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2012年08月10日(金)更新

強そうな組織

●相手のオーラを見た瞬間、「あっ、今日は負ける」と思った。
ある年の高校野球・東海地区秋季大会でのこと。私が応援する岐阜県代表の学校と戦うのは愛知県代表の愛工大名電でした。体の大きさからして愛工大名電に分があるだけでなく、キャッチボールの正確さ、投げる玉のスピード、ノックの打球の早さや守備の軽快さなど、すべてにおいて相手が上回っているのがスタンドから観ていてもはっきり分かりました。
 
●「今日は負けるぞ」と思ったのは私だけではなかったはずです。岐阜県代表の高校生たちも息を飲むようにして愛工大名電の練習をみていました。戦う前から相手の迫力に飲み込まれてしまったのでしょう、結果はコールドゲームで岐阜代表が敗れ、春の選抜出場への道は断たれたのでした。
 
●この時のように、試合が始まる前から勝敗が分かっていることがよくあります。
2005年にイラクのサマーワの復興支援群長を務めた番匠幸一郎・陸将補の言葉が月刊『致知』に紹介されていました。それによれば、「強い軍隊と弱い軍隊は一目で分かります。『弱そうだ』と思われたらそれまでです。そしてそれは服装の着こなし、目つき、武器の手入れ、清掃など些細なところに表れます」とありました。
 
●野球の強さも軍隊の強さも、ひと目みたら分かるもののようです。
番匠群長による日の丸復興支援群が無事にイラクから帰還できたのは、幸運だけによるものではなく、一糸乱れぬ規律がもたらすオーラが備わっていたからでしょう。「こりぁ、かなわん」と相手に思わせることが大切です。
 
●会社の強さも同様です。会社の強さ、すなわち実力とは、その会社の主力製品や財務内容、ホームページなどを分析しなくてもすぐにわかるものです。オフィスを訪問し、応接セットで10分も座っていれば、強い会社か弱い会社か一目瞭然です。それは社員の活気、清掃レベル、会話などから判明するものです。
 
●あなたも積極的に他社を訪問してみましょう。
 
かつて私は株式投資をしている時期がありました。そのころには、投資候補企業の本社を訪問し、IR部や総務部をおじゃましたことが何度かあります。たかが個人投資家のわずかな資金なのですが、個人投資家を大切にしてくれる企業は株価も堅調でした。それと同時に、会社におじゃますることで雰囲気がよく分かり、とても重要な投資判断材料になりました。あなたも企業訪問を積極的に行ってそこで感じるものを大切にしてみましょう。同時にあなたの会社が来訪者からどう思われているのかもこの際、きびしくチェックしてみよう。
 
 

2012年08月03日(金)更新

Myカタログ発表会

●呉竹光学株式会社(仮名)の醍醐社長(仮名)は、20年前から毎年秋の連休を利用して二泊三日の社員合宿を定期開催しているといいます。合宿の初日は経営理念や方針を実践するための行動計画づくりの一日で、ユニークなのは二日目。朝から全員が「Myカタログ」の発表をおこなう。
 
●「Myカタログ」は A4サイズのファイルに綴じることだけが統一されていますが、あとはすべて各自の自由。少なくとも次の項目だけは必ず盛り込むように指導されているそうです。
 
・My ミッション (個人の志)
・My キャリア 私のこんにちまでの歩み、特徴のある経験や実績
・My profession 誰にも負けない私の専門分野の実績およびこれからの開発計画
・My Vision 私の20年後の姿をイメージ画像やイラスト、デザインなどで表現する
 
●秋の社員合宿は、精魂込めて作り上げた「Myカタログ」をお披露目する一世一代のプレゼンの場。一人7分間の発表+3分間の質疑応答で、社員40名全員が発表を終えるまでに7時間以上かかります。しかし、誰一人この7時間が長いと感じることがないほど、各自の「Myカタログ」は充実し、個性的なのです。
 
●それもそのはず、社名にちなんだ「呉竹賞」(最優秀者)を受賞すると、ベネチアングラスの盾に副賞として50万円の賞金がもらえるのだ。しかも昨年、一昨年と該当者なしだったため、今年の受賞者は繰越金と合わせて150万円もの副賞賞金がもらえるのです。
 
