武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
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2007年05月25日(金)更新
リーダーシップを発揮するために
ある日、父親から会社を受け継ぎ、先月社長に就任したばかりのA社長からこんな相談を持ちかけられました。
「社長業って、部門間の利害調整や意見調整がけっこう大変なのですねえ。」
私は「そうなんですか」とは言いながらも、彼の発言に違和感を覚えずにはいられませんでした。
●社長はリーダーです。マネージャーではありません。リーダーとは文字通り、組織を目的に向かってリードしていく人です。ですから、常日頃からリーダーシップを発揮しやすい組織や環境、風土を作る必要があり、そのための人間関係というのが、とても大切なものとなります。ふだんの何気ない人間関係がそのまま、リーダーシップの土壌を作り上げていくのです。
●ドラッカー教授が書いた次の一節が、とても私の印象に残っています。
――私が知っているなかで最もよい人間関係をもっていた者はだれかと問われるならば、次の3人をあげる。第二次大戦中のマーシャル将軍、1920年~1950年代半ばにGMのトップを務めたアルフレッド・スローン、スローンの年上の部下で不況のさなかにキャデラックを豪華車として成功させたニコラス・ドライスタットの3人である。彼ら3人は、これ以上違いようがないほど違っていた。
(中略)
その彼らが3人とも、同じように部下たちから深い献身と愛情をもたれていた。3人とも、それぞれの仕方で、上司・部下・同僚との関係を築いていた。3人とも、仕事の必要上、多くの人たちと密接な関係をもって働き、気を配った。
もちろん3人とも、人事については厳しい意思決定を行わなければならなかった。しかし、彼らのうちの一人として、人間関係に悩むことはなかった。彼らは、人間関係を当たり前のこととしていた。――
(※P.F.ドラッカー著『経営者の条件』(ダイヤモンド社刊)より)
●社長は、社内の人間関係のストレスを当然のこととして、受け止めねばなりません。時には辛い決定や、厳しい決断も必要でしょう。しかし、だからと言って落ち込んだり悩んだりする必要はありません。なぜなら、それこそがリーダーの仕事だからです。
●たとえばプロスポーツの場合、「勝つ」ことが監督と選手の共通目標です。ベテランバッターがスランプに陥っている場合を考えてみましょう。監督は「打席に立つことでスランプを脱出できれば」と思っていても、成績が振るわない選手は試合に出しません。温情をかけたことで負けてしまっては、チーム全体に迷惑がかかるからです。
●会社経営も同じです。特に中小企業経営には、大企業ではマネできないような俊敏な経営という武器があります。それは、まさしく社長の強いリーダーシップがあるからこそできる芸当なのです。
●それには、社長の思い通りに一糸乱れぬ動きをする組織作りが必要です。社長は思いきりワガママになって、好きな部下と仕事をして、自分に望むように働いてもらい、望ましい結果を出させるべき存在なのです。
●決して嫌いな人がいてはいけません。もし、部下の中に「あの社員は嫌いなのだけど、仕事ができるので我慢して使っている」という人がいたら、それは社長のリーダーシップを曇らせ、社長自身のテンションだって最高潮にはなりません。つまり、好きになれない人は雇うべきではないのです。
●もう一度言います。社長はリーダーシップを発揮しましょう。そして自分の望むような経営が可能となる組織を、日頃から作っていくのです。それが社長の仕事、責任なのですから。
2007年05月21日(月)更新
責任の行き止まり
●「会社組織における最終責任者は、社長である」ということは、もはや言うまでもないでしょう。
●では、幹部や社員には責任転嫁する相手がいてもいいのでしょうか? 時と場合によっては、幹部や社員の席にも「責任の行き止まり」カードをぶら下げておく必要があると思うのです。
●「おっかしいなぁ。なぜこんな結果になるのか、理由を聞かせてくれ」
