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2011年04月01日(金)更新

確認しよう「聖」と「俗」

●空海は高野山を開くにあたり、「結界」というものを設定しました。
「結界」とは、神聖な場所と世俗的な場所を厳しく区別する境界のことを言い、結界内には、修業の妨げになるような世俗的なものは一切が排除されたのです。
高野山を取り囲む尾根道など二箇所に境界線を設けた空海。宗教家にとっては、「聖」と「俗」とをきっちり区分けすることが大切なのでしょう。
 
●芸術家のピカソもこんなことを言っています。
「回教徒が寺院に入るとき靴を脱ぐように、私は仕事中、ドアの外に肉体を置いてくる」。
 
本来なら私たちの職場もそのような場所なのですが、パソコンとインターネットによってゲームも映画もアダルトも友だちとの私用メールも、なんでも一台で済ませられるようになってしまいました。それはある意味、大変便利なのですが生産性や集中力という点で由々しき問題でもあります。
 
●何年か前、ヨーロッパの企業で重役の一人がアダルトサイトにアクセスしていたことが発覚し、辞任に追いやられるという"事件"がありました。
本人にしてみれば、ちょっとした息抜きのつもりなのでしょうが、組織のリーダーが率先して禁止事項を破った代償はあまりに大きかったのです。
 
仕事中の息抜きが悪いのではありません。息抜きの内容です。
 
●オフィスの中には、仕事に関係しないモノは持ち込まないこと。それは新入社員教育で教えることです。すべての私物はロッカーに預け入れるのは当然のこと。問題はパソコンや携帯、スマートフォンなどです。
 
会社で使うパソコンは、
 
・ゲーム類のソフト削除
・インターネットサイトへのアクセス制限
・メール内容の監視(私用メールの禁止)
 
などの徹底が必要でしょう。
 
●人間として器量が大きい人のことを、"清濁あわせのむ"という表現で称賛しますが、「聖」と「俗」はあわせのむことはできないかもしれません。
パソコンは仕事と連絡手段の道具と割り切り、ゲームや映画などは専用機で楽しむのが一番賢明なのでしょう。
 
もういちど、部下のパソコン使用に関する規定を整備しておきましょう。

2011年03月04日(金)更新

ワーク・ライフ・アンバランス

●昨年か一昨年あたりから「ワーク・ライフ・バランス」という言葉をよく聞くようになりました。仕事と個人生活のバランスを取りましょう、ということでしょうが、私はそれを若い経営者に言ってほしくないと思います。

●最近もある若手社長がこう言っていました。

「武沢さん、経営者にはバランス感覚が大切だと思う。極端な攻めや極端な守りにならないようにバランスを注意しています。いわゆる"中庸"というやつですね。会社経営しながらも子供を毎日風呂に入れてやるのもワーク・ライフ・バランスの経営なんじゃないですか」と。

●たしかにバランスは大切ですが、バランスのとりかたはひとつではありません。右か左かの中間で均衡を保つことだけが「バランス」ではなく、両極端を行き来して、一番居心地のよい場所を見つけられる能力が「バランス」だと思うのです。

●社長が子供を風呂に入れてやるのは週に一回か二回で充分で、会社を伸ばし、社員にはそのような親子で過ごす時間をつくってあげるのが社長の本来の役目ではないでしょうか。

●「“足して2で割る”案は最悪になる」 とオリエンタルランドの加賀見俊夫さんが言っていますが、真のバランスと単なる折衷案とは別物なのでしょう。

ましてやこれから世の中に打って出ようという若々しい会社の場合、信長の桶狭間のように一点突破しなければならない時だってあります。そんなときはバランスなんてクソ喰らえで、思いきったアンバランスこそ勝利の鍵という時もあるのです。

●ですから、「ワーク・ライフ・アンバランス」が正しいこともあると考えておきましょう。

それは風呂の入り方と同じです。
熱い湯とぬるい湯、人それぞれバランスの良い湯加減に好みがあります。
熱い湯にサッと浸かって出る人もいれば、ぬるい湯に長時間浸かるのが好きな人がいます。
同じ人でもそれを使い分けるでしょう。
時には、高温サウナと冷水浴を交互に繰り返すことで体調を整えることもあるのです。

