、「評価を甘んじて受け入れます」ということです。「下された評価には異議をはさみません」というのが責任をとる者のスタンスです。
●人材を育成し、明日の経営者を育てていくには、このような「結果責任」のとれる仕事ぶりを教えていくことでもあるのです。
2006年11月24日(金)更新
社長は孤独か
●そんなある日、東洋人物学・政治哲学の権威・安岡正篤(やすおか まさひろ)氏の書に、それに近い話を見つけました。ご紹介しましょう。
●周の時代に生きた劉峻という人の名論「広絶交論」というものがあります。誰かれなく絶交するという、面白くかつむずかしい作者による論文です。まず、作者は人と人の交わりを大きく二種類に大別しています。
「素交」・・・裸の交わり、人間の生地のつき合いのこと。
「俗交」・・・利益を期待した交わりのこと。
●そして、「俗交」にも5種類の交わりがあるといいます。
◇「勢交」・・・相手の勢いや勢力との交わり
◇「賄交」・・・儲かる相手と付き合う、あるいは金を出させる交わり
◇「談交」・・・マスコミなどとの交わりで、名声をあげ、自己宣伝に期待する交わり
◇「量交」・・・相手の景気次第であっちへ行ったりこっちへ着いたりする交わり
◇「窮交」・・・首が回らなくなり、あそこへ行けば助けてもらえるだろうという交わり
●作者の劉峻は、これらの世俗の交わりは人間と人間、精神と精神が結びつくのではなく、手段的な交わりゆえに、すべて絶交するといいます。
●他方、裸の交わりのほうは、お互いに名もなく、金もなく、同病相憐れむ、同窮相憐れむ。だから、正味の交わりができるゆえに本当の交わりができるというのです。
●資本主義経済の今の日本ですから、その当時の中国と単純に比べるわけにはいきません。したがって、この作者のように「俗交」そのものを否定することはできない、と思います。
●しかし、ビジネスだから「俗交」で良いんだ、とも言い切れません。むしろ、社員との関係も顧客との関係も可能な限り、「素交」に近づける努力が必要なのではないでしょうか。こんな話もあります。
●関ヶ原の合戦前に、大谷吉隆が盟友の石田三成に宛てた手紙が残っています。これも金銭と人間関係に関する友人への忠告です。独自に要約すると、こんな内容です。
「最近の君は、金を大切にしすぎで、人にも金さえ与えれば何とでもなると思っているようだ。家人(家族や部下)にもことごとく、そうしているように見える。はなはだしく心得違いをしているようだ。主人が貧しい時には、おのずと礼儀を厚くし、人を尊ぶので、家人もそれに応えてくれる。」
「やがて、主人が豊かになり、給与をたくさん与え、気前もよくなる。すると、部下は、『これくらい働いているのだからそれ位もらって当然』と思うようになる。はじめは、その家に望みをいだいて来た者も、後には希望を見失い、貧しき主人が礼儀厚かったころよりも働いてくれなくなるものだ。」
●この主人を社長と置き換えてもよいでしょう。日本と置き換えてもよい。リーダーたるもの、家人への接し方において原点を忘れてはいけません。
●ところで、「自分は孤独だ」という冒頭の社長は、そうした交わりが足りなくなっているのではないでしょうか。
2006年11月17日(金)更新
中小企業にとっての「戦略」とは
●しかし、最近の傾向から気になることもいくつかあります。
●数年前までは、どの会社にも中長期構想があり、そのなかに今期の単年度計画がありました。しかし、最近では単年度計画しか作れない、作らない会社が目立ちます。私見ですが、これでは「先行きがわからない」「夢が感じられない」などの印象を社員に与えているように思えるのです。
●「戦略なき国家は滅びる」といわれますが、企業も同じです。
●「戦略」という言葉は本来が軍事用語です。戦略とは、敵が存在し、その敵に対してどのように戦うかを考えるおおもとの作戦のことを意味します。したがって、逃げることも戦略、籠城作戦で日数をかせぐことも戦略、野戦で真っ向勝負することも戦略、奇襲作戦も和議などの外交交渉も、みな「戦略」です。
●敵に対する接し方は多数あるものの、相手の出方に応じて臨機応変に戦略を組み立てるのが大将の役割なのです。
●孫子の有名な言葉に、