靴販売の「シューズマート田仲(仮名)」の田仲社長は、経営会議の席上でそう言って、眉間にシワを寄せました。その理由は粗利益の急激な落ち込みです。3か月前に改装したばかりの本店の粗利益が29%から22%にまで低下したのです。
●「シューズマート田仲」は本店の改装オープンにあわせ、外国製の低価格シューズを目玉商品に据えました。このシューズ自体の粗利益は40%あり、他の定番商品を値下げ販売しても、最終的には全体で30%を超える粗利益が出るはずでした。それなのに、結果が22%というのがどうにも解せないというのです。
●この会社の役員は、社長、専務(奥さん=経理担当)、仕入部長、店舗運営部長、総務部長の5名です。商品価格の決定権は仕入部長にありますが、値下げする権限は店舗運営部長にも与えられています。また、7店舗それぞれの店長にも値引きをする裁量が与えられているのです。田仲社長は「いったい、だれの責任だ?」と続けました。
●社員数が増え、組織として仕事をこなすようになると、責任の所在があいまいになることがあります。
●この会社の場合、本来なら粗利益責任は仕入部長にあるはずです。店舗での値下げ権限があるとは言え、それらを常に把握して粗利益をコントロールする責任があります。しかし、仕入部長は仕入れのための出張が多く、社内にいることはめったにありません。外国出張も多いため、この件について責任を追及するのは気の毒だ、ということは社長もわかっています。
●一方、店舗運営部長も7つの店舗の指導で忙しく、粗利益の低下をリアルタイムで把握することは困難な状況にありました。販売促進の企画に加え、チラシや販売マニュアルの制作など、同じく多忙を極めているからです。
●この場合、二つの視点が必要です。一つは、社長が発した質問の通り、「誰の責任か?」という視点。もう一方は、「何が原因で、どうすれば改善できるのか?」という視点です。多くの会議に参加して気づくことは、「何が原因なのか?」という議論は必ずされますが、「誰の責任か?」という議論が足りないことです。どうすれば改善されるかを論じる前に、まずは誰の責任なのかを明確にしておくべきでしょう。
●会議では次のような結論が出ました。
1.これまでは、粗利益をコントロールする責任の所在が曖昧であった。
2.今後は、毎週月曜日に専務が販売集計表を作成し、各役員に配付する。
3.各役員は、その集計表をもとに問題を発見して解決策をレポートにまとめ、火曜日の経営会議に提出する。
4.それに伴い、月曜日に開催していた経営会議を火曜日に変更する。
5.売上高は店舗運営部長、粗利益と在庫は仕入部長、経費は専務を、それぞれ最終責任者とする。
●責任の所在を曖昧にしたままでは、組織全体としての問題を議論しても真剣味に欠けるのです。もちろん、すべての結果に対する最終的な責任は社長にありますが、個々の現象に対しては社長が最終責任者なのではありません。役員や幹部なのです。
●明日の経営者を育てるためにも、幹部に責任を負わせることを避けてはなりません。たとえば、「粗利益責任の行き止まり」「売上高責任の行き止まり」というようなカードを作って、天井からぶら下げてみてはいかがでしょうか。
2007年04月27日(金)更新
社長の評価
●さて、今回は評価について考えてみたいと思います。評価とは言っても、今回とりあげるのは社長の評価についてです。
●社員の評価については書籍やセミナーなどのテーマとして頻繁に取り上げられるため、そこで得た知見をベースとしてオリジナルの評価表を作成し、運用している会社が多いようです。
●しかし、オーナー企業の社長に限ってみますと、昇進や昇格がないため、評価されるような機会はほとんどありません。金融機関が決算書を判断基準として評価するということはありますが、それはあくまで企業としての評価であって、必ずしも社長自身のマネジメント能力やリーダーシップの評価に結びつくものではありません。
●サラリーマン社長ならば、株主総会で評価され、場合によっては更迭されることもあります。他方、オーナー社長は、たとえ業績が悪いからといって、自ら退任するようなことは滅多にしません。
●そこで、経営力を甘くさせないために、定期的な社長評価が必要になってきます。2005年に日本能率協会が「役員の業績評価と報酬に関するアンケート」を行いました。一部上場企業のトップに対して行った調査で、詳細は下記のURLからご覧いただけます。
