武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
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2009年08月07日(金)更新
M社長の第二創業
と経営者仲間に聞かれるM社長(37歳)は、自動車部品製造を営む二代目社長。
実は、Mさんは2年前までは、まったく逆のことをよく聞かれていました。
「どうして君の会社はそんなに儲からないの?」と。
●事実、それまでMさんの会社は低収益で資金難にあえいでいました。「これが工賃仕事の宿命なのだ」となかば悟りを開きつつあったある日、Mさんに転機が訪れます。
●2年前、Mさんは中部地区に本社を構える中堅菓子メーカーの社長に出会いました。高収益で有名なこの社長に、思い切って苦しい台所事情を告白すると、やさしい言葉づかいながらも衝撃的な答えが返ってきたのです。
「そんなに苦しくて、そんなに儲からないのなら、会社経営などやめてサラリーマンになりなさい。そのほうがよっぽどみんなのためになるから。経営者をやってグチをいうなど最低の行為ですよ」
●ショックを受けたMさんは、悔しさまぎれにいろいろと質問を続けました。すると、その菓子メーカーでは、賞与や福利厚生などを考慮すれば、アルバイトであっても時間給換算で5000円相当になることがあると聞いてさらに驚きました。Mさんの会社では、幹部社員ですら時間給換算で2,400円相当と、ほぼ半額にしかなっていなかったからです。
●「儲からない会社を営むということは、社員の人生も不幸にする」と気づいたMさんは深く反省し、「きっと工賃仕事でも高収益企業が作れるはずだ」と勉強を開始しました。この2年前の決心が、Mさんと会社にとっての「第二の創業」となったのです。
●今では従業員20名、年商2億円、経常利益2,800万円をたたき出す会社になりました。「挑戦はまだ始まったばかりです」とMさんは謙遜しますが、見事な躍進ぶりです。そこで、この2年間、どのような取り組みをしたのかを尋ねてみました。
・・・
まずは私も含めた社内の意識改革です。「儲かる会社を作ろう」ということと、社員やパートさんに向かって、「きちんとした立場できちんとした仕事をしよう。そして、きちんと収入がとれるようになろう」という訴えをしました。小さい町工場でも正社員になって幹部になれば、年収1000万円プレーヤーが出ても不思議ではない、と言い続けました。そうじゃなきゃ、つまらないでしょ。
また、達成したい利益額や利益率を明確に決めました。そこから逆算して、顧客に請求したい工賃を算出。それにふさわしい仕事ぶりを社内で作り上げていきました。当然、仕事は以前にくらべて難易度が高く、特殊性のあるものに変わっていきました。
・・・
●この話を横で聞いていた年配の社長がMさんに質問をしました。
「今の資金繰りはどう? やっぱり楽になった?」
Mさんは笑顔で答えました。「ええ、努力した分だけね」
●年配社長の独り言が聞こえました。
「僕も会社を作って25年になるが、よくも漫然と経営してきたものだよ。Mさんみたいにたった2年で大変身ができるというのなら、今からでも遅くない。オレもやるよ!」
さて、この年配社長にも出来るでしょうか? その答えは神のみぞ知るのですが、鍵を握るのは当のご本人であることは言うまでもありません。
2009年07月24日(金)更新
私たちはハイポニカ
●そこで、根本から発想を変えた革命的農法として誕生したのが「ハイポニカ」と呼ばれる農法です。ハイポニカは、“土”が農業における障害の1つであると考えました。大地を媒体とする限り、植物の生産には制限があるということがわかったのです。農業は土作りにあるといわれ続けていますが、土作りはプロでも大変難しいものです。
●土には「空気を保持しにくい」とか、「根の伸長に対して抵抗になる」などの諸問題があります。そこで、ハイポニカは土ではなく水に活路を求めました。
●従来の農法と根本的に違うため、新しい生育技術を備えなければなりませんでしたが、その結果は驚くべきものでした。トマトを例にとると、従来の農法では苗一株あたり20~30個程度しか実がなりませんでしたが、ハイポニカ農法を使えば同じ種でも1万数千個の実がなるそうです。特殊なバイオテクノロジーを使ったわけでもなく、土の代わりに十分な水の中に根を張りめぐらせ、必要な養分を絶え間なく与えただけです。