「彼を知り己を知らば、百戦殆うからず、彼を知らず己を知らば、一勝一負す。彼も知らず己も知らざれば戦う毎に必ず殆うし」
というのがあります。私は中小企業にとっての戦略を考えるとき、この言葉にすべてが集約されているように思います。
●敵情を知り、わが力をも知る場合は、戦いに敗れることはない。つまり、敵情とは、経済全体の流れや市場のニーズ、業界の動向、ライバル企業の動きのこと。そうした外部与件を経営陣全体で共有しておくことです。
●こうした情報のほとんどは、新聞などから入手できます。その都度切り抜いておけば充分なデータベースになります。
●とくに、ライバル企業の経営状況や商品戦略に関する情報は、意識して入手する必要があります。よく観察していくと、同業他社の売れている商品とそうでない商品がわかってくる。売れている商品は長く売られている商品であり、売れない商品はすぐに消えてしまう。さらに、組織図などを入手できれば、ライバル企業が経営上で打つ手も見えてくるのです。
●己を知るとは、内部与件のことです。人・物・金の状態がどのような競争力をもっているのかを再確認し、経営陣全体で認識を共有することです。具体的には、以下のポイントを押さえることです。
「人」のポイントとは、社員の士気や能力をいかに高めるかということ。
「物」のポイントとは、競争力ある商品やサービスをいかに作るかということ。
「金」のポイントとは、必要な資金をいかに調達するかということ。
●戦略や方針があいまいな会社には、このような視点が欠けています。経営方針を作る際には、いったん当事者であることを忘れて、軍師であるかのように今の会社の長短得失を洗い出し、企業の内部外部の与件も洗い出してみるべきです。
●そうした中から活路を見出し、成長の絵を描くのが経営者の大切な役割なのです。
2006年11月10日(金)更新
会社を環境適応させる
●社長も含めて、社員全員が額に汗して懸命にはたらいているのに利益がでないというのは、責任のすべてが経営者にあるのです。環境に適応しようとせず、コツコツと努力するだけでは勝てません。
●先日、ある団体で「経営計画を策定するための社長講座」のセミナー講師を仰せつかりました。参加者はいずれも中小企業の経営者。規模や業種、それに年齢もさまざまですが、その大半は、自社の経営計画をつくるのが初めての方々でした。
●こうした講座でレクチャーをして気づくのですが、最近の経営者は年々基礎能力が高くなってきています。みなさんきっちりと宿題をこなします。毎回、課題となる書式を完成させる熱心さと学習能力を持ち合わせています。もちろん、パソコンやメールも使いこなします。
●二次会では、経営の問題ばかりでなく、政治や経済、社会の出来事など、豊富な話題で盛り上がります。
●もし、社長の経営力が、知識量や情報量で評価されるのであれば、今の若手経営者の大半は、すでに「社長合格」です。しかしながら、経営者とは何を知っているのかではなく、何をなしとげているかが問われる職業なのです。
●すでにもっている情報・知識・経験・アイデアをベースにして、会社全体のビジョンと計画を描くことこそ、社長業の本質です。そのためには、自ら実践し、社員に実践させるヒューマンスキルが非常に重要となってきます。
●一般に、ビジネスパーソンに必要とされる技能は、以下の3つに大別されます。
1.テクニカルスキル(業務遂行能力)
2.ヒューマンスキル(対人関係能力)
3.コンセプチャルスキル(概念構築力)
●新入社員から中堅社員に求められる技能は「1」がもっとも大きく、「3」がもっとも低い。一方、経営者は「3」がもっとも大きく「1」がもっとも低い。管理職はその中間です。この3つのうち、ビジョンを描く能力は「3」の領域。つまり、経営者にもっとも必要な能力であり、代理を務めてくれるスタッフはいません。
●経営環境は毎年・毎月・毎日、確実に変化していきます。為替や株式のマーケットが世界のどこかで毎秒変化しているように、経営環境も厳密にいえば毎秒変わっていきます。同業他社の動向も刻々と変わります。ただ、目に見えるものや、数字に表せるものはすべて変わっていく中で、人間の心や原理原則など、変わらないものも存在します。