http://www.jma.or.jp/release/23.html
●結果から言えることは、役員の評価と報酬との関係は、依然としてブラックボックスの中にあるということです。成果主義で社員を評価する風潮が、すごい勢いで浸透しているのに対し、役員の評価に対してはなかなか浸透していきません。
●そこで、社長自身のために、一年に1~2回は自己評価をしてみましょう。場合によっては、部下に経営能力を評価してもらうのもいいでしょう。
●あくまで一例ですが、社長を評価する項目を考えてみました。
■定量的評価項目
1.利益額(率)
2.売上高
3.目標達成度
4.ROAまたはROE
5.キャッシュフロー
■定性的評価項目
1.経営方針とビジョンの明確化
2.当期重点課題の実行進捗度
3.部下の採用・定着・育成
4.社風の向上とリーダーシップ
5.経営力向上のための個人的な取り組み
●これらを評価表のスタイルに落とし込んで、各10点、合計100点の評価シートにするのです。
上半期と下半期それぞれで評価し、結果を毎回記録しましょう。当然、役員報酬の額を結果に連動させるべきです。
●他の役員も同様の方法で評価します。もし、社長より経営力がありそうな人物がいたら、その人に社長を任せてみるのも一つの手でしょう。自分は最大株主であっても、経営の最前線からは離れ、新社長に会社の舵取りを任せるのです。
●このように、社長自身も社員と同じように評価対象になり、自らの競争原理にさらすことが、会社を健全に保つ秘訣なのです。
●勇気をもって「社長の評価」を始めてみませんか。
2007年04月13日(金)更新
幸せホルモンを分泌させよう
●大好きなゴルフで腕を磨くために練習場でボールを打ち、コーチにレッスンを受ける時のような熱心さと向上心をもって仕事ができたら、どんなに幸せでしょう。
「仕事と趣味を一緒にするのはおかしい」
という意見もあるでしょう。もちろん、一緒にするつもりはありませんが、やっぱり仕事は楽しくなければならないと思うのです。
●最初は好きで始めた仕事でも、毎日同じことを単調にくり返しているだけだと、やがて仕事は義務と化し、好きだった仕事も好きではなくなってしまうものです。
●つい数年前に、「脳内モルヒネ」という言葉が流行しました。ベストセラー本で紹介された「脳内モルヒネ」とは、「βエンドルフィン」といわれるホルモン。私たちの体内で分泌されるもので、麻薬以上に快感を得ることができる、と紹介されました。
●こうした "幸せホルモン" は、私たちが心の底から喜んでいる時や、楽しいと思っている時に分泌されやすいと言われています。楽しいことを想像しただけでも脳内モルヒネが出るときがありますが、それは一時的な話。大切なのは、持続的に幸せホルモンが出ることです。
●たとえば、次のようなケースでは、ある程度持続して "幸せホルモン" が出ていると考えられます。
◇マラソンランナーが苦しさを乗り越えたときに訪れる「ランナーズ・ハイ」
◇登山家が険しい登山の最中にいっさいの恐怖心がなくなる「クライマーズ・ハイ」
◇ダイエットで空腹の辛さを乗り越えたときに訪れる「ダイエット・ハイ」
◇猛烈に忙しいはずなのに、疲れを全然感じない「ハードワーク・ハイ」
●幸せホルモンが持続的に分泌された結果、ふだんなら出せないような力を発揮できることだってあるのです。これを「潜在能力の発揮」ともいいますが、それは長時間労働や義務的な労働では決して得ることはできません。無上の喜びや、極上の楽しみを感じているときだけ得られるのです。
●ゴルフや趣味に熱中するのも悪くありませんが、しょせんゴルフはゴルフ、趣味は趣味。現実のビジネスや会社経営という仕事は、本来、ゴルフや趣味などとは比べものにならないくらいに面白いはずです。いや、面白くしなければおかしいのです。
●そのために、経営者をはじめとして社員全員の脳にある「βエンドルフィン」が分泌するような仕事のスタイルに変えましょう。
●そこで、定期的に次の四つの視点で仕事をチェックされることをご提案します。
1.仕事そのものが刺激的か?
2.仕事の進め方が刺激的か?
3.仕事仲間や顧客が刺激的か?
4.仕事の報酬が刺激的か?