●この農法を発明した野澤重雄氏のコメントが興味深いので、ご紹介しましょう。
・・・
種に良し悪しはない。大事なことは、まだ小さい苗の時に、自分はどんどん生長しても必要なものは充分与えられるんだという安心感があること。そうすれば苗は世界を信じ、疑うことなくどこまでも伸びていく。
そのような考えで植物が本来持つ潜在能力、生命力の大きさ、深さ、豊かさを引き出しただけである。自然は、我々の知識をはるかに超えた高いレベルの機能を持っているので、植物自身が信じて、選択して自分の能力を存分に発揮していく。
・・・
●もともと20~30個しかならなかったトマトが潜在能力を発揮したとたん、実が500倍も実るようになりました。ハイポニカといえばトマトが有名ですが、それ以外にゴーヤ、パプリカ、きゅうり、メロン、チンゲンサイ、小松菜、春菊などにおいても、驚くべき成果をあげています。
●ハイポニカですくすく育つ植物があるのなら、ハイポニカ的発想ですくすく人材が育つということもあり得るのではないでしょうか。野澤氏のコメントにある「自分はどんどん生長しても必要なものは充分に与えられるんだという安心感があること」を人間に適用して、栄養が足りなくなる不安を一度も抱かせずに育てるわけです。
●そこで、人間にとって「栄養が足りなくなる不安」とは何かを考えてみましょう。人間と植物の大きな違いは、自然のままに育つ植物に対して、人間は自由意思が働くことです。その自由意思のなかに誤った情報が入っていると、生育が阻害されるのではないでしょうか。誤った自由意思の例として、
1. 将来に対する不安
2. もうこれで充分だという満足感
3. 他人の意見に過敏になって迷うこと
4. 時間がないという焦りとあきらめ
・・・etc.
が挙げられます。これらは、間違いなくあなたの健全な生育を邪魔するものでしょう。
●私たちも、普通のトマトになることを拒否し、ハイポニカトマトのような豊かな会社経営、人生経営を行なおうではありませんか。
2009年07月10日(金)更新
責任感は育てるもの その2
●先日訪問したある会社には、遅刻の常習者のような人がいて、遅刻するたびに何らかの言い訳をするそうです。
●たとえば、「昨夜は遅くまで残業をやったので」とか「後輩につきあって昨夜は遅くまで飲ませてやったから」、「久しぶりに実家の親父が訪ねてきて話がはずんで」などと、毎回違う理由を言うそうです。同じ理由はまったく言わないとのことなので、彼なりに言い訳を真剣に考えてくるのでしょう。
●そこでリーダーが毅然たる態度で接すれば良いのですが、その会社の社長は穏健な人でした。朝から厳しいことを言いたくないのでウヤムヤにやりすごしてきたのですが、その結果、彼に対してだけではなく、社内全体に時間や期限を守るという規律と責任を要求するチャンスを失っていたのです。
●社長なりに心を痛めていたのでしょう。私を呼んでまっさきにその話をするということは、それが一番の頭痛のタネだったはずです。私は遅刻撲滅の要諦をその社長に授けましたが、それ以降は彼の遅刻がほとんどなくなったそうです。要するに甘やかしていただけなのです。
●さて、『現代の経営』でドラッカーは、こう述べていると前回ご紹介しました。
「働く人たちが責任を欲しようと欲しまいと関係はない。働く人たちに対しては、責任を要求しなければならない」。
●社長の方が部下に変な負い目をおってはいないでしょうか。たとえば、「うちは給料が安いから」「自分も出来ないときがあるので」「彼には普段から無理を言っているから」などの気持ちから上司が部下に責任を要求しなかったとしたら、リーダーとしての職務を放棄していることになります。自分が出来ていないのは問題ですが、部下が出来ていない場合も真剣に注意しなければなりません。
●会社全体の風土を責任感あふれるものにするにはどうすべきか。それについて、ドラッカーは以下の4つのポイントを挙げています。
1.正しい配置
2.仕事の高い基準
3.自己管理に必要な情報の提供
4.マネジメント的視点をもたせるための参画の機会提供
ドラッカーは、この4つの具体的な内容までは述べていませんので、それぞれについて私なりの解説を加えてみましょう。
