武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
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2007年01月12日(金)更新
成果主義とは何か
●前回は、7つの経営スタイルについて、私の考えを述べました。あなたの経営スタイルは、いずれかにあてはまるかも知れませんが、欲を言えば、あなた独自の経営スタイルというものを築いていただきたいものです。
●ある経営者が私にこう語ったことを覚えています。
「武沢さん、うちは完全な能力主義でやっていますからある意味、気が楽なんです。社員も大人ですから独立独歩、固定給は低くし、あとはすべて歩合給にしました。やればやっただけ報酬がもらえるし、自分や家族のためにもがんばらざるを得ないでしょう。それと、新人研修以外の社員教育も減らしていって、本人たちの自己責任で勉強してもらおうとも考えています」
この考え方は「独立独歩の経営」のようで、もっともらしく聞こえますが、何だか変だと思いませんか?
●トヨタ自動車の奥田前会長は、かねがね「全力で雇用を維持するのが会社の責務であり、終身雇用が前提であることに変わりはない」と強調していました。同時に「トヨタの社員もプロ化しないと生き残れない」とも語っています。
●一見すると矛盾しているように聞こえますが、「雇用の維持」と「実力主義人事の導入」とは矛盾したものではありません。
●昨今の実力主義型人事を語るときに、言葉が誤用されていることがあるので確認しましょう。それは、
「能力主義=成果主義=業績主義ではない」
ということです。
●能力主義とは、文字通り能力に対してお金を払うものです。技能の成長や管理力、育成力などの能力を評価し、成長した部分が昇給されます。その最たるものが、何かの国家資格をとると手当が加算されるというものです。
●一方の成果主義とは、なしとげた成果に対してお金を払う。したがって、能力の高低は評価せず貢献してくれた成果を評価し、それを賃金などに反映させるのです。
●業績主義とは、社員の評価基準がズバリ「業績」だけにある会社です。売上高とか利益とかの数字だけが期待されている会社です。
●昭和40年代から50年代にかけての高成長を支えてきた日本的経営とは、終身雇用を前提としていただけに、もともとは「能力主義」だったことがわかります。社員の成長を促進するような期待給賃金でもあったわけです。
●そして今、トヨタに代表されるように日本の企業は、大急ぎで「成果主義」に移行してきているわけで、その流れは中小零細企業にまで及んできています。
●成果主義型人事に必要なものは、期待される成果を定量化することです。それも部門ごと、個人ごとに行われる必要があります。そして四半期ごと、または半期ごとに評価し、評価結果をフィードバックして納得性と透明を高めるべきものでしょう。
●管理職であれば、人材の育成についても目標を数値化する必要があります。たとえば、「今期中に新しくマネージャーを1名養成する」などです。
●もちろん、経営者の仕事は目標設定とその割り当てだけで終わってはなりません。社員の成長を促し、目標達成を支援するのが経営陣の大切な仕事です。成果主義を導入したからといって、冒頭の経営者のようにふんぞり返って人材育成まで放棄するようでは、本末転倒なのです。
●いずれにせよ、会社の経営管理システムは、経営者の意向を充分にふまえたものでなければならないことは、言うまでもありません。
●ある経営者が私にこう語ったことを覚えています。
「武沢さん、うちは完全な能力主義でやっていますからある意味、気が楽なんです。社員も大人ですから独立独歩、固定給は低くし、あとはすべて歩合給にしました。やればやっただけ報酬がもらえるし、自分や家族のためにもがんばらざるを得ないでしょう。それと、新人研修以外の社員教育も減らしていって、本人たちの自己責任で勉強してもらおうとも考えています」
この考え方は「独立独歩の経営」のようで、もっともらしく聞こえますが、何だか変だと思いませんか?
●トヨタ自動車の奥田前会長は、かねがね「全力で雇用を維持するのが会社の責務であり、終身雇用が前提であることに変わりはない」と強調していました。同時に「トヨタの社員もプロ化しないと生き残れない」とも語っています。
●一見すると矛盾しているように聞こえますが、「雇用の維持」と「実力主義人事の導入」とは矛盾したものではありません。
●昨今の実力主義型人事を語るときに、言葉が誤用されていることがあるので確認しましょう。それは、
「能力主義=成果主義=業績主義ではない」
ということです。
●能力主義とは、文字通り能力に対してお金を払うものです。技能の成長や管理力、育成力などの能力を評価し、成長した部分が昇給されます。その最たるものが、何かの国家資格をとると手当が加算されるというものです。
●一方の成果主義とは、なしとげた成果に対してお金を払う。したがって、能力の高低は評価せず貢献してくれた成果を評価し、それを賃金などに反映させるのです。
●業績主義とは、社員の評価基準がズバリ「業績」だけにある会社です。売上高とか利益とかの数字だけが期待されている会社です。
●昭和40年代から50年代にかけての高成長を支えてきた日本的経営とは、終身雇用を前提としていただけに、もともとは「能力主義」だったことがわかります。社員の成長を促進するような期待給賃金でもあったわけです。
●そして今、トヨタに代表されるように日本の企業は、大急ぎで「成果主義」に移行してきているわけで、その流れは中小零細企業にまで及んできています。
●成果主義型人事に必要なものは、期待される成果を定量化することです。それも部門ごと、個人ごとに行われる必要があります。そして四半期ごと、または半期ごとに評価し、評価結果をフィードバックして納得性と透明を高めるべきものでしょう。
●管理職であれば、人材の育成についても目標を数値化する必要があります。たとえば、「今期中に新しくマネージャーを1名養成する」などです。
●もちろん、経営者の仕事は目標設定とその割り当てだけで終わってはなりません。社員の成長を促し、目標達成を支援するのが経営陣の大切な仕事です。成果主義を導入したからといって、冒頭の経営者のようにふんぞり返って人材育成まで放棄するようでは、本末転倒なのです。
●いずれにせよ、会社の経営管理システムは、経営者の意向を充分にふまえたものでなければならないことは、言うまでもありません。
2006年12月23日(土)更新
君子と小人
●西郷隆盛さんが面白いことを語り残しています。
「人材には、君子(立派な人)と小人(凡人)があり。人を採用するにあたっては、君子と小人との区別をあまり厳しくするとかえって禍を大きくするものである。こういう凡人の心情を思いはかって、そのいいところを取って、これを下役に使って、その持っている才能や技能を十分発揮させることが重要である」