●この四つに対して「YES」「NO」「どちらでもない」で回答してみましょう。
四つともが「YES」であれば最高。あなたは今、仕事に熱中しているはずです。
●最悪なのは、すべてが「NO」のとき。これでは、仕事がつまらないどころか、「ノルアドレナリン」という不幸せ感とストレスを増幅させるホルモンが分泌し始めます。それを断固として阻止しなければ、うつとか出社拒否といった結果を招きかねません。
●仕事が面白いか、面白くないか。仕事が楽しいか、楽しくないか。そうした素直な感情を大切にキャッチし、幸せホルモンが途切れないよう、早めに手を打っていきましょう。
2007年03月30日(金)更新
五省(ごせい)
●さて、今回は他人のためのホウレンソウではなく、“自分自身のなかにいる最良の自分”に対するホウレンソウというものを考えてみたいと思います。
●ある日のこと、私は広島県西部にある江田島市を訪問しました。明治時代中頃から第二次世界大戦が終わるまでの間、この地には海軍兵学校が置かれていました。「イギリスのダートマス」「アメリカのアナポリス」と並らんで「日本の江田島」が三大海軍学校として世界に知れわたっていた時期もありました。
●わが国における海軍の歴史は、1869年(明治2年)に海軍操練所が開設されのがはじまりです。その後、海軍兵学校と改称。兵学校が江田島に移転されたのは、1888年(明治21年)のことでした。現在この場所は、海上自衛隊幹部候補生学校、第一術科学校になっています。
●さてこの江田島の学校を見学した際、「五省」と書かれた文章を発見しました。その内容は、次のようになっています。
一.至誠に悖る(もとる)なかりしか
一.言行に恥ずるなかりしか
一.気力に欠くるなかりしか
一.努力に憾み(うらみ)なかりしか
一.不精(ぶしょう)に亘(わた)るなかりしか
●この「五省」を定めたのは明治15年当時の海軍学校校長・松下元少将です。松下校長は、当時の世相を鑑みて、将来海軍将校となるべき兵学校生徒に対し、日々の行為を反省させ、明日の修養に備えさせるためにこの五箇条を制定したといいます。
●「五省」の意味はこうです。
一、至誠に悖(もと)るなかりしか・・・真心に反するようなところはなかったか
一、言行に恥ずるなかりしか・・・自分の発言や行動に恥じるべきところはなかったか
一、気力に欠くるなかりしか・・・惰性ではなく、気力に満ちていたか
一、努力に憾みなかりしか・・・最善の努力をしたか
一、不精に亘るなかりしか・・・妥協や手抜き、自己満足に陥ることはなかったか
●毎晩、自習終了五分前になると「G一声」のラッパが鳴り響きます。すると、生徒はみなすばやく書物を机の中におさめ、粛然と姿勢を正します。当番の生徒が「五省」の五項目を読み上げる。生徒は瞑目して心の中でその問いに答えながら、その日一日を自省自戒するそうです。「自習やめ、解散」のラッパが鳴り響くまでの五分間が「五省」の時間です。
●終戦後に来日した米国海軍のウィリアム・マック海軍少将がこの「五省」に感銘を受け、自国に持ち帰り翻訳しました。それは現在でも、アナポリスの海軍兵学校で利用されているといいます。もちろん、現在の海上自衛隊幹部候補生学校、第一術科学校でもこの伝統が受けつがれてるそうです。
●ちなみに英語で「五省」は、こうなります。
Five Reflections Japanese Imperial Neval Academy
1.Hast thou not gone against sincerity?
1.Hast thou not felt ashamed of thy words and deeds?
1.Hast thou not lacked vigor?
1.Hast thou exerted all possible efforts?
1.Hast thou not become slothful?