●1つめの「正しい配置」について
いつ、いかなる部署や職務に人を配置するかによって、会社全体の意欲や責任感、生産性が大きく変わってきます。そのためには、最適な配置というものを絶えず考える必要があります。何が「正しい配置」なのかは、細かい組織変更や人事異動などを通じて、試行錯誤の中から見つけていくものでしょう。
●2つめの「仕事の高い基準」について
何をもって“合格の仕事”“不合格の仕事”というかは、仕事の最終成果だけでは判定できません。仕事のプロセスの中に品質があります。プロセス目標を設定し、その達成をめざして仕事の水準を進化させていきましょう。
●3つめの「自己管理に必要な情報の提供」について
人は他人によって管理されることを望まず、自己管理にゆだねられることを欲するものです。自らの仕事ぶりを管理・評価し、必要によっては自分で軌道修正できるようになるのが望ましいでしょう。そのためには、それが可能となるような情報の提供や共有ができていなければなりません。
●4つめの「マネジメント的視点をもたせるための参画の機会提供」について
働く人の意識に個人差があるのはやむを得ませんが、一段二段と、高い視点をもたせてるような取り組みが必要です。自分の仕事を、上司の視点、経営者の視点から見直すことができたとき、自らの責任を考えるようになります。部下が自ら視野を広げる機会を与えていきましょう。
●以上のように、仕事に対する責任を部下に要求するのがリーダーの仕事だということを忘れないようにしましょう。責任感とは、育てるものなのです。
2009年07月07日(火)更新
責任感は育てるもの その1
●ある日を境にAさんを見かけなくなったので、他の店員に聞いたところ、家庭の事情で退職したということでした。
●それから3か月ほど経ったころでしょうか。地元商店街の書店で、週刊誌を手にとってレジに行ったところ、前の客が買った何十冊ものコミックに一冊ずつカバーを付けてほしいと要求したようで、時間がかかっていました。私は少し急いでいたので、後ろから「あとどれくらい掛かりそうですか」と声をかけました。
●すると、店員さんは手を止めてこちらを見たのですが、その顔をみて私はドキッとしました。Aさんだったからです。でも、彼女は私のことを覚えていなかったようで、表情を変えずにすぐに下を向いて作業を続けながら「5分ぐらいはかかりますが」と言いました。
●そのとき私は、別人ではないかと思いました。なぜなら彼女は無愛想というよりも無表情で、カバー付けの作業もとても遅かったからです。幸い、前の客が私を気づかってくれたのですぐに雑誌を買うことができましたが、Aさんはそんな順番すらどちらでも良いようでした。
●マックでキビキビ・ハキハキしていたAさんは、すでにそこには居ませんでした。今でもその場面を思い出すと、いろんなことを考えてしまい胸が痛くなります。
・「家庭の事情」っていったい何だったのだろう? よほど辛いことでもあったのだろうか
・マックを辞めてこの本屋で働くということは、ひょっとしてここが実家なのだろうか
・この本屋ではやり甲斐がないのだろうか? なぜこんな無愛想になったのだろう
・それともマックではどのようにして彼女のやる気を引き出していたのだろう。
などと、考え出すとキリがありません。
●『現代の経営』でドラッカーは、「働く人たちが責任を欲しようと欲しまいと関係はない。働く人たちに対しては、責任を要求しなければならない」と述べており、続きにはこうあります。
・・・
責任は金で買うことができない。もちろん、金銭的な報奨や動機づけは重要である。しかしそれらのものは、消極的な意味をもつにすぎない。
金銭的な報奨についての不満は、マイナスの動機づけとして、仕事に対する責任感を低下させ、腐食させる。しかし金銭的な報奨についての満足は、明らかに、積極的な動機づけとして十分ではない。金銭的な報奨が動機づけとなるのは、他のあらゆる要因によって、働く人たちが責任をもつ用意ができているときだけである。
・・・
●そこで、働く人に対してどのようにして責任を持たせるのかが問題になります。次回のコラムでそのあたりを掘り下げて考えてみることにしましょう。
<次回につづく>
2009年06月19日(金)更新
