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2011年02月18日(金)更新

そうじ力

●世間では「断・捨・離」(だんしゃり)がブームだそうです。
何かとっておきのノウハウかと思いきや、昔から変わらない教えです。不要・不適・不快なモノとの関係を断ち、捨て、離れることから「断・捨・離」。それがブームになるほど多くの人はシンプルに生きるのが難しいようです。

●私は作家の書斎を見るのが大好きです。雑誌の「書斎特集」などをみていると、きれいに片付いた書斎もあれば、所せましと本や資料が散らかっている書斎もあります。もう少しきれいにすればもっと効率よく仕事ができるのに、と他人事ながら心配していまう乱雑な書斎もよくみます。

●何をかくそう、私もかつてはデスク回りがいつも散らかっていました。どうしたらきれいに片付くのか教えてほしいと思っていたのです。そして、数年前にある本と出会い、私に強い印象を与えました。『夢をかなえる「そうじ力」』(舛田光洋著、総合法令出版)という本です。

●著者の舛田さんは北海道出身で、35才の時に本書を刊行しました。
「そうじ力」なる言葉をうみだし「そうじ力」によって磁場の改善、心の改善、運勢の好転を提唱しています。最近では、中小企業の職場環境整備コンサルタントとして「そうじ力」を業績改善などに用いて成果をあげているそうです。

●きっかけは氏自身の失敗と再起だとか。
以前、事業で失敗し借金を抱えて離婚、失望、無気力へのプロセスを一直線に歩んでいったといいます。
その歩みは同時に、汚さへのプロセスでもありました。部屋を掃除しない、身なりを清潔に保てなくなる(入浴や化粧、ひげ剃り、洗面などをしなくなる)、他人がキレイに片づけると怒る、という悪循環です。

●そんな時、プロのそうじ屋をやっている友人が掃除道具持参でやってきて、著者の部屋を換気したあと、掃除をはじめました。
「お前も手伝え」と言われ、著者もしぶしぶ手伝いました。そして、きれいになった部屋で「どうだ、気持ち良いだろ」と友人。
そのとき、著者ははじめて気持ちいいという爽快感を味わったといいます。
それが「そうじ」と著者との出会い。

●ある心理学者の調査によれば、散らかった部屋、そうじの行き届いていないオフィスなどで生活を続けると、生理的な面でも心拍数や血圧の増加、動悸、首や肩の痛み、イライラが募り、怒りっぽくなるといいます。

●地下鉄や市内のカベの落書きを消し去っただけで米国NY市の犯罪は75%も減りました。崩壊寸前の学校が、PTAの親たちによるトイレ掃除で蘇ったケースも大阪にあります。こうした事実にもみられるように、環境が人間の生理や行動に極めて大きな影響を及ぼしていると舛田さん。

●ゴミやカビ、汚れや不要物が散乱しているということは、それ自体がマイナスの磁場を発しているというのです。
せっかく自己啓発本を読み、やる気になるような目標を作っても、マイナスの磁場がある職場や自宅では、自己矛盾を起こしてしまうでしょう。

●作家の多くは近くにたくさんの仕事のための資料や本が必要だから、あんなに机の上が散乱していたんです。作家でもない私が同じことをする必要はありません。
今や何でもデジタルの時代。これからの作家のデスクはパソコン以外は何もなくなる可能性だってあります。ビジネスピープルであればなおさらでしょう。

さあ、そうじです。

2011年01月21日(金)更新

経営の困難

●「おかげさまで幸せです」が口ぐせの社長がいます。社員のおかげ、家族のおかげ、お客様のおかげ、と「おかげ」ばかりを連発するのです。そういう言葉を発するときは、物腰も自然に謙虚になるものです。
その反対に「あいつのせい」「こいつのせい」と「せい」ばかりを連発する社長もいます。
その表情はいつも怒っている人特有の眉間をしています。

●これまでにたくさんの社長とお会いしてきましたが、「うちの会社には、何ひとつ問題がありません」と胸をはって答えられる社長にはお会いしたことがありません。きっとこれからも会うことはできないと思っています。もしそんなことを言う人がいるとしたら、よほど理想や目標が低い人なのでしょう。