●私たちも、内なる自分と対話するために、この「五省」を活用しようではありませんか。
2007年03月23日(金)更新
日報を社員教育ツールに
とぼやく建設会社のA社長。たしかに、日報の不徹底に悩ましい思いをしている経営者は多いようですが、あえて私はA社長に「なぜ、日報が必要なのですか?」と聞いてみました。
●すると、次のような回答が返ってきました。
「日報とは働いたことを証明をするものであり、従業員の義務でしょ。経営者は日報を見て、仕事の流れを把握するものであり、これがなければ誰が何をやっているかわからない」
たしかにその通りですが、残念ながら「50点」の回答と言わざるをえません。
●日報の活用法やスタイルなどは各社各様ですが、うまくいっていない会社では、日報の目的をはき違えているか、運用の仕方に問題がある場合が多いようです。そこでもう一度、日報の目的を確認してみましょう。
●日報の効用をまとめると、次のようになります。
1.上司に対してその日にあった出来事を報告・連絡・相談するためにある
2.上司に対してその日の実績を報告するためにある
3.上司から本人に対してタイムリーな指導や教育をするための情報源である
4.上司が各部署や全社の状況を把握し、今後の対策や方針を決めるための情報源である
●ここまでのことなら、読者のみなさんはすでに理解しているかも知れません。そこで、事例を交えつつ、日報の戦略的な活用法をもう少し突っ込んで研究してみましょう。
●ある生命保険代理店に腕利きのマネジャーがいると聞きました。普通の成績の営業マンがこのマネジャーの部下になったとたん、半年もしないうちに営業実績が上がりだすそうです。このマネジャーの部下指導法のどこかに学ぶべきポイントがあるのではないかと思い、彼のもとに出向きました。
●あいにくマネージャー氏は不在でしたが、部下の営業マンから興味深い話が聞けました。
「うちのマネージャーはものすごい質問魔なんです。マネージャーが同行してくれて営業に出向くと、恒例行事がある。お客さんとの商談終了後には必ず5分以内にファミレスか喫茶店に入るのです。そして、根ほり葉ほり質問攻めされるのですよ。この前なんかは、お客さんと会っている時間より長くなっちゃいました」
●どんな質問をされるのかを尋ねると、次のような問いかけが続くのだそうです。
・「さっき面談したお客様のニーズは何か?」
・「商談の中でお客様が決算資料を見せてくれたけど、あれはどういう意味だと思うか?」
・「最初の数分間、お客様は不機嫌そうだった。そんな時、君一人だったらどんなことに注意するか?」
・「お客様は商談中に一度も時計を見なかったと思うが、君は何か気づいたか?」
・「この商談を成功に導く最大のポイントは何か?」
・「この商談が失敗に終わるとしたら、それはどんな時か?」
●恐るべし、マネジャー氏。これぞまさしく「追体験」なのです。わずかな商談時間の中にも無数の学習ヒントがあります。それは商談直後の生々しさがあるうちに反芻、確認されるべきなのです。
●商談の成功失敗に一喜一憂するのではなく、部下の経験を確実な学習機会にしようとするこのマネジャーの姿勢に、学ぶべき点は多いのです。
●さて、今日の主題は日報なのですが、もうおわかりでしょう。マネジャーの追体験教育そのものが日報の目的なのです。一日の仕事の中から何を感じ、何を学び、何をなすべきかを振り返る作業こそが、日報を書くという行為です。
●先ほど、私は日報の目的として次の四つをあげました。
1.上司に対してその日にあった出来事を報告・連絡・相談するためにある
2.上司に対してその日の実績を報告するためにある
3.上司から本人に対してタイムリーな指導や教育をするための情報源である
4.上司が各部署や全社の状況を把握し、今後の対策や方針を決めるための情報源である
●そして今、ここにつけ加えるべき日報の目的には、
5.一日の仕事を振り返り、明日の成果と成長につなげる学習機会とするため本人と上司がコミュニケートするためにある
という項目を加えるべきでしょう。
2007年02月23日(金)更新
人材に関するインフラ整備<その2>
●私は20才代の頃に、それに近い思いをもてる上司に出会うことができました。その会社の経営理念は「顧客第一主義」でしたが、お客様のために死ねるとは思っていませんでした。上司のために死ねる、と思っていたのでお客様に尽くしました。
●不純かも知れませんが、大なり小なりそうした属人的な面が、企業経営のなかにはあるように思います。いつの時代でも、「人間と人間の絆が一番強い」と思いたいものです。