●先日、醍醐社長にお目にかかり、社長自身の「Myカタログ」も見せていただいたが、実に楽しげな内容で私も作りたくなりました。社内のデザイナーに "アルバイト" して書いてもらったというマンガが駆使され、全ページフルカラーで美しい仕上がりでした。時間をかけ、手塩にかけた「Myカタログ」は手放せないし、人に見せたくなるものだといいます。
 
●醍醐社長の談話。
 
・・・25年前に今の会社を起こしたころ、産業能率大学出版部から出ていたナポレオン・ヒル著の『成功哲学』を読んで感動しました。その本のなかに転職を有利にする「私のカタログ」という記載があり、それを社内に応用しようと考えたのです。最初のうちは、社員数も少なくて盛り上がりも乏しかったのですが、年々社員の実力と比例するように「Myカタログ」のレベルも向上し、賞金額もアップしてきて、今では社内最大のお祭りになっています。お客さんの会社から合宿を見学したいという希望も多くなっているのですが、これだけは私と社員とのサシの勝負としたいのでご勘弁願っているのです。・・・と誇らしげ。
 
●醍醐社長のひそかな喜びは、独立するために退職した社員や、転職していった社員が、「Myカタログ」発表会にOBとしてゲスト参加してくれること。そうしたOB社員の中には、今でも呉竹光学とビジネスしている会社の経営者も少なくないそうです。
 
●いずれにしても、レベルの高い「Myカタログ」を全員が作れるようになるには、毎年こうした発表会があり、きちんと評価される場があるという点がカギだと思います。
 
 

2012年07月23日(月)更新

終始一貫の秘訣

●「体重がなかなか減らないのですが・・・」とジムのコーチに相談しました。このジムに通い始めて一ヶ月、週に3回のペースでトレーニングに励んでいるのに体重が1キロしか減らないのです。
 
私のトレーニング履歴カードを見ながらコーチはこう言いました。
「大丈夫です!あなたは今日も来られましたから」
「え?」
「明日もお越しになれば更に大丈夫です」
なんとも哲学的な回答です。おそらく、コーチのメッセージは「結果に一喜一憂せずにやり続けなさい」というものでしょう。釈然としないながらもなかなか本質を突いた助言だと感心したことを覚えています。
 
●「体重が減らない」の他にも私たちには思い通りにならないことがたくさんあります。
たとえば「早起きができない」「読書の時間が確保できない」「良い習慣が守れない」などなど。
 
●あるご婦人が、「どうしたら終始一貫、サッと起きられるようになるでしょうか」と尋ねられた丸山敏雄師は、次のように答えたそうです。
 
「明日の朝ひと朝だけサッと起きてみることです。終始一貫早起きしようなどと思わないことです。終始一貫とは明日の朝のことですから。あなたは終始一貫を何十年と思っている。人間、明日もわからないのですからよけいな取り越し苦労をしないで、"明日の朝ひと朝”だけに集中しなさい。それが終始一貫なのですから」
 
★丸山敏雄 http://maruyamatoshio.com/ 
 
●それを聞いた彼女は、「ああ、それなら出来るかも・・・。ひと朝くらいなら私でも出来そうです」と答えたそうです。
「いつもそういう気持ちでいれば、ちゃんとできます」と丸山師。
結局その女性は一貫して朝起きができる人になったといいます。
 
●丸山自身、学生時代は書道が落第寸前の成績でした。そこで、書道の先生を訪ね、上達の方法を質問したところ、「一日に10枚清書せよ」と助言されたそうです。
 
そこで、"先生が10枚と言われたのだから、私は12枚清書して先生の教えにこたえよう"と心に決め、その日から、毎日12枚以上の清書をすることが日課となったそうです。やがて書道は丸山師の趣味になり、やがて日本を代表する書家にもなりました。終始一貫の力は絶大なのです。
 
●習慣は第二の天性といいますが、人として基本的なことがきちんとできるようになることはとても大切なことです。それには終始一貫が必要であり、それは今日一日決めたことを実行することのようです。
 