●そうした環境要因にさらされているものが企業です。経営者としてかじを取って持続的成長を図るためには、経営計画策定能力は不可欠なスキルです。しかも、このスキルは決算期にあわせて年一回だけ使うものではなく、必要に応じていつでも使えるように鍛えておかねばなりません。
●そうした能力を身につけることが、会社を「環境適応」させるのです。
2006年11月04日(土)更新
社長の器~太閤秀吉より
●日本史上最大の急成長組織は豊臣秀吉がつくりあげた豊臣家でしょう。尾張中村郷(今の名古屋市中村区)の農民の倅(せがれ)が蜂須賀小六と出会い、織田信長に仕えてから天下を平定するまでわずか30年。おそらく世界史でみても指折りの急成長です。
●織田家での秀吉のスタートは雑役夫で、足軽以下です。しかも、当時彼はすでに18歳。この時代としてはかなり遅いスタートでもあります。
●しかし、30年後には徳川、毛利、上杉、伊達など歴史と伝統と格式をもつ大大名を傘下におさめる巨大組織の頂点にたつのです。その間、秀吉とその組織は成長と変質をくりかえしてゆきます。
●企業でいえば、サラリーマンから個人の自営業として独立。零細企業の社長から中小企業、中堅企業の社長を経て、一部上場会社、そして日本中の会社を傘下におさめることになるのです。
●そのプロセスで秀吉の組織はどのように進化し続けたのでしょうか。
●足軽頭になった頃の部下は、数人から数十人の規模です。企業でいえば、零細企業から中小企業のトップです。一人ひとりの足軽に対して、直接指揮をとる段階といえましょう。
●やがて、墨俣築城の頃が数十人から二百人規模。元気の良い中小企業規模で、秀吉とその部下とのドラマチックなエピソードがもっとも多い時期でもあります。
●近江長浜の城主になるころには、部下が千人から三千人規模。この時期には竹中半兵衛や黒田官兵衛などの知将が部下に加わっています。さらに、加藤清正や石田三成といった小姓組織も作っています。
●企業でいえば、中堅企業から上場企業という段階ですが、織田家という親会社をもつ気楽さと大らかさをあわせもっていたようです。
●やがて、本能寺で信長が急死。その直後、天下分け目の天王山の戦いを勝ち、賤ヶ岳の合戦で勝利をおさめ、天下をとると、諸大名のすべてが部下となりました。個人的な裁量で組織を動かすことはできなくなり、規則・規定と事務官僚が組織運営の中枢を握り出すという段階です。
●さて、秀吉個人はこの間に、兄貴分からおやじに、大将から殿、やがて太閤へと呼称は変わるわけで、その都度、彼は部下のと関係や自分のリーダーシップを変えていくのに成功しているのです。
●呼称が変わるだけでなく、その時々の組織改革とみずからの変身を同時に成し遂げたところに、類をみない成功の原因があります。その変身ぶりは今日のビジネス社会でいうところの「自己啓発」などという生やさしいものではなく、命をかけた環境適応でした。
●組織が小さい段階ではお互いに気心をつかみ、規則に反するものがいても寛大。戦場で結果を出せ、といったところです。しかし、組織が巨大化し、お互いの気心がつかめなくなると、就業規則も賃金規程も必要になり、それを守らなければならなくなります。
●古参の武将からはそうした官僚的な組織運営に対する不満と若手エリートが幅を効かせることへの不信感が芽ばえるでしょう。しかし、秀吉はそうした対立への処置が実に適切でした。
●たとえば、初期の段階で役に立った猛烈社員は、天下平定後の豊臣家ではほとんど役に立っていません。しかし、俸禄で報いることで対立のバランスをとり続けたのです。
●秀吉の生涯は、強運としか言いようのないものですが、実は彼自身がものすごい成長をしていたという点に注目したいものです。
●もちろん左遷も経験し、腹を切ってもおかしくないほどの失態も演じています。しかし、もともとが尾張中村郷の水飲百姓の小せがれ、はなっから捨て身ですから陽気です。
●私たちも太閤秀吉のような変身力をもつことが、「天下平定」「目標実現」の大きな条件になっていると思います。立場や年令を超越して変身・成長できることが、社長の器ではないでしょうか。
2006年10月27日(金)更新