●さて前号から、優秀な人材の獲得とその定着・育成をはかるための諸条件を6つのインフラに分けてご説明しています。この6つの合計値の高さが企業力を左右すると言っても良いでしょう。
1.採用インフラ・・・求人採用に関する基盤
2.組織インフラ・・・組織を運営するための規則・規定などの基盤
3.環境インフラ・・・仕事をしやすい職場環境基盤
4.人間インフラ・・・目標とすべき先輩・上司の存在という基盤
5.育成インフラ・・・人を育てるための基盤
6.ビジョンインフラ・・・人の情熱や意欲をかりたてるための基盤
前回は「採用インフラ」についてかなり詳しく説明しました。今回はその続です。
2.組織インフラ・・・組織を運営するための規則・規定
「今日の社長の機嫌はどう?」などと社員が社長の顔色を見ながら仕事をしているようでは困ったもの。社員も社長も一緒になって目標を目指して仕事をするチームワークが、会社には必要なのです。
●では、経営者が他人である従業員を雇用し、組織を維持管理していくためにはどのような諸規定が必要になるのでしょうか。
●大きい書店に行くと、『会社規定全集』のような類の本を売っています。社内で必要になりそうな書式や規定類が網羅されているので、そうしたものを参考に必要な「組織インフラ」としての規定・規則・書式などを一気にそろえてしまいましょう。
3.環境インフラ・・・仕事しやすい職場環境の整備
●製造業では「労働装備率」といって社員一人あたりの固定資産額を計算しています。この労働装備率の向上は、生産性の向上に直結することがわかっています。
●非製造業にあっても基本は同じはずです。たとえば、パソコンのハード、ソフト、営業車両や駐車場などなど、快適に仕事をするうえで理想となる状態を紙に書き出し、着々と労働装備率を高めていく配慮が、勤労意欲や生産性に直結しているのです。
●そうしたことは、当然既存社員のみならず、今後出会う未来の社員に対する訴求点にもなるはずです。
4.人間インフラ・・・目標人物やライバルが社内にいること
●目標となりうる上司・先輩がいることや、同期の仲間やライバルがいることなどが、社員に力を与えてくれます。
●定期的な社員アンケートなどで、「尊敬している社員は誰ですか」という項目を設けて調査している会社もあるほどです。この会社によると、最初のうち、アンケートの回答のほとんどを「社長」が占めていたそうです。ところが、数年後には「部長」や「課長」の名前が登場するようになりました。「人間インフラ」が徐々に充実していったのです。
●尊敬できる先輩や上司が社内にたくさんいることが強い会社の条件ですし、尊敬される彼らがさらに尊敬しているのが社長であれば、申し分ありませんね。
5.育成インフラ・・・人を育てるシステムがあるか
●新入社員を採用したら、労働生産性が極端に悪化する会社があります。つまり、新人が戦力になるのに時間がかかり、最初のうちはタダメシを食べているというわけです。
●新人が戦力になるのに要する期間は、業種によって異なります。また、同じ業種でも企業によって歴然とした差があるのも事実です。業務マニュアルの充実、先輩によるOJT、権限の委譲がどの程度なされているか、研修教育制度がどの程度整っているか、といった人材育成に関するインフラが、人の能力開発や定着問題をも左右しているのです。
6.ビジョンインフラ・・・社員は会社に夢を感じているか
●「ビジョンインフラ」とは、会社として夢があること、先輩上司が夢のある仕事ぶりをしている事などを指します。
●先日、遠方にある会社を訪問したときの出来事。途中で道に迷い、近くを歩いているビジネスマンに道を尋ねました。偶然にもその人は、その会社の社員でした。ともに歩きながら、「どんな会社ですか」と尋ねると、「夢のある会社です」という答えが返ってきました。会社に夢があり、それが社員と共有できている証拠です。
先週から引き続いて2回にわたったお届けした6つのインフラは、人の採用・定着・育成に直結するものです。一歩一歩確実に基盤整備していきたいものですね。
2007年02月16日(金)更新
人材に関するインフラ整備<その1>
●そうした「人」にまつわる一連のインフラを、次の6つのグループに分類しました。この6つの合計値の高さが、「企業力」を左右すると言っても良いでしょう。
1.採用インフラ・・・求人採用に関する基盤
2.組織インフラ・・・組織を運営するための規則・規定などの基盤