大切なことは“今日だけ“実行するようにしましょう。

 

2012年07月13日(金)更新

3,000円ではなく12,000円

●かつて、北陸のある都市の異業種交流会に招かれて講演させてもらったことがあります。会場には数十人の経営者が集まり、先が読めない時代にいかに会社を伸ばしていくか、というテーマで2時間ほどお話ししたわけです。パンフレットには「受講費3,000円」とありました。2時間の講演で3,000円というのはその都市でもかなりお値打ちな方だとか。
 
●しかし、その日、私のテンションはなかなか上がりません。受講費が安いからではありません。最前列右端に座っている人がずっと寝ているのです。かすかに寝息まで聞こえてきます。
こういう人が最前列にいるとやりにくい。
途中、願望やお困りごとを箇条書きにする「Wish-List」の5分間作成コンテストを行いましたが、彼一人だけ参加せず、腕組みしたまま眠りつづけています。時々うつろな目を開けるのですが、また姿勢を変えて眠ります。
 
●結局2時間ずっと眠っていました。今でもその情景と彼の寝顔を覚えているということは、我ながら相当悔しい思い出なのでしょう。
講演後、主催者に苦言を申し上げました。「どうしてああいう人がこの会場にいるの?お金払って話を聞きに来ているのでしょう?」
「はい、申し訳ありません」と平身低頭されましたが、主催者の責任ではないのでそれ以上は追及しませんでした。居眠り経営者にとって3,000円という受講費はお付き合い費用みたいで安すぎたのでしょうか。
 
●こちらにも反省点がありました。理由の如何にかかわらず、聞く姿勢のない聴衆は追いだすべきでした。それが講師の権限、もしくは義務だと思うのです。他の聴衆の方に迷惑になるし、何より講師に与える心理的ダメージは大きなものがあります。
 
●そんな中、熱気に包まれた状態で迎えられてゆく講演は講師冥利に尽きます。
北陸講演から戻って間もないころ、東京のセミナー会社が私を講師に呼んで経営セミナーを開いてくれました。この会社が主催するセミナーはいつも満席で、ビジネスとしてもきちんと成立させているのが強みです。
 
●まず講演会の価格設定にポリシーがあります。
私の90分講演が12,000円。その前の北陸では120分で3,000円でしたから、時間単価にして5倍以上の開きがあります。
主催者の社長いわく、「3,000円で100名集めるよりは、12,000円で25名集めたほうがお客満足度がはるかに高い」
 
●今回の集客にあたっては、社長みずから一人一人にビデオメッセージを送ったそうです。
過去、同社のイベントに参加して親しくなり、今回のイベントにも是非来てほしいと思う一人一人に対してです。
「あ、山田社長こんにちは。ちょっとご無沙汰してしまって申し訳ありません。日頃、うちの N がお世話なっています。実は、今回、かねがねお招きしたかったメルマガ作者の・・・・」という具合に一本ずつ収録していったそうだ。
 
●そうしたメッセージを受け取った人の半数が参加してくれたそうです。欠席の知らせを受けた人でも、詫びと同時に次回以降は極力参加するというようなメッセージも送ってくれたというから大したものです。
集客は単なる告知やお願いなのではなく、フェイスtoフェイスでのメッセージングであり、企業におけるマーケティング活動そのものです。
 
北陸と東京、同じようなお話しをしたのですが、方や3,000円の受講費で苦い思い。方や12,000円の受講費で大満足してもらいました。
 
価格設定と顧客満足との関係、いまのままで良いのかあらためて見直してみましょう。
 
 

2012年06月29日(金)更新

穴吹社長のオフサイト・ミーティング

●今年の4月に入社したばかりの新入社員と昼食会を開いたある社長。
幕の内弁当を食べながら、ひとりひとりの社員に感想を聞いていったそうです。すると、一人の新人が意外な指摘をしました。
「入社する前はもっと俊敏な会社だと思っていたのですが、意外に官僚的で意思決定が遅いです」
 
