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2006年10月06日(金)更新

十三の徳

●アメリカ資本主義の育ての親、ベンジャミン・フランクリンをご存知の方も多いと思います。岩波文庫『フランクリン自伝』でもおなじみですね。

●そのフランクリンを称して、「Selfmade man」(自らを創り上げた人)という言い方をします。この表現に込められた意味は、“人生の成功は自己啓発の成功にほかならない”、ということです。

●フランクリンは、印刷工から身を起こし、実業界で立身出世。科学者、出版業者、哲学者、経済学者、政治家、そしてさまざまな啓蒙活動を通してアメリカ資本主義の原点を作った人物です。

●彼は、独立宣言書の起草者でもあります。そのフランクリンが25歳の頃、借金を背負って印刷会社を経営しつつ子供が誕生。いままで以上に、自分が精進しなければならない、と発奮して「十三の徳」を樹立しました。

生まれながらの性癖や習慣、交友のために陥りがちな過ちを克服したい、との動機から生まれたこの「十三の徳」は、フランクリンにとっての成功のパスポートでした。

第一 節制・・・飽くほど食うなかれ、酔うほど飲むなかれ
第二 沈黙・・・自他に益なきことを語るなかれ、駄弁を弄するなかれ
第三 規律・・・物はすべて所を定めて置くべし。仕事はすべて時を定めてなすべし。
第四 決断・・・なすべきことをなさんと決心すべし。決心したることは必ず実行すべし。
第五 節約・・・自他に益なきことに金銭を費やすなかれ。すなわち浪費するなかれ。
第六 勤勉・・・時間を空費することなかれ。つねに何か益あることに従うべし。無用の行いはすべて絶つべし。
第七 誠実・・・いつわりを用いて人を害するなかれ。心事は無邪気に公正に保つべし。口に出すこともまた然るべし。
第八 正義・・・他人の利益を傷つけ、あるいは与うべきを与えずして人に損害を及ぼすべからず。
第九 中庸・・・極端を避くべし。たとえ不法を受け、憤りに値すと思うとも、激怒を慎むべし。
第十 清潔・・・身体、衣服、住居に不潔を黙認すべからず。
第十一 平静・・・小事、日常茶飯事、または避けがたき出来事に平静を失うなかれ。
第十二 純潔・・・性交はもっぱら健康ないし子孫のためにのみ行い、これに耽りて頭脳を鈍らせ、身体を弱め、または自他に平安ないし信用を傷つけるがごときこと、あるべからず。
第十三 謙譲・・・イエスおよびソクラテスに見習うべし

●彼が、これらの徳を作りあげるときに気をつけたのは、ひとつの「徳」に多数の内容を盛り込みすぎないことでした。その結果、名称は増えても、おのおのに含まれる意味は、狭く限定しようと考えたのです。

●この「十三の徳」は、もちろん各人各様でアレンジできることは言うまでもありません。

●私自身も15年ほど前、セールス関係の会社にいた頃に、自分と部下のためにこの「十三の徳」を応用しました。仕事に密着した内容に改め、「時間」「読書」「情熱」「集中」などの項目を取り入れ、実践しました。

●フランクリンは、これらの徳を自らの第二の天性である習慣にまで育て上げるために、さらに工夫を凝らしています。次回は、その知恵と応用に関してお伝えしましょう。

2006年09月29日(金)更新

経営のプロになろう

●いわゆる“養子社長”と話し合う機会がありました。奥さん方の姓を名乗り、奥さんの父親が経営する会社の役員になり、やがて社長になったそうです。

●家庭内でさえ気苦労の多い立場に加えて、企業内でも養子の立場がついて回り、従業員もそうしたリーダーの出現に対して、お手並み拝見とでもいった形で傍観する……。そのやりにくさは、容易に想像がつきます。

●しかし、私の知るかぎり、こうしたケースが決して悪い結果につながるわけではありません。むしろ、養子の立場だからかえって甘えがなく、責任ある経営をする例が多いのです