●京セラ創業者の稲盛和夫さんは「位相」という言葉をつかっています。

打ち上げられたロケットは、大気圏を突破するまでの間はものすごいパワーを必要とします。しかし、一端、大気圏を突破してしまえば、ほとんどエネルギーを必要としない宇宙空間に入ることができます。そこでは、大気圏よりも早いスピードで地球の周りをまわっているのですが、エネルギーは必要としない。
経営もそれと同じです。「位相」に至るまでのエネルギーがずっといつまでも必要なのではありません。逆からいえば、「位相」に至るまでの間はエネルギー量を決して下げてはならないという教えでもあります。

経営者たる者、積極的に「ワーク・ライフ・アンバランス」で行くべき時もある、と考えておきたいものです。ただし、部下にそれを強要するのは賛成しません。

2011年02月25日(金)更新

ぜんざい屋

●歴史のifには興味が尽きません。

もし日本があのときアメリカと戦争していなかったら・・
もし織田信長が本能寺で討たれていなかったら・・
もし坂本竜馬が土佐を脱藩していなかったら・・
もし私が彼女(彼氏)と出会っていなかったら・・

まったく別の歴史になっていたことでしょう。

●もし松下幸之助氏が松下電器(パナソニック)を設立するのではなく、町のぜんざい屋でもやっていたらどうなっていたでしょう。
おそらく氏は、"経営の神様"と称されるほどの経営者になっていなかったはずです。
実は松下さんは、ぜんざい屋をやろうと真剣に考えていたときがあるのをご存知ですか。

●大阪電灯に入社してまもなく、氏は肺尖(はいせん)をわずらいました。兄も姉も結核で亡くなっていました。結核予備軍ともいわれる「肺尖」を言い渡されたとき、氏は「ついに自分も来るべきものがきた」と覚悟し、悲観したそうです。
「仕方ない。殺すなら殺せ」と開きなおり、それによって心が安定したそうです。やがて病気の進行も止まり、大阪電灯を退職して独立することを決意しました。

●「商売をやろう」という氏の動機は、体が弱かったからです。当時の電灯会社は日給制度。体の弱さのために会社を休んでいては収入が不足します。なにか小さい商売でもして、自分が休んでも家内がやってくれる商売が良いと考えたそうです。

「自分は酒は飲まないが、甘いものが好きなので、ぜんざい屋を家内とやろう。ぜんざいだったら夫婦でやれる」

●そんなころ松下さんは、二股ソケットを考案したのですが会社にそれが採用されず、自分で電気器具の製造をやろうと決断しました。退職金と貯金をはたいて大正7年、23才の時に独立。住居兼工場での旅立ちでした。それが今日のパナソニッックです。もし、すんなりぜんざい屋になっていたらどうなっていたことでしょう。

・もし松下さんの体が丈夫だったら?
・もし松下さんがぜんざい屋をやっていたら?
・もし松下さんが考案したソケットを大阪電灯が採用していたら?

歴史のifには興味が尽きません。

●あなたも今、歴史のど真ん中にいます。

あなたはいま「ぜんざい屋」をやっていませんか?
あなたはいま「大阪電灯」につとめていませんか?
あなたはいま「松下電器」を経営していますか?

2011年02月18日(金)更新

そうじ力

●世間では「断・捨・離」(だんしゃり)がブームだそうです。
何かとっておきのノウハウかと思いきや、昔から変わらない教えです。不要・不適・不快なモノとの関係を断ち、捨て、離れることから「断・捨・離」。それがブームになるほど多くの人はシンプルに生きるのが難しいようです。

●私は作家の書斎を見るのが大好きです。雑誌の「書斎特集」などをみていると、きれいに片付いた書斎もあれば、所せましと本や資料が散らかっている書斎もあります。もう少しきれいにすればもっと効率よく仕事ができるのに、と他人事ながら心配していまう乱雑な書斎もよくみます。