●とても新入社員とは思えぬ発言に社長は驚きました。企業体質をよく見抜いたと感心もしたといいます。新人はフレッシュであるがゆえに、長年会社にいる人よりも敏感なのでしょう。そうした若者の声は普通、会議で発言されるようなことはまずないでしょう。おそらく議題にものぼらないはずです。積極的に社員の声を吸収しようとしない会社では、上司や経営者の耳にこれらの声が届かないはずです。きっと居酒屋でのグチとして虚空に消えていくことが多いのではないでしょうか。
 
●この社長のように、昼食会という場で気軽にいろんなことが言い合える場を作るのも有効でしょう。また、上司面談や社長面談など、定期的な面談の場を通して話し合える機会を作るのも効果的です。
また、“オフサイト・ミーティング”も有効です。これは、真面目な話題を気軽な雰囲気で行うミーティングのことで、こちらのホームページに詳しくあります。
 
★オフサイト・ミーティング→ http://www.scholar.co.jp/fuudo/offsite-m_s.html
 
●旅行会社の穴吹観光(仮名)の穴吹社長は、「みんな、キリがついたらここへ集まってくれ」と午後5時にオフィス全体に声をかけました。
スタッフ8名全員にお茶菓子が行き届くのをみてこう切り出しました。
 
「今日はおつかれ。今からみんなで会社をよくするためのミーティングをやりたい。ミーティングとはいっても、いつもみたいにオレが司会をするわけでもないし、特定の議題やテーマがあるわけでもない。フランクに誰からでも自由に意見を言ってほしい。だれか口火を切ってくれるヤツはいるか?」
 
●穴吹社長の予想通り、みんな下を向いて押し黙っています。彼らは普段はよくおしゃべりするのに、なぜか会議になるとおとなしくなってしまうのです。
そこで、穴吹社長は個人的な話をはじめることにしました。今の会社を作ったときの経緯からはじまって、初めての受注の感動、お客様が感謝の絵ハガキをスペインから送ってくれたときの実物の絵ハガキも回覧したのです。
 
●約15分、社長の話を聞く社員たち。かなり興味をもって聞いてくれているのですが、このミーティングの主旨がわかっていないせいか、どことなく落ち着きがありません。この日は結局、失敗に終わりました。
 
●翌週、穴吹社長は別のやり方でオフサイト・ミーティングを開始しました。
各自の席には、5センチ四方のメモ用紙が10枚ずつ配られていました。
 
「みんな、まずメモを一枚使って今まで誰にも言っていなかった自分の自慢話をひとつ書いてくれ。どんなささいなことだって構わない。1分くらいの時間で思い出して書いてくれ」
 
●各自が書いたものを読み上げ、それを言葉で補足するようにしました。
 
・ちびっ子相撲の大会で3年連続優勝したことがある鈴木君
・小学生のとき作文コンクールで全校佳作をもらい、校長先生から筆箱をもらったという伊藤君
・不良だったので父親から勘当され、田舎から東京に来て10年。去年ようやく父親に許されたのがうれしくて、両親に温泉旅行をプレゼントしたという斉藤君
・年末ジャンボ宝くじで3等100万円を当てたことがある水谷さん
・スキーのジャンプ競技で国体にも出たことがある加納君
・バスガイド時代にお客様アンケートの結果でいつも社内ナンバーワンだった玉城さん
・・・etc.
 
お互いがけっこうスゴイ、ということがわかりムードが盛り上がってきました。穴吹社長はこの雰囲気が社内にほしかったのです。
 
●各自の自慢話を披露しあってムードが盛り上がってきたところで、穴吹社長はこう言いました。
 
「じゃ、次に仕事のことや会社のこと、個人的なことなどで今頭の中にあることを一件一枚で書き出していこう。互いに読めるていねいな文字でわかりやすく書いてほしい。5分くらいでやっちゃおう!」
 
穴吹社長自身もサインペンでサラサラと書きました。それにつられるように、一人、また一人という具合にやがては全員がペンをひたすら走らせました。
 
●皆のペンが止まらないので結局3分延長するほどでした。一人あたり数枚のカードを書いたようです。
 
書いたカードを一枚読み上げ、テーブルのしかるべき場所にそれを置きます。次の人が自分のカードを一枚読み、また置く。このようにして約30分、全員が自分のカードを読み上げ、テーブルの上にはカテゴリー分けされた状態のカードが島になっています。
 