3.環境インフラ・・・仕事をしやすいハード・ソフト両面の環境整備基盤
4.人間インフラ・・・目標とすべき先輩・上司の存在という基盤
5.育成インフラ・・・人を育てるための基盤
6.ビジョンインフラ・・・人の情熱や意欲をかりたてるための基盤
今週は、もっとも重要と思われる「採用インフラ」に絞って詳しく説明しましょう。
「人材獲得合戦からバトルが始まっている」。これが私の考えです。
●プロ野球では、シーズンオフになると同時にFAやドラフト、トレードといった「人」の動きが活発になります。この期間中に効果的な補強ができたチームが、次年度のシーズンを有利に戦えるのです。
●球団としての選手登録人数枠が決まっているなかで最高の布陣を敷くために、フロントやスカウトが何年も前から学生や社会人と接触して、人材獲得競争に血道をあげています。
●他方、一般企業には登録選手枠がありません。あるとすれば、あなたの会社の要員計画の数値だけなので、予算があれば何人獲得しても構いません。逆に、予算がなければ補強しなくても構いません。
●そもそもビジネスには、シーズンオフという概念がありませんから、通年で好きなときに補強できるのも特徴です。
●人事部がない会社や、あってもその規模が1~2名の会社では、社長自らが採用活動のリーダーシップをとるべきでしょう。とりわけ中小企業では、一人の人材に対する依存度がきわめて高いので、優秀な人材を獲得できるかどうかが、その後の栄枯盛衰を決めると言っても過言ではないのです。
●採用活動を進める上で大切と思うことを列挙してみました。そして、これらは人事担当者任せではなく、経営者が自分自身で決めるべきことです。
①獲得したい人材像を具体的にイメージする
②求人予算の決定する
③採用媒体の選択と、自社の魅力を存分に表現した広告誌面づくり
④インパクトが大きい会社説明会の企画・運営
⑤企業訪問や手紙のやりとりなど、面接以外の方法により採用活動
●採用で真っ先にすべきは、欲しい人材のイメージや人数を決めることです。たとえば中途採用の場合、
「30~40歳の営業管理者。建設業界での営業経験者で、設計図面が読めること及びパソコンが使えること。健康で情熱的なプラス発想の人。年収は500~600万程度を目安とする。」
などと決めておきます。理想通りの人に出会えるとは限りませんが、採用活動のスタートはこうした目標設定から始まります。
●新卒採用や中途採用にかける費用には、適正基準というものがありません。
一人当たり10万円以下で成果を出している会社もあれば、100万円を超すケースもあります。雇用情勢によって必要額も変化しますが、最近は以下の額が一つの目安ではないでしょうか。
新卒採用・・・一人当たり30万円
中途採用(一般職)・・・一人当たり30万円
中途採用(コア人材)・・・一人当たり100万円
●人材斡旋会社の成功報酬は、獲得人材の年収の3割というところが多いので、コア人材の採用ではその金額がおおむね上限予算となります。仮に年収500万円の人材をとるのであれば、その3割(150万円)が上限。ただし、会社案内などの制作物を除いた予算額と考えてください。
●採用媒体というと大手しか考えない会社も多いですが、それでは工夫が足りません。欲しい人材のイメージを明確にすれば、求人方法や予算も変わってくるものです。
●たとえば、ある総菜店では大手媒体誌に掲載した求人広告により4名の応募がありましたが、いずれも満足できる人材ではなかったそうです。そこで、喫茶調理に関する専門学校に求人案内を掲載したところ、半額の経費で2倍の応募があり、めでたく採用につながったのだとか。
●結論として、「採用インフラ」を強化するとは、優秀な人材を獲得する確率を高めることです。そして、その成否をにぎるのは、社長みずからが採用活動に参画するかどうか、なのです。
<次号につづく>
2007年02月09日(金)更新
社長の存在価値
<社長の仕事と社員の仕事との違いは何だろうか? 社長の存在価値って何だろう?>
<最終決定権者というだけの存在なのだろうか? であれば、権限はなるべく委譲しないほうが社長らしくいられるのではないか>
<いや、それじゃ人は育たない。見本を示して人を育てるのが社長の存在価値だ>
などなど、議論は大いに盛り上がりました。そこでわかったことは、みなさんそれぞれ、社長業に関するイメージが異なるということです。
●創業間もない会社であれば、社長自らが営業に飛び回り、納品から資金の回収、クレーム処理に至るまで、すべて社員とともに汗を流すことでしょう。率先垂範が必要な時ですし、そうしなければ会社は回りません。