あえて部下と特別な関係を結ぶ
◇服務規程や就業規則に違反する社員は、規定にそって罰することが組織の秩序維持には欠かせない。
◇遅れたら、その分よぶんに働いてもらえば結構だ。
◇時間を守れないのは時間にルーズな証拠。ましてや常習犯なら解雇する。
◇才能重視で考えるのなら、フレックスタイム制を検討するべきでは。
どの回答も誤りではありません。各社各様の対応策があってしかるべきでしょう。
しかし、それらの行動の前にやるべきことがあるはずです。
●前号のマガジンでご紹介したギャラップ調査によると、すぐれたマネージャーは、異口同音に次のような回答をしたといいます。
「まず、理由を聞く」
●この答えはマネージャーと部下との信頼関係をあらわしています。
「理由のいかんにかかわらず、遅刻は遅刻。つまり規則違反なので罰する」
というのではなく、まず理由を聞く。それは、甘やかすという意味ではありません。
上司と部下との間にある特別な信頼関係の重要さです。
●固定観念にとらわれて物事を考えてはいけません。この場合の固定観念とは、
◇誰であろうと規則やルールを守らなければならない。したがって、今のルールを守れない人間には、ペナルティーを課さねばならない。
◇遅刻は本人の怠慢によるもので、理由のいかんを問わず許すわけにはいかない。
◇社員は平等に扱うべきであって、個人ごとに異なる対応をしていては組織が維持できない。
これらはいかにも、もっとらしく聞こえる固定観念です。
●もちろん、単なる怠慢と甘えによってルールを破る社員もいます。それに対しては毅然とした処置が必要でしょう。しかし、その場合でもまず、理由を聞くのが先決です。
●才能ある部下、しかし遅刻の常習犯、こんな部下に理由を聞くといろいろな個人的事情がみえてきます。単なる私生活のルーズさもあるでしょう。でも、もしかすると家族の健康問題、バスの運行事情、本人の体調の問題などが隠れているのかも知れない。
●部下がもつ才能を存分に活かし、組織の目的を達成することが経営者やマネージャーの任務です。そのためであれば、捨てなければならない常識というものがあります。
●部下全員に同じような貢献を期待してはいけない。たとえば、営業課長が3人いれば3人とも異なる成果を要求して良いはずです。社員が20人いれば20通りの期待があっても構いません。それを鋳型にあてはめて画一的な評価基準を作ろうとするところに無理が生じます。
●有能な部下ほど上司に対して、特別な扱いと特別な関係を期待するのです。それを無視し、全員が同じ時間に勤務を開始し、同じ時間に終わることに価値をおく意味はありません。
●経営の現場では、欠点を是正させるような教育指導が目につきますが、中小企業やベンチャーには欠点だらけの人間が集まるものと開き直りましょう。いや、それこそ武器なのです。
●欠点をはるかにしのぐ個人的才能をもっていれば、その欠点を補う工夫をするのがマネージャーの仕事です。誤解をおそれずに言えば、社員に対しては不平等に接し、えこひいきも辞さないことが、中小企業の強みを活かすことにつながるのです。
2006年10月20日(金)更新
使いにくい社員
●では、何が非現実的なことで、何が現実的なことなのでしょうか。
●非現実的なこととは、変えることができないことを変えようとすることです。
それは、「過去」と「他人」。過去と他人を変えようとすることほど非現実的なことはありません。他人が変わろうとすることを手助けすることは出来ても、他人を変えることはできない。親子や夫婦といえども同様でしょう。
●すぐれた経営者が持ち合わせている現実的な考え方とは、未来と自分を変えるために今できることに関心を集中することです。
●ギャラップ調査でおなじみのギャラップ社には膨大な数におよぶインタビュー調査レポートがあります。その中におもしろいものがありました。
あなたも一緒に考えてみてください。
「あなたはマネージャーとして、次の2人の部下のうち、どちらを選ぶか?」
1.一人で2億円を売り上げるが独立心が強く一匹狼のような人間
2.売上は半分だが、和気あいあいでチームプレイする人間