●それを模造紙に貼り付けていきます。最後にその模造紙そのものも壁に貼る。こうして各自の意見がすべて貼り出され、一覧できるようになりました。
ここで大切なことは、本人にとっては重要なことが上司はそのように思っていないことがあることに気づくことです。
 
●子供が生まれたばかりの若い父親は、週に一度は子供を風呂に入れてやりたいと思っていました。だが、勤務が不規則でなかなかそれが実現できない。それはストレスになります。もし可能であれば、週に一回ぐらいは平日に早く帰宅できる方法を皆で考案できるはずです。助け合えばよいのですから。
こうした議論が遠慮なくできる会社のほうが、業績面に好影響をあたえることは容易に想像できるでしょう。
 
●各自の発言の中味も大切ですが、気軽になんでも発言できる機会があることのほうがもっと大切なことなのです。

 

2012年06月22日(金)更新

工藤社長の逆転勝利

●「おたくはそんな事も出来んのか?」と言われた。
 
客先の担当者は、工藤社長(仮名、55歳)からみれば自分の息子の年令だった。まだ社会人3年目くらいの若者から頭ごなしに怒鳴られたのである。サンプル品の品質が低いという。「よくこれで今までやってこれたね」とか、「おたくが社会に存在する意味がわからない」などと、屈辱的なこともたくさん言われた。
 
●「何とかしてこの大手自動車会社から注文がほしい」と、あらゆるコネをたどってようやくこのサンプル品を見てもらうチャンスが来たのだ。ここはジッと耐えるしかない。それにしても品質と価格の要求が今までとは別次元に厳しい。
「完璧な仕事をやったつもりだったのに。これ以上のことは今のウチの技術では無理かもしれない」と工藤はギブアップしたかった。
 
●実は、すでに工藤の会社は行き詰まっていた。従来の主力製品が海外生産されることになり、工藤の会社は資本力がないために海外移転できず、受注が激減していた。
まじめな工藤は、うつ病と診断され苦しんでいた。自殺を真剣に考えたことも数知れずあったが、奥さんが支えてくれた。イザとなれば親戚も友人も誰も助けてくれなかった。奥さんの父親だけが親身に話を聞いてくれて、保証人になってくれた。しかし、その資金もやがて底がつく。工藤はもう逃げ場がない。倒産破産するまえに、ラストチャンスを求めてアタックするしかなかった。
 
●若い担当者の罵声にもたえて、工藤はねばり強い対応を重ねていった。
「もう一回やらせて下さい。明日お持ちしますから」
こうした彼の懸命で誠実な努力ぶりと人柄が伝わったのだろうか、徐々に若い担当者の態度が変わっていった。やがて、小さな注文を出してくれた。若い担当者のメンツを保つためにも、工藤は最高の仕事をした。やがて若者は工藤を慕うようになっていった。
 
●仕事がようやく軌道に乗り始めたある日の午後、工藤は担当者に呼ばれた。
 
「工藤さん、こんな製品を作れませんかね。もし本当にこんなものが作れたら、ウチの会社だけでなく自動車業界全体からも注文が舞い込みますよ」とある工作機械のアイデアをもちかけてくれた。
 
「本当ですか?ぜひうちにやらせて下さい」
 
●もともと技術の仕事は得意だ。寝食を忘れてその機械作りに取り組んだ。そして、ついに三年がかりで完成させ、特許も取ることができた。
今、工藤の会社は舞い込む注文をこなし切れないほど超多忙だ。業績も急回復した。一億円を突破する利益が出るようになった。工藤の逆転勝利である。
 
●愛社もカリーナからウィンダム、そしてセルシオに進化した。油にまみれた作業着ではなく、ミラショーンのスーツにネクタイを締めて外出することも多くなった。奥さんも働きに出る必要がなくなり、特技の華道の教室を開いた。保証人になって支えてくれた亡き義父に恩返しできなかったことだけが悔やまれるが、きっと天国で拍手してくれているに違いない。

 