●実の父親の会社を継いだ息子が、「会社の資産=家族の資産」と考えやすいのに対し、養子社長は経営を私物化するようなマネはできません。先代社長が存命であれば、なおのことです。

●そういえば、江戸時代末期において、名君と誉れが高かった大名にも養子が多いようです。越前の松平春嶽、会津の松平容守、土佐の山ノ内容堂、宇和島の伊達宗城、長岡の牧野忠訓など、積極的に大名たらんとすることを欲した者はすべて養子でした。

●「俺は大名としてお家のために足跡を残すのだ」という気概が、養子大名には強かったのでしょう。これに対して、世襲の大名で聡明な働きをしたのは、薩摩の島津と佐賀の鍋島くらいでしょうか。

●養子社長と話していて気づくことは、経営成果に対する責任感がオーナー社長以上に強いということです。具体的には、株主配当を支払う責任であったり、株主総会で納得のいく経営経過報告や今後の見通しを発表する責任などです。

●第三者に対する経営責任を負う立場の社長は、無意識のうちに、透明性・納得性の高い経営を志すのです。

●サラリーマンから出世して社長になったという場合も、養子のケースと似ているかもしれません。あるサラリーマン社長は、旅費規程で定められているにも関わらず、グリーン車に乗ったことがなく、新幹線はいつも自由席だとか。せめて指定席に、と私などは思うのですが、「株主のために無駄な経費は使えない」と言うのです。

●私は、オーナー企業の養子になることや、サラリーマン社長を薦めているのではありません。立場が違うと、責任感や経営への考え方は変わってくる、ということを言いたいのです。

●社長になったからには、株主のために、経営のプロとして2年契約を交わしたつもりで会社のありようを見直しましょう。プロ野球の監督のように、優勝請負人として手腕を買われたつもりで組織全体を見直しましょう。

●会社すべてが自分の所有物ではなく、経営資源の運用を託されたプロとして経営を考えることの大切さを、改めて強調したいのです。

●社長というポストは永遠のものでなく、リストラ対象から免除される聖域であってはなりません。結果が出なければ自分を解雇する、という覚悟が社長には必要なのです。

2006年09月22日(金)更新

戦略タイム

●マイクロソフトのビルゲイツ氏が、年に一回別荘に籠もる、というのは有名な話です。一週間ほど一人になって山荘で生活し、経営戦略を練り上げる。経営の現場に埋没していては、できない仕事があるようです。

●ある経営者は、「ボスデー」と称して毎月の最終土曜日を戦略タイムにあてています。この日は、いっさいの仕事を入れず、必要な資料とノートパソコンを持ち込んでホテルに籠もる。また、別の社長は毎日、始業前の30分間をそれにあてているそうです。

●中小企業経営者は、大半がプレイイングマネージャーですから、何らかの実務を受けもつケースが多いはず。おのずと就業時間中では、戦略や方針決めのことまでは考えが及びません。そこで、なかば強制的に時間を設けようという知恵なのでしょう。

●毎年、経営計画を作成し、発表している会社では、少なくとも年に一回は会社のあるべき姿を見直し、具体的な戦略や方針を考えることができます。ですが、それでも足りません。年に一度の経営計画作成で事が足りるほど現実は甘くない。

●計画通りにいかない事が多いし、状況も変わります。当然、目標の修正や計画の変更がせまられます。そこで、定期的な戦略タイムが必要になるわけです。

●プロ野球も監督のサインによって選手は動きます。「バント」なのか「エンドラン」なのか、あるいは「待て」なのか……。勝負どころでは一球ごとにベンチからサインが出ます。当然ながらサインは、具体的でなければなりません。まさか、「ヒットを打て」とか「ホームランを打て」というサインを出すような監督はいないでしょう。