(『「南洲翁遺訓」を読む―わが西郷隆盛論』渡部昇一著 致知出版社刊より)
●また、多くの経営者は「ジンザイ」という言葉をもじって、三種類あることを知っています。
人財・・・なくてはならない宝のような人
人材・・・使いみちのある人
人罪・・・いてもらっては困る人
できるものなら「人財」と「人材」ばかりにしたいもので、「人罪」は社内にいてほしくないのが社長の心情です。
●でも、三種類の人材がいることはわかっても、それをどうやって見抜くのかが肝心なところ。ちょっと会話をするだけでそれが見抜けるほど、人間は簡単にできていません。100%の正確さで「ジンザイ」を見抜くなど不可能に近い芸当です。
●しかし、面接に工夫しているいくつかの会社では、ちょっと変わった面接法を編み出しています。そのひとつが「圧迫面接」なるもの。ドコモのiモードを開発した松永真理氏のベストセラー図書『iモード事件』(角川文庫)によれば、iモード開発チームもこの「圧迫面接」で選考されたとあります。
●「圧迫面接」とは、あるテーマを面接者に与え、その答えに対して面接官が次々に質問を浴びせかけ、相手を追いつめていくもの。面接官はあえて心を鬼にして厳しい質問をしていかなければなりません。きっと次のようになるでしょう。
社長:「あなたの将来の夢は何ですか?」
相手:「世の中に必要とされる人になりたいと思います」
社長:「それはどのような人ですか?」
相手:「まず専門的な知識や技術をもつことです」
社長:「どのような専門分野をもちたいですか?」
相手:「コンピュータに関する分野ですが、できればネット関係を」
社長:「ネット技術者はゴマンといますが、あなたはその中で今何ができますか?」
相手:「△×△×・・・」
社長:「うちの会社では、あなたの技術を必要としないとわかったらどうしますか?」
相手:「△×△×・・・」
●圧迫面接の主旨は、相手の回答内容ではありません。その態度です。
●すべてにおいて適切な回答を返す人材もいれば、うまく質問をはぐらかす人、無言で通す人、聞き返す人、支離滅裂になる人など対応はさまざまです。その対応の仕方から、どの程度の芯があるか、柔軟性があるかなどを見分けることができるのです。
●圧迫面接は、通常の面接でよく見受けるような表面的な一問一答のやりとりでは見抜けない、相手の真価を知ることができるでしょう。
●さて、冒頭の西郷さんのことば「君子と小人の区別を厳しくしすぎてはいけない」について。
A君は、仕事の成果が大きく、いつも会社の目的や目標達成のために身を粉にして働いてくれる。残業はいとわないし、会議でも前向き発言が多い。
B君は、与えられた仕事だけしかやらない。いつも自分の給料や休みのことばかりを気にするし、不平や不満も多い。会議でも否定的な発言が多い。
この場合、明からにA君が君子でB君が小人です。
●社長の願望としては、会社中をA君のようなタイプで埋めつくしたいと願いがちです。しかし、それは非現実的であるばかりか、やってはいけない事だと西郷さんは説くのです。決められたことだけをきっちりこなしてくれる人材は必要だし、待遇改善をつきつける人材も必要なのです。人材バランスの問題だということです。
●しかし、中小企業経営において、私は1つの事を付け加えたい。それは、
「社長を中心とした経営陣は、君子のような人財でなければならない」
ということです。
●社長自身および、経営陣が「人財」であること、あるいは「人財」になるよう努力を怠らないことは、会社の命運を握る課題です。もし、経営陣がそのような陣容になっていないとしたら、それこそが、人に関する緊急課題となるでしょう。
「人材には、君子(立派な人)と小人(凡人)があり。人を採用するにあたっては、君子と小人との区別をあまり厳しくするとかえって禍を大きくするものである。こういう凡人の心情を思いはかって、そのいいところを取って、これを下役に使って、その持っている才能や技能を十分発揮させることが重要である」
(『「南洲翁遺訓」を読む―わが西郷隆盛論』渡部昇一著 致知出版社刊より)
●また、多くの経営者は「ジンザイ」という言葉をもじって、三種類あることを知っています。
人財・・・なくてはならない宝のような人
人材・・・使いみちのある人
人罪・・・いてもらっては困る人
できるものなら「人財」と「人材」ばかりにしたいもので、「人罪」は社内にいてほしくないのが社長の心情です。
●でも、三種類の人材がいることはわかっても、それをどうやって見抜くのかが肝心なところ。ちょっと会話をするだけでそれが見抜けるほど、人間は簡単にできていません。100%の正確さで「ジンザイ」を見抜くなど不可能に近い芸当です。
●しかし、面接に工夫しているいくつかの会社では、ちょっと変わった面接法を編み出しています。そのひとつが「圧迫面接」なるもの。ドコモのiモードを開発した松永真理氏のベストセラー図書『iモード事件』(角川文庫)によれば、iモード開発チームもこの「圧迫面接」で選考されたとあります。
●「圧迫面接」とは、あるテーマを面接者に与え、その答えに対して面接官が次々に質問を浴びせかけ、相手を追いつめていくもの。面接官はあえて心を鬼にして厳しい質問をしていかなければなりません。きっと次のようになるでしょう。
社長:「あなたの将来の夢は何ですか?」
相手:「世の中に必要とされる人になりたいと思います」
社長:「それはどのような人ですか?」
相手:「まず専門的な知識や技術をもつことです」
社長:「どのような専門分野をもちたいですか?」
相手:「コンピュータに関する分野ですが、できればネット関係を」
社長:「ネット技術者はゴマンといますが、あなたはその中で今何ができますか?」
相手:「△×△×・・・」
社長:「うちの会社では、あなたの技術を必要としないとわかったらどうしますか?」
相手:「△×△×・・・」
●圧迫面接の主旨は、相手の回答内容ではありません。その態度です。
●すべてにおいて適切な回答を返す人材もいれば、うまく質問をはぐらかす人、無言で通す人、聞き返す人、支離滅裂になる人など対応はさまざまです。その対応の仕方から、どの程度の芯があるか、柔軟性があるかなどを見分けることができるのです。
●圧迫面接は、通常の面接でよく見受けるような表面的な一問一答のやりとりでは見抜けない、相手の真価を知ることができるでしょう。
●さて、冒頭の西郷さんのことば「君子と小人の区別を厳しくしすぎてはいけない」について。
A君は、仕事の成果が大きく、いつも会社の目的や目標達成のために身を粉にして働いてくれる。残業はいとわないし、会議でも前向き発言が多い。
B君は、与えられた仕事だけしかやらない。いつも自分の給料や休みのことばかりを気にするし、不平や不満も多い。会議でも否定的な発言が多い。
この場合、明からにA君が君子でB君が小人です。
●社長の願望としては、会社中をA君のようなタイプで埋めつくしたいと願いがちです。しかし、それは非現実的であるばかりか、やってはいけない事だと西郷さんは説くのです。決められたことだけをきっちりこなしてくれる人材は必要だし、待遇改善をつきつける人材も必要なのです。人材バランスの問題だということです。