ナイスガイに捧ぐ
●社長には、たとえ部下に反対されたとしても、決断しなければならないときがあります。ですが、最近の社長には、強烈なリーダーシップが必要とされる場面ですら、ナイスガイであろうとするあまり、リーダーシップを発揮できない人が多いようです。
●こうしたケースでは、「あなたの会社の一番の問題は、経営者であるあなた自身の性格です」ということを申し上げなければなりません。
●私は「目指せ紅帯! 経営体質チェックシート」というものを作り、毎年社長のみなさんに、ご自身の経営力を判定してもらっています。内容は、「組織力」「営業力」「計画経営力」「企業文化」「自らの人間力」の5つの分野でそれぞれ5問ずつの、計25問で構成されていますが、ほとんどの人が「自らの人間力」に高評価をつけています。
●「自らの人間力」は、次の5つの質問からなっています。
1.会社を経営するにあたって、私利私欲だけではない公益を意識した理念や理想をもっているか
2.経営者の「五大義務(高収益、好財務、雇用、納税、教育)」を自覚した経営をしているか
3.社内外で話すこと(書くこと)は、人々を鼓舞し、リードする内容のものになっているか
4.毎日、個人目標と仕事目標を音読または黙読しているか
5.口頭や文書で人に約束したり宣言したことは立ち消えになることなく、きっちりけじめをつけているか
つまり、「勤勉に働く」だとか「よく勉強する」などの項目については、みなさん自信があるようです。
●逆に、みなさんが低い点数をつけるのは「計画経営力」です。そこには以下の質問が並んでいます。
1.成文化された経営方針書があり、それを全員に伝えているか
2.経費の使い方は、あらかじめ決めた予算をもとにしているか
3.経営陣は、毎月の月次決算書を読み、それをもとに今後の対応を考えているか
4.年次・月次・週次での目標設定書式があり、それを部下に書かせているか
5.計画と実績は定期的に見直し、問題があればすぐに対策を打てるような会議やミーティングがあるか
これらが最も低い点数になるのです。
●この回答結果から、私は次のような仮説をたてました。
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中小企業の経営者はリーダーシップのとり方に関して、個人的な魅力を頼りにしすぎている。真のリーダーシップは、リーダー個人の人間性が基本ではある。しかし、それだけで企業をリードできるわけではない。
とくに、現状のような難局をリードするためには、これまで要求していなかったことでも部下に要求しなければならない。その際に、「思っているけど言えない」という社長のキャラ(個性)が、ボトルネックになる可能性がある。
-----
ということです。
●たとえば、
・目標や計画の作成と修正
・行動や意識の変化
・成長
などについては、堂々と部下に要求しなければなりません。妥協や言い訳がまかり通るような組織風土を、思い切って変えていきましょう。
●このように、当然ともいえる内容を部下に要求し、実行させるのが社長です。部下から見た人間的魅力を大切にするあまり、仕事に対する要求水準で妥協をしてはいけません。社員からみて、もっとイヤな社長になろうという決断が求められます。
●また、社員も妥協は望んでいないはずです。むしろ、厳しい指導を望む部下が増えています。そろそろ、人間性を武器にしようとするのはやめにしようではありませんか。
2009年04月30日(木)更新
上質なクリーム
●かつての総理大臣のなかで、任命した大臣の不祥事が次々に発覚し、支持率を失って退任した人がいました。もし彼が周囲から担がれ、待望されて総理になった人ならそのような不祥事は起こらないはずです。結局、消去法で選ばれた総理の宿命で、彼を命がけで担ぐ人がいなかったのではないでしょうか。もちろん、今の政治家にそんな人がどれだけいるかと言われればお寒い限りではあります。
●経営者が消去法で選ばれることがあるとすれば、後継社長を選ぶときです。ある日突然トップの座に座るわけですから、その座にふさわしいかどうかは、そのトップが「おいしい」人かどうかで決まります。
●勝海舟は、かつて教え子に「あの親分子分の間柄をご覧ナ。何であんなに服しているのだい。精神の感激というものじゃないか」と語ったそうです。「精神の感激」が指導者と部下との間に必要だということでしょう。