経営の現場におけるサインはどの程度具体的なものか、考えたことがあるでしょうか。

●会議での席上、「なぜ、売れないのだ?」「もっと売れるはずだ」「努力が足りない」などの叱咤激励をよく聞きます。

●これなどは、野球の監督が「ホームランを打て」というサインを出しているようなものです。有能な監督やコーチならば、「直球に的を絞れ」とか「右打ちに徹せよ」という具体的なサインを出すはずです。

●定期的な戦略タイムを設けるということは、時間の経過を止めて日頃の経営活動をふりかえることです。そして、社員に対してより適切なサインを出せるように内省することでもあります。

●コツコツと経営方針を書きためるもよし、日頃の検討課題に対する解決策を考えるもよし、ツンドクにしておいた本を読むもよし、自由かつ生産的に過ごしたいものです。

●私は、「経営課題リスト」を日頃から作ることをおすすめしています。これは、日頃気になったテーマをその都度、箇条書きに記入しておくだけのシンプルなものです。会社に託す夢や、日常の問題点など、ごった煮のようなリストでも構いません。

●こうしたリストを作っておくことで、今なにを考えなければならないのかを絶えず具体的にしておくことができます。許すかぎりの範囲内で、すべての経営者が戦略タイムを設け、よりよいサインを出せるようにしていただきたいと願っています。

2006年09月15日(金)更新

IモードとBモード

お金があるときには時間がなく、時間があるときにはお金がない。企業もそれに似たところがあり、忙しいときには仕事がこなせないほど舞い込み、ヒマな時には資金が減って心細くなったりします。

●ちょうど適量な仕事が続くことはないようで、企業は2つのモード(型)のいずれかに片寄ります。

●ひとつはIモード。アイドルの頭文字をとったもので携帯電話のiモードのことではありません。アイドルとは空き状態、つまり仕事が少ない状態です。
もう一つがBモード。ビジーの頭文字をとったもので、多忙を極める状態です。いずれも私の造語なので、いまのところ世間では通用しませんが。

●Iモードにあるときは、空気を欲するがごとく仕事がほしい。仕事がもらえるのであれば何でもしましょう、という気になるときです。Bモードでは、砂漠で水を求めるごとく、時間がほしい。仕事をこなすのに精一杯で、受注不足の悩みなどまるでありません。

●この2つのモードは一時的に、ほどよいバランスになることはあっても長続きしない。たえず、いずれかに傾くのです。なぜ、ちょうど良いバランスを保てないのでしょうか? その答えは皮肉なものです。

●いまどれだけの仕事を持っているかが、今後、どれだけの仕事が入ってくるかをある程度決めてしまうからです。私の職種、経営コンサルタントを例に考えてみましょう。

人は誰でも勝者と取り引きしたいものです。コンサルタントに仕事を頼もうとするとき、Iモードにあるコンサルタントは、依頼主から見ると、仕事を欲しがっているように見えます。どんなに忙しそうなフリをして虚勢をはっても、かならず依頼主には見破られる。

●一方、Bモードのコンサルタントに出会うと、依頼主はこの人は特別な人だろうと判断し、こういう人に手伝ってもらいたいと心から思ってもらえるのです。

●逆に考えると、コンサルタントの仕事は途切れてから探すものではなく、Bモードの最中にさがす必要があるということです。

●実際には、いますぐ新たな仕事を引き受けることが不可能でも、空きができ次第真っ先に連絡することを約束すればよい。プロジェクトの開始時期の希望をつたえれば聞き入れてもらえることもあります。

●しかし、不思議なことにBモードにあるコンサルタントは、仕事を探そうとはしません。なぜなら忙しい状態がそのまま続くと考えるからです。実はそこに大きな落とし穴があります。忙しいからと仕事を断っているうちに、未来の可能性を失ってしまうのです。

●コンサルタントに限らず、仕事が安定して続く保証はどこにもありません。実に簡単に大口の顧客を失うのが、最近のビジネス常識とも言えます。1通のFAXで長年の仕事が一瞬で終わることすらあります。