●では、「問題はたくさんあるが、困難には直面していない」という経営者はどの程度いるのでしょう?
それにはデータがあるのですが、正解は、おおむね1割です。9割の経営者は困難を抱えながら経営を行っているという調査結果が出ているのです。

●中小企業金融公庫が2004年に「経営環境実態調査」として発表したもの。少々古いデータではありますが、何らかの参考になるでしょう。

問1.あなたは今、経営上の困難に直面していますか?
    はい、いいえ
問2.はいの場合、経営に最も影響の大きい問題は何ですか?
    売上が伸びない、資金繰難、人材不足、後継者難、技術力不足、その他

●当然、従業員規模によって回答内容に微妙な違いがあります。「困難に直面していますか?」に対して『いいえ』と回答した企業の割合をみてみますと、従業員数20名未満の企業は10.3%、従業員数301名以上の企業は13.6%となっています。企業規模が大きいほど、その割合も高くなっていますが、おおむね10%強が「困難はない」と認識しています。

●逆から見ると90%近くの会社が「困難がある」と答えているのですが、その内訳は、
一位:売上が伸びない、減少している(40%~47%)
二位:人材不足(21%~32%)

●ちなみに三位の「資金繰難」については

企業規模が小さいほど大きな問題になっています。従業員20人未満の会社の15.7%がこの問題を抱えており、301名以上の企業になるとこれは、3.4%の会社に過ぎません。

●整理してみましょう。

1.困難を抱えている会社はざっと9割(残り1割は困難を抱えていると思っていない)
2.企業規模を問わず「売上が伸びない」が最大の困難
3.企業規模を問わず「人材不足」が二番目の困難
4.企業規模が大きくなるほど、「人材不足」と回答する企業の割合が増える
5.企業規模が小さくなるほど、「資金繰難」と回答する企業の割合が増える

●困難に直面しているのはあなただけではありません。
それを抱えながら前進するのが社長業。逃げずに立ち向かい、困難を乗り越えて強くなっていきましょう。

2010年12月24日(金)更新

2倍を目指せ!

●この15年間、名古屋で経営計画講座を毎年二回開催してきています。
Wish List、理念作りから始まって決算書の読み方、数字目標作り、顧客創造計画、人と組織作り計画、そして経営計画の進捗チェック体制までを成文化し、互いに発表しあって終わる合計7回の講座です。

●あるとき、講座のなかで5年後の数字目標を作っていたら、一人の社長が手をあげこんな質問をしました。

「武沢さん、当社はまだ設立3年目の会社です。5年先にうちがどうなっているかなんて、とても分かりません。せいぜい来年の目標を作るのが精一杯です」

●私は逆に質問しました。
「じゃあ、あと何年したら5年先までの数字が作れるようになりますか?」
彼は言葉につまったようですが、「せめてあと5年はいろいろやってみないと分からない」というのです。

●彼が言わんとすることは「数字予測」のようなもので、なるべく誤差の少ない予測をしようという発想です。
そうではなく、数字目標というのは社長の意思です。せめてここまで到達したいという思いや、
ここまではやりたいという希望が先に必要なのです。予測値なのではありません。

●ドラッカーは、「1年でできることはことのほか少ないが、5年でできることはことのほか多い」と言っています。5年あれば、思っていることのすべてが叶う可能性があります。

そして、ドラッカーはこうも言っています。
「10年以内に規模を倍にできないのであれば、資金、人、資源の生産性を倍にする目標を掲げなければならない。生産性の向上はつねに現実的な目標であり、つねに実現可能な目標である」

●10年で倍増を目標にしましょう。いや、5年で倍増でも構いません。10年なら年率7.2%の成長、5年なら年率15%の成長が必要になります。
大企業にとっては大変な数字ですが、中小ベンチャーにとっては難しくなんかありません。もしその程度の成長が見込めない事業なのであれば、そうなるような事業構造を作る必要がある
と考えましょう。