●しかし、中小企業経営において、私は1つの事を付け加えたい。それは、
「社長を中心とした経営陣は、君子のような人財でなければならない」
ということです。
●社長自身および、経営陣が「人財」であること、あるいは「人財」になるよう努力を怠らないことは、会社の命運を握る課題です。もし、経営陣がそのような陣容になっていないとしたら、それこそが、人に関する緊急課題となるでしょう。
2006年12月01日(金)更新
責任とは何か
●社内報を毎月発行している会社での話です。
●この会社では編集スタッフ2名が担当ページを分担して仕上げるのですが、毎月締切日近くになると2人とも大わらわになります。このスタッフのAさん、Bさんの仕事ぶりがとても対照的で、面白いのです。
●Aさんは、原稿依頼をした相手に何度も電話確認をし、原稿締切日までに必ず提出するよう促します。それでも送られてこないときもあるので、電話確認をした月日と時刻の記録まで残してあります。しかし、たまには原稿が揃わずに記事に穴をあけてしまい、イラストや写真でごまかすことがあるそうです。
●一方のBさんも、確認の電話を入れるところまではAさんと同じです。違う点は、締切日に原稿が届いていない人には電話取材で原稿を仕上げるか、翌日に出かけてインタビューして記事を完成させるところです。その結果、いままで一度も記事に穴をあけたことはないといいます。
●あなたならどちらの人を高く評価するでしょうか? 二人ともがんばっているのですが、それでもBさんの方を評価するのではないでしょうか。
●「自分は、やるべきことをやりました。打つべき手を全て打ちました。それでも相手が協力してくれなかったので、最終的には出来ませんでした」というのは、責任感があるとはいいません。
●仕事には、「経過責任」と「結果責任」があり、Aさんのようなタイプは「経過責任」しか果たしていないのです。自分には「結果責任」はない、と思っている分だけ無責任です。
●「いろいろありましたが、最終的には出来ました。次回以降の課題として、……という問題を解決していきます」という発言をする人が本当に責任がとれる人です。経過責任と同時に結果責任も果たしている人です。
●プロスポーツの選手や監督は結果を出さないと使ってもらえなくなります。不振が続くと、過去に偉大な業績があっても更迭されるのがプロの結果責任というものです。
●給料の高さは、責任の大きさの順でもあります。1人ひとりの仕事には明確な責任が存在するはずです。あなたの会社では、社員ごとに「いつまでにどのような状態をつくることがあなたの結果責任ですよ」という目標の共有ができているでしょうか。
●「責任をとる」という言葉の意味は、「評価を甘んじて受け入れます」ということです。「下された評価には異議をはさみません」というのが責任をとる者のスタンスです。
●人材を育成し、明日の経営者を育てていくには、このような「結果責任」のとれる仕事ぶりを教えていくことでもあるのです。
●この会社では編集スタッフ2名が担当ページを分担して仕上げるのですが、毎月締切日近くになると2人とも大わらわになります。このスタッフのAさん、Bさんの仕事ぶりがとても対照的で、面白いのです。
●Aさんは、原稿依頼をした相手に何度も電話確認をし、原稿締切日までに必ず提出するよう促します。それでも送られてこないときもあるので、電話確認をした月日と時刻の記録まで残してあります。しかし、たまには原稿が揃わずに記事に穴をあけてしまい、イラストや写真でごまかすことがあるそうです。
●一方のBさんも、確認の電話を入れるところまではAさんと同じです。違う点は、締切日に原稿が届いていない人には電話取材で原稿を仕上げるか、翌日に出かけてインタビューして記事を完成させるところです。その結果、いままで一度も記事に穴をあけたことはないといいます。
●あなたならどちらの人を高く評価するでしょうか? 二人ともがんばっているのですが、それでもBさんの方を評価するのではないでしょうか。
●「自分は、やるべきことをやりました。打つべき手を全て打ちました。それでも相手が協力してくれなかったので、最終的には出来ませんでした」というのは、責任感があるとはいいません。
●仕事には、「経過責任」と「結果責任」があり、Aさんのようなタイプは「経過責任」しか果たしていないのです。自分には「結果責任」はない、と思っている分だけ無責任です。
●「いろいろありましたが、最終的には出来ました。次回以降の課題として、……という問題を解決していきます」という発言をする人が本当に責任がとれる人です。経過責任と同時に結果責任も果たしている人です。
●プロスポーツの選手や監督は結果を出さないと使ってもらえなくなります。不振が続くと、過去に偉大な業績があっても更迭されるのがプロの結果責任というものです。
●給料の高さは、責任の大きさの順でもあります。1人ひとりの仕事には明確な責任が存在するはずです。あなたの会社では、社員ごとに「いつまでにどのような状態をつくることがあなたの結果責任ですよ」という目標の共有ができているでしょうか。
●「責任をとる」という言葉の意味は、「評価を甘んじて受け入れます」ということです。「下された評価には異議をはさみません」というのが責任をとる者のスタンスです。
●人材を育成し、明日の経営者を育てていくには、このような「結果責任」のとれる仕事ぶりを教えていくことでもあるのです。
2006年11月04日(土)更新
社長の器~太閤秀吉より
●よく、「会社は社長の器以上にはならない」と言われます。では、「社長の器」とは具体的にどんなことを指すのか。今回は、太閤・豊臣秀吉の例で考えてみましょう。
●日本史上最大の急成長組織は豊臣秀吉がつくりあげた豊臣家でしょう。尾張中村郷(今の名古屋市中村区)の農民の倅(せがれ)が蜂須賀小六と出会い、織田信長に仕えてから天下を平定するまでわずか30年。おそらく世界史でみても指折りの急成長です。
●織田家での秀吉のスタートは雑役夫で、足軽以下です。しかも、当時彼はすでに18歳。この時代としてはかなり遅いスタートでもあります。
●しかし、30年後には徳川、毛利、上杉、伊達など歴史と伝統と格式をもつ大大名を傘下におさめる巨大組織の頂点にたつのです。その間、秀吉とその組織は成長と変質をくりかえしてゆきます。
●企業でいえば、サラリーマンから個人の自営業として独立。零細企業の社長から中小企業、中堅企業の社長を経て、一部上場会社、そして日本中の会社を傘下におさめることになるのです。
●そのプロセスで秀吉の組織はどのように進化し続けたのでしょうか。
●足軽頭になった頃の部下は、数人から数十人の規模です。企業でいえば、零細企業から中小企業のトップです。一人ひとりの足軽に対して、直接指揮をとる段階といえましょう。
●やがて、墨俣築城の頃が数十人から二百人規模。元気の良い中小企業規模で、秀吉とその部下とのドラマチックなエピソードがもっとも多い時期でもあります。