●なんらかの営業活動や広告宣伝は、Bモードのときこそ効果を発揮するのです。

●私の辞典によれば、「白昼夢」・・・適量な仕事がずっと続くこと、とあります。

2006年09月08日(金)更新

4つのG

●収益率の低い会社にはわかりやすい共通点があります。それは、収益率の低い事業を営んでいるということです。わかりきったことなのに、なぜ、その事業から撤退できないのかが問題です

●私たちは、新しい事業をはじめる際には慎重に計画をたて、準備を整えてから取りかかります。ある意味で、臆病なくらい慎重です。

●しかし、現在の事業を継続することにおいては、ほぼ無防備に近い。継続するかどうかが検討課題になることはめったになく、議題にのぼる頃には、かなり手遅れなのです。

●「新しく事業をはじめるとしたら、今の事業をやりますか?」という問いかけを定期的にする必要があります。しかも、何らかの基準で見直しができればなお良い。

●その手法の一つとして、「4つのG」という概念をご紹介しましょう。

●4つのGとは、米国企業ゼネラルエレクトリックのジャック・ウエルチ元会長による言葉で、

1.Good technology(グッドテクノロジー)
2.Good Market(グッドマーケット)
3.Good People(グッドピープル)
4.Good Plan(グッドプラン)

のことです。この4つのGが揃うことが、その事業の成功の鍵だというのです。

●「グッドテクノロジー」とは、良き技術、良き製品、良きサービスであり、良き価格や良きシステムもここに入ります。売り物自体に競争力がどの程度あるかを問うものです。「グッドマーケット」とは、市場の将来性や顧客のニーズがあることを指します。
「グッドピープル」とは、良き経営陣、良きスタッフが揃っているかどうかを評価するもの。「グッドプラン」とは、良き作戦、良き計画のことです。

●評価の方法は、○△×でも5段階評価でも構いません。この4条件による評価結果は、たえず変化します。評価結果の推移を見守ることに意味があるのです。なぞなら、低収益企業でも、創業のころからずっとそうだったわけではなく、徐々に収益が悪化しているのに手を打たなかった会社が多いのです。

●定期的かつ客観的な評価が大切なゆえんです。

2006年08月31日(木)更新

社長の給料

●「社員に対して、経理内容を公開すべきか否か?」
 という質問を受けることがあります。

●この質問主の頭の中には、
「役員報酬を知られたくないとか」
「社員の給料をお互いにわからせたくない」
「会社の利益や資産の状況を教えたくない」
 など、いろんな思惑が渦巻いていることでしょう。しかしながら、こうした思いが、経理の公開を遅らせているのです。

●そこで、今日はその中のひとつ、社長の給料について考えてみましょう。

●社員の給料は賃金規定などによって基準がはっきりしていますし、世間相場との比較も簡単です。しかし、役員報酬に世間相場はなく、中小企業では報酬規定を定めていない会社も少なくありません。

●したがって、社長が社員の何倍もの給料をとっていることに罪悪感を感じてしまったり、その反対に社員と大差ない給料に恥ずかしい思いをしているケースもあります。

●私はかねがね、”役員報酬の基準を設けましょう”と申し上げてきました。一番ふさわしいのは、粗利益に占める役員報酬の割合を決めることです。一定以上の規模になれば、その平均値は10%前後になります。しかし、社員数が少ない会社では、この数字が極端に大きくなるケースもあります。

この値の大小を他社と比べても、意味はありません。過去3~5年間の数値を計算してみることです。すると、ある一定の範囲に収まっていることがわかります。さらに、今後3年間の粗利益目標を予想し、係数をかけてみると、だいたいの役員報酬額がわかります。

●順調に粗利益が伸びていけば、役員報酬も大手をふって増やすことができるのです。業績不振におちいれば、まっさきに役員報酬をカットする。もしくは役員を減らすことも検討するのです。仮に、役員報酬額が現実離れするほど大きくなれば、係数を下げていきましょう。