組織には挑戦が必要であり、それは大胆なものであるべきです。

2010年12月10日(金)更新

念ずることの磁力

●壇上の講師が聴衆にむかって質問しました。

「このじゃがいもにストローが貫通すると思う人、手をあげて下さい」

「そんなのムリだ」と思った私は手をあげませんでした。周囲をみてみたら、なんと半数以上の人が手をあげています。「そんなバカな」と私。

指名された数人がステージにあがり、講師の号令にあわせて「突き通す」と言いながらストローを振り下ろすと、全員が貫通しました。

●私は目を疑いました。
「では、もう一グループあがってもらいましょう」と私も指名され、ステージにあがることになりました。さっきは全員貫通したわけですから、私もできると思いました。「突き通す」と言いながら迷わず振り下ろすと、見事貫通しました。
しかし、隣の人は結局数回やってもできず、「ほら、やっぱりできない」と言いながら席に戻っていきました。

●それは今も忘れられない神戸でのできごとでした。
席にもどって、改めて「念ずる」ということがどういうことなのかと考えさせられました。そのときの講師が「加賀屋感動ストアーマネージメント」の加賀屋克美さんでした。彼は「念ずる人」でした。

●加賀屋さんが東京ディズニーランドに初めて行ったのは小学校6年生のときだったそうです。それは、ディズニーランド開園の年でした。
子供ながらに「僕を子供扱いせず、ひとりのお客さんとして接してくれることに感動した」という加賀屋さんは、以来、ディズニーのことなら何でも知りたい、見たい、欲しいというディズニー・フリークの人生が始まりました。

●「ディズニーランドで働きたい」と思うようになるまでに時間はかからなかったそうです。
学生になったとき、近くでアルバイトさがしするときも、将来に備えたバイトを選びました。それはマクドナルドでした。当時、女性の深夜労働が禁止されていたので、午後10時以降になると加賀屋さんはカウンターで接客できました。「0円スマイル」を毎日実践したそうです。

●「念ずれば花ひらく」

やがて加賀屋さんはディズニーランドを運営するオリエンタルランドに入社しました。悲願達成でしたが、それで満足しませんでした。
今度は、アメリカ・フロリダにあるウォルト・ディズニーワールドで働きたいと思いました。まず英語を覚えよう! と、自宅にあった中学校の教科書を引っ張り出してきて英語の特訓をはじめました。そして、ついに1年後、渡米勤務が実現したのです(今では、加賀屋さんはイギリス人も賞賛する美しい英語を話すまでになりました。私はその場面を目撃したことがあります)。

●日本勤務にもどったとき、「スプラッシュ・マウンテン」が日本にも出来ると聞きました。加賀屋さんはその乗務員になろうと決意します。どんなアトラクションになるのか誰よりも早く知りたいと思った加賀屋さんは、毎日工事現場に通って、作業員たちと仲良くなりました。作業の様子を聞きながら情報収集にはげみ、自らは「ビッグサンダーマウンテン」に乗って一瞬だけみえる「スプラッシュ」の工事現場をカメラにおさめました。それを紙で模型にして、自宅に完成予想の模型を作り上げてしまいました。加賀屋さんの自宅でそれをみた友人は、絶句するとともに、念じている男の執念を感じたといいます。

●「念ずれば花ひらく」

加賀屋さんの感動追求はまだ始まったばかりです。今はディズニーを退職し、「加賀屋感動ストアマネージメント」という会社を設立しました。こんどは自分自身がテーマパークになるのです。自らの人生体験を通して、感動作りを求める企業や店舗を支援するサービスを始めたのです。感動の輪を全国、全世界に広げていきたいという加賀屋さんの思いが形になったのです。


●「念ずれば花ひらく」

幕末の思想家・吉田松陰は、「思想を維持する精神は狂気でなければならない」と語っています。周囲の人からみれば、狂気変人のようにみえるぐらいにひとつのことに打ち込むことを恐れてはなりません。

思いの力があれば、じゃがいもだって貫通します。同じじゃがいもでも、「できない」と思っている人にとっては、できないのです。できるかできないかは、自分で前もって決めていることが多いのです。最初は単なる思いつきに過ぎなかった夢やアイデアも、徹底的に念ずることによってそれを可能にするエネルギーが生まれてくるようです。