●近江長浜の城主になるころには、部下が千人から三千人規模。この時期には竹中半兵衛や黒田官兵衛などの知将が部下に加わっています。さらに、加藤清正や石田三成といった小姓組織も作っています。
●企業でいえば、中堅企業から上場企業という段階ですが、織田家という親会社をもつ気楽さと大らかさをあわせもっていたようです。
●やがて、本能寺で信長が急死。その直後、天下分け目の天王山の戦いを勝ち、賤ヶ岳の合戦で勝利をおさめ、天下をとると、諸大名のすべてが部下となりました。個人的な裁量で組織を動かすことはできなくなり、規則・規定と事務官僚が組織運営の中枢を握り出すという段階です。
●さて、秀吉個人はこの間に、兄貴分からおやじに、大将から殿、やがて太閤へと呼称は変わるわけで、その都度、彼は部下のと関係や自分のリーダーシップを変えていくのに成功しているのです。
●呼称が変わるだけでなく、その時々の組織改革とみずからの変身を同時に成し遂げたところに、類をみない成功の原因があります。その変身ぶりは今日のビジネス社会でいうところの「自己啓発」などという生やさしいものではなく、命をかけた環境適応でした。
●組織が小さい段階ではお互いに気心をつかみ、規則に反するものがいても寛大。戦場で結果を出せ、といったところです。しかし、組織が巨大化し、お互いの気心がつかめなくなると、就業規則も賃金規程も必要になり、それを守らなければならなくなります。
●古参の武将からはそうした官僚的な組織運営に対する不満と若手エリートが幅を効かせることへの不信感が芽ばえるでしょう。しかし、秀吉はそうした対立への処置が実に適切でした。
●たとえば、初期の段階で役に立った猛烈社員は、天下平定後の豊臣家ではほとんど役に立っていません。しかし、俸禄で報いることで対立のバランスをとり続けたのです。
●秀吉の生涯は、強運としか言いようのないものですが、実は彼自身がものすごい成長をしていたという点に注目したいものです。
●もちろん左遷も経験し、腹を切ってもおかしくないほどの失態も演じています。しかし、もともとが尾張中村郷の水飲百姓の小せがれ、はなっから捨て身ですから陽気です。
●私たちも太閤秀吉のような変身力をもつことが、「天下平定」「目標実現」の大きな条件になっていると思います。立場や年令を超越して変身・成長できることが、社長の器ではないでしょうか。
●日本史上最大の急成長組織は豊臣秀吉がつくりあげた豊臣家でしょう。尾張中村郷(今の名古屋市中村区)の農民の倅(せがれ)が蜂須賀小六と出会い、織田信長に仕えてから天下を平定するまでわずか30年。おそらく世界史でみても指折りの急成長です。
●織田家での秀吉のスタートは雑役夫で、足軽以下です。しかも、当時彼はすでに18歳。この時代としてはかなり遅いスタートでもあります。
●しかし、30年後には徳川、毛利、上杉、伊達など歴史と伝統と格式をもつ大大名を傘下におさめる巨大組織の頂点にたつのです。その間、秀吉とその組織は成長と変質をくりかえしてゆきます。
●企業でいえば、サラリーマンから個人の自営業として独立。零細企業の社長から中小企業、中堅企業の社長を経て、一部上場会社、そして日本中の会社を傘下におさめることになるのです。
●そのプロセスで秀吉の組織はどのように進化し続けたのでしょうか。
●足軽頭になった頃の部下は、数人から数十人の規模です。企業でいえば、零細企業から中小企業のトップです。一人ひとりの足軽に対して、直接指揮をとる段階といえましょう。
●やがて、墨俣築城の頃が数十人から二百人規模。元気の良い中小企業規模で、秀吉とその部下とのドラマチックなエピソードがもっとも多い時期でもあります。
●近江長浜の城主になるころには、部下が千人から三千人規模。この時期には竹中半兵衛や黒田官兵衛などの知将が部下に加わっています。さらに、加藤清正や石田三成といった小姓組織も作っています。
●企業でいえば、中堅企業から上場企業という段階ですが、織田家という親会社をもつ気楽さと大らかさをあわせもっていたようです。
●やがて、本能寺で信長が急死。その直後、天下分け目の天王山の戦いを勝ち、賤ヶ岳の合戦で勝利をおさめ、天下をとると、諸大名のすべてが部下となりました。個人的な裁量で組織を動かすことはできなくなり、規則・規定と事務官僚が組織運営の中枢を握り出すという段階です。
●さて、秀吉個人はこの間に、兄貴分からおやじに、大将から殿、やがて太閤へと呼称は変わるわけで、その都度、彼は部下のと関係や自分のリーダーシップを変えていくのに成功しているのです。
●呼称が変わるだけでなく、その時々の組織改革とみずからの変身を同時に成し遂げたところに、類をみない成功の原因があります。その変身ぶりは今日のビジネス社会でいうところの「自己啓発」などという生やさしいものではなく、命をかけた環境適応でした。
●組織が小さい段階ではお互いに気心をつかみ、規則に反するものがいても寛大。戦場で結果を出せ、といったところです。しかし、組織が巨大化し、お互いの気心がつかめなくなると、就業規則も賃金規程も必要になり、それを守らなければならなくなります。
●古参の武将からはそうした官僚的な組織運営に対する不満と若手エリートが幅を効かせることへの不信感が芽ばえるでしょう。しかし、秀吉はそうした対立への処置が実に適切でした。
●たとえば、初期の段階で役に立った猛烈社員は、天下平定後の豊臣家ではほとんど役に立っていません。しかし、俸禄で報いることで対立のバランスをとり続けたのです。
●秀吉の生涯は、強運としか言いようのないものですが、実は彼自身がものすごい成長をしていたという点に注目したいものです。
●もちろん左遷も経験し、腹を切ってもおかしくないほどの失態も演じています。しかし、もともとが尾張中村郷の水飲百姓の小せがれ、はなっから捨て身ですから陽気です。
●私たちも太閤秀吉のような変身力をもつことが、「天下平定」「目標実現」の大きな条件になっていると思います。立場や年令を超越して変身・成長できることが、社長の器ではないでしょうか。
2006年10月27日(金)更新
あえて部下と特別な関係を結ぶ
●前号で、「才能ある部下が遅刻の常習犯。あなたならどうしますか?」という質問をしました。代表的なご意見を紹介しましょう。
◇服務規程や就業規則に違反する社員は、規定にそって罰することが組織の秩序維持には欠かせない。
◇遅れたら、その分よぶんに働いてもらえば結構だ。
◇時間を守れないのは時間にルーズな証拠。ましてや常習犯なら解雇する。
◇才能重視で考えるのなら、フレックスタイム制を検討するべきでは。
どの回答も誤りではありません。各社各様の対応策があってしかるべきでしょう。
しかし、それらの行動の前にやるべきことがあるはずです。
●前号のマガジンでご紹介したギャラップ調査によると、すぐれたマネージャーは、異口同音に次のような回答をしたといいます。
「まず、理由を聞く」
●この答えはマネージャーと部下との信頼関係をあらわしています。