2012年06月08日(金)更新

ネタが命

●漫才やピン芸人のグランプリを決める番組があります。高額な懸賞金を目当てに、一発勝負のネタで勝負するのがおもしろく、ほとんどの芸人が緊張し、笑いを取ることに真剣になっています。
見事グランプリを取ったあかつきには、懸賞金が手に入るだけでなく各テレビ局から引っぱりだこになります。雑誌取材やコマーシャルだって舞い込むことがあります。昨日まではヒマをもてあましていた芸人が、一夜にして多忙を極めるようになるわけですから、まさしく「お笑いドリーム」ですね。
 
●ネタが勝負なのは芸人だけではありません。社長もネタが命です。
 
新製品のネタ、新事業・新サービスのネタ、マーケティングのネタ、イノベーションのネタ、人事のネタ……。
いつも新しいネタを考え、社内に新風を吹き込み続ける。それが社内の活性源となり、ネタによって社長自身のテンションも維持できるのです。
 
●では、そうしたネタはいつ考えるのでしょうか?
 
約1000年ほど前の宋の時代、中国の学者・欧さんは文章を書く時やアイデアを練る時には三上(さんじょう)でなければならないと書き残しています。三上とは、「馬上(ばじょう)」、「枕上(ちんじょう)」、「厠上(しじょう)」の三つです。
 
今日に当てはめるならば、
 
・馬上・・・車や新幹線、飛行機で移動中
・枕上・・・ベッドやふとんの上。眠る前、眠っている最中、寝起き
・厠上・・・トイレの中
 
ということになるでしょうか。いずれにしろ、一人になって自由になったときにアイデアがひらめくことが多いとされているのです。
 
●私も、自分のメルマガやブログのネタを思いつくときはどんな時かを考えてみました。
それは、移動中、読書中、聴講中の三つです。
移動中とは、車や新幹線、時には徒歩の最中にアイデアが出ます。そんなときは、あわてて何かにメモを取っていたのですが、最近は音声認識してくれるアプリに向かって語り、その場で自分宛にメールしておきます。
読書中にアイデアが出ることも非常に多い。シナプスが活発に動いてつながっている感覚は何より楽しい時間です。聴講中というのは、人の話を聞いている時ですからセミナーや会議の時ということです。
 
あなたはどんな時にひらめきますか?
 
●社長はネタが命。
新しいネタを仕込む場所と時間を意図的に確保して、いつも新鮮なネタで尽きない社長であり続けましょう。

 

2012年06月01日(金)更新

ある会社の社員総会

●父の会社を継ぐために大企業の管理職という立場を投げすてて、地元にもどったA社長(43歳)。
世界規模の製造業で20年間勤務し、営業、製造、品質管理、安全管理、労務管理や人事管理など、あらゆる経験と知識と技術を手みやげに父の会社に凱旋されました。いや、「凱旋」するはずでした。
 
●ところが、まるで異国に初めてやってきた外国人のように「言葉が通じない、常識が通じない」という思いをすることになります。トップダウンもボトムアップも通用しません。人対人のハートの振動が同じ波長にならない。立場や言葉だけでは人を動かせないことを痛感することになります。A社長にとっての本格的な格闘がはじまったのでした。いや「格闘」なんて表現でもきれい過ぎるかもしれません。彼が社長でなかったらとっくに胃潰瘍で入院しているか、会社を辞めていたはずです。それほどのもがき苦しみが「凱旋」のあと数年続いたそうです。
 
●つい先日、A社長の会社の第一回「社員総会」が開かれることになり、私も招かれました。百名近い社員が制服で勢揃いする中、第一部が「経営方針発表会」、第二部が「安全大会」という構成で行われました。
 
創業50年近くになるそうですが、こうした社員総会が開催されるのは初めてのこと。A社長が考えていることを伝えるだけでなく、各現場からあがった目標も部門長が発表されました。ようやくここまでたどり着いたというべきでしょうか。
 
●「経営方針書」の内容はまだ緒についたばかりの段階。
目指す全員参加型経営は今日が実質上の初日です。よちよち歩きではありますが、門出を祝ってあげたいという気持ちと、本当の格闘は今日からが本番! とゲキを飛ばしてきました。
 