●新しい社長が部下を感激させられるようなリーダーであれば、リーダーのために良い仕事をしようと必死になってがんばるので、自然とうまくいくはずです。要求されていない仕事まで進んで行うようになるでしょうし、そのための勉強もすると思います。
●人が育ちやすい会社と育ちにくい会社の違いとは、結局のところ、社長の人間的魅力によるところが大きいのです。特に中小零細企業であれば、社長の人間的魅力がすべてと言っていいでしょう。
●しかし、リーダーの属人的な魅力にも限界があります。社員数が10人を超え、20人、30人…となってくると、社長ひとりの魅力ですべてをカバーすることはできなくなります。経営幹部や部門リーダーが必要となり、その役を担う人物の魅力や実力が要求されるようになります。
●米国の海軍兵学校では、「ウソをつく」「人をだます」「人のものを盗む」を禁止条項の3つの教えとし、「そうする者たちを見逃さない」という4番目の教えを加えています。「見逃さない」という表現がポイントです。「そうさせない」のではなく、「そうする者たちを見逃さない」のです。この表現が組織に規律をもたらします。
●人が育つ会社では、遅刻者に対して上司や先輩だけでなく同僚も注意します。組織の決まりごと、つまり規律に反することがあれば、役職者が立場にもとづいて注意するというのではなく、誰もが注意しあう環境になります。このようにして、規律ある社風が作られていくのです。
●人が育ちにくい会社では、決めごとを破る社員がいても他の者が黙っています。そして社長だけが怒りをため込み、あるとき爆発する。これでは規律もなにもありません。規律ある組織にするにはどうするか。その答えは一つしかありません。
●「あなた以上に自己規律をもった人を役職者に据える」
これだけです。その結果、あなたは上質なクリームになる道が開けます。まずはあなたの自己規律を確認し、部下にどんな規律をもってほしいのかを明らかにしてみましょう。
2009年02月20日(金)更新
雇用を守りたいのはやまやまだが その2
●派遣切りによって失業した人たちは、たしかにお気の毒だと思います。財布の中に50円しかないとか、おにぎりをもらって人の優しさに涙が出た、というような報道は、お涙ちょうだい話のネタとしては格好の題材でしょう。
●しかし、そうなった責任は派遣契約を解除した企業のせいではありません。前回も書いたとおり、企業は最初に結んだ契約にしたがって動いているだけです。失業して収入が途絶えたことの責任は誰か、それは半分以上が本人自身にあると私は思います。決して彼らを一方的な被害者扱いにしてはなりません。それが自由主義であり市場の原理なのですから。
●同時に、失業した彼らが今まで働いてきた勤務先の経営者にも責任の一端があります。いままでの勤務先が社員教育をきちんとやってくれる経営者であったならば、どこにも行き先がないという社員を作ることはなかったはずです。ですから、社員教育に力を入れるということは将来の失業者を作らないための貢献であることを、経営者は自覚しましょう。
●ところで、新聞やテレビを見ていると識者たちが「派遣切りの次は正社員切りだ。経営者は何があっても雇用を守れ!」などと語っていますが、第三者に言われるまでもなく、(特に中小企業の)経営者は雇用を守ることの責任を大変強く感じています。「いままで一緒にやってきた社員をクビにすることほど辛くて嫌なことはない」と、どの経営者も言っているのです。
●しかし、現実問題として「雇用を守っていたら、企業が守れない」という会社もたくさんあります。そんな会社に対しては、私は「勇気をもって、雇用よりも企業を守ってほしい」と申し上げています。もちろん、どさくさまぎれの安易な解雇は許されないので、ギリギリまで粘らなくてはなりません。そこで、順序としてやるべきことについて、解説しましょう。
1.助成金や緊急融資制度の勉強
雇用を守るために必死になってがんばっている会社には助成金が出ます。あなたの会社も該当するのかどうかも含めて、厚労省のホームページで調べるか、社労士さんに相談してみましょう。