「理由のいかんにかかわらず、遅刻は遅刻。つまり規則違反なので罰する」
というのではなく、まず理由を聞く。それは、甘やかすという意味ではありません。
上司と部下との間にある特別な信頼関係の重要さです。
●固定観念にとらわれて物事を考えてはいけません。この場合の固定観念とは、
◇誰であろうと規則やルールを守らなければならない。したがって、今のルールを守れない人間には、ペナルティーを課さねばならない。
◇遅刻は本人の怠慢によるもので、理由のいかんを問わず許すわけにはいかない。
◇社員は平等に扱うべきであって、個人ごとに異なる対応をしていては組織が維持できない。
これらはいかにも、もっとらしく聞こえる固定観念です。
●もちろん、単なる怠慢と甘えによってルールを破る社員もいます。それに対しては毅然とした処置が必要でしょう。しかし、その場合でもまず、理由を聞くのが先決です。
●才能ある部下、しかし遅刻の常習犯、こんな部下に理由を聞くといろいろな個人的事情がみえてきます。単なる私生活のルーズさもあるでしょう。でも、もしかすると家族の健康問題、バスの運行事情、本人の体調の問題などが隠れているのかも知れない。
●部下がもつ才能を存分に活かし、組織の目的を達成することが経営者やマネージャーの任務です。そのためであれば、捨てなければならない常識というものがあります。
●部下全員に同じような貢献を期待してはいけない。たとえば、営業課長が3人いれば3人とも異なる成果を要求して良いはずです。社員が20人いれば20通りの期待があっても構いません。それを鋳型にあてはめて画一的な評価基準を作ろうとするところに無理が生じます。
●有能な部下ほど上司に対して、特別な扱いと特別な関係を期待するのです。それを無視し、全員が同じ時間に勤務を開始し、同じ時間に終わることに価値をおく意味はありません。
●経営の現場では、欠点を是正させるような教育指導が目につきますが、中小企業やベンチャーには欠点だらけの人間が集まるものと開き直りましょう。いや、それこそ武器なのです。
●欠点をはるかにしのぐ個人的才能をもっていれば、その欠点を補う工夫をするのがマネージャーの仕事です。誤解をおそれずに言えば、社員に対しては不平等に接し、えこひいきも辞さないことが、中小企業の強みを活かすことにつながるのです。
◇服務規程や就業規則に違反する社員は、規定にそって罰することが組織の秩序維持には欠かせない。
◇遅れたら、その分よぶんに働いてもらえば結構だ。
◇時間を守れないのは時間にルーズな証拠。ましてや常習犯なら解雇する。
◇才能重視で考えるのなら、フレックスタイム制を検討するべきでは。
どの回答も誤りではありません。各社各様の対応策があってしかるべきでしょう。
しかし、それらの行動の前にやるべきことがあるはずです。
●前号のマガジンでご紹介したギャラップ調査によると、すぐれたマネージャーは、異口同音に次のような回答をしたといいます。
「まず、理由を聞く」
●この答えはマネージャーと部下との信頼関係をあらわしています。
「理由のいかんにかかわらず、遅刻は遅刻。つまり規則違反なので罰する」
というのではなく、まず理由を聞く。それは、甘やかすという意味ではありません。
上司と部下との間にある特別な信頼関係の重要さです。
●固定観念にとらわれて物事を考えてはいけません。この場合の固定観念とは、
◇誰であろうと規則やルールを守らなければならない。したがって、今のルールを守れない人間には、ペナルティーを課さねばならない。
◇遅刻は本人の怠慢によるもので、理由のいかんを問わず許すわけにはいかない。
◇社員は平等に扱うべきであって、個人ごとに異なる対応をしていては組織が維持できない。
これらはいかにも、もっとらしく聞こえる固定観念です。
●もちろん、単なる怠慢と甘えによってルールを破る社員もいます。それに対しては毅然とした処置が必要でしょう。しかし、その場合でもまず、理由を聞くのが先決です。
●才能ある部下、しかし遅刻の常習犯、こんな部下に理由を聞くといろいろな個人的事情がみえてきます。単なる私生活のルーズさもあるでしょう。でも、もしかすると家族の健康問題、バスの運行事情、本人の体調の問題などが隠れているのかも知れない。
●部下がもつ才能を存分に活かし、組織の目的を達成することが経営者やマネージャーの任務です。そのためであれば、捨てなければならない常識というものがあります。
●部下全員に同じような貢献を期待してはいけない。たとえば、営業課長が3人いれば3人とも異なる成果を要求して良いはずです。社員が20人いれば20通りの期待があっても構いません。それを鋳型にあてはめて画一的な評価基準を作ろうとするところに無理が生じます。
●有能な部下ほど上司に対して、特別な扱いと特別な関係を期待するのです。それを無視し、全員が同じ時間に勤務を開始し、同じ時間に終わることに価値をおく意味はありません。
●経営の現場では、欠点を是正させるような教育指導が目につきますが、中小企業やベンチャーには欠点だらけの人間が集まるものと開き直りましょう。いや、それこそ武器なのです。
●欠点をはるかにしのぐ個人的才能をもっていれば、その欠点を補う工夫をするのがマネージャーの仕事です。誤解をおそれずに言えば、社員に対しては不平等に接し、えこひいきも辞さないことが、中小企業の強みを活かすことにつながるのです。
2006年10月20日(金)更新
使いにくい社員
●すぐれた経営者は現実的な視点を忘れません。夢や理想を追い求めながらも思考回路は現実を直視しています。
●では、何が非現実的なことで、何が現実的なことなのでしょうか。
●非現実的なこととは、変えることができないことを変えようとすることです。
それは、「過去」と「他人」。過去と他人を変えようとすることほど非現実的なことはありません。他人が変わろうとすることを手助けすることは出来ても、他人を変えることはできない。親子や夫婦といえども同様でしょう。
●すぐれた経営者が持ち合わせている現実的な考え方とは、未来と自分を変えるために今できることに関心を集中することです。
●ギャラップ調査でおなじみのギャラップ社には膨大な数におよぶインタビュー調査レポートがあります。その中におもしろいものがありました。
あなたも一緒に考えてみてください。
「あなたはマネージャーとして、次の2人の部下のうち、どちらを選ぶか?」
1.一人で2億円を売り上げるが独立心が強く一匹狼のような人間
2.売上は半分だが、和気あいあいでチームプレイする人間
●私がお付き合いしている人たちにこの質問をしたことがないので、結果はわかりませんが、おそらく日本の中小企業では、2番の方を選ぶ人が多いと思われます。
●しかし、ギャラップ調査によるとすぐれたマネージャーは1番を選択すると答えています。これは、才能に重きをおくのか、管理しやすさに重きをおくのかの選択の問題です。