●このように、曖昧模糊とした役員報酬にも、何らかの基準を設けることが必要なのです。くれぐれも金額だけで判断してはいけません。金額は主観にすぎないのです。たとえば、「月額100万円もらっているから、当分上げないでいこう」とか、「家を買ったから給料を増やそう」などと考えること自体が、公私混同の始まりです。

●社長自身のテンションを上げましょう。そのための方法の一つが、役員報酬と個人資産に関する計画をもち、それに夢を感じることです

2006年08月28日(月)更新

VSC(ベリー・シリアス・クレーム)

いつも時間に遅れる社長がいたので、注意しました。すると、「すいません、うちはクレーム産業なものですから急に呼び出されることが多くて・・・」という言い訳が返ってきました。

●<クレーム産業>とは便利なことばで、いろいろな言い訳に使えます。そもそもクレーム産業なんていう産業はありません。特定の会社にクレームが多いだけのことです。

●数年前、大手の電機メーカーや住宅メーカーが消費者からのクレーム処理に失敗し、ホームページ上でクレーム対応のやりとりを公開されるという事件がありました。「これは大変な時代になってしまった」と大企業各社はあわてました。インターネット時代にはこれからも起こりうる出来事として、企業側も抜本的なクレーム対策が求めらているのです。

●クレーム対策は、以下のように分けて考えるべきでしょう。
・クレームを起こさないようにする取り組み
・クレームが起きた場合の取り組み

●ひとことでクレームと言っても、いくつかのランクがあるはずです。たとえば、クレームでも小さなものから大きなものまで五つくらいに分類し、第五段階を「VSC」とよぶことにしましょう。これは「ベリー・シリアス・クレーム」の略で、大変深刻なクレームと訳せます。

●製品の品質にかかわるものや、社会常識的に考えてあるまじき問題が発生したとき、あるいは、そうした問題に発展する危険性があるときは「VSC」に分類します。
このVSCは、クレーム担当役員(場合によっては社長自身)がその処置にあたるとともに、二度とあってはならないという意味で、全社あげて再発防止を徹底することになります。重点思考で、このVSCを撲滅することから着手しましょう。

●名古屋の某ハウスメーカーも、こうした事例を参考に社内で「VSC撲滅委員会」を結成しました。この委員会でVSCに至ったケースを分析したら、例外なく、単一の理由ではなく、複数の要因が重なってVSCに発展していくことがわかりました。たとえば、雨漏りがするからといっていきなりVSCになることはなく、その後の対応の悪さが重なって深刻な事態に発展するのです。

●同社は、一般業務の報告・連絡・相談のしくみの中でクレームも一緒に扱うと、危険であることを発見しました。そして、一定段階以上のクレームは、直接役員に報告するシステムを作ったのです。

●相次ぐ企業不祥事をみていても、クレーム対応のお粗末さがマスコミの餌食になっています。クレームのすべてを撲滅させようとすることは現実的ではありません。むしろ、VSCに絞って撲滅を図りましょう

●あなたの会社のVSCにはどんなものがありますか? 一度、社内でじっくり話し合ってみてはいかがでしょうか。

2006年08月18日(金)更新

乗り物を替えよう

●数年前に、32%を超える視聴率を記録したTBS系のテレビドラマ「百年の物語」(松嶋菜々子主演)が話題になりました。私もすべて見ましたが、わずか百年(3世代)の間で、これほどにまでに時代(特に女性の立場)が大きく変わるものか、とビックリした記憶があります。

●さて、前号の続きです。

●昭和20年代の後半から30年代の後半までの約10年間は、百貨店を除くと、「業種店」全盛の時代でした。「業種店」とは、取り扱い製品によって○○屋と呼ぶことができる商売の形態をさします。たとえば、肉を売るのが肉屋、魚は魚屋、呉服は呉服屋、金物は金物屋。至極わかりやすいビジネス形態です。

●流通経路は、メーカー→商社→一次問屋→二次問屋→小売店→消費者という感じで、川上から川下へモノが流れ、情報も流れていきました。立場的には、川上が圧倒的に強い時代でもあったわけです。