●何をかくそう、私もかつてはデスク回りがいつも散らかっていました。どうしたらきれいに片付くのか教えてほしいと思っていたのです。そして、数年前にある本と出会い、私に強い印象を与えました。『夢をかなえる「そうじ力」』(舛田光洋著、総合法令出版)という本です。

●著者の舛田さんは北海道出身で、35才の時に本書を刊行しました。
「そうじ力」なる言葉をうみだし「そうじ力」によって磁場の改善、心の改善、運勢の好転を提唱しています。最近では、中小企業の職場環境整備コンサルタントとして「そうじ力」を業績改善などに用いて成果をあげているそうです。

●きっかけは氏自身の失敗と再起だとか。
以前、事業で失敗し借金を抱えて離婚、失望、無気力へのプロセスを一直線に歩んでいったといいます。
その歩みは同時に、汚さへのプロセスでもありました。部屋を掃除しない、身なりを清潔に保てなくなる(入浴や化粧、ひげ剃り、洗面などをしなくなる)、他人がキレイに片づけると怒る、という悪循環です。

●そんな時、プロのそうじ屋をやっている友人が掃除道具持参でやってきて、著者の部屋を換気したあと、掃除をはじめました。
「お前も手伝え」と言われ、著者もしぶしぶ手伝いました。そして、きれいになった部屋で「どうだ、気持ち良いだろ」と友人。
そのとき、著者ははじめて気持ちいいという爽快感を味わったといいます。
それが「そうじ」と著者との出会い。

●ある心理学者の調査によれば、散らかった部屋、そうじの行き届いていないオフィスなどで生活を続けると、生理的な面でも心拍数や血圧の増加、動悸、首や肩の痛み、イライラが募り、怒りっぽくなるといいます。

●地下鉄や市内のカベの落書きを消し去っただけで米国NY市の犯罪は75%も減りました。崩壊寸前の学校が、PTAの親たちによるトイレ掃除で蘇ったケースも大阪にあります。こうした事実にもみられるように、環境が人間の生理や行動に極めて大きな影響を及ぼしていると舛田さん。

●ゴミやカビ、汚れや不要物が散乱しているということは、それ自体がマイナスの磁場を発しているというのです。
せっかく自己啓発本を読み、やる気になるような目標を作っても、マイナスの磁場がある職場や自宅では、自己矛盾を起こしてしまうでしょう。

●作家の多くは近くにたくさんの仕事のための資料や本が必要だから、あんなに机の上が散乱していたんです。作家でもない私が同じことをする必要はありません。
今や何でもデジタルの時代。これからの作家のデスクはパソコン以外は何もなくなる可能性だってあります。ビジネスピープルであればなおさらでしょう。

さあ、そうじです。

2011年02月04日(金)更新

捨てよう

●何でもかんでも使い捨ての時代は終わり、今やリサイクルの時代です。
乾電池だって充電式のものが増えてきました。我が家も単三乾電池は充電式のものを使うようにしています。「捨てない」時代到来!

●かと思いきや、片方では「捨てる」こともブームになっています。

ある日のこと、amazonで「捨てる」をキーワードにして検索したところ、82作品がヒットしました。その上位10作品には次のような著作が並んびました。

1.「捨てる!」快適生活―部屋スッキリの法則
  飯田 久恵 (著) 三笠書房 ¥1,260
  
2. 捨てる!スッキリ生活
  辰巳 渚 (著) 幻冬舎  ¥1,155

3. 辰巳渚の「捨てる!」生活―家まるごと2日でスッキリ!!
  辰巳 渚 (著) 高橋書店 ¥1,365

4. 「捨てる!」技術
  辰巳 渚 (著) 宝島社 ¥735

5. 「捨てる力」がストレスに勝つ
  斎藤 茂太 (著) 新講社 ¥1,365

6. 運の流れにのる、たったひとつの方法―「捨てること」からはじめよう!
  中野 裕弓 (著) 大和出版 ¥1,260

7. 「超」整理法〈2〉捨てる技術
  野口 悠紀雄 (著) 中央公論新社 ¥580

8. 捨てる達人・収納名人―スッキリ暮らす50の鉄則
  芳垣 真之 (著) 三水社 ¥1,365

9. 心のシンプルライフ―「過去」「感情」「未来」「葛藤」「正しさ」「自分」…。
  -心の不要品をすべて、徹底して捨てる技術。
  ヒュー プレイサー (著), ヴォイス ¥1,785(税込)