●すぐれたマネージャーは、管理しやすい人材をさがすのでなく、世界水準をめざせる才能の持ち主を求めています。管理しやすいからという理由で、生産性の劣る人を重用して、しかもそのタイプを才能ある人に変えようということは、上記の「非現実的」な考え方なのでしょう。
●こんなことを書くと、「当社は、価値観や理念の共有をいちばんに重要視している」という批判をもらいそうです。それは、たしかに大切なことです。
●ところが、実際には自分の手に余るような部下を総称して、すべて、「うちには合わないヤツ」と切って捨てているケースも多いです。
・報告・連絡・相談が出来ないが、飛び抜けたセールス実績を上げる営業社員
・ずば抜けたデザインセンスをもったデザイナーだが、遅刻の常習犯
・完璧な月次決算をまとめるが、社内親睦会にはすべて欠席する経理社員
●強い会社には、こうした人材が必ずいる。いるだけではなく、いきいきと活躍しています。そして、こういうタイプがどんな会社にも一人や二人いるはずです。あるいはかつて、いたはずです。このような人材が一人もいなくなった会社が、その後、強くなることはありません。
●この稿、次回に続きますが、ひとつ質問をお出しします。
「才能ある部下が遅刻の常習犯。あなたならどうする?」
お考えいただきたい。優秀なマネージャーの答えはひとつです。
●では、何が非現実的なことで、何が現実的なことなのでしょうか。
●非現実的なこととは、変えることができないことを変えようとすることです。
それは、「過去」と「他人」。過去と他人を変えようとすることほど非現実的なことはありません。他人が変わろうとすることを手助けすることは出来ても、他人を変えることはできない。親子や夫婦といえども同様でしょう。
●すぐれた経営者が持ち合わせている現実的な考え方とは、未来と自分を変えるために今できることに関心を集中することです。
●ギャラップ調査でおなじみのギャラップ社には膨大な数におよぶインタビュー調査レポートがあります。その中におもしろいものがありました。
あなたも一緒に考えてみてください。
「あなたはマネージャーとして、次の2人の部下のうち、どちらを選ぶか?」
1.一人で2億円を売り上げるが独立心が強く一匹狼のような人間
2.売上は半分だが、和気あいあいでチームプレイする人間
●私がお付き合いしている人たちにこの質問をしたことがないので、結果はわかりませんが、おそらく日本の中小企業では、2番の方を選ぶ人が多いと思われます。
●しかし、ギャラップ調査によるとすぐれたマネージャーは1番を選択すると答えています。これは、才能に重きをおくのか、管理しやすさに重きをおくのかの選択の問題です。
●すぐれたマネージャーは、管理しやすい人材をさがすのでなく、世界水準をめざせる才能の持ち主を求めています。管理しやすいからという理由で、生産性の劣る人を重用して、しかもそのタイプを才能ある人に変えようということは、上記の「非現実的」な考え方なのでしょう。
●こんなことを書くと、「当社は、価値観や理念の共有をいちばんに重要視している」という批判をもらいそうです。それは、たしかに大切なことです。
●ところが、実際には自分の手に余るような部下を総称して、すべて、「うちには合わないヤツ」と切って捨てているケースも多いです。
・報告・連絡・相談が出来ないが、飛び抜けたセールス実績を上げる営業社員
・ずば抜けたデザインセンスをもったデザイナーだが、遅刻の常習犯
・完璧な月次決算をまとめるが、社内親睦会にはすべて欠席する経理社員
●強い会社には、こうした人材が必ずいる。いるだけではなく、いきいきと活躍しています。そして、こういうタイプがどんな会社にも一人や二人いるはずです。あるいはかつて、いたはずです。このような人材が一人もいなくなった会社が、その後、強くなることはありません。
●この稿、次回に続きますが、ひとつ質問をお出しします。
「才能ある部下が遅刻の常習犯。あなたならどうする?」
お考えいただきたい。優秀なマネージャーの答えはひとつです。
2006年09月29日(金)更新
経営のプロになろう
●いわゆる“養子社長”と話し合う機会がありました。奥さん方の姓を名乗り、奥さんの父親が経営する会社の役員になり、やがて社長になったそうです。
●家庭内でさえ気苦労の多い立場に加えて、企業内でも養子の立場がついて回り、従業員もそうしたリーダーの出現に対して、お手並み拝見とでもいった形で傍観する……。そのやりにくさは、容易に想像がつきます。
●しかし、私の知るかぎり、こうしたケースが決して悪い結果につながるわけではありません。むしろ、養子の立場だからかえって甘えがなく、責任ある経営をする例が多いのです。
●実の父親の会社を継いだ息子が、「会社の資産=家族の資産」と考えやすいのに対し、養子社長は経営を私物化するようなマネはできません。先代社長が存命であれば、なおのことです。
●そういえば、江戸時代末期において、名君と誉れが高かった大名にも養子が多いようです。越前の松平春嶽、会津の松平容守、土佐の山ノ内容堂、宇和島の伊達宗城、長岡の牧野忠訓など、積極的に大名たらんとすることを欲した者はすべて養子でした。
●「俺は大名としてお家のために足跡を残すのだ」という気概が、養子大名には強かったのでしょう。これに対して、世襲の大名で聡明な働きをしたのは、薩摩の島津と佐賀の鍋島くらいでしょうか。
●養子社長と話していて気づくことは、経営成果に対する責任感がオーナー社長以上に強いということです。具体的には、株主配当を支払う責任であったり、株主総会で納得のいく経営経過報告や今後の見通しを発表する責任などです。
●第三者に対する経営責任を負う立場の社長は、無意識のうちに、透明性・納得性の高い経営を志すのです。
●サラリーマンから出世して社長になったという場合も、養子のケースと似ているかもしれません。あるサラリーマン社長は、旅費規程で定められているにも関わらず、グリーン車に乗ったことがなく、新幹線はいつも自由席だとか。せめて指定席に、と私などは思うのですが、「株主のために無駄な経費は使えない」と言うのです。
●私は、オーナー企業の養子になることや、サラリーマン社長を薦めているのではありません。立場が違うと、責任感や経営への考え方は変わってくる、ということを言いたいのです。
●社長になったからには、株主のために、経営のプロとして2年契約を交わしたつもりで会社のありようを見直しましょう。プロ野球の監督のように、優勝請負人として手腕を買われたつもりで組織全体を見直しましょう。
●会社すべてが自分の所有物ではなく、経営資源の運用を託されたプロとして経営を考えることの大切さを、改めて強調したいのです。
●社長というポストは永遠のものでなく、リストラ対象から免除される聖域であってはなりません。結果が出なければ自分を解雇する、という覚悟が社長には必要なのです。
●家庭内でさえ気苦労の多い立場に加えて、企業内でも養子の立場がついて回り、従業員もそうしたリーダーの出現に対して、お手並み拝見とでもいった形で傍観する……。そのやりにくさは、容易に想像がつきます。