*参考* 厚生労働省「事業主の方への給付金のご案内」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/index.html
同様に、国からの緊急制度融資もスタートしています。「うちはもう借金はできない」と決め込むのではなく、銀行や公庫などの金融機関に相談して、制度融資が受けられるよう努力しましょう。
2.役員報酬のカット
責任をまっさきに負うべきは経営陣です。業績が悪い会社はすぐにでも、社長の報酬を生活できるぎりぎりのラインまで大幅カットしましょう。他の役員の報酬も同様に、社長の減額幅に準じてカットしましょう。
3.正社員やパートアルバイトのボーナス支給ストップまたは大幅カット
夏の賞与、冬の賞与がゼロ円、またはゼロ程度のものになる見通しを今から発表しておきましょう。春の定期昇給についても同様です。ベアゼロまたは減給も検討すべきかもしれません。ただし、業績目標の達成状況に応じて、昨年並みあるいは昨年以上に支払うことも可能であることを、同時に示しておきましょう。
4.給与や時間給、手当などの削減
賞与の次に給与カットも検討しましょう。辛いことですが、雇用を守るためには正社員やパートアルバイトの給与カットを避けて通れない会社も多いはずです。また、残業が恒常化している会社は定時で仕事を終える体制に切り替え、残業代を払わずに済むようにしましょう。仕事が少ない場合は、早退や半日勤務、自宅待機などを組み合わせて、勤務時間を減らすことで給料を下げましょう。いわゆるワークシェアリングです。
あとは技術的な話ですが、必要によっては賃金体系を見直し、モデル賃金のベースを下げるか、本人の資格等級を下げましょう。こうした作業は雇用契約の変更でもあり、法律面も充分に押さえるべきなので、社労士などの専門家と相談しながら行なうほうがよいでしょう。
5.最終手段としての人員削減--部門、営業所の閉鎖とそれに伴う解雇
それでも業績改善が不十分なのであれば、そこではじめて社員を解雇します。とは言え、かねてから問題のあった社員を、「ここぞ」とばかりにどさくさに紛れて解雇するのは不当解雇になりかねませんので、企業の現状を鑑みたうえで、一部の部門や営業所、店舗などを丸ごと閉鎖し、該当者を全員解雇します。その後に、問題社員を除いた一部の人を再雇用するスタイルがよいでしょう。
実際に辞めさせたいような問題社員がいる場合は、企業業績に関係なく解雇すべきなので、それはそちらのルートでやるべきです。
●以上が雇用に手をつける際の手順です。いつ着手を始め、どの程度の早さで実行するかはあなたの判断です。ただし、こうした非常時において認識しておかねばならないのは、「混乱によって今月の業績が悪くなったことは社長の責任とはいえないが、半年後の業績は100%社長の責任である」ということです。社長の責任を自覚し、やるべきことを粛々とやっていきましょう。
2009年02月13日(金)更新
雇用を守りたいのはやまやまだが その1
●「2万人削減」の内訳は、1.2万人が国内、残り8千人が国外だそうです。しかし、希望退職の募集や工場閉鎖などによるドラスティックなリストラではなく、新規採用の抑制と定年退職や通常退職などの自然減だけで、その程度の人員削減が可能ということでした。ひとまず、動的な人員削減により、失業者が一気に増えるというものではないようなので、一安心ではあります。
●「失業者」といえば、昨年より「派遣切り」が問題になっています。テレビや新聞では、派遣社員を切った企業が悪者で、切られて失業した人たちが被害者という図式で報道されていますが、本当にそんな単純な構図なのでしょうか? 派遣契約を解除した企業が、一方的に悪いわけではないと思うのです。
●企業側としては、契約通りに動いているに過ぎません。また、仮に契約を一方的に反故にする場合でも、違約金などを支払っています。派遣社員だけが一方的に被害を受けているように報じているマスコミの姿勢がおかしいことは、大多数の国民も気がついているはずですが、それを識者や評論家たちが誰も指摘しないのはどうしたことでしょう。
●失業することになった責任の半分(以上)は自己責任です。「自分株式会社」の社長として自分のマネジメントに失敗した結果ともいえるでしょう。もちろん、仕事やお金がないという辛さは大変気の毒だし、保護してあげるべきだとは思います。しかし、そうなった責任を周囲に押しつけることはできません。それを否定することは、自由主義、資本主義の否定につながります。