10. もう一度「捨てる!」技術
  辰巳 渚 (著) 宝島社 ¥630

いずれも最近売れた本です。

●貯め込むのが好きで、捨てるのが下手な私。
限られたスペースしかないオフィスや自宅も物だらけになってしまいます。「これじゃダメだ」と、年に数回大掃除をします。ということは、年に数回キレイになるだけであとの360日はキレイでないということです。意を決して「捨てる、貯めない、キレイにする」を続けたいと思っています。

●捨てる・・・
捨てるべき物は「物」だけではないはずです。精神的な "もの"の中にも捨てるべき"もの"、脇へ置いておくべき"もの"があると思うのです。
斎藤茂太著『「捨てる力」がストレスに勝つ』によれば、旅を楽しむためには、夫も妻も、捨ててゆかねばならないものがあるといいます。
夫は、仕事のことや自分がスポンサーであるというおごり、夫であるという意識など。
妻は、子どもの事、家庭の事、戸締まり、火の用心、お金のやりくり、などなど。つまり、我が家と我が職場を捨てないと旅が楽しめないというのです。

●日常を引きずったままの旅など、真の旅とはいえないのでしょう。
私も何度か旅先でかみさんと言いあらそいをしてしまったことがあり、「こんなことならもう二度とあなたと旅行なんかしない」と言い合ったものです。

●捨てることが大切なのは旅だけではありません。
そもそも人生が旅なのですから、定期的に何かを捨てないと船底にくっついた蛎殻(かきがら)だらけの重~い船体になってしまいます。重くなるのは体重だけではありません。心も重くなるから心の病が増えているのです。

●斎藤氏によれば、捨てたいものとして
・過去の栄光
・名誉や誇り
・我欲
・似合わない、ふさわしくないもの
・背伸びしていたこと

などを捨てようと説きます。それらを捨てることによって身軽になり、新たに得られる何かがあるとも指摘します。

●また、氏は、定年に近い年齢になってくると捨てる準備をしなければならないものがある、として
・仕事への野心
・地位があったころのプライド
・人に指図する癖
・何かと偉そうな態度
をあげています。いつまでも現役バリバリのころのような態度をとっていると、"孤独な年寄り"になるともオドス。

●最近、心のメンテナンスが足りないなぁとお思いの方は、物心両面でいろんなものを捨ててみましょう。なんだか気分が重いなとお感じの方、ふさわしくない目標、背伸びした目標になっていないか点検しましょう。

気負いも衒(てら)いも捨ててこそ、浮かぶ瀬もあるはずです。

2011年01月28日(金)更新

人を使う

■新任社長に就任した渡部敏夫(仮名)は、悩んでいました。
父が育て上げた鋳造会社を守ってゆけるのだろうか、と考えはじめると、夜も眠れません。
今年30才になる渡部は、学校卒業と同時に大手工作機械メーカーに就職。昨年、倒れた父の会社に入るまで経理畑一本をあゆんできました。
経営のイロハもわからないし、子どもの頃から人の上に立ってリーダーシップを発揮したことなど一度もありません。

■そんな渡部も、高校生の頃から学校休みの多くを父の鋳物工場でアルバイトしてきたので、鋳物に関する知識や技術は相当もちあわせています。
ですが、親分肌を発揮して会社を大きくしてきた父とは違い、渡部はどちらかというと几帳面で細かいことが気になるタイプ。自分のことを「悩み多き小心者」と思っているのです。

■前社長の父が急逝した今、悩んでいるヒマはありません。来週の月曜日には、"あの"古参社員と二人で会食しなければなりません。
"あの"古参社員とは、自分のことを父と比較して"小僧"呼ばわりしているらしい太田製造部長(55才)のことです。敏夫社長にとって、一番気がかりな存在なのです。