●しかし、私の知るかぎり、こうしたケースが決して悪い結果につながるわけではありません。むしろ、養子の立場だからかえって甘えがなく、責任ある経営をする例が多いのです。
●実の父親の会社を継いだ息子が、「会社の資産=家族の資産」と考えやすいのに対し、養子社長は経営を私物化するようなマネはできません。先代社長が存命であれば、なおのことです。
●そういえば、江戸時代末期において、名君と誉れが高かった大名にも養子が多いようです。越前の松平春嶽、会津の松平容守、土佐の山ノ内容堂、宇和島の伊達宗城、長岡の牧野忠訓など、積極的に大名たらんとすることを欲した者はすべて養子でした。
●「俺は大名としてお家のために足跡を残すのだ」という気概が、養子大名には強かったのでしょう。これに対して、世襲の大名で聡明な働きをしたのは、薩摩の島津と佐賀の鍋島くらいでしょうか。
●養子社長と話していて気づくことは、経営成果に対する責任感がオーナー社長以上に強いということです。具体的には、株主配当を支払う責任であったり、株主総会で納得のいく経営経過報告や今後の見通しを発表する責任などです。
●第三者に対する経営責任を負う立場の社長は、無意識のうちに、透明性・納得性の高い経営を志すのです。
●サラリーマンから出世して社長になったという場合も、養子のケースと似ているかもしれません。あるサラリーマン社長は、旅費規程で定められているにも関わらず、グリーン車に乗ったことがなく、新幹線はいつも自由席だとか。せめて指定席に、と私などは思うのですが、「株主のために無駄な経費は使えない」と言うのです。
●私は、オーナー企業の養子になることや、サラリーマン社長を薦めているのではありません。立場が違うと、責任感や経営への考え方は変わってくる、ということを言いたいのです。
●社長になったからには、株主のために、経営のプロとして2年契約を交わしたつもりで会社のありようを見直しましょう。プロ野球の監督のように、優勝請負人として手腕を買われたつもりで組織全体を見直しましょう。
●会社すべてが自分の所有物ではなく、経営資源の運用を託されたプロとして経営を考えることの大切さを、改めて強調したいのです。
●社長というポストは永遠のものでなく、リストラ対象から免除される聖域であってはなりません。結果が出なければ自分を解雇する、という覚悟が社長には必要なのです。
2006年07月19日(水)更新
非エリートの戦略
●大手建設会社のA社長は、会社設立時に《非エリートがエリートに勝つ》という戦略を打ち立てたそうです。そして、真っ先に社員に誇りを植え付けるための取り組みをはじめました。
●なにしろ会社を作ったばかりなので知名度も実績もなく、非エリートの社員しか入社してきません。当然、自信や誇りをもった人よりも劣等感をもった人のほうがたくさん入社してきます。そんな条件のもと、社員に誇りを植えつけるにはどうした良いのか、A社長は真剣に考えました。
●そして、まっさきに取り組んだのは「時間を守る」というテーマでした。「これなら非エリートでもできる。才能はいらない。簡単ではないが、だれでも心がけ次第で時間は守れる」と思い立ち、時間厳守を徹底をしました。
●それから何か月かたったある日、A社が受注した物件の施工会議がありました。当然、全員が時間厳守です。そんななか、ある施工店の社長が遅れて到着してきました。A社長は、烈火の如く怒りました。
「うちの社員は1日に何件もの訪問や打合せをこなしながらも、全員がこうして時間を守っている。どうしてお宅が時間を守れないのか」
●そして、その施工店社長を会議の間、立たせたままにしたそうです。カリスマ社長ならではのエピソードですね。
●ここで注目したいのは、外部の人の前で社員を誉めるということ。しかも、時間を守るという具体的事実で誉められると、社員はますます守ろうとするものです。こうした達成感や義務感が、やがて使命感へと高まっていくのではないでしょうか。
「うちの会社は世間のどんな会社よりも時間を守っている」という事実が、会社の誇りや自分自身の誇りにつながっていくのです。
●時間を守るということが浸透したら、次のステップへ進みましょう。
●たとえば、「うちの会社では、お客様との約束をすべて紙に書く」という新たな誇りづくり(約束事づくり)に着手するのです。
●こうした「当たり前だがなかなか徹底できない」というテーマに目をつけて、それを徹底させることによって、自己イメージや自社イメージを高めていくという戦略は、どの企業でも使えます。
●私自身も40才で経営コンサルタントで独立したとき、全国・全世界から必要とされる経営コンサルタントになるという夢を掲げましたが、現実的には会社所在地(愛知県名古屋市)周辺から一歩も外へ出ることができませんでした。私の理念やビジョンは、現実の前で上すべりしていたように思います。
●しかし、2000年8月に意を決して、「メールマガジンを毎日出そう! 読者が必要としてくれるかぎり、メルマガは欠かさず発行しよう!」と動き始めました。
●これは自分に課した義務でした。こだわりというべきかも知れません。このように、背伸びしてでも続けられる義務感をもてたことは幸せでした。文字どおり、自己イメージ向上に一役買ったからです。
●非エリートが何かの分野で頭角をあらわし、エリートを打ち負かすようになるには、小さな約束を自分に課してそれをクリアし続けて、自信を深めていくことが大切なのではないでしょうか。
●なにしろ会社を作ったばかりなので知名度も実績もなく、非エリートの社員しか入社してきません。当然、自信や誇りをもった人よりも劣等感をもった人のほうがたくさん入社してきます。そんな条件のもと、社員に誇りを植えつけるにはどうした良いのか、A社長は真剣に考えました。
●そして、まっさきに取り組んだのは「時間を守る」というテーマでした。「これなら非エリートでもできる。才能はいらない。簡単ではないが、だれでも心がけ次第で時間は守れる」と思い立ち、時間厳守を徹底をしました。
●それから何か月かたったある日、A社が受注した物件の施工会議がありました。当然、全員が時間厳守です。そんななか、ある施工店の社長が遅れて到着してきました。A社長は、烈火の如く怒りました。
「うちの社員は1日に何件もの訪問や打合せをこなしながらも、全員がこうして時間を守っている。どうしてお宅が時間を守れないのか」
●そして、その施工店社長を会議の間、立たせたままにしたそうです。カリスマ社長ならではのエピソードですね。
●ここで注目したいのは、外部の人の前で社員を誉めるということ。しかも、時間を守るという具体的事実で誉められると、社員はますます守ろうとするものです。こうした達成感や義務感が、やがて使命感へと高まっていくのではないでしょうか。
「うちの会社は世間のどんな会社よりも時間を守っている」という事実が、会社の誇りや自分自身の誇りにつながっていくのです。
●時間を守るということが浸透したら、次のステップへ進みましょう。