2010年11月19日(金)更新

謀反すべし

●謀反に成功すれば英雄になりますが、失敗すれば英雄になれないし、悪名が歴史に残ることもあります。謀反とはリスキーな行為です。
しかし、ビジネスや人生はもともとリスキーだと考えれば、謀反そのものをイケナイものだと考えるのは保守的過ぎませんか。謀反を起こすことや起こされることを恐れることは禁物です。

●社員からも取引先からも謀反にあうことがあります。子供に謀反されることだってあるでしょう。
社員なんだから社長の言うことを聞くのが当たり前だ、と思っていたら大間違いです。

"社長が社員を採用してやった"というような驕った気持ちがどこかにあると、社員にそれが伝わります。その結果、社員は社長に反旗をひるがえします。

●「社員が会社を選んだのであり、たまたまその会社の社長があなただった」ということだってあります。

社員が黙って去ってくれるだけなら幸せな謀反ですが、声高らかに宣戦布告し攻撃をしかけてくる謀反だってあるのです。

●そもそも、親友や親戚、夫婦、親子ですら謀反がつきもの。表面的にはうまくいっていても、波風をたてたくないから今は我慢しているだけ、という時があるものです。
いや、まず古い自分に対して自分自身で謀反を起こしましょう。殻をやぶるのです。

●昔、こんな若者がいました。

彼は血液型A型の典型的な几帳面タイプ。机の上に置いた腕時計の向きがまっすぐかどうか気になって夜中に目を覚ますような子でした。
親や友だち、学校の先生に対しては、ずっと「良い子」で高校生まで育ちました。中学生までは学級委員を毎年つとめ、成績も学年ベスト10以内が指定席でした。親から見たら自慢の息子だったに違いありません。

●そんな少年がある日、突如、家出しました。ボストンバッグに着替えだけを詰めこんで、衝動的に夜8時に家を飛び出したのです。親が電話中のスキを盗み、弟には「僕は今から家出する」とだけ告げました。理由は詳しく覚えていませんが、親に対する謀反であると同時に「良い子」を演じる自分への謀反でもありました。

●少年はその日を境にして血液がすべて入れ替わったかのように人が変わりました。あれだけ几帳面だったのがウソのようにおおざっぱになり、「良い子」をやめたのです。
親や先生の期待どおりになるのが良いのではなく、自分の考えをもって自分の責任で動き始めました。

その少年が私です。

●親子の関係もその日をさかいに変わりました。

そのあとも、何度か謀反を起こしました。謀反のたびに悟りに近づくように思いますが、あと何回謀反を起こせばよいのか気が遠くなるほどです。

社員にも謀反を起こさせ、大人として対等かつ信頼しあえる関係を作っていきましょう。

2010年11月12日(金)更新

いつもニコニコ元気な笑顔

●自宅から会社まで歩くと25分、自転車だと17分で行けます。今朝は自転車にしましたが、17分間のすべてを笑顔で通してみました。ふと気づくと笑顔が消えそうになっているので、かなり大変な挑戦でした。

●たった一日の試みなので何も変化は起きませんでしたが、明らかにふだんよりたくさん人々の視線を集めたような気がします。もし、これを毎日続けたらどうなるでしょう?
こんなふざけた試みを思い立たせるような出来事が最近、連発したのです。

●まず最初は、ある会社から届いた「ゆうパック」でした。

「一度批評してほしい」と経営方針書を送ってきてくれた会社があるのです。匿名希望なので、仮の名前を『国定製鋼所』としておきましょう。

『国定製鋼所 第6期経営方針書』と金文字で印刷された豪華な装丁で、きちんとした経営管理がなされている印象を私に与えました。

●「きっと中味も正統派の経営方針書になっているのだろうなぁ」と思いきや・・・、明けてビックリの内容でした。イラスト、挿し絵満載、写真もあちこちに。すべてカラーコピーです。