●ところが昭和40年代に急成長したスーパーは、○○屋というジャンルで商売を特定することはできません。なぜなら肉売り場もあれば洋服売り場もあり、運動具も靴も売っている。それこそ、何でも揃っている。しかも、都心にある百貨店と違い、郊外の駐車場付き店舗が中心で、接客もなければ過剰包装もなく、価格が安いのです。

●このように、顧客サイドに立って新しい事業形態をつくりあげた店舗のことを「業態店」といいます。業態店は、業種店のもっていた前近代的な要素をすべて否定し、近代的かつ科学的な小売業へと変身をとげたわけです。この業界にとって、昭和30年代後半からの約20年間は、業種店から業態店へと脱皮するための変質期であり、経営者たちはこぞってアメリカへモデル探しにも出掛けました。
●そして平成時代の今日、○○屋というような「業種店」で成長をとげている企業は、一部の例外を除いてほとんど存在しなくなりました。地方の旧商店街で、家業として生き残っているか、日本中に知れ渡る老舗店舗になって勝ち抜いたかのいずれかです。

●もはや、業種店は業態店に変態しない限り、企業としての成長が見込めない時代になってしまったのです。

●さらに今では、業態店のなかでもごく一部の企業しか成長できない経営環境になってきました。これは、小売業だけに起きている現象ではありません。建設業でも製造業でも飲食業でも旅行業でも全く同じ現象がおきています。あらゆる業界で例外なく、新しい業態作りが求められているのです。顧客や市場の視点から事業の枠組みを作り直すことが、急務なのだといえましょう。

●一つの業態が成長を維持できる年数は限られています。私たちが、徒歩、自転車、そしてクルマへと乗り物を替えてきたように、業態も陳腐化する前に替えていかなければなりません。あなたの会社が飛躍できるかどうかは、新しい業態を開発できるかどうかにかかっている、といっても過言ではないでしょう。

2006年08月11日(金)更新

イノベーション

●日本で最初に創られた株式会社は、坂本竜馬の「亀山社中」だといわれています。その後、明治に入り渋沢栄一らによって日本の資本主義の原型ができあがっていくわけですが、商業だけに限ってみれば、歴史は更にそれ以前にまでさかのぼります。

資本主義発展の歴史をみてみると、おおきなうねりの中で事業の栄枯盛衰が手に取るようによくわかります

●たとえば、私が子供のころ(昭和30年代半ば)には、母親たちの買い物は今と全然ちがっていました。買い物かごを手にもって、子供の手を引きながら近くの八百屋、魚屋、肉屋、乾物屋、金物屋などを転々としたものです。しかも冷蔵庫が十分に普及しておらず、買いだめはできません。当然家事は専業主婦でないとつとまらないほど多忙を極めたはずです。

●この当時、八百屋や乾物屋などを営む人たちにとって、誠実な商いを毎日つづけることこそ「企業努力」でした。自動車やバイクがないので、おのずと商圏はとても狭い範囲に限定されました。

●顧客の大半は地元のリピーターです。完全な地域密着商売です。ご近所とのつきあいを大切にし、常連客の家族構成を記憶しておくことや、気持ちのよい接客をすることなどで信用を築いていきました。いずれにせよ、きわめて緩やかな競争環境でもあったのです。

●それからわずか10年、電化製品や自動車の急速な普及により、主婦たちの家事労働は大幅に軽減され、おりからの経済発展も手伝って買い物の目的や方法が劇的に変わりはじめました。郊外に駐車場付きのスーパーが誕生し、食品も衣料品も玩具も文具もすべてが一カ所でまかなうことができる、主婦にとって、たいへん便利な時代が到来しました。

●このような時代の変化を見抜き、地方の小さな小売店にすぎなかったダイエー、イトーヨーカドー、ジャスコ、ユニー、ニチイなどが全国展開し、続々と株式公開を果たします。ちょうど、今のIT関連企業の公開ラッシュと似ています