■「息子の敏夫は赤ん坊のころから俺が面倒みてきた」が口ぐせで、「敏夫」と渡部を呼び捨てにするのが直りません。
それどころか、「敏夫に社長はつとまらない。会社を潰すに決まっている。俺もそろそろ転職情報誌のお世話かな」などと工場内で言いふらしているようなのです。

■複数の社員からそれを聞いた渡部。
勇気を振り絞って太田に告げました。「部長、ちょっと二人で話をしませんか。近々、夕食の時間を確保してほしい」と伝えました。それが来週の月曜日なのです。

どんな話をしようか・・・。渡部はまた悩みはじめました。とにかくよく悩みます。

■その夜、敏夫社長が何気なく見ていたDVDに松下幸之助翁が登場し、こんなことを語り始めました。

・・・
私は従業員が40人位になったとき、悪い人が社内に混じるようになって、悩むようになった。ずっと悩んだが、ある時、これは悩んじゃあかんと思うにいたった。
天皇陛下の徳をもってしても日本から悪人はなくならない。悪人を隔離することはしても国から放り出すことはしない。天皇でもそうならば、自分が悪人を放り出すことなんて出来っこない。会社は良い人ばかりでやろうなんて思っちゃイカン。それ以来、人を使うということに私は非常に大胆になった。
・・・

■「国ですら悪い人を追放しないのに、どうして自分の会社から悪い人を追放などできるものか」という松下翁のメッセージに、渡部は、目から鱗が落ちる気分でした。経営の神様が、今の自分に語ってくれているように思えました。
「このDVDは父が見せてくれたのだ・・・」

■ついに月曜日が来ました。
渡部は太田と格闘したり、関係が確執化させるのをやめようと思いました。
本音で太田にぶつかり、これからの彼の協力をお願いしようという素直な気持ちでいたました。そしてこう告げたのです。

「太田さん、小さいころからお世話になってきました。おかげで自分もオヤジの意志をついで社長を任されるときがきました。30年なんてあっという間です。太田さんから見たらいつまでも自分はガキでしょうが、社長らしくなったとあなたから言われるようがんばるので、これからも、いろいろ、応援をよろしくお願いします!」

■新社長に頭を下げられ、酒を勧められた太田はビックリしました。
ひょっとして自分の放言が新社長の耳に入り、クビになるかも知れないと内心おそれていた太田ですが、彼も男です。その後、意気に感じてくれて、新社長を最も支える活躍をしてくれているといいます。天国の父もそんな二人の関係をほほえみながら見てくれていることでしょう。

■人を使うということに悩まない社長はいません。ですが悩んでしまってはいけません。
人使いは大胆にいきたいものです。案ずるよりぶつかる、それが対人関係の基本です。
しかも、上(立場が上の者)から下に降りていくのが鉄則なのです。

2011年01月21日(金)更新

経営の困難

●「おかげさまで幸せです」が口ぐせの社長がいます。社員のおかげ、家族のおかげ、お客様のおかげ、と「おかげ」ばかりを連発するのです。そういう言葉を発するときは、物腰も自然に謙虚になるものです。
その反対に「あいつのせい」「こいつのせい」と「せい」ばかりを連発する社長もいます。
その表情はいつも怒っている人特有の眉間をしています。

●これまでにたくさんの社長とお会いしてきましたが、「うちの会社には、何ひとつ問題がありません」と胸をはって答えられる社長にはお会いしたことがありません。きっとこれからも会うことはできないと思っています。もしそんなことを言う人がいるとしたら、よほど理想や目標が低い人なのでしょう。

●では、「問題はたくさんあるが、困難には直面していない」という経営者はどの程度いるのでしょう?
それにはデータがあるのですが、正解は、おおむね1割です。9割の経営者は困難を抱えながら経営を行っているという調査結果が出ているのです。

●中小企業金融公庫が2004年に「経営環境実態調査」として発表したもの。少々古いデータではありますが、何らかの参考になるでしょう。

問1.あなたは今、経営上の困難に直面していますか?
    はい、いいえ
問2.はいの場合、経営に最も影響の大きい問題は何ですか?
    売上が伸びない、資金繰難、人材不足、後継者難、技術力不足、その他