1.経営理念:「いつもニコニコ元気な笑顔」
2.経営方針:「笑顔ウィルスで世界を覆い尽くそう。そのためには、
       ・社員の笑顔
       ・家族の笑顔
       ・お客様の笑顔
       ・取引先の笑顔
       ・地域の皆さまの笑顔
       ・会社の笑顔
       ・株主の笑顔
       をいつも忘れず実践します。」
3.各部活動計画
       ・笑顔で達成する長期と短期の業績目標
       ・笑顔で獲得する新規開拓
       ・笑顔で生み出す新サービス
       ・笑顔がきれいな人を集める活動
       ・笑顔でお金を大切にする経費削減計画
       ・笑顔の人を大切にする人育て計画
       
・・・etc. ざっとこのように、すべてが経営理念の「笑顔」にリンクして作られています。「国定製鋼所」という会社名は仮のものですが、方針書の骨子はまさしくこの通りなのです。

●笑顔にこだわることは素晴らしい。なぜなら、誰でも心がけひとつで簡単に出来ることだからです。それでいて、いつも笑顔を忘れずにいるのは並大抵なことではありません。それをやりきる、やらせきるところに価値が生まれます。それに笑顔を見るのは楽しいではないですか。

●そんなことがあった翌日、ジムのマシンで走っていました。いつしか、歯をかみしめて必死な形相で走り続ける私。知らぬ間にコーチが横に来ていました。

「武沢さん、ランニングで一番大切なことは何だと思います?」
「ハッ、ハッ、ハッツ、しらない、ハッ」
「ほら、息があがってますよね、それでは完全に心拍数オーバー。減量目的のランニングは、となりの人と会話ができる程度の呼吸を維持しましょう。そのためには、みけんの縦じわをとって、笑顔で走りましょう。笑顔を保ちながら心拍数オーバーになる、なんてことは絶対にありませんから」

●「ここでも笑顔か」と思いました。でも、たしかに笑顔になると、自然に心も明るい気持ちになっていくのが分かります。笑顔のままで暗い考えをすることはできないからです。

よし、しばらくは通勤時間だけでも "笑顔通勤" をやってみよう!

2010年11月01日(月)更新

無人島での貸借対照表

●臆病なのは短所ですが、慎重なのは長所になります。おせっかいなのは欠点ですが、面倒見が良いのは長所です。
つまり見方次第でいかようにもなる。

でしたら、不運とか不幸というのも、見方を変えれば幸運や幸福になるのでしょうか。

「はい、なります」というお話しをしましょう。

●イギリスの作家デフォーが書いた物語『ロビンソン・クルーソー』(1719年刊)をお読みになった方も多いと思います。

内容は、投機的精神に富む貿易商だったロビンソンが両親の反対を押しきって航海にでる。だがひどい嵐にあい、たったひとり流れ着いた無人島で28年間にも及ぶ孤独なサバイバル生活をおくり、見事生還するという物語です。

●この物語の中でロビンソンは、無人島にたった一人で漂着した我が身の不幸さをなげいて、ひたすら悲しみます。

「私には食物も家も衣類も武器も逃げ場もなく、救われる望みもなく、前途にはただ死があるだけであった。猛獣に喰われて死ぬか、蛮人に殺されるか、喰べるものがなくて餓死するかのいずれかであろう。夜になってから猛獣をおそれて樹にのぼって一夜をあかした」と、ロビンソンは最初の日記に記しました。

●ですが翌日、太陽の光を浴びながら周囲を見渡すと、相当な財産というか資産があることにも気づくきます。

まず、近くには水場がありました。浜辺にはボートが打ちあげられていましたし、沖合には、座礁した船が結構使える状態で残っていました。ボートと船を調べてみたら、食糧や衣類、ピストルや剣などの物資が出てきました。
おまけに、なにかの袋を振ってみたら、穀物が飛び散った。それが、数ヶ月後に大麦の穂を実らせたのです。

●たしかに、無人島単独漂着ということは不幸なことではありますが、身のまわりの境遇は決して悲観材料ばかりでないことに気づくロビンソン。
やがて、彼は貿易商としての知識を活かして、今の境遇の「良い点と悪い点」を貸借対照表にしようと考えます。