●残念ながら失業した人たちは、新しい知識や技術を習得したうえで、介護や通信技術のような有効求人倍率の高い分野に自分を売り込むべきです。行政や民間団体は、たんにお金を与えて保護するのではなく、彼らの転職を可能にするための教育訓練や、人生目標の設定支援などで彼らの自立を促すべきでしょう。
●では、「失業の半分(以上)は自己責任」だとしたら、残り半分は誰の責任でしょうか。それは、派遣社員になる前に正社員として勤務していたならばその会社の社長、新卒で派遣労働者になった若者の場合は、親や学校の先生ではないでしょうか。
●社員教育や人生教育をきちんとやれば、失業してどこにも行き先がないという社員を作ることはなかったはずなのです。
<次回に続く>
2009年02月02日(月)更新
K君が学んだこと
上司
「Kさん、長い間の勤務ご苦労様でした。書類に記入すべきことはすべて私が書いておきましたので、あとはあなたの署名が必要です。ここにサインをお願いします」
K君
「えっ? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。これって退職届じゃないですか」
上司
「そうですよ?」
K君
「何回も遅刻したのは申し訳ないと思ってます。でも、僕はやめるつもりなんかないです。もう遅刻しませんから許して下さい」
上司
「Kさん、今日で何度目ですか? 遅刻は雇用契約違反になるということをご存知ですよね。自分から契約を破っておいて、いまさら『やめるつもりはない』なんて言えますか?」
K君
「……」
●これまでK君は、「自分は“単なる”バイトであり、正社員ではないので気軽な身分なんだ」と思っていた。事実、彼はディズニーランド以外に、近所のガソリンスタンドで働いており、そこでは「すいません、今日ちょっと体調悪いんで休ませてもらいます」と電話すれば、あっさり許可をもらえた。極端にいうと、ウソやごまかしでも通用した。
●今回の遅刻も、徹夜で遊んでて寝過ごしたのが理由だった。心のどこかでは、ディズニーランドでの仕事も、スタンドと同じ「“単なるバイト”のやること」と高をくくっていが、ここでは通用しなかった。
●上司はスタッフのしつけに普段から厳しく、彼自身も「おいK! おまえなぁ…」と何度となく叱られた。だが、この日は「Kさん」と呼び、それを聞いた瞬間、彼は「あっ、敬語だ。自分は大好きなこの上司に見放されようとしている。もしそうなれば、この先僕はどうなってしまうのだろう」と思った。
●自分を一人前の社会人とするべくここまで育ててくれたのは、その上司のおかげだった。「この人に見放されたくない」と思うと涙が自然とこみあげ、土下座して上司に謝った。そして、二度と同じことをしないと心に誓った。
●すると、「おまえなぁ、いいかげんにしろよ」と上司の口調が普段に戻り、彼は「やった、助かった」と歓喜すると同時に、社会人として大切なことを学んだ。
●その一件以来、私生活を自分でコントロールするようになった。それは社会人として当たり前のことではあるが、この時のできごとが彼自身にプロの自覚をもたらしたのだ。
●翌年、K君はディズニーランドの年間最優秀スタッフに選ばれ、シンデレラ城の前で全スタッフから喝采を浴びた。そのとき、彼とその上司の胸に去来したものは何だったのだろうか。
2009年01月16日(金)更新
仕様をくれ
こう嘆くのは、他国の技術者を使ってソフト開発のビジネスを展開し、帰国子女でもあるI社長。Iさん自身、技術解説書を書いているくらいの人なので、人並み以上にそう感じているのでしょう。
●「サラリーマン根性丸出しの技術者は論外として、独立志向の強い人であっても“そこそこの状態”というレベルで停滞している人が多く、さらに上を目指そうというエネルギーが不足しています。これは大手企業の技術者でもベンチャーの技術者でも、さほど変わりません」とIさんは続けます。
●私はそれを聞きながら頭のなかでは、「これは技術だけの問題ではないぞ。営業でも経理でもマネジメントでも、みんな同じかもしれない」と思っていました。