●当然、従業員規模によって回答内容に微妙な違いがあります。「困難に直面していますか?」に対して『いいえ』と回答した企業の割合をみてみますと、従業員数20名未満の企業は10.3%、従業員数301名以上の企業は13.6%となっています。企業規模が大きいほど、その割合も高くなっていますが、おおむね10%強が「困難はない」と認識しています。

●逆から見ると90%近くの会社が「困難がある」と答えているのですが、その内訳は、
一位:売上が伸びない、減少している(40%~47%)
二位:人材不足(21%~32%)

●ちなみに三位の「資金繰難」については

企業規模が小さいほど大きな問題になっています。従業員20人未満の会社の15.7%がこの問題を抱えており、301名以上の企業になるとこれは、3.4%の会社に過ぎません。

●整理してみましょう。

1.困難を抱えている会社はざっと9割(残り1割は困難を抱えていると思っていない)
2.企業規模を問わず「売上が伸びない」が最大の困難
3.企業規模を問わず「人材不足」が二番目の困難
4.企業規模が大きくなるほど、「人材不足」と回答する企業の割合が増える
5.企業規模が小さくなるほど、「資金繰難」と回答する企業の割合が増える

●困難に直面しているのはあなただけではありません。
それを抱えながら前進するのが社長業。逃げずに立ち向かい、困難を乗り越えて強くなっていきましょう。

2011年01月14日(金)更新

社長と社風

●年明け早々から、寒さが一段と厳しくなっているようです。

年初に、群馬県に出向きました。当初は温泉目的だったのですが高崎市の経営者団体から講演依頼が入ったため、仕事も兼ねることになりました。
高崎に到着し市内散策に出たところ、あまりの強風にくしゃみを連発してしまいました。マツモトキヨシで薬を買ってから思い出しました。ここは上州「からっ風」の本場だったのです。

●上毛三山から吹き下ろす風は想像以上だったのですが、「風」といえば、「風」にまつわる単語が日本にはたくさんあります。

風味、風貌、風格、風習、風俗、風評、風説、校風、家風、社風・・・という具合。
「風」という文字を明鏡国語事典で調べてみると「様子、様式、やり方、しきたり、流儀」というような意味でした。

●社長の場合、一番気になる「風」といえば、やはり「社風」でしょう。

好ましい社風を作っていきたいものですが、大会社と中小企業、はたして社風が強いのはどちらだと思いますか?

少し古い資料ですが、2005年の『中小企業白書』で興味深いデータがあります。従業員規模別に企業風土の形成にどれだけ社長が強い影響を与えたかを調べたものです。

回答は次の三つでした。

A・・代表者の人柄、考え方が影響した社風が表れている
B・・代表者の人柄、考え方とは関係ない社風が表れている
C・・社風のようなものはない

として、調査結果は次のようなものでした。

  従業員数     A    B    C    合計
  20名未満    69.8%    9.2%  21.0%  100.0%
  21名~50名   76.5%  11.7%  11.7%  100.0%
  51名~100名  77.5%  11.2%  11.3%  100.0%
  101名~300名  78.1%  13.1%   8.9%  100.0%
  301名以上~  81.3%  13.4%   5.3%  100.0%

●規模が小さい会社ほど社長の個性が強く表れるように思っていたのですが、実態は逆でした。企業規模が大きいほど代表者の人柄がストレートに社風に表れているのです。視点を変えれば、代表者の個性が強いからこそ大きな会社になったと言えなくもないでしょう。

●社長は「からっ風」ほど強い風を吹かさなくても良いのでしょうが、規模の小さい会社はもっともっと個性を前面に出していきましょう。ご自分の思いを「理念」や「ビジョン」としてカタチにして発表することが肝心だと思います。そのことに遠慮はいりません。