「どうしたらもっとたくさん売れるか」
「どうしたらもっとコストダウンできるか」
を社員とともに考え、陣頭指揮します。こうしたことで利益が出ていれば、毎日が充実していますし、楽しいはずです。
●しかし、この段階をずっと続けると「一代限りの社長」に終わります。組織やシステムや人材が残らないのです。
●逆に言うと、社長の存在価値とは、組織や人を残すことです。そのためにやるべき仕事は、社長にしかできないのです。
●「社長の仕事」jの具体的な例をあげてみましょう。
1.事業の選択とビジネスモデルの決定(事業戦略)
2.雇用政策と要員管理(人事政策)
3.金融機関の選択と関係構築(金融政策や資本政策)
4.取引先や外部協力者などとの関係構築(パートナー政策)
つまり、社長固有の仕事とは、「~戦略」とか「~政策」といった語尾がつくもの、と言うことができるでしょう。
●“今日、今週、今月”のことを心配するのは社員に任せ、社長はこうした“来年、3年後、5年後、10年後”のことを心配するようになりましょう。そうした意味では、「いつのことを悩んでいるか」で社長の差がつくのです。
●「武沢さん、うちのような零細企業が社長業に専念するなんてムリですよ」
という声が聞こえてきそうですが、ムリではありません。社長業に専念する時間を決めておけば良いのです。
●名古屋のある建設会社(社員数10名)の社長は、毎週土曜日を「社長業の日」と決めて、先ほど箇条書きした1~4の「社長ならではの仕事」をしておられます。また、別のある社長は、毎朝8時から9時までの1時間を「戦略タイム」と名づけて、 この時間に集中して「社長の仕事」をしています。
●要するに、社長業として何をすべきか、どのようにすべきかが決まっていれば、それをやる時間などは簡単にに捻出できる ということです。
●社長の存在価値とは、社長しかやれない仕事をきっちりやることに尽きるのです。
2007年02月05日(月)更新
複数の報酬制度
●球団側と選手側、お互いが納得いく条件で合意しようと最後の最後まで調整をはかるような場面は、企業でも必要ではないかと思うのです。
●すでに一部の企業では、会社と社員が話し合って待遇を決めるケースも出ています。全社員画一の賃金制度ではなく、個別に話し合う「臨機応変」な対応をしているケースが増えているのです。
●アメリカのジョンソン&ジョンソンは、ヘルスケア企業として国際市場で事業を展開しています。かつてこの会社は、内視鏡手術の分野ではライバルに大きく立ち後れていました。そこで、ある有能な経営幹部にこの難しいミッションを依頼。彼は、「5年間で業界トップにしてみせます」と答えたといいます。そして、報酬制度についても話し合いました。
●会社側は当初、年度ごとの数値目標を決めて、達成した場合にはチームにボーナスを支払う方式を提案したそうです。反面、達成できない場合には、今まで受け取っていたボーナスがもらえなくなります。せっかく難しい仕事にチャレンジしようというのに、下手をしたら待遇が悪化しかねない。賃金交渉は難航しましたが、結局、今までの固定給を上回る条件で努力してもらうことにしたそうです。
●最初の2~3年間はお先真っ暗な状況だったといいます。もし、会社が提示した最初の条件のままだったら、彼のチーム全員が待遇悪化に苦しんだことでしょう。そんな状況では、今後、誰も火中の栗を拾うようなチャレンジをしなくなったに違いありません。
●結果的に、この内視鏡チームは、4年目にして業界首位の座を獲得したのです。
●大企業といえども賃金制度は一本ではありません。複数の報酬システムを使い分けているというか、無数の報酬システムが社内にある、と言った方がイメージしやすいかもしれません。大企業がこうした柔軟な対応をしてくる時代ですから、中小零細企業ではさらに小回りの効いた柔軟なシステムが要求されるでしょう。
●あなたの会社は、松坂大輔クラスの優秀な社員を十分満足させるような報奨制度を用意しているでしょうか。意欲的な社員の冒険や挑戦を後押しするような制度になっているでしょうか。再点検してみましょう。
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ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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