●その道のプロとして専門性を高めることを怠ってはいけないのは、どの分野でも同じです。でも、「専門バカ」になることなく、コミュニケーションや企画立案などのビジネスセンスを同時に磨いていくこともまた、重要ではないでしょうか。技術者だから技術だけを深める、と考えていてはすぐに行き詰まります。
●聞いた話では、二流以下のソフトウエア開発技術者がよく言う共通のセリフがあるそうです。それは
「仕様をくれ」
だそうです。
●例えばサイト構築の案件で、プロジェクトの会議でも頭のなかは仕様のことしかなく、サイトを面白くするためのアイデアが出ない。これでは技術者ではなく職人というべきでしょう。プロジェクト会議で出てくる他のアイデアに対しても、「私が気になるのは仕様だけなんです」という雰囲気が言葉の端々にあらわれたりします。そんな技術者をみたら言ってやりましょう。
「君はしようがないな」と。
●技術はあくまでも手段であって、決して目的ではありません。顧客は技術を買っているのではなく、それを通して自分(自社)が得られる利益を買っているのです。使い古された言葉ですが、「ソリューション(問題解決)を求めている」と言い換えることもできるでしょう。
●技術がわかる営業マン、あるいは営業ができる技術者のことをセールスエンジニアと言いますが、あなたの会社には、どれだけのセールスエンジニアを抱えているでしょうか? そのような人材は、育成には時間がかかりますが、時間をかけてでも育成に値する価値があります。
●ここでひとつたとえ話をしましょう。あなたはハンバーガーショップに行き、ダブルチーズバーガーとコーラセットのLサイズを注文したとします。
●ところが店員が、「まことに申し上げにくいのですが、お客様の体型からみて、かなりの体脂肪が付いていらっしゃるご様子。将来のことを考えて、フィレオフィッシュにウーロン茶をお勧めいたしますが、いかがでしょうか?」と言われたらきっと不愉快な気持ちになるでしょう。ここに「ソリューション」のヒントがあるような気がします。
●ハンバーガーショップの店員に期待されているのは、顧客の注文通りに迅速かつ気持ちよく仕事をすることであり、そうした仕事ぶりにこそ価値があるのです。それ以上でもそれ以下でもありません。
●では、IT技術者はどうあるべきなのでしょうか? ハンバーガーショップの店員とは明らかに違い、顧客のリクエストを正確に理解するだけでなく、その真意や奥にある価値観、理念なども理解しようとする姿勢が大切なのです。時には、それらを見抜いたうえで顧客のリクエストとは異なる代案を提示し、意見を闘わせる場面も必要かもしれません。
●ちなみに以下は、ある会社と共同で作った技術社員のソリューション表です。その会社では、ある時期、この表を評価表に転用していました。
◆レベル1.「技術フェチ」
関心の対象は自分の技術や知識である。それが使えない状況が続くと、
ストレスがたまり、顧客や会社の悪口を言い始める。仕事で良い結果が
出なかったときにも、自分を省みず周囲を非難する。
◆レベル2.「忠実なしもべ」
言われたことを正確に実行するという意味で、ハンバーガーショップの
店員と同じ。技術の確かさを証明するのが喜びであって、顧客の要望する
結果が出たかどうかは興味がない。
それは顧客側の問題であって自分には関係がないと思っている。
◆レベル3.「コミュニケーター」
関心の対象は“顧客”の成功である。“顧客の期待”を明確に知るために
コミュニケーションをとる。顧客の要求を実現するためには、
どうすべきかを技術問題はいったん後回しにして考える。
◆レベル4.「伝道師」
顧客が成功するためであれば、いかなる対応もしてみせる覚悟がある。
顧客の要望を鵜呑みにするだけでなく、代案を提出したり、アイデアを
練り上げる段階から献身的になることができる。
●「仕様をくれ」という人はレベル1か2の人なのです。「仕様をくれ」ではなく、「何がお望みですか?」と質問できるレベル3・4の人を育てていきましょう。
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ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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