2011年01月07日(金)更新

模倣と独創

●芸事などで、新弟子が基礎を学び、成長し、名人になっていくプロセスを、「守 → 破 → 離」の三段階で語ることがあります。
特に「守」の段階は、建物の基礎にあたる部分として一番重要でしょう。
徹底的に基礎を学び、反復訓練する段階です。ある意味、師匠の物まねに徹する時期でもあります。

●そこで武沢仮説・・「独創は師匠(お手本)の物まねから始まる」

物まねがうまい人とは、それだけ観察力が高い証拠であり、上手にお手本の物まねができる器用さがある人です。
外国語の習得もそれと同じです。小さい子供のほうが耳で聞いたとおりに話しますからネイティブに近い発音ができます。しかし大人は単語のつづりや意味の理解から勉強しますから、日本語脳をつかっての発音になるので、ネイティブには通じにくいものになるのです。

●物まね上手になりましょう。
役者や作家だって一流どころは皆、物まね上手が多いようです。かつて、ダスティン・ホフマンがアカデミーの受賞スピーチでこう語りました。

「ハンフリー・ボガードにあこがれ、ボガードを真似し、ボガードを演じ続けるうちに今日私はダスティン・ホフマンになりました」

●シェークスピアだってそうです。
『オセロー』も『ヴェニスの商人』も『ハムレット』も、その元になる民話や物語を上手にアレンジし、世界に影響を与える作品に仕上げました。
あの『リア王』も元の話は、「レア王とその三人娘、ゴネリル、レーガン、コーデラの実録年代記」です。また、その『リア王』を下敷きして作られた黒沢映画が『乱』だといいます。

●古典から生まれた文学作品も少なくありません。
井原西鶴の「好色一代男」は『源氏物語』のパロディだといいます。芥川龍之介の「鼻」や「芋粥」も『今昔物語』などが下地になっています。

●「発明する方法は一つしかない。それは模倣することだ」とアランが語るように、私たちは何かを模倣することに臆病であってはならないのです。

●模倣したいような会社、
模倣したいような経営者、
模倣したいような売り方、
模倣したいような・・・

模倣すべきものを見つけてくる能力は立派な才能であり、実際それを模倣し、元のもの以上に仕上げることはすでに独創なのです。

2010年12月24日(金)更新

2倍を目指せ!

●この15年間、名古屋で経営計画講座を毎年二回開催してきています。
Wish List、理念作りから始まって決算書の読み方、数字目標作り、顧客創造計画、人と組織作り計画、そして経営計画の進捗チェック体制までを成文化し、互いに発表しあって終わる合計7回の講座です。

●あるとき、講座のなかで5年後の数字目標を作っていたら、一人の社長が手をあげこんな質問をしました。

「武沢さん、当社はまだ設立3年目の会社です。5年先にうちがどうなっているかなんて、とても分かりません。せいぜい来年の目標を作るのが精一杯です」

●私は逆に質問しました。
「じゃあ、あと何年したら5年先までの数字が作れるようになりますか?」
彼は言葉につまったようですが、「せめてあと5年はいろいろやってみないと分からない」というのです。

●彼が言わんとすることは「数字予測」のようなもので、なるべく誤差の少ない予測をしようという発想です。
そうではなく、数字目標というのは社長の意思です。せめてここまで到達したいという思いや、
ここまではやりたいという希望が先に必要なのです。予測値なのではありません。

●ドラッカーは、「1年でできることはことのほか少ないが、5年でできることはことのほか多い」と言っています。5年あれば、思っていることのすべてが叶う可能性があります。

そして、ドラッカーはこうも言っています。
「10年以内に規模を倍にできないのであれば、資金、人、資源の生産性を倍にする目標を掲げなければならない。生産性の向上はつねに現実的な目標であり、つねに実現可能な目標である」

●10年で倍増を目標にしましょう。いや、5年で倍増でも構いません。10年なら年率7.2%の成長、5年なら年率15%の成長が必要になります。
大企業にとっては大変な数字ですが、中小ベンチャーにとっては難しくなんかありません。もしその程度の成長が見込めない事業なのであれば、そうなるような事業構造を作る必要がある
と考えましょう。

組織には挑戦が必要であり、それは大胆なものであるべきです。
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ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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