●左側に悪い点、右側に良い点を対比させ、次のように表を完成させていきました。

・悪い点その1.
 私はおそろしい孤島に漂着し、救われる望みはまったくない。
・良い点その1.
 他の乗組員全員が溺れたのに、私はそれを免れてげんにこうやって生きている

・悪い点その2.
 私は全人類から絶縁されている孤独者であり、人間社会から追放された者だ
・良い点その2.
 私は「食うものも無い不毛の地で餓死する」という運命を免れている

●この作業をやりながらロビンソンは悟りました。

「痛ましい境涯にあっても、そこには多かれ少なかれ感謝に値するなにものかがあるということを、私の対照表は明らかに示していた。世界じゅうで最悪の悲境に苦しんだ者として、私が人々にいいたいことは、どんな悲境にあってもそこにはわれわれの心を励ましてくれるなにかがあるということ、良いことと悪いこととの貸借勘定では、結局貸し方(良い方)のほうに歩があるということ、これである」と。

●その日から、ロビンソンは助け船を求めるために沖合ばかりを見るのをやめました。そして、自らの力で強く生きる力を回復するため、規則的な生活習慣、労働習慣、学習習慣(聖書と祈り)を守り始めるのでした。

無人島に漂着するのを待たずともよい。壁を感じるときがあれば、いつでも一人で作ってみてはどうでしょう。

2010年10月12日(火)更新

コッテージ・チーズを洗う

●友人が「 Education is power 」と書かれたリストバンドをはめていました。彼は、いつも左手にあるその白いリストバンドを見るたびに、学習の大切さを思い出すそうです。

このように、大切なことを思い出せるようにしておくことはとても重要なことです。なぜなら大切な目標に至るにはずいぶん時間がかかるからです。

●石油の鉱脈にたどりつくためには、杭打ち機によって何度も何度もくり返しくり返し、杭を打ち込む必要があります。強烈な一発で杭が鉱脈にたどりつくことはあり得ません。

限界の突破にはエネルギーが必要なのです。

『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』の著者コリンズは、「飛躍にいたる条件は、規律ある考えと規律ある行動が大切」としてコッテージ・チーズを洗うたとえ話を紹介しています。

●これは、ハワイの鉄人レースで六回優勝したトライアスロンの世界的スター、デーブ・スコットの話です。彼の練習がすさまじい。

毎日の練習で平均して自転車で120キロ、水泳で2万メートル、長距離走で27キロというトレーニングを一日も欠かさずこなしているというのです。
毎日の練習だけで5,000キロカロリーも消費しているのです。
私の場合、最高にがんばった日にはマシンで1時間ほど走ったことがあります。それでも消費カロリーはわずか500キロカロリーでしたから、その10倍を毎日やっているのです。

●それでもスコットは、さらに能力を高めるために栄養にも万全の気配りをしているそうです。
少しでも脂肪分が少なく、炭水化物が多い食事をとっているのです。さらにさらに、コッテージ・チーズを食べる前には入念に洗って、少しでも脂肪分を落としてから食べるようにしているといいます。

●この行為を『ビジョナリー~』のコリンズはこう表現します。

・・・
鉄人レースに勝つにはコッテージ・チーズを洗わなければならないことを示す証拠があるわけではない。核心はそこにはない。チーズを洗うのは小さなことではあるが、この小さな方法によって自分の力がさらに少しでも強まると本人が確信している点にこそ核心がある。この小さな方法を他の多数の方法に付け加えることによって、強烈なほど規律のある一貫した計画を作り上げているのだ。
・・・

●あなたにとって、コッテージ・チーズを洗う行為とは何でしょうか?