●私がお付き合いしている人たちにこの質問をしたことがないので、結果はわかりませんが、おそらく日本の中小企業では、2番の方を選ぶ人が多いと思われます。
●しかし、ギャラップ調査によるとすぐれたマネージャーは1番を選択すると答えています。これは、才能に重きをおくのか、管理しやすさに重きをおくのかの選択の問題です。
●すぐれたマネージャーは、管理しやすい人材をさがすのでなく、世界水準をめざせる才能の持ち主を求めています。管理しやすいからという理由で、生産性の劣る人を重用して、しかもそのタイプを才能ある人に変えようということは、上記の「非現実的」な考え方なのでしょう。
●こんなことを書くと、「当社は、価値観や理念の共有をいちばんに重要視している」という批判をもらいそうです。それは、たしかに大切なことです。
●ところが、実際には自分の手に余るような部下を総称して、すべて、「うちには合わないヤツ」と切って捨てているケースも多いです。
・報告・連絡・相談が出来ないが、飛び抜けたセールス実績を上げる営業社員
・ずば抜けたデザインセンスをもったデザイナーだが、遅刻の常習犯
・完璧な月次決算をまとめるが、社内親睦会にはすべて欠席する経理社員
●強い会社には、こうした人材が必ずいる。いるだけではなく、いきいきと活躍しています。そして、こういうタイプがどんな会社にも一人や二人いるはずです。あるいはかつて、いたはずです。このような人材が一人もいなくなった会社が、その後、強くなることはありません。
●この稿、次回に続きますが、ひとつ質問をお出しします。
「才能ある部下が遅刻の常習犯。あなたならどうする?」
お考えいただきたい。優秀なマネージャーの答えはひとつです。
2006年10月13日(金)更新
十三の徳・応用編
●これらの徳を同時進行で磨こうとしていては、かえって注意が散漫になります。一定期間どれか一つに注意を集中させ、その徳が修得できたら次に移る。また、順番にも工夫をこらし、基本的なものを優先し、応用的なものは後回しにします。
●そして、一つの徳を一週間かけて自己チェックする。一年は52週間あるので、十三徳あればちょうど4回転することになります。
●第一週が「節制」であれば、日曜日~土曜日までは、「節制」だけに注意を集中させる。チェック表に毎日、○△×の印か、あるいは点数をつけていく。これ以上詳しくお知りになりたければ、『フランクリン自伝』(岩波文庫)の137ページ以降をお読みになってください。
●この方法を組織全体で用いると、どうなるか。「基本の徹底」というスローガンを掲げている会社なら、その「基本」自体をいくつかの項目に分けて、毎週チェックするしくみを作ることもできます。
●たとえば、時間厳守、服装・身だしなみ、笑顔、挨拶、お辞儀、報・連・相、などという項目に落とし込んでいきます。もちろん13項目にこだわる必要はないですし、部署単位で異なる内容にしてもいいでしょう。応用の仕方は無限です。
●私自身もこうした取り組みに挑戦してきたし、組織全体で取り組んだこともあります。その経験から助言を。
1.本当に必要性を感じる徳を選ぶこと
フランクリンの十三の徳のうち、私にも必要だったのは半分くらいでした。残りの半分は、「目標意識」「素早い始動」「奉仕」「読書」「部下育成」などの項目に差し替えたのです。これらは私にとって必要なテーマだったからです。
2.継続が大切なので、仲間を作ろう
十三の徳を自らに課すのは、孤独な作業でもあります。フランクリンのように一人で一生続けるのは並大抵ではありません。しかし、一緒に取り組む仲間がいれば、話は別です。会社全体でやれば、なお良いでしょう。
●あなたが考えている「良い経営者像」を定めるのが十三の徳の制定であり、フランクリンのこの方法は、日々“複利計算”のようなイメージで自らを成長させる効果的なしくみではないでしょうか。
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ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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