●さて、この話の本質は何か?
●イノベーション(革新)の重要性です。自らすすんで過去の成功体験を捨てた所が勝ち組になったのです。ダイエー(薬局)もジャスコ(呉服屋)もヨーカドー(衣料品)もユニー(薬剤店・ふとん屋)も、地方小売店として当時からある程度の成功をおさめていました。にもかかわらず、過去と訣別する決意をし、店舗の総合化や大型化を一気にすすめたわけです。
同時に経営の近代化にも着手。商いの精神にサイエンスを導入し、より大きなビジョンに向かって合併する企業も相次ぎました。

●国内の商店街の大半は、こうしたイノベーション組によって大打撃を受けました。そもそもこうした時代の変化が、我が商店にどのような影響をあたえるのかに気づいていなかった所も多いのです。怠慢ゆえに時代を読み誤った会社は淘汰されていきました

●また、「変わらなきゃ」とばかり努力する会社でも、イノベーションに成功できなかった会社がたくさんありました。イノベーション(革新)を成功させるためには、変革の目的が必要です。何をめざして変わるのかという大義名分や名目が必要なのです。
先に実名をあげた企業には、その大義名分が備わっていたのです。

それは・・・、 <続きは次号で>

2006年08月07日(月)更新

経営者の情熱

●「うちも若返りが必要だから3年以内に息子へのバトンタッチを考えている」という経営者にお会いしました。聞くと、まだ52歳だそうです。息子の年令がではなく、その社長が52歳なのです。

●まだこれから円熟するはずの経営者が、早くも世代交代を考えるには、積極的な理由による場合と消極的なそれとがあります。積極的な理由とは、後継者に任せた方が経営はうまくいくと信じていて、ご自分も他にやりたいことがある場合。消極的な理由とは、「疲れた」とか「飽きた」という社長自身の情熱喪失です。

●ここで問題にしたいのは、消極的な理由です。

●引退するときは誰にでもやってきます。その瞬間まで、社長は社内でだれよりも熱い情熱の持ち主であってほしい。にもかかわらず、情熱喪失に陥るのはなぜでしょうか? 

●先行きが読めないとか、勘が働かなくなったとか、肉体が衰えたとか、いかようにも理由は見つかるでしょう。しかし、そうした表向きの理由の裏にあるもの、それは「夢」がなくなっているということではないでしょうか。夢がなくなると気力も衰えるのです。

●若手ベンチャー社長がマスコミにもてはやされ、20代や30代で成功するケースを多く接するようになりました。大橋巨泉流ライフスタイルにあこがれる経営者も多いそうです。

●そうした、周囲の成功者から学ぶことはあっても自分自身と対比する必要はありません。「彼らに比べて自分は今まで何をやってきたんだろうか」とか、「オレの出番はもう終わったのか」などと思うのは早計の至りです。老け込むにはあまりに若すぎます。

●日本初の地図制作者として有名な伊能忠敬は、養子先の家業再建のために50歳まの時を費やしました。人生50年時代の50歳だから、今でいえば70歳を超えていた感覚です。その後、彼は20歳も年下の若い天文学者の門を叩きました。そして測量術を学び、幕府の許可を得て地図制作を開始したのです。

●それから73年間の生涯を閉じるまで忠敬は日本中をくまなく歩き、彼の没後4年目に弟子たちが跡を継いで、ついに日本地図を完成させました。

●米国のマクドナルドハンバーガー創業者のレイ・クロック氏も、50代半ばまで、ミキサーのセールスマンをやっていました。ケンタッキー・フライド・チキンの創業者カーネルサンダースも60歳を超えるまで1店舗のガソリンスタンドを所有するにすぎない変わり者社長でした。

夢と情熱は肉体年齢を超越します。私たちのクライマックスはまだ来ていないと考えて、もう一段高いところにピークを作ろうではありませんか。
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ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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