★『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822242633/

2010年10月01日(金)更新

変わる経営理念

●その日、私はA社長にむかって少し強い口調でこう申し上げました。

「もう逃げるのはやめましょう。今作ってください。今です。今、この場で作ることができますから、やってみましょう!」と。

A社長は「経営理念を作りたい。そして、中長期の経営ビジョンもまとめ上げたい」ということで、私が主催するセミナーに参加されました。

●複数回にわたって経営理念の作り方をご説明し、そのための書式も差し上げました。でも二ヶ月たった、そのときになっても理念が一行も出来ていないというのです。

その理由は「あと延ばし」の誘惑に負けているからではないでしょうか。
経営理念を教科書的に理解すると金縛りにあってしまい、結局「あと延ばし」してしまいます。

●教科書いわく、「経営理念は未来永劫変わらないもので、それこそ社長が何世代も代替わりしようとも変わらない我社の根本的価値観と理想を文章にしたもの」

今までそれに近いものが何もなかったのに、そんな理想的な理念がすぐに作れるわけがないのです。もし作れるとしたら、他社事例を参考にして作った模範解答的な理念に過ぎなく、社長の魂が入っていない借りものの理念でしょう。

●私はセミナーで幾度となく「経営理念は変えても良い」と申し上げてきましたが、今後はもっと大胆にこう申し上げることにしました。

「経営理念はどんどん変わっていくべきだ」
「経営理念は毎年、いや、当面は毎月変わっても構わない」
と。

●ドラッカーはこう述べています。

「私は父とシュンペーターとの会話に同席し、三つのことを学んだ。一つは、人は何によって人に知られたいかを自問しなければならない。二つは、その問いに対する答えは、歳をとるにつれて変わっていかなければならないということである。成長に伴って、変わっていかなければならない。三つめは、本当に知られるに値することは人を素晴らしい人に変えることであるということである」
( ドラッカー『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)より )

●成長と自己変革に応じて理念はもちろん、理想も変わっていくものです。

ドラッカーも語っているように人も会社も「何によって人に知られたいか」を自問しなければならないし、それは、歳をとるにつれ、成長するにつれ、変わっていかなければならない性質のものだと思います。

●経営理念も長期ビジョンもどんどん変わるべし。

ただし、どうせ変わるから作らない、というのでなく、変わるために今作るのです。

明日でも今晩でもなく、5分の時間があれば今すぐにでも作り始められるもの、それが「経営理念」です。

●まずは、「今月の経営理念」を毎月作りましょう。だんだん変える必要がない理念に仕上がっていくことでしょう。そうしたら今度は、「年度経営理念」に格上げし、やがて年度も取ってしまえば良いのです。

それが理念を成文化するときの正しい姿勢だと思います。

2010年09月24日(金)更新

夢と情熱で負けない

●知識がないことは恥ではありません。
むしろ知ったかぶりをしないことです。知らないことは堂々と知らないと言いましょう。
しかし、どうしたら知ることができるのか、誰なら知っているのかを知っておくことはとても大切です。

●「己の周りに、己より優れし人物を集めたる者、ここに眠る」という米国・鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーの墓碑銘はあまりに有名です。彼は電話のプッシュボタン一つで世界中の権威に相談できたと言われています。

●日本でも同様の人物がいます。松下幸之助氏です。
氏が大学生の定期採用を始めたころ、専門知識を披瀝する新入社員の話をさえぎって、こう言い放ちました。
「あんたの話は難しくてさっぱりわからん。難しいことを私にもわかるように話しをするのが大学出のあんたの役目やろう」

●これらのエピソードをあえて大胆に要約すれば、「高度な学問や知識はお金で買える」というものです。大切なのは、それらのものを目的に応じて使いこなしていくことができてはじめて知識は有益なのです。

●「力のある者は頭のいい者に使われ、頭のいい者は金持ちに使われ、金持ちは夢のある者に使われる」と言われますが、中小企業の社長ならそれらのすべてを持っているべきだと思います。
特に社長は、会社をよりよくすることに対する夢と情熱では誰にも負けてはなりません。

・・・
『本当にすばらしい仕事をしてきたじゃないか。ここらで一服してもいいはずだ』
父はいつもそう言われてきました。父の答えはいつも同じでした。
『とんでもない。もっともっと前進して、もっといい仕事をしなければ』
         (マリオットホテル会長:J・マリオット・ジュニア)
・・・
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ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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