 「がんばれA社長!」
 
 

2012年05月25日(金)更新

実車に付け

●「 "実車に付け、空車に付くな" が僕のモットーです」と語ってくれたのは東京の大手タクシー会社の運転手・須藤さん(仮名、33才)。
彼は今のタクシー会社に入る前には、コンピュータプログラマーをされていました。運転好きであることと、都内の地理に精通しているという理由でタクシー会社に転職し、もうすぐ半年になるそうです。
 
●仕事の感想を尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「自分の才覚次第で収入が大きく変わってくるので、とてもやり甲斐があります。IT 業界にいたときの知恵の使い方がこの世界(タクシー業界)でも使えそうな気がしますし」
先月の月収は40万円だそうで、決して悪くない数字です。好成績の秘訣を聞いてみたら冒頭の言葉がかえってきたのです。
「 "実車に付け、空車に付くな"」
 
●その意味するところはこうです。
須藤さんがタクシー会社に入って最初の月は先輩の助言を無視して、とにかくガムシャラに流したそうです。タクシーを拾ってくれそうな場所を何ヶ所か教わって、そこを中心に流しに流しました。先輩ドライバーが休憩したり仮眠をとっているときも彼は真剣に流したそうです。
 
●一週間もしないうちに彼はメキメキ頭角を現します。中堅社員並みの成績を上げだしたのですが、その頃彼はあることに気づいたそうです。
それは、「実車中によく手を挙げられる」という法則です。果たしてこれが法則なのか、それとも単なる気のせいなのか。どうも気になるのでデータをとってみることにした。
 
●一日何回お客から呼び止められるかというデータで、実車中の時と空車の時との回数を比較して彼は驚くことになります。
ある一週間の集計ですが、空車の時より実車の時のほうが手を挙げられる回数が1.5倍も多いというデータが出たのです。
 
●「なぜだろう?」と彼は考え込みました。でも理由が思いつきません。ず~と考え続けたのですが、「運」とか「ツキ」という結論しか思い浮かばなかったそうです。
結局、いくら考えても理由が思いつかなかったのですが、須藤さんはデータを信じました。そしてデータに基づいて行動することにしたのです。自分が空車でも、他の実車中の車のあとを追いかければ稼働率が上がるのではないかという仮説を打ち立てたのです。
 
●そうした工夫が積み重なって須藤さんの営業成績は入社半年なのに営業所のトップ10%に入っているというのです。科学的営業法はいかなる世界でも有効なのでしょう。

 

2012年05月18日(金)更新

ある会社の真摯さ

●「うちは研修教育に力を入れています」と社長自身が胸をはる会社から研修を頼まれました。訪問してみると案の定すばらしい。
その日は新任部課長研修だったのですが、社長が最前列に座って私の講義を聴いておられました。しかも誰よりも大量にメモをとっていて、私の顔を見るより下をむいてノートをとる時間のほうが長いくらいでした。
 
●「背中で語る」という言葉がありますが、社長が一生懸命になってノートをとる姿を見ながら居眠りできる社員などいません。社長の存在と受講の姿勢によって会場内の空気がピーンとするのが講師として大変ありがたかったことを思い出します。
 
●そうした会社は研修後の懇親会までひと味違います。お酒が回るのですが、世間話のような会話はなにひとつ出ません。「今日の研修で何を学びましたか、順番に発表してください」と研修部長が音頭をとるので、私もうかうかビールも飲めないほど。実はそれぐらいの方がうれしいのです。ビールなんていつでも飲めますから。
 
●懇親会終了時にまたまた驚きました。研修部長のこんな締めの言葉で会がお開きになるのです。
 
「皆さん、それではいつも通り今日の研修レポートは明日の正午までにメールしてください。交通費はそれとひき替えに口座振込されます。レポートが遅れた場合は交通費支給ができませんから気をつけて下さい」
 
●この会社のレポート提出はすべてが翌日。それを怠ると交通費が出ないばかりか次回の研修を受けられなくなるそうです。研修も懇親会も仕事である以上、当然のしつけなのでしょう。
 
社長の真摯さが社員にも真摯さを求めるのです。

 
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ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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