●たとえば、「うちの会社では、お客様との約束をすべて紙に書く」という新たな誇りづくり(約束事づくり)に着手するのです。
●こうした「当たり前だがなかなか徹底できない」というテーマに目をつけて、それを徹底させることによって、自己イメージや自社イメージを高めていくという戦略は、どの企業でも使えます。
●私自身も40才で経営コンサルタントで独立したとき、全国・全世界から必要とされる経営コンサルタントになるという夢を掲げましたが、現実的には会社所在地(愛知県名古屋市)周辺から一歩も外へ出ることができませんでした。私の理念やビジョンは、現実の前で上すべりしていたように思います。
●しかし、2000年8月に意を決して、「メールマガジンを毎日出そう! 読者が必要としてくれるかぎり、メルマガは欠かさず発行しよう!」と動き始めました。
●これは自分に課した義務でした。こだわりというべきかも知れません。このように、背伸びしてでも続けられる義務感をもてたことは幸せでした。文字どおり、自己イメージ向上に一役買ったからです。
●非エリートが何かの分野で頭角をあらわし、エリートを打ち負かすようになるには、小さな約束を自分に課してそれをクリアし続けて、自信を深めていくことが大切なのではないでしょうか。
2006年07月14日(金)更新
リーダーの4種類の力
●「世界の社長1,000人に聞いた、理想的なリーダー像はだれ?」なんて特集があると楽しそうですね。
●理想のリーダー像は「ところ変われば・・・」ではないかと思うのです。たとえば、ヨーロッパではナポレオンやシーザー、英国の騎士(ナイト)などが上位にくるでしょう。アメリカでは強さとタフさの象徴のような人物が、日本では信長、秀吉、家康といった戦国の英傑に人気が集まることでしょう。
●一口に戦国の英傑といっても、さまざまなタイプが存在します。上杉謙信はたとえ自らが単騎でも敵の陣地に乗り込んで攻撃をしかけるタイプですし、武田信玄は陣地最後尾で軍配を振るうのみ、というタイプです。まさしく両極にあるリーダー像です。これは、どちらが正しいかというより、どちらが好きかという好みの問題でもあります。
●リーダーシップに関する専門書によれば、リーダーシップとは、対人影響力のことであり、それは4種類の力から生じるものだといいます。あなたのリーダーシップを強化するヒントがここに隠されていると思いますので、参考のためにご紹介しましょう。
<リーダーの4種類の力>
1.賞罰を与える力
2.正当性の力
3.同一化の力
4.権威の力
●「賞罰を与える力」とは、年収や役職、権限などを与える・減らせる力を言います。
社長であればこの力は絶大でしょう。また管理職でも、部下の収入や出世に対して大きな権限をもつ場合には、この力が強いことになります。
●「正当性の力」とは、部下を心から納得させる力を言います。仮にそれが部下にとって嫌な要求であったとしても「なるほど、そういう理由ならやむを得ない」と納得させることができれば、一生懸命やってくれるものです。そうした力を行使できるのが「正当性の力」といいます。
●「同一化の力」とは、部下と一心同体のつながりがあって、あの社長のためなら無理してでもやろうぜ、と思わせるような人間的魅力のことをいいます。同じ釜の飯を食うという表現がありますが、いっしょに苦労をともにし、時には食事したり酒を酌み交わしながら本音で交流し、太い信頼関係をつくっていくなかで生まれるものだと思います。
●「権威の力」とは、専門的な知識や技術、実績などを背景に、誰もが認めざるを得ない存在であることです。強運をもっているとか、先見性があるなど、常人では計り知れないカリスマ性をもつ人は、この力を存分に発揮していると言えましょう。
●あなたがどのようなリーダー像を目指すかは自由ですが、4種類の力それぞれを自己採点し、めざすリーダー像に近づくために何をすべきかを決めましょう。
●ただし、、これだけは断言できます。天性の“名リーダー”という人はいない。すべて本人の後天的な努力によって培われていくものだと言うことです。
●理想のリーダー像は「ところ変われば・・・」ではないかと思うのです。たとえば、ヨーロッパではナポレオンやシーザー、英国の騎士(ナイト)などが上位にくるでしょう。アメリカでは強さとタフさの象徴のような人物が、日本では信長、秀吉、家康といった戦国の英傑に人気が集まることでしょう。
●一口に戦国の英傑といっても、さまざまなタイプが存在します。上杉謙信はたとえ自らが単騎でも敵の陣地に乗り込んで攻撃をしかけるタイプですし、武田信玄は陣地最後尾で軍配を振るうのみ、というタイプです。まさしく両極にあるリーダー像です。これは、どちらが正しいかというより、どちらが好きかという好みの問題でもあります。
●リーダーシップに関する専門書によれば、リーダーシップとは、対人影響力のことであり、それは4種類の力から生じるものだといいます。あなたのリーダーシップを強化するヒントがここに隠されていると思いますので、参考のためにご紹介しましょう。
<リーダーの4種類の力>
1.賞罰を与える力
2.正当性の力
3.同一化の力
4.権威の力
●「賞罰を与える力」とは、年収や役職、権限などを与える・減らせる力を言います。
社長であればこの力は絶大でしょう。また管理職でも、部下の収入や出世に対して大きな権限をもつ場合には、この力が強いことになります。
●「正当性の力」とは、部下を心から納得させる力を言います。仮にそれが部下にとって嫌な要求であったとしても「なるほど、そういう理由ならやむを得ない」と納得させることができれば、一生懸命やってくれるものです。そうした力を行使できるのが「正当性の力」といいます。
●「同一化の力」とは、部下と一心同体のつながりがあって、あの社長のためなら無理してでもやろうぜ、と思わせるような人間的魅力のことをいいます。同じ釜の飯を食うという表現がありますが、いっしょに苦労をともにし、時には食事したり酒を酌み交わしながら本音で交流し、太い信頼関係をつくっていくなかで生まれるものだと思います。
●「権威の力」とは、専門的な知識や技術、実績などを背景に、誰もが認めざるを得ない存在であることです。強運をもっているとか、先見性があるなど、常人では計り知れないカリスマ性をもつ人は、この力を存分に発揮していると言えましょう。
●あなたがどのようなリーダー像を目指すかは自由ですが、4種類の力それぞれを自己採点し、めざすリーダー像に近づくために何をすべきかを決めましょう。
●ただし、、これだけは断言できます。天性の“名リーダー”という人はいない。すべて本人の後天的な努力によって培われていくものだと言うことです。
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ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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